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道は同じ 4話

 5月13日月曜日。

 ついにこの日がやってきてしまった。前日に油を200ミリリットル。チョコレートを5枚。ポテトチップスをファミリーサイズで4袋。食べて、気持ちが悪いのに吐き気はしない。熱ももちろんなく、気分が悪い以外は至って健康体だった。

 さすがに食べすぎた。胃が気持ち悪い。なのになんで吐き気もない。なんでもいいから戻ってこい。僕は今日は何が何でも学校には行かないからな。野本のもとと同じ班なんて死んでも嫌だ。将来殺されるのだから。

 結局親を説得することはできずに、僕はゆっくりと学校に歩いて向かったのだった。

 自転車に乗ったら、頭がフラフラすると言ったら歩けと。なんて親だ。子供がここまで酷いことになっているのに。信じれないだろうけど、僕将来野本に殺されるからね。あの時行かせなきゃ良かったって後悔しても遅いからね。

 学校までもう少しのところでようやくキラキラが口から出てきそうになった。

 遅い。もう少し早くキラキラが出ていれば、僕は学校に行かなくて済んだのに。このまま家に帰りたいが、親に電話をすると、学校に向かっているのならいけと。本当に後悔しても遅いからな。まあ、さすがにゴミ拾いには参加できないから、野本と会うことはないだろうけど。

 保健室の先生に言われてベッドで横になっていると、扉が開いて2人の生徒が中に入ってきた。1人は3年生の時に同じクラスだった新島優奈にいじまゆうな。もう1人は野本だった。

 僕は野本の姿を視認した瞬間にカーテンを閉めて、頭まで布団を被った。

 野本の顔を見てしまった時の方が、僕の中で吐き気を催していた。

 

「先生ー。転けて膝怪我したみたいなので処置をお願いします。結衣も大丈夫?」

 

「うん。平気。ありがとう。もう大丈夫だから」

 

「それにしても、盛大に転けたね。ぶつかった男子あとでけちょんけちょんにしてやる」

 

「大丈夫だよ。ちょっと膝擦りむいただけだから」

 

「そうだけど」

 

「それに謝ってもらったから、問題にしても仕方ないよ」

 

「そうだけど。許せないじゃん」

 

「もう。そんなにプンプンしないの。私は大丈夫だから、変なことはしないでよ」

 

「わかったよ。結衣がそこまで言うのなら何もしないよ」

 

 新島は清掃の途中だってこともあって、席を外した。保健室には先生はいるけど野本と僕との3人になってしまった。

 野本も膝を怪我しただけなら、絆創膏でも貼ってそのまま戻ってくれ。

 

「膝の痛みは大丈夫?」

 

「ヒリヒリするだけなので大丈夫です」

 

「1人で戻るのも大変だから、みんなが帰ってくるまでここで休んでいなさい」

 

「はーい」

 

 保健室の先生、野本は軽症です。今すぐ校外清掃に戻しましょう。あと、僕らを必ず2人きりにはしないでください。それは何はあってもお願いします。トイレしたくてもみんなが帰ってくるまで我慢してください。

 

「先生少し外すから、ちゃんと休んでいてね」

 

 先生何しているのですか! 僕殺されちゃうんですよ! 先生がいれば僕らは出会うことはないから、いなくならないで。

 無慈悲にも先生は音を立てながら扉を閉めた。

 僕はというと。野本に存在がバレたら困るから、何も言わず、物音も立てずに大人しくベッドの中に潜っていた。

 

「はあー」

 

 そんな深いため息を吐くほどなんでいることなんてないだろ。僕はお前と5年も付き合ったのだから、大体のことは知っているんだぞ。お前が人の愚痴を言うのが大好きな人間だってことも。録音してやるから、なんでも言ってくれ。学校中に広めてやるよ。

 さっきから思っていたけど、話し方とか仕草とか、僕の知っている野本じゃない。僕の知っている野本は、もっと人を見下していて、バカで、後先考えずに行動をする人間。こんなおとなしい女子じゃない。過去に戻った影響で人格が変わってしまったのか。そんなことあり得るのか。

 

「誰かいるのですか?」

 

 やめてくれ野本。頼むから詮索はしないでくれ。大人しくその場所を動かないでくれ。

 野本は椅子から立ち上がり、こっちに近づいてきていた。はっきりとは姿を確認していないが、足音が聞こえていた。

 やばいどうしよう。野本と接触したら、僕が考えていた作戦が全て終わる。せっかく高いお金を払ってお菓子とチョコと油を買ったのだから、それを無駄にはしたくない。吐きそうになった努力を水の泡にしたくない。

 

「少し気分が悪くて横になっているんです」

 

 声を少し高めに設定してそう言ってみた。

 

「それは大変ですね。大丈夫ですか?」

 

「大丈夫です。大丈夫です。風邪ならうつしたら悪いので近づかない方がいいですよ」

 

 本当に近づかないでくれ。顔見たら吐きそうになるから。

 布団を頭まで被っていたから気が付かなかったけど、野本はカーテンの手前まで来ていて、近づくなと言ったのに、野本はカーテンを開けた。

 やめろ。何を考えているんだ。

 

「先生席を外してしまったので、何かあれば私に言ってください。先生のようなことはできませんが、冷えピタとかなら交換くらいはできますので」

 

 熱じゃないからそんなのいらないんだよ。頼むから構わないでくれ。放っておいてくれ。お前に関わると碌なことがないんだよ。

 

「うつったら悪いので近づかない方がいいですよ」

 

「私風邪ひかない体質なんで大丈夫ですよ」

 

 そう言う問題じゃないんだよ。顔を合わせたくないから近づいてほしくないんだよ。言えないから苦しい。どう言えば野本は離れてくれるのだろか。せめてカーテンを閉めて欲しい。

 

「そろそろ冷えピタ変えましょうか?」

 

「大丈夫です。お気になさらずに」

 

 野本の匂いがして、僕は野本に刺された時のことを思い出した。その瞬間、今までで1番の吐き気を催した。

 

「ちょ、ごめん……」

 

 僕は野本の顔を見ずにトイレに駆け込んだ。

 最初からこうしていたらよかったんだ。トイレに篭っていれば野本は追いかけて来られないから、みんなが帰ってくるまでここでいよう。本当に吐きそうだし。ここになってようやくか。遅いよ油たち。もう少しで野本との接点ができるところだったじゃないか。はあ、危ない、危ない。

 トイレで便器に向かって安堵していると、安心したからなのか。昨日食べたポテトチップスとチョコレートがドス黒い色に染まって出てきたのであった。

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