決勝戦 その4
「え・・・?」
春香は自分の目を疑った。そこに映っていた情報が上手く認識できない。
二十秒ほど呆然とし、慌ててもう一度確認する。
Time 35:50
team black team red
point 193 point 0
武正 HP 300 寛太 HP 300
輝行 HP 300 春明 HP 300
時雄 HP 300 春香 HP 107
しかし、現実は変わらない。
「え・・・?なんで・・・?」
(どうして!?確かに時雄にヒットを与えたはず・・・。全部外してたなんて絶対ありえない!)
何度確認しても表示されている情報は変わらない。
(落ち着け。冷静に・・・。)
春香は自分にそう言い聞かせる。
(考えろ、絶対なんかあるはずだ)
時雄と接触してからの10分間を思い出す。
なにか違和感を感じなかったか。普段と異なる事はなかったか。ひとつひとつ確認する。
ぱっと思い浮かぶのは、執拗なデータ確認阻害。
この理由はハッキリした。この状況を知られたくなかったからだ。
ここで、春香は違和感を覚えた。
データを確認させない為に、春香が腕に意識を移した時の集中を乱すだけとはいえ、果たして10分近くも続けられるものだろうか。
春香にしっかりと攻撃も与えており、また、未だに有効打がカウントされてない理由は解らないが、時雄は春香の攻撃を防ぐ動きもしていた。なかなかに現実的でない気がする。
また、今の状況である。
執拗にデータを確認されるのを阻害していたにも関わらず、時雄はこの状況を黙認している。反抗魔法で土壁を簡単に壊せるはずなのに。
最初は奇襲するための時間稼ぎだと考えた。
だが、時雄は考えていないのだろうか。時雄の視界から外れた為、春香は逃げるチャンスを得たという事に。
時雄の得意とする魔法は、逃げようとする相手をその場に磔にする魔法。〈麻痺〉。この魔法は所謂、蛇に睨まれたカエルのという諺を再現した魔法である。
発動条件は蛇の目(乾燥でも可)に触れ、対象相手を視界に入れる事。なかなかに強力ではあるが、生き物にしか使えず、視界に入れることが条件なので、目を瞑って魔法を使うタイプの人には使えない。
もう一つ扱うのに難しい理由がある。
一般的に魔法を習っている人の中では常識の事だが、魔法の基本は事象の再現。物質や事象の拡張、縮小である。
事象の再現の例を上げると、〈飛行魔法〉、〈擬態魔法〉などがある。
物質や事象の拡張、縮小は言わずもがな名前通り〈規模変換魔法〉が上げられる。また、実は〈四大元素魔法〉も拡張、縮小として扱われる。例えば水魔法の場合、水の流れを拡張、縮小している、と考えるのである。あくまで拡張、縮小なので無から生み出すことは出来ない。つまり、今の魔法の理論では、火を無から生み出したり、錬金術士たちが目指した金を作ることや、不老不死を実現することは出来ない。
この法則で行けば、再現出来るのは事象のみという事になるが、やはり世の中いくつかの例外がある。
その内の一つが思考の再現、拡張である。
所謂、諺、迷信など、古くからあるものの捉え方や、考え方、また、人が生み出した空想動物などを作り出し再現することがこれに当たる。
思考の再現は例外ということもあり、種類が少ない。また、現象と異なり具現化しておらず、抽象的であるためにイメージに安定性が無くなる。したがって、難易度も高くなるのである。
しかし、逆に言えば、反抗魔法も扱える人が少ないので、覚えれば対人戦でかなり使える技となる。
講義でも一応扱い、習うが、扱えるようになるのは一つの魔法につき、一学年で約5%。
時雄はその5%のうちに入り、さらに実践で使えるまで〈麻痺〉を育てあげたのである。
閑話休題するが、彼の得意である魔法、〈麻痺〉の発動条件は相手を視界に捉えること。
春香は時雄の魔法を恐れてなかなか戦闘から離脱できなったが、今の状況のように時雄の視界から外れた状態ならば、彼の魔法がかかることはない為、やりようがいくらでもある。
例えば、土魔法の中には穴を掘る魔法も存在する。それを使って春香を囲っている土壁から抜け出し時雄から遠ざかることも出来る。かなり魔法を使うため、精神的負担が大きくなり、悪手ではあるが・・・。
それを時雄は分かっているのだろうか。優秀な彼のことである。考えていて当然だろう。だが、時雄は反抗魔法で土壁を壊してこない。
何か理由があるはずだ。と春香は考える。そして、ある考えに思い至る。
(・・・。もしかして、魔法が使えない・・・?いや、でも、そんなことってある?)
確かに、時雄は春香と戦闘に入ってから1回も魔法を使っていない。だが、これは男女の差などから、そこまでする相手でない、と時雄がとった可能性もある。
実は土壁を形成してから5分近く経っているが、未だに土壁は壊されていない。
(でも、これなら説明がつく。やっぱり、彼は魔法が使えないんだ)
春香はこの考えが妙にしっくりときて他の考えは全て違うように感じた。
(だったら、何で使えないかが問題よね・・・)
そこで、春香はまた、あることに思い至る。
(まさか、人形?確か、前回の試合で輝行が使ってたよね?)
実は、輝行が〈指揮魔法〉と土魔法を合わせて、泥人形を作り、武器を持たせ5対3の状況にして、勝利を納めた試合がある。
これを見て、春香、春秋、寛太は上手い使い方をするもんだと話し合った。
この際に、この魔法の欠点はないかと考えた。その中に、人ではないから魔法が使えないのでは?というのが上がったのだった。
また、利点としてはダメージを受けない、人を対象とした魔法が効かないので?というのが上がった。
(これは、もしかして・・・。更に〈擬態魔法〉を掛け合わせたもの!?)
そうと考えるといろいろと辻褄が合う。
春香と相対していた時雄の短調な動き。並外れな集中力。的確すぎる動き。魔法を使ってこないこと。そして、春香の攻撃によるダメージが一切通ってないこと。
(ということは、向こうは3対2!?しかも、私のダメージハンデ付き!)
春香は慌ててもう一度タイムデータを確認する。
Time 43:30
team black team red
point 343 point 172
武正 HP 233 寛太 HP 250
輝行 HP 225 春明 HP 200
時雄 HP 270 春香 HP 107




