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第一部 第九章 直接対決
会社の応接室。午後の光がテーブルに細長い影を落とす。
私は言った。
「あなた、息子より夫が好きなんでしょう?」
美希は一拍置いて微笑む。
「どうしてそう思うんですか?」
「分かるの。あなた、茂に執着してる。
“お母さん呼ぶわけない”“いい時間を過ごさせてもらった”、あれは私に対する当てつけでしょう?」
美希は小さなため息をつく。
「……隠すつもりはありません」
私は呼吸を忘れた。
「どうして」
彼女は宙を見て言う。
「小さいころから家族に恵まれなかった。だから安心がほしい。
秀樹は優しいけど頼りない。茂さんは満たしてくれる」
私はやっとの思いで言葉にする。
「あなたは、息子を裏切っているのね」
美希は何も答えなかった。
代わりに小さな笑みを浮かべた。
否定しないのが、答えだ。
私はそう感じた。
部屋を出た廊下で、世界が少し歪んで見えた。
でも私は分かっている。
この真実を秀樹に告げれば、あの子は壊れる。
私は結局耐えるしかない。




