道は同じ 6話
文化祭が終わって、僕は植田と共に帰ろうかと思っていたけど、植田は何やら用事がある様子。ホームルームが終わったと言うのに、帰る気がないようで椅子に張り付いているように座っていた。
怪しい。これは何かあるな。
僕は帰るふりをして、植田を尾行することにした。
またしてもトイレに篭ることになるとは思ってもいなかったけど、教室を監視するのにトイレはもってこいだ。便器に登って上から顔を出さないといけないけど、教室からは見えない。トイレからは教室が丸見え。こんな好立地な場所他にはない。誰か入ってきた時にはこっちまでびっくりするけど。今日が文化祭でよかった。校舎に残っている人が少ないから、ここのトイレを使う人が少なくて。
トイレで待つこと10分。まだ植田には動きはない。
一体植田は何をしているんだ。よく教室で何もせずに10分も待てるな。僕にはできないことだよ。
それからさらに5分待ったところで、植田はようやく動き出した。
鞄も持たずに手ぶらで体育館の方向に曲がった。この先は体育館以外何もない。ただ、体育館は、片付けを終えたばかりで今は閉鎖されている。用事は何も見当たらない。ただ1つ。あれだけを除いては。
植田に限ってあれだけはないだろうけど。もしあれだったらどうしようか。相手が気になるな。体育館裏に呼び出すなんてロマンチックなやつが他にもいるんだな。これは確認せずにはいられないな。体育館裏か。バレないように進むには、正面入り口側からがいいだろうな。あっちの方が隠れられる場所が多い。
植田を陰からこっそり視認でき、声もギリギリ聞こえるポジションについた。背後は体育館前の広場になっているから、校舎に人がいれば丸見えなんだが、文化祭後だから好都合。背後は気にせず前だけ見ておこう。
少し身を乗り出して植田を呼び出した人物を確認する。そこには、なぜか野本がいた。
え……どう言うこと。なんで、植田が野本に告白されているんだ。もしかして、僕から乗り換えたのか。それは好都合だ。これで野本の怨念から解放される。
「ごめん。君とは付き合えない」
なんで断るんだ。野本は姿だけ見たら割と優良物件だぞ。今後の人生で付き合えるかわからないのに断るか。
「そっか。わかった。急に呼び出してごめんね」
野本も案外あっさり引き下がるんだな。僕との別れ話の時には子供のようにごねていたのに。本当に野本本人か。過去に戻った影響で人格本当に変わってないか。野本はこんなやつじゃなかったぞ。
教室の方向へ帰る植田。それとは反対に僕の方へ歩いてくる野本。
やべっ。早く逃げないと。体育館横に植えられていた大木に体を隠して野本が去っていくのを見守った。野本は僕には気づいていないみたいで、カバンを持って、靴に履き替えていた野本はそのまま自転車置き場の方へと姿を消していった。
文化祭が終わって週が明けた月曜日。
衝撃的な出来事を目にしてしまっていた僕は揶揄ってやろうと、休日の間にからかい文句を決めていたけど、この日植田の姿はなかった。
風邪で休んでいるのだろうなと思っていたけど、3時間目の休み時間。僕はあることに気がついた。それは、植田のカバンが机の横にかけられていることだ。つまりは、植田は1回は登校しているってことだ。ではなんで、カバンを置いてどこかへ行ってしまったのか。考えられる可能性は1つ。校外清掃の時の僕と同じ、保健室にいる。
「失礼しまーす。1年の植田君っていませんか?」
「今日はまだ誰も保健室にはきていないわよ」
そんなバカな。植田はだって、確かに登校だけはしているんだぞ。どこにもいないんておかしいだろ。学校にきているけど教室にはいない。トイレにそんな時間まで篭るか? さすがに長すぎないか。時間で言えば3時間になるんだぞ。そんな長時間座っていたらケツ死んでしまうぞ。
休み時間に一応全てのトイレを回る。だけど、どこにも植田はいない。自転車があるかの確認もしたけど、自転車はあった。植田は、この学校のどこかにはいる。
だけど、この学校はその辺の高校に比べて狭いから、見つけれない方がおかしいのだ。特別教室は、基本的に鍵がかかっているから中には入れないし。入れたとしても何もすることのない教室ばかりだ。
電話を何度かけても植田は出ない。もうすでに24回もかけているのに。
カバンも自転車も学校に置いてあって、スマホもこれだけ出ないと言うことは、カバンの中にでも入れているんだろ。何も持たずにどこにいったというのだ。この様子だと財布もカバンだろうな。この辺は田舎だからせめて財布でも持っておかないとどこにもいけないし、何もできないぞ。
全ての荷物を置いて家に帰ったとして、その理由はなんだ。理由がなかればそんなことはしない。たとえ忘れ物をしたのだとしても、カバンを持って行かないか。自転車に乗って行かないか。それら全てを学校に置いているのはなぜだ。一体植田に何があったのだ。
誰か植田がどこにいったのか知らないか。このクラスで早く登校しているのは照屋とかか。
「なあ、照屋。植田荷物だけ置いているみたいだけど、どこにいったのか知らない?」
「さあ、朝早くはいたらしいけど、俺がきた時にはもういなかったから。如月とかなら知っているんじゃない?」
照屋よりも早くくるとか。植田は何がしたかったんだ。そんな早くに学校来ても何もすることがないだろうに。
それにしても如月か。確かに如月なら知っていそうだけど、僕が如月を苦手だからな。話しかけるのはやめておこう。
「他には知ってそうな人とかいないかな?」
「うーん。そうだな。佐古とかなら知っているかもしれないな」
「そっか。ありがとう」
……佐古か。佐古とは、うちのクラスで1番のバカでお調子者で、クラスを盛り上げている人物だ。佐古と話す機会は少なく、あまり話したことはないけど、如月よりはマシだ。
「佐古。少しいい?」
佐古を廊下に呼び出して、会話を誰にも聞かれないように植田のことを聞いた。
「植田のことだけど、佐古は姿を見ていないかな?」
「ああ、植田ね。朝は確かにいたんだよな。でも、どこかにいったきり教室には帰ってこなかったな。どことなくだけど、気の張った顔をしていたような気がするな」
「それってどんな顔?」
「鬼のような形相だった」
佐古の言っていることが正しければ、植田に何かあったと言うことだ。そこ前顔を歪めないといけない何か。学校から逃げ出したくなるほどの何か。なんもわからん。
「そっか。ありがとう」
「気になるなら俺の方でも調べるよ」
「そこまでしなくて大丈夫だと思うけど」
「急にいなくなったから心配だよな。任せろよ。こう見えて顔だけは広いから」
少し心配だけど、佐古がそこまで言うのなら任せてみるか。
次の休み時間に、佐古からではなく、佐古と仲のいい松島から連絡が来ていた。内容は。
(噂程度に聞いた話だけど、植田のやつ、3組の女子と何かトラブルがあったらしい)
(詳しい話は聞いてみないとわからないけど、それが原因じゃないかな)
(3組の女子に仲のいいやつがいるから訊いてみるよ)
松島から来ていたメッセージを見て僕は戦慄していた。だって、3組の女子でトラブルを起こしそうなのは、1人しか知らないから。この間の告白とかが関係ありそうだ。とうとう本性を表したか。この件。野本ならやりかねない。
詳しい話は松島が聞いてくれるみたいだから、そっちは任せるとして、僕が今やるべきことは1つ。野本の告白を回避すること。前回の告白は明日だ。
僕と野本の間に付き合えるほどのエピソードは存在していない。告白されても断る言葉を作るのが容易い。