表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/66

第六章(2)

「根回ししとくから、嬢ちゃんに今後のこと、説明してくれないか?」

「今後のこと、ですか?」


 タミオスのやろうとしていることにピンときた。


「ああ。今日の午後、移送が決まったことはまだ嬢ちゃんの耳には届いていない。お前から、嬢ちゃんに伝えてほしい。それから、王城移送後、刑確定のための裁判が開かれることもだな。今回は事件が事件なだけに、裁判を早める予定のようだ」

「わかりました」


 フィアナからみたら、願ってもない話だ。


「朝会で嬢ちゃんのことが報告される。だから俺のほうから、移送の手続きはお前にやらせるように伝える。それでいいな?」

「はい。ありがとうございます」


 移送前にカリノと話ができる機会があるのは大きい。


 これもタミオスのおかげなのだが、彼も騎士団では上層部に片足を突っ込んでいる人間であるのに、その考えに染められていないところは、やはり情報部という特殊な部門に属しているからかもしれない。


 カリノには何をどこまで、どうやって伝えるべきか。

 アルテールの短剣が見つかったことは言うべきか否か。


 なにしろ、第一騎士団にも報告していない証拠品だ。これは、ここぞというときの切り札にしておきたい。

 たとえそれが、証拠隠蔽だと言われようが。





 タミオスが言ったように、カリノを王城へ移送させるという話は、朝会で報告された。


 それが終われば、この捜査本部も解散となるだろう。カリノの移送が終わった今日の夕方には「解散」の号令がかかるはずだ。


 凶器が見つからない、動機がわからない、聖女の遺体の一部が見つからない。

 そうやってないないづくしであっても、犯人さえ王城へと送ってしまえば、あとは王城にいる彼らが処遇を決める。つまり、騎士団の管轄からは外れるというわけだ。


「では、容疑者移送補佐はフィアナ・フラシス、頼んだぞ」


 総帥に名を呼ばれ、フィアナも「はい」と凛とした声で答える。

 タミオスの根回しにより、フィアナはカリノの移送補佐として指名された。


 それに不満そうなのはナシオンだった。


「今日はフィアナだけだ」


 朝会が終わり、それぞれが持ち場へ戻ろうとしたとき、そんなナシオンの肩をタミオスがポンと叩いた。


「いやいや。二人一組が基本ですよね?」

「それは捜査のときな? 今日は取り調べで嬢ちゃんのところにいくわけではないからな?」

「ナシオンさんも、ずいぶんとカリノさんのことが気に入ったようですね」


 とにかくナシオンはぶうぶうと文句を垂れていた。そんなに彼もカリノと話をしたかったのだろうか。


 自席に戻り、今回の事件のあらましをまとめた報告書に最初から目をとおす。

 カリノが聖女ラクリーアの頭部を持って東分所を訪れたのは、六日前。そのときから、聖女を殺したのは自分自身だと言っていた。


 そのわりには凶器についても証言しないし、ラクリーアの身体を刻んだ理由も言わない。


 殺したかったから。そうしたかったから。

 そういった表向きの言葉を並び立てるだけ。


 だけどそれが、アルテールをかばっての言動だったら?

 そして彼女が、アルテールに脅されているとしたら?


 十分に考えられる。


 それにナシオンも言っていたように、大聖堂にいる巫女や聖騎士見習いは後ろ盾のない弱い人間だ。その彼らを人質のように扱われたら、幼いカリノは逆らえないだろう。


 もしかして、キアロが姿を消したのはアルテールに囚われているから、とか。


 できれば、その辺の話をカリノから聞いてみたい。

 ナシオンもいないだろうし、見張りも外にいるだろうから、こっそりと聞けば答えてくれるだろうか。


 そんなことを考えながら、いつもの取り調べ室へと足を向けた。


「こんにちは、騎士様」

「こんにちは、カリノさん」

「今日は、騎士様、おひとりなんですか? いつもの方はどうされたのですか? クビになったのですか?」


 カリノはナシオンをきちんと認識していたようだ。


「はい。今日は私、一人です。彼とも話をしたかったのでしょうか?」


 カリノは黙って首を横に振る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ