第一章(6)
ストンと椅子に座ったフィアナは、ぬるい紅茶を口に含んだものの、予想していなかった渋さに顔をしかめた。
渋みによって頭がすっきりとしたところ、フィアナはもう一度資料に目を通した。
被害者は聖女ラクリーア。朝の段階ではどれが致命傷になっているかがわからないとのこと。頭部切断、それから左手首も切断。さらに、胸部と腹部には複数回刺した跡がある。まるで、恨みでもあったかのように滅多刺しにされていたというのが、現場に駆けつけた者の見解だった。
詳しくは今、その遺体を調べていることだろう。
フィアナがずっと気になっているのは凶器だ。カリノのような少女が、成人女性を殺すためにはどのような凶器を用いるのか。
現場からもその凶器が見つかっていないし、カリノが東分所にやってきたときも、聖女の頭部は持っていたけれど、刃物は手にしていなかったと、そのとき対応したデニスが証言している。
ただカリノは、薪割りに使う斧でラクリーアの首を切断したと、デニスには伝えたようだ。今頃、その凶器が現場のどこからか見つかっているかも知れない。
ここは今日の捜査結果を待つしかないだろう。
ラクリーアは十二歳で神聖力に目覚め、そのときから聖女として活動していたようだ。だから、先の戦争でも聖女として戦地へ送られたにちがいない。
しかし、ラクリーアがいつ大聖堂に入ったのかとか、それまで何をしていたのかとか、そういった情報がまったく開示されていなかった。
これは意図的に大聖堂側が隠しているのか。
次に、カリノの経歴を確認する。
五年前の戦争で両親を亡くし、兄と共に神に仕えるために大聖堂に入る。
(……兄?)
カリノの兄キアロは、聖騎士として聖職者の護衛を務めているようだ。
(妹が巫女で、兄が聖騎士。よくある話ね)
大聖堂だって慈善事業をやっているわけではない。身寄りのない子を引き受けたとしても、その子らが大聖堂側にとって利益になるようにと教育している。
(兄のキアロはどうしているのかしら?)
なぜかそれが気になった。きっと、第一騎士団は兄からも話を聞いていることだろう。
捜査会議は一日に二回。朝、夕と行われる。
たいてい、朝はその日の予定を確認し、夕方は成果物の報告となる。
情報部としての成果物は、カリノから聞き出した話となるのだが、新しい発見などはない。ただ、彼女は自らの罪を認めており、処刑を望んでいる。
それを部長が冷えた声で報告した。
また、遺体を確認した第一騎士団より新しい結果が入る。
左手、頭部は死んでから切断されたもの。めった刺しにされた腹部であるが、内臓の一部が取り出されていたことが判明した。その内臓の一部と左手は、まだ見つかっていない。
ラクリーアの死因は失血死とされているが、どれが致命傷になったのかは不明とのこと。さらに、凶器となるようなものは見つかっていない。
ただ、カリノが頭部切断に使ったと思われる斧は、近くの川底から出てきた。しかし、この斧は他の傷口とは合わない。やはり、切断のためだけに使用されたのだろうという意見でまとまった。
同じく第一騎士団が、関係者から聞いた話を報告する。しかし、まともな情報は聞き出せなかったようで、巫女も聖騎士もなぜカリノが犯行に及んだのか、心当たりがまったくないとのことだった。