第三章(6)
「イアンさんは、あの巫女が本当に聖女様を殺したとお考えですか? むしろ、大聖堂側はそれを受け入れているのですか?」
「個人的な意見を口にして、あなたたちの捜査を攪乱させるのは申し訳ないですね。ですが、我々は大聖堂の人間です。こちらの人間を守るのが我々の役目でもあります」
つまり、カリノは犯人だと思っていない。むしろ――。
「アルテール殿下は、よく大聖堂を訪れたのですか? 聖女様に会いに」
「よく、という定義が曖昧なのですが。過去に、五回ほど聖女様に会いにこられました。最初の一回は事前に連絡があったのですが、あとは、こう、突然やってきて……。きっと、二回目の連絡があったときに、聖女様がお断りされたのが原因かと思います」
「逆に、聖女様が王城を訪れることはありましたか? そのアルテール殿下と会うために」
「そうですね。正確な回数までは覚えておりませんが、アルテール殿下がこちらに来られると、他の者に迷惑がかかるからと、最後のほうは聖女様が王城へ足を運んでおりました。それがアルテール殿下がこちらに来られた五回目以降の話です」
「そのときの護衛には誰がつきましたか?」
フィアナはイアンから目を逸らさない。まっすぐに見つめ、その答えを待つ。
「私ですね。他にも四人ほど」
「その他の四人のなかに、カリノさんのお兄さん、キアロさんはおりましたか?」
「だから、私はあなたに興味があるのですよ」
イアンはゆっくりと口角をあげた。
ひととおりイアンから話を聞いたフィアナは、大聖堂を後にする。
やはり王太子アルテールは聖女に求婚していた。しかし、聖女ラクリーアはそれを拒んでいた。だからアルテールはラクリーアを我がものにするために、という動機は十分に考えられるし、単純である。
その日の夕方の報告会議では、第一騎士団からもめぼしい情報はあがってこなかった。聖女が殺されたと思われる場所の周辺に住む者たちから話を聞いたようだが、あの場所から人が住んでいる場所まではずいぶんと距離がある。気晴らしに散歩で訪れる者はいるかもしれないが、わざわざ何か目的をもってあの場に足を運ぶ者はいないだろう。まして、時間も時間だ。
物音は聞こえなかった――
怪しい明かりも見えなかった――
何かあったんですか――?
と、返ってくる言葉はそればかり。
聖女ラクリーアが亡くなったという情報は公表されていない。それが大聖堂側からの指示だからだ。次の聖女が決まるまでは伏せてほしいとのことだった。だから彼らは、聖女ラクリーアが死んだことを知らない。
第一騎士団が初日から現場周辺の足跡も確認したものの、川辺ということもあって岩場も多く、それらしい足跡は見つからなかった。血に濡れたカリノの足跡くらいだろう。
情報部からは、タミオスが、王太子アルテールから話を聞くことにしたと報告をする。そうなった経緯を伝えるためには、アルテールが聖女に求婚した話についても報告せねばならない。
タミオスが包み隠さず報告すると、一同にざわりと動揺が走った。
 




