第三章(2)
「でしたら、凶器のありかを教えてください。凶器をどこに隠したのですか?」
「川底から出てきたのでしょう? いつも薪割りに使っていた斧です」
フィアナは黙って首を横に振る。
「あれは、聖女様の首を切断するために使ったのですよね?」
カリノはうすら笑いを浮かべたままだ。
「凶器、ランプ、聖女様の左手。今のところ、これが見つかっておりません」
「やっぱり、騎士様とお話できてよかったです。昨日の人はとにかく怒鳴りつけるばかりで。だからもう、何も言わないって、ふんってしました」
カリノは独特な子どもだと思う。子どもでありながら子どもでないような、大人と子どもの狭間にいるような、そんな子だ。
いつも力ずくで証言を得ているような彼らだからこそ、カリノとまともに話ができなかったのだろう。
「凶器もランプも聖女様の左手も。わたしは持っていませんよ? 大聖堂のわたしの部屋を探してもらってもかまいません。隠すような場所もありませんし」
「もしかして、あなたのお兄様、キアロさんが持っているのですか?」
カリノのこめかみがひくりと反応した。
「どうでしょう? 兄は東の街、ドランの聖堂に派遣されておりますから。大聖堂を離れたあの日から、会っておりません」
「ですが、キアロさんはドランの聖堂にはいらっしゃらないようです。ドランの聖騎士たちも、キアロさんが派遣される話は聞いていないと」
カリノが「まぁ」と口を開く様子は、どことなくわざとらしさを感じた。
「でしたらきっと、大聖堂からの通知がドランの聖堂に届いていなかったのではないでしょうか?」
「通知?」
「はい。兄が言っておりました。大聖堂から地方の聖堂に派遣されるときは、通知を送るそうです。ですが、たまにその通知が事故にあって届かないこともあるそうです」
「つまり、郵便事故があったと?」
郵便事故。不測の事態によって、手紙や書類が届かなかったりなくなったりしてしまうことをそう呼んでいる。
「その可能性も否定できないのではないでしょうか? まあ、可能性の話ですけども」
カリノの言うことも一理あるだろう。これは教皇、もしくは枢機卿あたりに話を聞いておきたい内容だ。
「カリノさんのおっしゃるとおりですね。その件については、こちらできちんと調べておきます」
彼女に負けまいと、フィアナもにっこりと微笑んだ。
「あ」とそこでカリノが小さく声をあげる。そんな些細な仕草からは、幼さが見えた。
「つまり、兄は行方不明だと?」
かすかにふるえる唇は、兄を案じてのことなのだろう。
「申し訳ありませんが、そうなります。騎士団ではキアロさんの行方を把握してりません。ですが、全力をあげて探しておりますので」
心配するなとも、必ず見つけ出しますとも、その続きの言葉は言わない。
探した結果、どうなるかだなんてわからないからだ。
「やはり、キアロさんからも話しを聞かなければなりません。カリノさんが聖女様を殺した犯人だと、どうしても思えませんので」
その言葉にカリノの表情が曇る。
「まさか、兄が聖女様を殺したと?」
「そのようなことは言っておりません。ですが、カリノさんに近しい者から話を聞くのは基本ですから。それに、キアロさんは聖女様と仲がよかったとお聞きしております」
カリノの表情が今までよりも険しくなった。
「誰がそのようなことを言ったのですか?」
後方にいるナシオンがカタリと身体を動かした。もっと話を聞けと、そう訴えている。