プロローグ
オルゴニア皇帝直属の空騎兵が大鳥を駆り、払暁の時計塔へと襲い掛かる──。それはあの日、帝都大学での光景だった。
最終的に、聖女ルース記念講堂は、申し分なく要塞化されていた。戸口や窓辺に積み上げられた机や椅子、そのほか諸々は十分に固定され、皇帝派学生の講堂内部への侵入を防いでいた。その防壁を撤去すべく取りつこうにも、屋上からは投石や火炎瓶が雨あられと降り注いだ。
皇帝派学生は、この講堂の攻略を何度も試みた。しかし、それらはすべて惨憺たる結果に終わっていた。だから彼らは、ついには皇帝その人に支援を要求し──つまり、彼らはあろうことか、大免許状による大学の自由と独立を自ら手放し──そして空騎兵が差し向けられることとなったのだ。
聖女ルース記念講堂内部に籠城していた四学生団連盟の学生たち、すなわち連盟派の学生たちは、屋上へと打って出て、空からの襲撃者との対決に臨むこととなる。
連盟派の学生たちは、いったいどのような人物だったのか?
彼らは子供であると同時に、大人でもあった。それとも、子供でもなければ大人でもなかったのかもしれない。
彼らは、学生だった。
一介の学生であるはずの彼らはなぜ、本分である勉学を放棄し、聖女ルース記念講堂に立て籠もったのか?
彼らは、自分の意志でそこに残ったのだ。自分が信じた正義のために殉じる覚悟だった。あるいは、外部的な大きな流れに翻弄され、気がついたときにはそこに留め置かれていたともいえる。
彼らは、皇帝と戦うことが本懐であった。そして同時に、自らの将来を投げうってまで皇帝権力に歯向かうことは不本意でもあった。──さもなくば、大学卒業後の自分の将来というものを無茶苦茶にすることこそが、彼ら自身でも自覚していない、奥底に秘められた本当の目的だったのかもしれない。
熱を伴う混乱があった。それがこの国に吹き荒れた時代だった。