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月鬼桜 ~薄明の願い~  作者: 釉亜


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第二章 其の八

「そういえば、鈴音殿。もう諦めたのですか?」

ある程度話もまとまり、休憩でも挟もうかというときにじいやが唐突に鈴音へと問いかけた。それに、鈴音も少し困ったように笑いながら答えた。

「そうなんです、(みのる)様。何度申し上げてもあまりに意志が固いので、お好きなようにしていただくことにしました。」

「?」

なんの話か、俺だけがわからずにふたりは楽しそうに微笑みあう。

名前で呼び合えるほどに打ち解けたのはいいことなのだろう。だが、いつの間にそんなに親しくなったのか。俺は未だ「将軍様」と他人行儀なのに。

もやりとしたなにかが胸につかえた気がして、手を当てる。しかし、慎重に呼吸をしてみても正常に動いている心臓が、鼓動を伝えるだけでなにも問題はない。しかし、今は目の前で交わされるふたりの様子が気になってじっと見つめていれば、ふいに思い至り身を乗り出す。

「鈴音、じいやに話したのか?」

「なにをでしょうか?」

不思議そうな表情をする鈴音に、なにについてかを言ってもいいものかどうかを悩み、言い淀んでいればじいやがくくっと笑う。じろりと睨めばすっと表情が正されるが、小刻みに震える肩が隠せていない。

「鈴音殿。旦那様は私たちが親しく話していることに拗ねているのですよ。」

「まさか。将軍様はそのような方ではありません。」

なにを言い出すのかと思えば、予想の斜め上をいく発言だったことに飲んでいた茶を(むせ)る。...鈴音も、それはありえないというように冷静に返さないでほしい。そこはなにを馬鹿なことを、と呆れるところだ。


これ以上は余計なことを言うな、と目で訴えれば、じいやはより一層楽しそうに目を細めただけだった。

「鈴音殿、どうやら旦那様はご機嫌斜めのようですから、我々はお(いとま)するといたしましょう。」

「じいや!!」

鈴音を伴い部屋を出ようとしたじいやに、たまらず強く叫べば、足を止めてからからと笑いながらこちらへと向き直る。しかし、続けて告げられた事実に、俺は衝撃で言葉を失うことになる。

「仕方のない方ですね。鈴音殿のことでしたら、ここに来た当初にお話しいただいておりますよ。」

「なっ」

固まる俺のことなど意に介さず、ふたりで「ねえ?」「はい」だなんて吞気にやりとりをしている。知らなかったのは俺だけらしい。思い起こせば、あのときすでに話がされていたからこそのじいやの発言だったのだろうと思うと、苦々しさがこみ上げた。

「なぜ、言わなかった。」

「鈴音殿が旦那様はもうすでにご存じである、と仰いましたので。」

「そうじゃない。鈴音から話があったことについてだ。」

「鈴音殿がなにを憂いて、私めに自身のことをお話になったのか、それを察したからにございます。」

「だとしても、ひと言くらい言うべきじゃないのか?」


「なぜ~」「それは~」と、なおも応酬し合う俺たちを鈴音がおろおろと見つめ、やがて止めようと割って入る。

「あの、隠していて申し訳ありません!実様には私からお願いしたのです!」

「君はいつもそうだな!俺には相談など一切しないというのに、じいやにはなんでも話すのだろう!!」

荒げた声にびくりと震えた肩を見て、しまったと急激に冷静になる。じいやとの熱量のままに言い放ってしまった。慌てて弁明しようと口を開く。

「すまない、今のは違う。」

「いえ、ご不快にさせてしまい誠に申し訳ございませんでした。ですが、実様に非はありません。罰するならば、私だけにしてくださいませ。」

即座にさっと頭を下げた鈴音に、やめてくれと叫びそうになる。

幼き子どもでもないのに、感情の制御ができずに冷静さを失い、八つ当たりをするなどありえない。自分でもそう思う俺に、じいやが追い打ちをかけるように、残念そうに首を振った。

「旦那様はいつからそのように情けなくなってしまわれたのでしょうか。私は嘆かわしくてなりません。」

今の俺にとっては暴言に近く、胸をぐさりと鋭く刺してくる。

「鈴音殿、ちょうど一緒に行っていただきたいお店があるのです。今から参りましょう。」

「えっ?今からですか?」

ぱっと顔をあげて困惑した鈴音の手を引いて、じいやが外へと連れ出す。

当然、俺はそれを見ていることしかできず、ふたりが襖の向こうへと消えようかという一歩手前でじいやが振り返り、それはもうにっこりとした笑みを向ける。

「旦那様はおひとりで存分に反省なされませ。」

ぱたりと閉められた襖に、長く、長く。肺が空になるまでため息を吐く。

先ほどのやり取りを思い起こしてみても、あのふたりに非はないことは明らかだ。自分でもみっともないことはわかっている。だが、鈴音のことになると、どんな些細なことでも心が波立ってしまうのだ。くそ、とずるずるその場に座り込んで、そのままばたりと後ろに倒れこんだ。

そうして目を閉じれば逃げることもできずにそれを見つめるしかない。


もう、認めなければならない。

自分の中にあるこの想いを。


静かに、

けれどもふわりと花開くようなあの笑顔に

惹かれていることを.........

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