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秒でフラれた俺と「可愛い」と言われ慣れている幼馴染の話【連載版】  作者: 北条S


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第2話【気持ちの整理】

 翌日、いつも通り怜央と共に登校していると、後ろから駆け寄って来る足音が聞こえた。


「篠塚くんじゃーん! おはよー!」

「あ、おはようございます、高岡先輩」

「柊くんもおは」

「お、おはようございます……」


 昨日の今日で朝から会うなんて気まず過ぎないか。

 しかしそう感じたのは俺だけらしく、高岡先輩は隣を歩く怜央と普通に話している。


 思えば先輩との出会いは、下校中に突然話しかけられたことだった。

 それから何となく話をするようになって、自然と一緒にいることの多い怜央を紹介する流れになったわけだが……


「篠塚くん、今度の日曜日って暇? あたし、見たい映画があるんだけど」

「あ、その日はちょっと家の用事で」


 こんな感じで、気が付いたら先輩は怜央のことばかり見ていた。

 それで焦って告白した結果、あのザマだったわけだ。


 しかし、こうしてフラれて冷静になった今なら分かる。


「え~じゃぁさ、いつなら空いてる? 篠塚くんと見に行きたいなぁ」


 先輩って怜央が好きなんだろうな……!


 こんなにあからさまなのに、俺は何て無謀な挑戦をしたんだろうか……いや、でもフラれない限りは諦められなかっただろうし、気持ちに区切りをつけるという意味ではよかったのか……いやいやしかし、俺の勝手な感情で先輩に迷惑をかけてしまったことは反省しないと……


「おーい、啓太、大丈夫?」

「うわっ……悪い、考え事してた。……って、あれ、先輩は?」

「先に行ったよ。空いてる日がないって言ったら諦めてくれた」

「……お前、そんなに忙しかったっけ?」


 曖昧な笑顔を返された。

 モテる男も大変なんだな。……俺には一生理解出来なさそうな悩みだ。


「そういえば、啓太を慰める会としてカラオケを考えてたんだけど、今日とかどう?」

「いや……悪いが遠慮しとく。今は歌える気分じゃない」

「そっか。じゃ、気が向いたら声かけてよ。奢るからさ」


 何て良い奴なんだろうか。俺も早くこうなりたい。


 ともあれ、先輩のことは良い思い出にして、早く好きだという気持ちを忘れ去りたい。

 いつまでもフラれた相手に想われたままなんて、先輩にとっても迷惑だろうし。



 教室に入り、クラスメイトの何人かと軽い挨拶を交わして自分の席に座る。ちなみに怜央は違うクラスだ。

 授業が始まるまでスマホでもいじってようかと思っていたら、後ろから声をかけられた。


「よ! 聞いたぞ、柊ー」


 振り返ると、クラスメイトの吉田だった。

 綺麗に剃られた坊主頭をざりざり撫でながら、ニマニマ笑っている。


「おはよう。聞いたって、何を?」

「昨日、高岡先輩に告白したんだって?」

「……え!? な、なんで知ってんだ?」


 まだ怜央以外には話してないはずなのに。

 思わず立ち上がって問いかけた俺の背を、吉田は軽い力で叩いてきた。


「まあまあ、落ち込むなって。この時期に上級生に告白するお前の勇気……嫌いじゃないぜ」

「そんなことより、その話をどこで聞いたんだ?」

「別のクラスの友達から聞いたんだが……そいつが誰から聞いたかは忘れちまった」

「そうか……」


 もしかして誰かにあの現場を目撃されていたんだろうか。

 その場合、どこかで面白おかしく俺の失恋話が広まってる可能性があるわけで……いや、一個人の失恋を楽しむほどみんな暇じゃないか。


「にしても先輩もヒデーよな……ちょっとくらい悩んでくれたっていいのに」


 この言い方的に、俺が秒でフラれたのもバレてるのか……恥ずかしすぎる。


「まあ、無理なものは無理ってバッサリ言うのも優しさだよ」

「前向きだなー。俺ならどんな可愛い子でも、そんな扱い受けたら恨むぜ」


 しかし、先輩には先輩の事情があるだろうから仕方ない。


 それにしても、誰がやったのかは知らないけど、人の告白を言いふらすのはやめてほしい。

 普通にめっちゃ傷つくから。


◆ ◆


 放課後になるまでの間、一体何人のクラスメイトに告白のことをいじられただろうか。

 みんな人の不幸を笑いやがって……まあ、下手に同情されるよりは、笑い飛ばしてくれた方が気楽だけどさ。


 明日には噂が消えてますようにと願いながら帰宅した。

 すると、家の前に私服姿の鈴音が立っていた。周囲を見ても、美咲は見当たらない。


「よお、一人か? 美咲は?」

「着替え待ち。買い物行くから」


 中学は校則で寄り道が禁止されているので、律儀に守っているらしい。


 それにしても、鈴音の私服は相変わらずシンプルだ。

 少し大きめのパーカーに包まれ、ポケットに両手を突っ込んで立っている。


「……なに、ジロジロ見ないでよ」

「あ、悪い、つい」

「誰にも会う予定なかったからこれなだけで、普段はもうちょっと頑張ってるから」

 

 謎の見栄を張られたが、いつもこんな感じのような気が……怒られるだろうから、言わないでおこう。


 のんきに着替えてるんであろう美咲をせっつきに行くかと、玄関の方に近付こうとしたら、リュックを掴んで引き留められた。


「どうした?」

「暇なんだけど」

「……なるほど」


 昨日も思ったが、鈴音は一人で待つということが出来ないのだろうか……いや、さっきまで待ってたんだろうけどさ。


「というかあいつ、着替えるのにどれだけかかってるんだよ」

「私が早かっただけ。美咲はオシャレだからいつも時間かけてるの。可愛いでしょ」


 何故かドヤ顔で言われた。

 誇らしげなところ悪いが、自分の妹相手に可愛いとは思い辛い。


(それにしても連日鈴音と二人きりになるなんて……話題が見つからなさすぎる)


 幼馴染とはいえ、俺たちはお互い兄同士・妹同士の方が仲良いから、実はあまり鈴音と二人きりになることはない。

 そしていつも話題を振ってくれるは、今ここにいない美咲や怜央……なんて不安になる状況なんだ。


「……そういえば」


 俺が話題を必死に探していると、鈴音の方から声をかけてきた。


「これあげる」

「……気持ちは嬉しいんだが、昨日のチョコといい、なんでやたらお菓子をくれるんだ? というか、昨日はなんであんな勢いで帰っ」

「昨日の話はいいから」


 強制的にシャットアウトされてしまった。

 別にそこまで気になるってわけじゃないからいいけど……。


 理由は謎だが、くれると言うのならありがたく。

 ということで、差し出された麩菓子を受け取った。


「なかなか渋い趣味だな」

「嫌いだった?」

「いや。それより、なんでこんなの持ってるんだ?」

「ここにいたら啓太が帰ってくるかなって思って、家から持ってきた」

「なんでわざわざ俺に?」

「失恋で傷ついてるかなって思って」


 パキッと、手に持っていた麩菓子を折ってしまった。

 だってあまりに予想外のことを言われたから。


「ちょ、ちょっと待て。なんで鈴音が知ってるんだ?」

「んー……噂で」

「噂……!?」


 え、俺のフラれエピは一体どこまで広まってるんだ? 中学校にまで?

 もしかして高岡先輩は俺が想像している以上に人気な人で、中学にも隠れファンがいてその影響とか?

 ……ありえるな。あの人、すごく明るくて誰にでも人当たり良いし……。


「それでこの麩菓子か……悪いな、不甲斐ない幼馴染のために……」


 空しい気持ちになったので、それを誤魔化すために袋を開封した。


「別に不甲斐ないとかは思わないけど……、……大丈夫?」


 随分と言葉を選んでいる様子だった。


 まあ、昨日の今日だから落ち込んでるって思うのが普通だよな。実際本音を言うならかなり落ち込んでるし。

 ただ、そんな弱音を正直に言えるわけもない。


「平気だよ。ダメ元だったしな」

「ふーん……そんなに良い人だったんだ」

「ああ。一緒にいるとこっちまで明るい気持ちにしてくれるような人でさ、話しててすごく楽しかったんだ」


 今でも先輩の笑顔を思い浮かべると……って、こんな未練たらたらでどうするんだ。


「ごめんな、長々と……知らない人の話されても、つまんないよな」

「別に。私から話振ったんだし。……でも、それならしばらくは忘れられないかもね」

「いや、すぐ忘れる……ように、努力する」

「なんで?」

「なんでって……いつまでもフラれた男が想いを引きずってるとか、気持ち悪いだろ?」

「何言ってるの」


 ぴしゃりと言われて驚いた。

 鈴音は視線を足元に向けたまま、俺を見ることはなく続ける。


「気持ち悪いなんて思わないよ。それだけ本気だったんでしょ」

「……おお」


 予想外のことを言われて、つい間抜けな返事をしてしまった。


 確かに俺は先輩を本気で好きだったけど、だからって想ったままでもいいものなのか……?

 すっぱり断ち切って、次にいくのが男らしさってものでもないのか?

 よく分からなくなってくる。


「まぁもちろん、表に出しまくってたら気持ち悪いけど。その人に鬼電したり鬼メッセしたりとか」

「そんなことは流石にしないが……」

「だったら無理してまで忘れることないでしょ。時間が解決してくれることだってあるし……啓太が辛くないならだけどね」

「……」


 変なタイミングで麩菓子を頬張った俺は、感心していた。いや、感動に近いかもしれない。


 俺がフラれたことを笑わずに励ましてくれるなんて……なんて良い奴なんだ。

 あの怜央ですら最初は笑ったっていうのに。美咲なんて知ったら爆笑間違いなしだろう。

 別に笑われるのが嫌なわけではないからいいんだけど。


「ありがとな。実はちょっと落ち込んでたんだけど、元気出た」

「別に思ったこと言っただけだから」

「いやー、良い子に育ったな……感動するよ」

「……ちょっと、子供扱いしてない?」

「してない。鈴音が幼馴染で良かったと思ったよ」


 パッと俺の方を見た鈴音は、目を丸くしていた。

 ……なにか変なこと言っただろうか?


「啓太……あの」


「おっまたせー! 見て見て鈴音、この服ちょー可愛くな――って、うげ!? お兄ちゃんなんでいるの!?」


「自分の家の前にいるのがそんなにおかしいことか?」

「もっと遅く帰ってきてよ」


 理不尽極まりないが、反抗期ってのはこういうものなのかもしれない。


 美咲は俺の横を通り過ぎ、鈴音の手をとる。


「お兄ちゃんは放っておいて行こ行こ。アイス楽しみだねー」


 この時期にアイスか……と余計なお世話なことを思いながらも、一応伝えておく。


「母さんが心配するから、あんまり遅くなるなよ」

「はいはーい」


 ちなみにあの返事をする時、大抵あいつは約束を破る。

 まあ、母さんには適当に誤魔化しとくか……。


 家に帰ろうとして、ふと二人が立ち去った方向を見ると、鈴音と目が合った。


「……」


 ひらひらと手を振られたので、片手をあげるだけで応えた。


 それから家に入り、先ほどの鈴音の言葉を思い返す。


「無理してまで忘れることないか……」


 いつまでも引きずってダサい奴――くらい言われるかと思ってたんだけど、鈴音に対して失礼だったかもしれない。

 無理しない程度に、徐々に気持ちを消していこう。


 ……それにしても、一体誰が俺の失恋話を広めたんだろうか。



続く

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