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FOX2

 ……抜けるような快晴の中、2機のF-14Aトムキャットが、空母から飛び立った。

 現在この海域では、二隻の空母を基幹とする空母打撃群による、大規模な軍事演習が行われようとしていた。

 演習は、初日から波乱含みだった。

 艦隊が到着すると同時に発艦し、上空警戒監視を行っていたE-2Cホークアイの千里眼――APS-145捜索レーダーが、艦隊に接近する所属不明機を探知したからだ。

 E-2Cからのデータは、すぐさま空母のCDC(中央指揮所)に転送され、すぐさまインターセプターが発進される事となった。

 2機のF-14Aの目的は、演習海域に接近を図る所属不明機をインターセプトする事だ。撃墜するのが目的ではなく、あくまで”平和的に”お引取り願うのが目的であるため、F-14Aの最大の武器である長射程ミサイル、AIMー54フェニックスは搭載されていない。

 高度2万フィートで飛行する2機のF-14Aの頭脳、AN/AWG-9レーダーが、演習海域に接近する2つのブリッフを捉えた。

 数キロ程の距離に接近した頃、編隊長であり、ヴィクトリー201を操るロバートは、所属不明機を目視確認した。旧ソ連製の可変翼機、Mig-23だった。

「ヴィクトリー201、タリホー・ボギー、2オクロック」


 ロバートは、所属不明機の発見をコールした。


「ボギー・イズ・フロッガー。ヴィクトリー204、確認できたか?」


 ロバートは、ウイングマンであるヴィクトリー204を操るウィラードに問いかけた。


「こちらヴィクトリー204、バッチリ見えてるぜ」


 ウイングマンであるウィラードが答えた。

 ロバートは、素早く敵編隊を観察し、あることに気付いた。通常、戦闘機が編隊を組むときは、相互に支援しやすいように、ある程度の距離を取るのが基本だ。ロバートらヴィクトリー編隊は、リーダーであるロバート機の右後方、約2キロ程にウイングマンのウィラード機を配置するコンバット・スプレッド(戦闘隊形)を取っている。対するミグ編隊は、お互いの距離が100メートル前後で殆ど並んで飛行していた。

 ロバートは、警告を開始しようと、通信機のスイッチに手を伸ばした。

 その時突然、ミグ編隊は右に急旋回を開始し、ロバート機の後方に回り込もうとした。


「連中、やる気だぞ!」


 ヴィクトリー編隊もミグの後方を捉えるべく、旋回を開始した。ドックファイトにおいて、敵機の後方を占位したほうが圧倒的に優位なのは、今も昔も変わらない。主兵装が赤外線誘導ミサイルであれば尚更だ。

 先に旋回を開始したミグリーダー機が、ロバート機に追いすがり、ロックオンした。

 ロバート機のコクピット内に、断続的な警戒音が鳴り響く。


「ロックオンされるぞ! 振りきれ!!」


 ロバート機のRIO(レーダー迎撃士官)、レイナスが怒鳴った。

 それまで断続的だった警戒音が、連続した明らかな警告音に変わった。


「畜生! 撃ってきやがった!!」

レイナスのその声を聞くや否や、ロバートは、エンジンをアイドリングすると、旋回のピッチを早めた。

ミグリーダーの放ったAA-2アト-ルは、急旋回するロバート機を追いきれずに、あさっての方向に飛翔していった。


「やった! ミサイル迷走!」


 レイナスが歓声を上げた。

 攻撃が失敗に終わったと見ると、ミグリーダーは、そのまま離脱に移った。


「ヴィクトリー204! あのクソ野郎を追え!」


 ロバートは、ミグリーダーをウィラード機に任せ、自分はミグウイングマンを追う事にした。

 ミグウイングマンは、ミグリーダーとは別方向に離脱しようとしていた。必死にジンキングをかけ、ロバート機をやり過ごそうとしたが、無駄な足掻きだった。Mig-23とF-14Aでは、機動性・スピード共に差がありすぎた。

そして、遂にロバートは、ミグの真後ろを捉えた。HUD上に現われたダイヤモンドシーカーが、ぴったりとミグに重なる。


「今だ! 撃て!!」


 良好なオーラルトーンを耳にして、レイナスが叫ぶ。


「フォックス2!!」


 ロバートは、赤外線誘導ミサイル発射コールを宣言すると、トリガーを押しこんだ。F-14Aのパイロンに装着された、二発のAIM-9Lサイドワインダーの内の一本が、白煙を吹き上げながら、ミグに向かって飛翔した。

 ミグは急旋回し、追いすがるサイドワインダーをやり過ごそうとするが、サイドワインダーは瞬く間にミグに追いつき、エンジン後方に食らいついた。

 ミグは黒煙を吹き上げ、スピン状態のまま、海面に激突した。パイロットの脱出は、確認できなかった。


「やったぜ!」

「ビンゴ! ざまあみやがれ!!」


 二人は歓声を上げ、墜落したミグに向かって中指を突き立てた。

 一方のウィラードは、ミグリーダーの後方につこうとしていたが、ミグリーダーは、太陽を盾にする機動を取った。


「奴め!太陽を盾にする気だ!」


 ウィラード機のRIO、トマスが怒鳴った。


「逃がしゃしないさ!」


 ウィラードはF-14Aの機動性を生かし、ミグリーダーが太陽に飛び込む前に、後方についた。


「フォックス2!」


 ウィラード機から放たれた、サイドワインダーが獲物めがけて飛翔した。サイドワインダーはミグのエンジンノズルを直撃し、後部胴体を粉砕、ミグリーダー機は、破片をばら撒きつつ、ウイングマンと同じ運命をたどった。







 ……ロバートたちは母艦に帰還した後、ミグ編隊の先制攻撃に対する自衛行為と報告した。また、上空警戒を行っていたE-2Cが、ミグリーダーのミサイル発射コールを傍受していた事から、正当防衛による自衛戦闘と全面的に認められた。



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