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魔法薬あります  作者: 坂野真夢
魔法薬あります
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4.その薬、失敗につき

 翌朝は、いつもより一時間遅く目を覚ましました。


「ああああ。どうしましょう。遅刻します!」


 少し早く来いって言われてたのに、なんという失敗でしょう。着替えだけ済ませて早く行かなくては。

 慌てて駆け出したところで、作成中のお薬に朝露を入れていなかったのを思い出し、慌てて逆戻りです。


 朝露、朝露。どこかにありませんか?

 キョロキョロ辺りを見回して、家の前の花壇の葉っぱに雫が沢山かかっているのを見つけましたが、これはママがじょうろでお水をかけた?

 ああでも、そんなの悩んでる時間ないです。

 その葉っぱから採った雫を手にとって家の中に戻り、鍋に入れてから「ぜーったいに触らないでね」ってママに伝えて再び飛び出します。


「アミちゃんたら、ちゃんとご飯食べないと倒れちゃうわよぉ」


 呑気なママの声は五十メートル先の私にも聞こえましたが、走りながらぼそっと言った「大丈夫」っていう返事は、きっと届かないでしょう。


 まあいいのです。


 ママは心配症なので、一つ言いだすと長いからつきあってはいられないのです。



 十分の道のりは走ると七分くらいです。あまり速くなっていないのが切ないところですね。

 やがて見えてきた木造の小さな家。家の前には【お望みの薬、お作りします】という可愛い看板があります。

 最初は文字だけのそっけない看板だったのですが、私が弟子入りしてからお薬瓶の絵を書き入れました。そしたらファンシーな感じになったので気に入っています。この看板だけ見たら、きっと可愛い魔女さんがいるんだろうなぁって思うはず。


「すいません。遅くなりました」

「遅ぇよ! アミ」


 しかし出てくるのは、怖い顔して威圧してくる魔法使いです。看板を作った時には気にしてませんでしたがコレはギャップ萌えを狙えますね。

 それにしても失敗してしまいました。確かに私が悪いのですから、怒られても仕方ないのですけど、……怖いです。


「寝坊してしまいました。ごめんなさい」

「ったく、使えねーな。まあいい。もう朝露は入れたから、瓶詰めの準備手伝ってくれ」

「はい!」


 ああ、お師匠様を不機嫌にしてしまうとは。何としてでも挽回しなくては。

 


「アミ、テーブルの上片付けとけ」

「はい」


 机に出ていた材料の残りを、所定の場所にもどしていると、お師匠様が煮沸消毒済みの瓶を持ってきてくれました。


「今回のはクスクス草を濾すから。ろうとにろ紙をしいてからやる」

「はい!」

「すぐ詰まってくるから、ろ紙は頻繁に替えていいぞ。替えの分がこれだ」


 言われたとおりにやりながら、出来上がった薬を見ると、緑にちょっと黄色を足したなんとも形容しがたい色をしています。


「……でも匂いはいいですね」

「ああ、ちょっと香料を入れた。自白させるのにまずそうじゃなぁ」

「なるほど。魔法のお薬ってそういう気配りもするんですね」

「ああ。嫌がる人に飲ませる時は、成分的に問題ない香料を入れる。咳の薬とかは病人にやるんだからいいんだよ。苦い薬ほど効くっていうだろ」

「ふむふむ」


 なるほどー。だけど、お陰で元の匂いが分からないですね。

 私が作ったお薬は、じっくり見てる暇はなかったですがこんな匂いはしていなかった気がします。色は近いかなと思うけど、もうちょっと緑が濃かったような。

 おうちに帰ったら、もう一度よく見てみましょう。



 途中、私が少しお薬をこぼしてしまったので、出来上がったのは、五十個の自白剤。注文も五十個。つまり一つも余らないという訳です。


「少し多めに作っておいてよかったな。まあお前がこぼすのも想定内だよ」

「すみません。ありがとうございます」

「間に合ったんだからいい。じゃあ、今日は残りはラベルづくりを頼む。俺は畑の様子見てくるから」

「はあい!」


 私は貯蔵部屋に入り、隅っこにある棚から、ラベル用の紙を取り出します。

 いつものように丁寧にお薬の名前を書き込みます。これは、私が弟子入りして一番喜ばれてるお仕事。私、字を書くのだけは上手なんです。五十枚ものラベルをつくるのは手が疲れてしまいますが、これもお師匠様のため。頑張ります。


 その日の夕方にはすべての瓶にラベルを張り終え、持っていくばかりに箱詰め出来ました。良かったです。間に合いました。


「御苦労さん、アミ。明日はゆっくりでいいぞ。俺は早朝から配達に行ってくるから」

「はい。お師匠様より先についてしまったらどうしたらいいですか?」

「中入ってレシピでも読んで勉強しとけ」

「はぁい」


 今日のお仕事はおしまいです。帰って私のお薬がちゃんと出来ているか確認しなくては。



 文字通り飛ぶように家まで帰って、小鍋の中をのぞき込みます。


「アミちゃん、それ、なんなの?」

「ママ、お鍋に触ってないですよね」

「鍋には触ったけど、中身はいじってないわ?」

「ならいいんです。お薬作りの練習です!」


 改めて見てみると、色はお師匠様が作ったのと大体同じような気がします。匂いはもっと酸っぱい感じがしますね。でもこれはきっと香料が入ってないからでしょう。


 今日やった要領で、クスクス草を濾して小瓶に入れます。出来上がった量は瓶二本分でした。

 私はそれをお部屋に持って行き、その後何食わぬ顔で夕飯を食べました。あまり見えるところに置いておくと、詮索好きのパパがうるさいですからね。


 その夜、お部屋に戻ってから改めて薬を見ると少し色が変化したみたいです。さっきは、緑色がメインだった気がしますのに、今は青っぽいです。本当にちゃんとしたお薬が出来たのか、心配になってきました。


 ……自白剤ということは、飲んでも死ぬようなことはないですよね。

 でももし失敗してたら? この薬のせいでお師匠様のお腹が痛くなったりしたら大変です。


「……どうしましょう」


 いざ作ってみてからしり込みするなんて、なんだか悔しいです。

 でもきっと大丈夫! と言い切るには今までに失敗が多すぎます。


 出来上がったお薬は二本。……一本だけ飲んでみて、病気にならないかだけでもチェックしましょう。薬の効き目なんてせいぜい数時間がいいところです。もし今私がこれを飲んで、自分の気持ちをベラベラ話してしまったとしても、部屋に閉じこもってる限りは安全ですし。


「よし、の、飲んでみます!」


 私は二本作った内の一本を取り出し、思い切って飲んでみました。

 喉を通る液体は、焼けつくような刺激を残しながら一気に駆け下りていきます。口に残るのは匂い。やたらに草臭いです。

 喉を抑えていると、今度は体がぼうっと熱くなって、何かぬめりとしたものに体を撫でられたような感覚が襲ってきました。その感覚は体中をつたいながら、胸の中心へと集まったかと思うとすうっと抜けていきました。同時に、目の前が白くなって……あれ、なんか力が入りません。

 

 ヘナヘナと力を失った私は膝から崩れ落ちました。

 ああやっぱり、変な薬つくってしまったのでしょうか私。

 自分を支えきれなくなって、パタンと床に倒れてしまいました。床が冷たくて気持ちいいです……なんて朦朧としたまま思い、なんとか薄眼を開けてみると、ぼやけた視界の中には人影がありました。


「……え?」

「……あ?」


 相手も同じように変な声を上げます。

 しかもびっくりなことには、その人は私と同じ顔をしてるんです。


 あんまりうまく力が入らないのですけど、一生懸命起き上がりその人に手を伸ばしてみました。すると相手も同じような動きをするのです。まるで鏡みたい。


 でも鏡と違うなとわかるのは、その人が裸だったことと、その胸が膨らんでなかったこと。そして、その下は……いやー、見てはいけません!!


「どうしてー!」 


 心のなかでは大声をあげたつもりでしたが、体に力の入らない私の声は実際には部屋の外には聞こえないほど小さかったようです。パパもママも覗きに来ることはありませんでした。


 そのほうが助かります。

 だって、目の前に現れたのは、私と同じ顔をした男の子だったのですから。


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