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魔法薬あります  作者: 坂野真夢
魔法薬あります
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5.アミダと現実世界


「と、とりあえず服を着てください」

「う、うん」


 私と同じ顔をした男の子が、不思議そうに辺りを見回し、私が渡した服に袖を通します。男の子ということを除けば、本当に私とそっくりです。体格もおそらくそう変わらないでしょう。だから、私の服は彼にピッタリ……なのですが。

 どうしてなのでしょう。顔は一緒でも体格が男の子だと、なぜだかオカマさんに見えます。

 

「えっと、あなたは誰なのですか? どうしてここに?」


 改めて訪ねてみると、相手も困ったように首をかしげます。


「誰って……アミだけど」

「いや、アミは私ですけど」

「でも僕もアミです」


 一応『僕』なのね? 

 男の子って自覚はあるみたいです。

 でも、突然現れた自分そっくりの男の子。しかも今は夜です。窓はぴっちり閉まっていますし、外から入ってくる可能性はまずゼロに近い。とすれば、信じたくないですがこの人は。


「あなたは私の中から出てきたのですか?」

「そう……なのかな。よくわからないけど。僕にわかるのは僕がアミだってことだけ」

「いやアミは私ですってば」


 どうにもややこしいです。


「ちょっと、呼び名変えましょう」

「えーなんで」

「だって私がオリジナルですから」


 私の提案に、アミ(男)は不満げですが、このままじゃ話すことさえままなりません。

 ええと、どうしましょう。私の分身みたいだから、アミ'(ダッシュ)ってことですよね。


「アミダにしましょう、略して」

「何の略?」

「アミダッシュの略です」

「なんか違うものを想像しちゃうんだけど。ほら、縦線と横線引いてたどっていくやつ」

「そういう一般的な知識はあるんですね?」


 自分と会話するみたいで変な感じ。はっきり言って気持ち悪いです。


「じゃあ、アミダ。あなたの知ってることを話してください」

「知ってることって言ったって。僕はアミで。魔女見習いで、お師匠様が好き。自分で作った自白剤で、自爆しちゃったってことくらいかな」

「自爆ってなんですか」

「自爆でしょ。あんなマズイものつくるなんて、ホント、アミって才能ない」


 確かにそうですけど! それでも一生懸命作りましたのに。


「失礼ですー!」

「失礼じゃないよ、自分のことだもん」

「アミは私ですってば!」


 ああんもう、ややこしいです。

 でもとりあえず、基本情報は私と一緒な訳ですね? 男だってこと以外は。


「あれ、でも」

「ん」


 小首をかしげたアミダをまじまじと見つめます。


「……お師匠様が、好き?」

「うん。僕も大好き。すっごく格好いい」


 アミダは嬉しそうに頬を染めます。あら、可愛いです。……じゃなくて。


「でもあなた男の子」

「恋に性別なんて関係ないよ」


 ありますよー! 男同士じゃホモさんですよ。


 しかも、アミダはどちらかと言えば私よりはっきりものをいうタイプのようです。

 当たり前と言えば当たり前でしょうか。だって、一応自白剤もどきで現れた人物ですものね?


 私はアミダの両肩を掴んで揺さぶりました。


「片思いなら関係無いですけど、きっとお師匠様はドン引きしますから、口に出すのは辞めたほうがいいと思います」

「そう?」

「そうです。お師匠様に気持ち悪い目で見られてもいいんですか」

「それもゾクゾクしそうだけど。じゃあやめておこう」

 

 目と目を見合わせて、真剣にそんな相談しちゃいましたが。そう言えば、薬の効果なんて数時間で切れるんじゃなかったでしたっけ。

 じゃあ、寝て明日になれば、アミダは消えてるって訳ですよね。なあんだ、悩んで損しました。


「ようし、じゃあ寝ましょう」

「は?」

「悩んでも仕方ないです。きっと寝たらすべて解決してますよ。寝ましょう、寝ましょう」

「うん。でも。……僕はどこで寝たらいいだろう」


 困ったように辺りを見回すアミダ。そういえばそうですね。リビングで寝かせて誰かに見つかっても困るし、かと言って床では可哀想ですし。


「一緒にベッドで寝ましょうか。だって分身ですもの」

「そうだね」


 そう言って、私達は並んでベッドに横になってみました。


 でも、やっぱりなんか変です。隣に寝る人は、私と同じ顔をしているのに触れた体は妙に硬くて。なんだか落ち着かなくて寝れそうにありません。


「や、やっぱり離れて寝ましょう。ベッド使ってください」

「アミが使ったら? 僕が床で寝るよ」

「でも」

「僕の方が後なんでしょ。だって本当のアミは女の子なんだから」

「それは、……そうですね」


 そうか。もし分身が女の子だったら、それこそどっちがどっちか分からなくなるところだったんですね。


「掛け布団は貸してね」


 アミダはふかふかのお布団を私から奪うと、猫がそうするように床に丸くなり、すぐに寝入ってしまいました。寝つきがいいのは、いつもの私みたいです。


 アミダの寝息を聞きながら、その姿を観察します。丸型の輪郭も、くりっとした目も、赤いほっぺも私とすっかり同じ。なのに肩が私よりがっちりしていて、髪が長くてもやっぱり女の子には見えません。


 どうして自白剤をつくったつもりが分裂剤なんて作ってしまったのでしょう。

 だれかに相談したいけど、魔法の薬の話なんてお師匠様にしかできないし。お師匠様にこんな話したら、それこそ呆れられるか怒られるか……。


「ああああん。嫌ですぅ」


 ため息が止まらないです。どうかどうか、寝て起きたら元に戻っていますように。

 いろんなことが気になって、いつもは五分でぐっすり寝ちゃう私が、全然寝つけませんでした。それでも、朝方にはウトウトとして、とりあえず意識はどこか遠くに行ってしまいました。




 目を覚ましたら、アミダは消えて無くなっていて、私はほっと一安心……のはずだったのですが。

 ただ今、朝の七時。私のお部屋の床に丸くなったまま、アミダはいびきをかいて寝続けています。


 ややややや、ヤバイです。お薬の効果はいつまで続くのですか。このままでは両親にも見つかってしまうじゃないですか。なんて説明したらいいのでしょう。同じ顔ですもの、隠し子疑惑が湧いてしまうかも知れません。あんなに仲の良いパパとママが喧嘩したらどうすればいいのでしょう。

 

 アミダの頬をつついてみると、本物の人間の感触があります。幻なんかじゃない。本当に私から分裂しちゃったようです。これはホントに本気で、とんでもない薬をつくってしまったんじゃないでしょうか。


「……んー。あーおはよう。アミ」

「お、おはよう、アミダ」


 当のアミダはこんなに呑気そうに、まだ眠そうな目をこすっています。


 困りました。どうしましょう。とにかく誰かに見つかる前に対策を考えなければ……。

 うんうん悩んでいるうちに、私のお部屋のドアが勢いよく開け放たれます。


「アミちゃん、昨日寝坊したって言ってたから今日はおこしに来てあげたわよー。朝よー、おきなさーい! ……って、キャー」


 現実はいつも無情です。私だってお年ごろなんですから、ノックぐらいしてくださいよう。

 いつもニコニコで可愛いママが、すんごい表情になってしまっています。口をアワアワさせながら、一歩二歩と後ずさりました。


「パ、パパぁー大変。アミちゃんが男を連れ込んでるー」

「ち、違います―!」


 そこじゃありませんよ! ちゃんとアミダの顔を見てください。ママってば動転しすぎですよ。


「違います、ママ、顔をよく見て」

「え?」

「ほら、この子、私とそっくりです」

「……あら、ホントだわ。アミちゃんと同じ顔」


 だからって、家に人間が一人増えてる理由にはならないのですが。ママはとりあえず興味を持ち始めたようです。アミダを肘でつつくと、我に返ったようにアミダが頭を下げます。


「お、おはようございます」

「おはようございます。ねぇ。あなた、どうしてアミちゃんと同じ顔なの?」

「昨日、突然窓から現れたのです。記憶を無くしてて、だけどこの家に見覚えがあったので覗いてみたらしのです。顔も一緒だし、本当は生き別れの双子かも知れないって思って、泊めてあげました」


 私ってば今日は冴えてるみたいです。適当な嘘がポンポン出てきます。ママはすっかり本気になって眉を歪めて泣きそうです。


「まあ、それは可哀想に……。運命的な再会ね! ああよかったわね、アミちゃん、生き別れた双子と……ん? でもアミちゃん。あなたは一人で生まれてきたのよ? 双子じゃないわ?」

「ああ、そうなの」


 あら、ママが正気に戻ってしまいました。まあ私を生んだのはママですものね。双子じゃないことはママが一番分かっているはずです。


「でもこんなにそっくりなんだからきっと何か関係があると思うの。お願い、ママ。しばらくこの子を家に置いてあげて。名前はアミダ」

「まあ。ちょっとパパー。一緒に話を聞いてー」

「はいはい、なんだい、ママー」


 両親が二人揃ったところで、私は先ほどと同じ話をして、アミダの同居をお願いしました。アミダも、心細そうな表情でそれを後押ししてくれて、何とか両親は陥落出来そうです。

 パパは、私と同じ顔というだけで、すっかりアミダが可愛くなってしまったみたいです。


「わかった。でも、アミと同じ部屋はダメだぞ?」

「どうして?」

「だって、男の子なんだろう?」

「あっ。そうでした」


 似てるとはいえ他人だからね、とパパは釘を刺すように言い、私からママへと視線を動かしました。


「どこか部屋を空けてあげよう。なんと言ってもアミと同じ顔で名前まで似てるからなぁ。これはうちでお世話しなきゃいけないっていう運命なんだろう」

「そうね。こんなにそっくりなんだもの」


 愛しあう二人の間には、疑いの心は微塵も湧き上がらなかったようです。私はてっきり、隠し子騒動で一悶着あるかと思いましたのに。でも、今は助かりました。私はパパに飛びついて思い切りぎゅーっとします。


「ありがとう。パパ、ママ。大好き!」

「いやあ。照れるなぁ」


 私の両親が親バカで本当に良かったです。

 これで、当座の寝床は確保できました。あとは、とにかくアミダを私の中に戻す方法を考えなきゃいけません。


 確か今日は、お師匠様は配達に行くって言ってたから……


「ママ、私、今日は早めに行きます。アミダも一緒に!」

「え? でもアミダくんは」

「僕も行きます! お師匠様のところでしょ」

「そう。一緒に行きましょう!」


 アミダも嬉しそうに頬を染めてノリノリになります。

 残念ですが、お師匠様には会わせられませんよ? お師匠様がお帰りになる前に、本棚の呪文書を読みまくって私たちを一つにする方法を探すのです。


「あ、でもご飯は食べなきゃダメよー」


 あくまでも朝ご飯にこだわるママにも逆らえず、私とアミダはかっ込むようにご飯を食べて、ごちそうさまと同時に駆け出しました。


 さあ早く調べなきゃ!

 お師匠様にこんなこと知れたら大変です。




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