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第五章(4)

 目的のものを探し終えた二人は、川辺へと戻り、大きな石の上に並んで腰をおろす。目の前の川は、太陽の光を反射させながら、ちろちろと穏やかに流れていた。


 二人の間にはバスケットがあるものの、並んでいるサンドイッチの数はだいぶ減っていた。


「だから、デート日和だって言っただろ?」


 ナシオンの手の中には、鶏肉を挟んだサンドイッチがある。


「そうですね」


 返事をしたフィアナは、ハムとチーズのサンドイッチをパクリと食べた。


「ナシオンさんって。紅茶を淹れるのはへたくそですけど、料理はまともなんですね」


 フィアナがそろそろ「お腹が空いたから帰りましょう」と言い出したところ、ナシオンが背負っていた荷物からいきなりバスケットを取り出したのだ。 

 そしてこうやって二人でサンドイッチを食べているわけだが。


「惚れ直した?」

「惚れ直すも何も。最初から惚れておりませんので」


 むすっと最後の一口を口の中に押し込めたフィアナは、両手を合わせて「ごちそうさま」と言う。


「休暇らしいことをしておこうという俺の心遣いだっつうの。休暇中に、二人で証拠を探してましたっていうよりは、デートをしてましたのほうがいいだろ?」

「そうですね。そのほうが偽装にはなりますね。ですが、何も殺人現場でデートなんてしなくても……」

「大丈夫だ。聖女が殺された事実は公表されていない。ここで殺人事件が起こっただなんて誰も知らない」


 このような場所に足を運ぶ者もいないのだろう。騎士団がうろうろしていても、気にならないくらいに。

 それがいいのか悪いのかわからないが、結局、まともな目撃証言だって得られなかったのだ。


「今日で五日目ですよね。カリノさんが自首してきてから」

「そうなるか? てことは折り返しか?」


 騎士団で預かるのは十日が限度。あとは王城へと移送される。


「だが、あの子の場合は十日も待たずして移送されそうだな。あいつらも相当焦っているようだからな」


 犯人が明らかなのになぜすぐに裁判をしないんだ、という意見も騎士団内部ではちらほらとあがってきているらしい。さらに、その意見に国王も同意し始めてるというのであれば、何かしらの意図があるのだろうとやはり勘ぐってしまうのだが。


「裁判になったら、私たちが証言できるように根回しをしましょう」

「根回し? 誰に?」

「カリノさんは大聖堂側の人間です。温情を訴えるのであれば、大聖堂の人間が出てきますよね」


 この国の司法権は貴族が持っている。立法権は国王のみで、行政権は貴族と国王。


 大聖堂はそれらとは独立した組織であるため、国の法律によって裁かれる者に対して手出しはできない。しかし、その対象が大聖堂側の人間であれば、司法の場で証言をすることは可能だ。


「フィアナ……もしかして……」


 フィアナはバスケットをのぞきこむと、残っていたサンドイッチに手を伸ばす。先ほど「ごちそうさま」と言ったことなどおかまいなしだ。


「最後の一つ、いただきますね」


 最後のサンドイッチはハムとチーズだった。





 フィアナが聖騎士のイアンに会いに行くと言うと、ナシオンもついてくると言葉にする。


 もしかして彼は、フィアナの保護者気取りなのだろうかと、そんなふうに考えてしまう。


 数日の間に何度も大盛堂を訪れれば、門番もなんとなく察するところがあるようで「この時間でしたら、イアン様は執務室におります」とのこと。


 聖騎士の中でも上位に属する彼は、そうやって執務用の部屋を与えられているようだ。


 門番が呼んだ巫女に案内され、執務室へと向かった。

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