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第八章(7)

 ナシオンになら言っても大丈夫だろうか。


「一つは、聖女様が自ら命を絶った。そのうえでアルテール殿下を犯人に仕立てようとした」


 ナシオンはカップを口元まで運ぼうとして、それを途中で止めた。


「そうなれば……カリノちゃんが共犯ってことか?」

「そうなんです。そうだった場合、カリノさんが一人であれをしなければならなくなり……やはり、そこは無理があるのかな、と考えています。それに、カリノさんの話を照らし合わせても、おそらく腹部を刺したことによる失血が直接の死因かと思うのです。聖女様自ら、腹部を刺す……ことはできなくなはいですが……」


 ずずっと、ナシオンが紅茶を飲む。渋さを味わうかのようにしながら、何かを考え込んでいた。


「手っ取り早いのは、手首を切るか?」


 ぼそりとナシオンが呟く。


「左手。見つかっていないだろ? 聖女が自ら手首を切った、その証拠を隠すために左手首が持ち去られた、とかな?」

「そうなれば……真犯人は手首を持ち去った人間……」


 犯人確定のための情報量が少なすぎる。


「だがフィアナ。アルテール殿下の話を信じるということはだ、カリノちゃんが嘘をついてるってことだろ?」


 ナシオンの言うとおりだ。カリノはアルテールに脅され、ラクリーアの首を切断したと証言したのだ。


「カリノさんを操っている人間が、他にもいるのではないでしょうか?」

「……それは、誰だ?」


 むしろそれをフィアナが聞きたい。首を横に振る。

 今までの登場人物で、犯人となりそうな人物はいるのだろうか。


「そういえば……カリノさんのお兄さん、キアロさんの行方はわかったのでしょうか?」


 これ以上、フィアナが知る人物と言えばキアロくらいだ。


「さあな? 情報が入ってこないというのは、見つかっていないからだろ?」


 誰が聖女を殺したのか。聖女の左手はどこへ消えたのか。

 そして、カリノは嘘をついているのか。

 それがさっぱりとわからなかった。


 まずは情報を整理しなければならない。そう思って、報告書を書いていた。


 ――ドーン、ドーン!


 地響きするような激しい爆発音が鳴った。それによって、司令室の窓が共振する。


「なんだ?」


 窓際に駆け寄ったナシオンは、窓を開けて外を確認する。

 夜だというのに、その先には明るく輝く何かがあった。


「フィアナ……火があがってる」

「えっ?」


 フィアナも急いでナシオンの側に駆け寄って、彼の視線の先を確認する。同じように、室内に残っていた人間も、何事だと集まってきた。


「あの建物は……王城じゃないですか! 王城が燃えてる……?」

「おい、大変だ!」


 そう言って司令室に勢いよく入ってきたのは、タミオスだった。彼もまた、大聖堂の件で振り回されている人間の一人だ。


「大聖堂に、火が放たれた。すぐに消火、人命救助に当たる」

「部長。大聖堂ですか? 王城ではなく?」


 ナシオンの声に、タミオスが目を細くする。


「王城……? 火があがってるのか?」


 開け放たれた窓から、燃えあがる炎が見えた。


「王城も? ちょっと待て。大聖堂から火の手があがったと俺は報告を受け、手の空いている者はそっちへ向かうように指示された。まずは、大聖堂に向かってくれ」

「王城はどうするんですか?」


 ナシオンが声を荒らげる。


「とにかく今、他の者も呼び出し、すぐさま救助に当たるように指示を出す。王城には近衛騎士らが控えているから、彼らを信じるしかない」

「ナシオンさん。部長の指示に従いましょう。私たちは大聖堂に……」


 誰もが、タミオスの言葉に従い、大聖堂へ向かおうとしたとき――。

 ドーン! と、近くで爆発音が聞こえ、目の前が真っ暗になった。


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