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強欲な魔女と無気力な俺  作者: 中村 絵師
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魔女の名

グルォォォン!グルォォォン!!


崖から空を見上げると目に毒々しい色をした巨大な鳥が羽ばたく。


「おお!あれはグルメバード!!油が乗っていて大変美味な食材じゃぞ!」


「あれを食うのか?」


興奮気味に声を上げたのは俺と契約を結び、心身共に共存する魂の取り引きをした魔女だった。


今、彼女の意識は俺の魂に存在する。右腕に核となる紫色の石が埋め込まれている状態なのだが、肉体の右側に魔石が持つ力は分散されて機能する。

魔女が封印され、鮮やかな紫色を放つ魔石はどうやら特殊な石らしい。魔石が宿す力が俺と魔女を繋いで拒絶反応や意識が混同するのを防ぐ。


「グルメバードは次の村で食べられる!!良かったのー!」


「食べるの決定かよ」


「楽しみじゃの〜」


世界の禁忌に触れて魔石へ封印された存在はこの異世界で禁断とされ、全ての罪を犯した彼女は数多の種族達から恐れを込めて強欲な魔女と呼ばれる。


存命不可能と言われた異世界の狭間へ魔術師達に落とされた彼女は死ぬこと無く世界を渡り、杉野春(すぎのはる)と運命的出会を果たす。


「村へ着くまで何日だ?」


「昼頃じゃな」


現在時刻は朝の八時。四時間歩かねば目的地に着かない。


「四時間歩くのか」


道中、野宿しながら何日間も歩くよりは楽なのだろう。しかし、少し前まで普通の高校二年生な日々を送っていた自分に魔獣が出現する確率が高い道を四時間徒歩は厳しいだろうと思う。


「ふんっ!お主は馬鹿者じゃな」


偉そうに怒られた。


「お主はこの偉大なる我と契約を交わした存在なのじゃ!その身は不老不死!!魔力と体力さえ最強なのだぞ?」


俺が居た世界ではある言葉で呼ばれた存在だろう。


「お主はこの異世界でチートじゃ」


異世界へ転成、召喚された主人公は強大な魔力や脅威的な身体能力を得て世界を救うのが定番だ。


だが俺はどうだ?世界の敵と認識された新世界創造を目的とし、旅をする魔女の方が主人公に見える。自分はお荷物キャラで通りそうだな。


「普通は万能な力や絶対的魔力を手に入れた者は喜び狂うのじゃがなー?」


不思議そうに言われても困る。どんな力を手に入れようが自分が凄いのでは無い。彼女が凄く、俺は平凡な何処にでもいる普通の十七歳なのだから。


「平凡な子供かの?お主が?ふふっ」


不適に小さく笑う声が静かな平原に響く。


「今はまだ良い。これはお主の問題じゃろうからなのう?我には速急で向かう国が在る」

その話は異界の狭間を通った時に聞いた。


「大きな国で待ってる知り合いと待ち合わせだとか言ってたな」


「うむ。そうじゃよ」


魔女の声に先程までの元気が感じられないのは何故だろう、疑問に思い声を掛ける。


「会いたく無いのか?無理してまで合う相手でも行くのか」


「苦手な相手でな」


ハルの言葉に魔女は説明する。


「我は莫大な時間を生きた。我の様に長い時を生きる者は多く存在するのじゃが、その中では吸血鬼が最も長く生きる。純血種は死ぬ概念が無い。死ぬことが不可能な種だ」


吸血鬼の不老不死力は絶対的だ。神は吸血鬼と呼ばれる種族に時間を与えずに繁殖機能も切り捨てた。


彼ら吸血鬼は自分達が特殊な事に気付く。


「我らは他の種族同様、子を残せない?我らは死さえも許されないのか」


この言葉を最後に吸血鬼達は姿を消す。


「それから長い長い時が過ぎた頃、我が新世界創造する噂を聞きつけた吸血鬼に呼ばれ千年振りに会ったが・・・」


言葉は途中で途切れる。


彼女の思いが魂を巡ると、俺は魔女が酷い状態に陥った吸血鬼達を助けたいが嫌だと思う気持ちに苛まれている事を知る。


「死を望む奴らの考えが我には分からない。この世界は嫌いじゃが共に生きる数多の種族達は大好きでな?我は見ているだけで飽きない。数多の考えや思考が面白く日々驚かされるのしゃがな」


だから魔女は永遠の時間に飽きない。吸血鬼が何を思い死にたいと言うのが気持ち悪いそうだ。


「成る程。生きる気力が湧かない訳か」


生まれた時から全く変わらない日々を強制されて毎日を過ごす吸血鬼達が哀れだ。


「そうか!その発想は始めてじゃ!!」


大声を出した魔女に驚く。


「奴らは自分達で変わらない日々を願った訳では無い。強制された永遠の世界へ閉じ込められ、空虚な時を過ごしていた」


魔女はハルの言葉で自分が納得する答えを得たことに喜び言う。


「我の名を呼ぶことを許すぞ!褒美だ」


魔女の名前を知らない事実に驚く。


「そうだ、まだ名前を聞いてなかったな」


「心して聞くが良い!!我は高貴で強欲で傲慢な魔女!名をアリス・トテレス・トポスと呼ぶ!!」


可愛らしい名前だった。


「アリスと呼べ」


試しにアリスと魔女の名前を口にする。


「照れるのぅ」


本当に照れてる。


「名を呼ばれるのは随分と久し振りじゃから照れるぞ」


俺は始めて魔女アリスを可愛いと感じたが言葉にすることは無かった。代わりの言葉をアリスへ送る。


「これかよろしく、アリス」


「うむ!アリスに任せよ!!」


こうして青年は魔女の名前を知る。ハルとアリスの冒険が始まるのだった。



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