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道は同じ 7話

 次の日の11月5日。

 僕は予想通り野本の体育館裏に呼び出された。

 前日に連絡先を勝手の登録されて、勝手にメッセージを一方的に送られてきていたのだ。何が(ごめんね)だ。そんな言葉微塵も思ってもいないくせに。そっこうでブロックをしてやろうかと思ったけど、それはそれでいらぬ反感を買いそうだから、こうして素直に呼び出しには応じている。

 

「急に呼び出してごめんね。今日大丈夫だった?」

 

「うん。特に用事はなかったから……」

 

 昨日は告白の断り方を必死で練習していたから、忙しかったけど。それと、もう1つの作戦を実行するために。

 

「それで話なんだけど……実は前から、井上君のこと気になっていて、よかったら私と付き合ってくれませんか?」

 

 ついにきてしまったこの時が。どう頑張ってもどうしても回避はできないのか。未来を変えるのって案外難しいんだな。

 悪いが僕の言葉は決まっている。

 

「ごめん。実は他に好きな人がいるから、君の思いには応えられない。ごめん」

 

「……そっか……ううん。私の方こそ、急に言い出してごめんね」

 

 涙を堪えながら言う野本を見て何も思わなかったわけではない。でも、ここで優しさを見せたら、野本はそれを確実に利用する。本当に悪いけど、ここは冷たい態度でいかせてもらう。

 

「そろそろ戻ってもいいかな?」

 

「うん。大丈夫だよ」

 

 僕は教室に戻った。ただひとつ録画中のスマホを階段の隅の隠して。

 

 次の日。

 僕が教室に入ると、みんなからの視線を集めていた。

 野本め、早速何かしたな。まあ、こちらは初めからそうくることを知っていたから、昨日リスクを冒してまでスマホを隠してきたんだ。野本。君の計画は破綻しているよ。

 視線を集めながら自分の席に座ると、松島が話しかけてくれた。

 

「井上。お前めっちゃ噂になっているけど、野本とか言うやつに何かしたのか?」

 

 他人に聞こえないように小声で話してくれているけど、教室でしかもみんなの注目を集めているから、みんなに丸聞こえだ。

 

「別に何もしてないけど、何かあったの?」

 

「今、3組で噂になっているんだよ。昨日、井上に告白されて、それを断ったら井上に暴力を振るわれたって」

 

 植田の時と全く同じ状況か。野本もよくそれで通ると思ったな。目の前であんなの見せられて、僕が何もしないと思っているのか。さすがは底辺の人間だ。

 

「まさか。全く逆だよ。暴力は振るわれてないけど、告白されたのは僕の方なんだよ。証拠にほら、メッセージは野本の方から送られてきているだろ」

 

 僕と野本のトーク画面を写真に撮り、松島に送るふりをして、クラスのグループに間違って送った。

 話題の噂だってこともあり、みんなの既読がつくスピードが早かった。

 これの写真が拡散されれば、僕は無実。野本はとんだ嘘つき。学校にはいられなくなる。僕が学校から出ていくのではなく、野本を追い出せばよかったんだ。方法なんていくらでもある。野本が黒いことを知っているのは僕だけなんだから。

 種は蒔いた。あとは野本がなんて言うかだ。まあ、何を言っても野本の嘘が白日の下に晒されるだけだけどな。

 クラスの誤解はなんとなく解けていっているように感じた。初めは睨まれているような視線だったけど、次第に僕を見ている目が少なくなっていた。

 この流れはいいぞ。このまま、このトーク写真を3組に流してもらえれば、野本の罪は自然と暴かれる。さあ、どんどんの下が嘘をついているという証拠を流してくれ。

 話題の噂だってこともあって、トーク写真が流れるスピードは僕が想像していたよりも大幅に早かった。

 昼休み、僕は3組のある女子に呼ばれた。面識はまだない。ただ、僕は彼女がどんな人間なのかを知っている。彼女は高見奈々《たかみなな》。野本がいつも一緒にいた人物だ。

 前回も関わりと言えるくらい話をしていない。おかげで対応に困らなくて済む。

 

「君か。結衣の言っていた人は」

 

 野本め。何を言った。高見は一見なんでもなさそうな女子に見えて、虎のような女子だから、要注意人物なんだ。なんでも、他校の不良を従えているとか。前回も本当か嘘かわからなかったけど。ただ、高見は友達が少ないから、高見が言う噂は大して広がったりはしない。

 

「話って何かな?」

 

「ああ、別に話したいことなんてないけど、とりあえず顔見たかったみたいな。まあ、そんな感じ」

 

 本当に何しにきたのだ。真の目的はなんだ。顔が見たかったってそんなわけないだろ。何も興味がなさそうな高見に限って、そんなことはないだろう。

 

「……そ、そうなんだ。じゃあ、もう戻ってもいいかな?」

 

「うーん。もうちょい待っててくれない?」

 

 なんのために僕は待たされているんだ。野本に対する今後の作戦を立てたいのに、こんなところで時間を無駄にしている暇なんてないのに。

 高見さんが話し出したのは待ってから5分が過ぎた頃だった。

 

「ねえ、今3組で噂になっているんだけど、結衣に何かしたって本当?」

 

 やっぱりその件で呼び出されたのか。それならそうと早く言ってくれよ。野本の嘘に関してはこっちも用意をしているから。

 

「違うよ。第一、告白されたのは僕の方だし」

 

「だよね。いやー私もそんなことかなって思っていたんだよね」

 

 なんだこいつ。高見は野本の味方じゃないのか。野本と一緒に僕の噂を広めている張本人じゃないのか。

 

「最近のあいつなんかうざいから、ちょうどいいや。急に呼び出してごめんね。じゃ、私は行くから」

 

 本当になんだったんだ。証拠を見るまでもなく、僕の言葉だけを聞くとか。全く知らない僕の言葉は信用には値しないだろ。それに……何か不穏な空気を感じたのは気のせいではないはず。

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