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月鬼桜 ~薄明の願い~  作者: 釉亜


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第一章 其の十三

どうやらぐっすりと眠れたようで、昨日の疲れもなかったかのように身体は軽い。

窓を開け放ち、朝日の眩しさに目を細めながら綺麗な空を見上げる。少なくとも今日は雨が降らなさそうでなによりだ。


「将軍様、本当によろしいのですか?」

城門の前で馬をなだめながら待っていると、後ろからやってきた大名が険しい顔でこちらを見る。

「問題ありません。自分の身くらい守れずして将軍など務まりませんよ。」

先ほどまでもずっとそのことについて話をしていたというのに、懲りずに尋ねられて多少うんざりしてしまう。

「それより、もうよろしいのですか?」

早々に話題を切り上げようと、大名の肩越しに見えた彼女を言外に示す。最後に別れの挨拶をさせてほしい、と大名に言われて先に外に出ていたのだが、思っていたよりは早く済んだように思う。少なくともなんだかんだと言い訳して数十分は待たされる羽目になるかと踏んでいたのだが。

「あまりお待たせするわけにもいきませんので。わざわざお時間をいただきありがとうございました。」

大名ににこりと微笑まれ、隣の彼女をちらりと見やるが、頭に笠をかぶり俯いたその表情は見えない。まあ、早いほうがこちらとしても暇を持て余すこともないからよかったと言えるだろう。これ以上ここにいる理由もない。

「それでは、短い間でしたがありがとうございました。とても有意義なひとときを過ごすことができました。」

「そういっていただけて光栄です。またいつでもお越しください。お元気で。」

ずいぶん多い見送り人たちの視線を感じながら、彼女を伴い馬に跨る。長いようで短かった怒涛の日々がこれで終わりを迎えた。




「君は、こうした旅の経験は?」

「何度か...あります。」

ふたりで馬を並ばせて歩く道はひどく穏やかで、どこか眠気が誘われる。せっかくだからと話しかけてみれば、案外素直に答えてくれた。馬に乗れる時点で予想していたことではあるが、何度か、という割には手慣れているように見えてほっとする。

「今日は野宿になりそうだが、問題ないか?」

「はい。」

これまた即答されて思わず横を見れば、揺れる木々を見上げて目を細めた穏やかな表情をした彼女がいた。今まで見たことがないような顔に、驚きを禁じ得ない。

「...旅が好きなのか?」

そんなに嬉しかったのかと不思議に思い問えば、こちらを振り返った瞳が瞬く。しばし考えるような仕草をしてから、なぜか眉を寄せた。

「いえ、嫌いではありませんが、特段好き、というものでもありません。」

「そうか。いや、随分と嬉しそうに見えたから。」

違ったのかと落胆して言えば、彼女は少し困ったように小さく笑った。

「こうして過ごすのは久しぶりで...。つい舞い上がってしまいました、申し訳ありません。」

「謝ることはない。あの屋敷ではそのように楽しそうにしているのを見たことがなかったから聞いただけだ。こちらこそ水を差してしまった、すまない。」

「将軍様は、本当にひとをよく見ていらっしゃるのですね。」

俺がひとをよく見ている...?

彼女の言葉が頭で繰り返されてもしっくりとはこない。ひとと関わることが面倒で避けてばかりの俺がそんなはずはない。おそらく彼女だから印象深く残っていただけで、正直あの屋敷の他のひとのことなど今ですらもう朧気(おぼろげ)なほどだ。

これをありのまま伝えるのは、なんとなく憚られて口籠り、結局は無言となってしまった。そしてこういうときは、彼女も気にした様子もなく何かを言うことはない。興味を失ったようにその瞳はもうすでに他のものを映していた。


そこからはまたなにかを話すわけでもなく、ただひたすらに歩みを進めているうちに早くもあたりは暗くなる。

少し開けた場所で馬から降りると、手早く火をおこして夜への備えを始める。

「寒かったりはしないか?」

振り返れば、同じように馬からおりた彼女も持っていた握り飯を差し出してくれる。

「問題ありません。」

そのままてきぱきと用意を進める彼女をぼんやりと見つめる。随分と大きな塊を持っているなと思っていたが、まさかこれらを持ってきていたとは...と手渡されたそれを見下ろす。他にも火の上に小さな鍋のようなものを置いて、おそらく匂いからして味噌汁だろうか?を温めたり、いくつかの箱を取り出していた。

ふと近づいた気配に顔をあげれば、彼女がいつの間にか敷いてくれた布の上を示してくれたので、ありがたく座らせてもらう。目の前に広げられた食事たちは普通、旅をしていてありつける食事ではなかった。

「とてもありがたいのだが、ここまでする必要はない。ある程度は自分でするから君もゆっくりするといい。大変だろう。」

飲み物まで注いで手渡そうとしてくれていた彼女はぴたりと動きを止める。

「失礼いたしました。もう、癖のようなもので...。」

「責めているわけではない。俺に対してそのようにする必要はない、と言いたかっただけだ。」

「それでは、なぜ......。」

言葉は途切れてしまったが、なんとなく言いたいことかもしくは聞きたいことがありそうだと先を促せば、少し躊躇った後に口にしてくれた。

「なぜ、私を連れてこられたのでしょうか?」

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