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ユーモア奇譚  作者: 究 耀
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目覚め

 暖かい日差しの中で私は右手を押さえながら回っていた。ぐるぐると、目が回るほどの勢いで。私はいい加減うんざりしていたが、続けなくてはならないのだ。私は偏頭痛を起こしながらも回り続ける。

 私は頭の痛みよりも腹が減ってきたころ、ようやく回ることをやめた。私はふらふらと訳のわからぬまま歩きまわり、やっと切り株に座ることができた。かれこれ二日近くは回り続けていただろう。途中で木にぶつかり、右手を大きく損傷してしまったこともあるが、私はとにかく、本当にうんざりしていたのだ。もう投げだしたかった。しかし、時間を稼ぐ必要がある。それで、私はあのような行為をとっていたのだ。


 去年の夏、私は夫と二人で南の孤島へ新婚旅行に行った。夫が親切であったためか、我々はそれなりに楽しく数日間を過ごしたが、最終日の予定の日にある事件が起きた。それは、夫が行方不明になったのだ。少しパイナップルをもらうじゃんけんをしてくると言って。私は夫が私のためにしてくれるそういった小さな親切が好きだった。それで、私はその時も快く送り出したものだ。しかし、彼が出て行ってから半日ほどたった時刻になっても、彼は帰ってこなかった。私はその知らせを聞いた時、直感的に彼はもう帰ってはこないのだ、と悟った。

 なんでもない、根拠もない発想だが、私にとってはよほど重要なことだっただろう。しかし、私はその考えを冷静に受け止め、とっさに判断をすることができた。つまり、私は彼をおいて帰ったのだ。私は両親にはそのことを伝え、家にこもった。

 長い眠りだった。私は自宅の下の階で夫の両親たちが葬式の準備をしている間、淡々と眠り続けたのだ。数週間にも及んだだろう。私は死んでしまったかのように、その時間がまるでなかったかのように眠り続け、いつも通りの目覚めをした。私に残されたのは、砂時計のように繰り返される、果てしのない空虚感だけだった。私はそのたくさんの粒の中に埋まり、周りが動いていく度に流されていってしまうのだろう。私は葬式には参加をした。


「…起きてください。もう、閉店の時間です。起きてもらわないと、店が爆発してしまうんです」

 私は遠慮がちなその声に起こされ、ドーナツ屋のテーブルの上に突っ伏していた手から顔を上げた。そして声のした方向を向いた。

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