第三章(1)
今日は朝からぽつぽつと雨が降っていた。東の空は灰色に覆われていて、どこかもの悲しく見える。
こんな雨の中、関係者から話を聞いたり、現場を捜査したりする担当の騎士はかわいそうだなぁ。なんて、そんなことを考えていた。
フィアナはカリノから話を聞く必要があるのだが、同じ本部内の建物にいるから、雨の中、移動する手間が省けた。もちろん、ナシオンも一緒だ。
「こんにちは、カリノさん。昨夜はゆっくりとお休みになれましたか?」
「こんにちは、騎士様」
二日前に顔を合わせたときと、カリノの様子になんらかわりはなかった。
「昨日は、他の騎士とお話をしたのですか?」
「いいえ。あの人たちは偉そうな態度だったから、お話をするのも嫌でした。」
フィアナの代わりにカリノから話を聞き出そうとしたのは、もちろん情報部の人間だ。彼らはどのような手段を用いても、情報を仕入れるのが仕事であるため、時と場合に応じて態度を使い分けるはずだが、いつものように高圧的な態度をとって、カリノに警戒心を抱かせたにちがいない。
「そうでしたか。失礼しました。彼らに代わって謝罪いたします」
「だから初日にお話をした、女の騎士様にしてくださいってお願いしました。今日は来てくださってありがとうございます。後ろの騎士様も」
カリノがひょこっと身を乗り出して、ナシオンに声をかけた。ナシオンは少しだけ頭を下げる。
「騎士様。昨日は大聖堂に行っていたのですか?」
誰がそのような情報を流したのだろうか。つい、フィアナは眉間に力を込めてしまった。
「そのような顔をしないでください。昨日、女性の騎士様とお話をさせてくださいと言ったら、大聖堂に行っているからいないと言われたので」
よほどカリノに手を焼いたのだろう。不在であるのを伝えるのは問題ないが、具体的にどこへ言っていると伝えるのは褒められたものではない。
だが、彼女に大聖堂で話を聞いてきた事実を知られているのなら、こちらも腹をくくっていいだろう。
「はい。昨日は大聖堂へ行き、巫女たちからお話を聞いてきました」
カリノはニコニコと笑みを浮かべたまま、表情はかわらない。
「みんな、元気でしたか?」
「はい。カリノさんのことを心配されておりましたよ。早く、戻ってきてほしいと」
その言葉にカリノは首をゆっくりと横に振る。
「ですが、わたしはあそこには戻れませんよね?」
「いいえ、戻れる可能性はゼロではありません。まだ、カリノさんが聖女様を殺したと決まったわけではありませんから」
するとカリノは驚いたかのように、青い目をぐりぐりと大きく広げた。
「まだ犯人がわたしではないと、そう思っているのですか?」
「はい」
フィアナは力強く頷く。
「そもそも聖女様を殺した凶器が見つかっておりません」
「川底から、斧が見つかったのではないですか? 昨日の方はそう言って、わたしを脅したのですが」
「脅した?」
「はい。凶器が見つかった。どうやって殺したんだ。なんで殺したんだ。黙っていたら、そのまま断頭台に送るぞって」
フィアナは眉間に深くしわを刻んだ。場合によってはそういった話し方も必要だが、まして相手は十三歳の子どもだ。
「ですから、さっさと断頭台に送ってくださいと言ったのですが、逆にその言葉に怒ってしまったようで。今にもわたしを殴りたそうにしていたのですが、ほかの騎士様にとめられていました」
そこでカリノは、ふふっと笑みをこぼした。
「カリノさん。あなたは本当に聖女様を殺害したのですか?」
「ですから、ずっとそう言っていますよね?」