第5話 会場は聖女ルース記念講堂
掲示板に張り出されていたのは、学生会臨時総会開催の案内だった。開催日は来週、会場は聖女ルース記念講堂。臨時総会における議題は、『大免許状と慣例に基づく学生自治が堅持されることの確認』──
もって回ったような言い回しだな、とシクストは思った。先日の布告に対しての反撃であることは明白であるが、しかし、布告を棄却するとか拒否するとか、直接的な表現を避けている。あくまで学生自治における法的根拠の部分に争点を限定しており、それは皇帝権力それ自体との全面戦争を意図しているわけではないということを強調しているようだ。
とはいえ、第二、第三、第四、第五の学生同胞団の首班たちが、あの布告に対する不服従を選択したらしいということは、シクストにとっては嬉しいことには違いなかった。
──人間の自由というものを考えれば、必然的に、あらゆる不服従には崇高な価値がある。服従というものと比べれば、その差は天と地ほどもある。
掲示板の周りには学生たちが集まっていた。あの布告の隣に張り出された今回の案内を見て、それぞれがさまざまな反応を見せているが、全体としては、活気があり、楽観的な雰囲気だった。──先日の布告が掲示された時の困惑とは正反対にも見えた。
シクストが見た感じでは、集まっている学生たちの大多数が第二、第三、第四、第五、の同胞団に属する学生たちであり、第一同胞団に属する学生の姿はほとんどなかった。
実際のところ、出身階層によって、学生たちの所属学部や選択講義には偏りがあるものだ。ちょうど今は、大多数の第一同胞団の学生──つまり、生まれも育ちもよく、上級官吏への登用がほとんど決まっているような連中が、講義を受けている最中だった。さしもの第一同胞団の学生たちであっても、立身出世のために重要な講義の最中であれば、その身体は椅子の上にしばりつけられているも同然だった。
講義終了の鐘がなると、そこからようやく講義を終えた第一同胞団の学生たちが、徒党を組んで掲示板前に現れた。彼らは掲示板を睨むと、権利を侵害されているのはこちらの方だと言いたげに、不愉快そうにその顔を歪め、不平を口にし始める。
やがて人だかりのあちこちで、軽い口論が散発する。──しかし、このときの第一同胞団の学生の中には存外に冷静な者も多くいて、そんな彼らは逸る仲間をなだめて、結局、勃発しかけた乱闘は未然に防がれてしまった。
先日のような暴力沙汰を期待していたシクストは、煮え切らないような気分になり、両派の衝突が自然収束していくことを残念に思った。
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明くる日。
登校した学生たちが掲示板で目にしたのは、学生会臨時総会の案内が無惨にも引き裂かれた様だった。