第二章(3)
「聖女ラクリーア様について教えていただいてもよろしいですか?」
「はい。ラクリーア様の何が聞きたいのですか?」
「神聖力とは、いったいどのような力なのでしょう?」
神聖力と呼ばれる魔石のような力が使えるのであれば、殺される前に反撃ができたのではないかと、フィアナは考えていた。
「神聖力……聖女様が使える力です。私たちは湯を沸かしたり火を起こしたりするのに魔道具を使いますが、聖女様には魔道具が不要です。むしろ。聖女様の力を再現したものが魔道具であると、そう枢機卿が言っておりました」
聖女の力が魔道具になる。それはフィアナも知らなかった事実。何気なく使っていた魔道具にそんな謎が隠されていたとは。
「では、魔道具でできることは、聖女様は神聖力でできることだと?」
「そうです。そういえば次は……遠く離れた人とすぐに言葉のやりとりができるような、そんな魔道具を作りたいと枢機卿は言っておりました」
遠く離れて居る人と言葉のやりとりができる。
そんな魔道具があれば便利になるだろう。今はまだ、手紙を送ったり、急ぎであれば伝書鳩を使ったり。
「では、聖女様は、遠く離れた人と言葉のやりとりができるのですね?」
「はい、そうだと思います。詳しくはわかりませんが……」
彼女は実際の方法などは知らないにちがいない。
フィアナは話題を変える。
「聖女様がお亡くなりになられて、大聖堂は混乱しているのではありませんか?」
「はい。ですが、人とは必ず死ぬ生き物です。それが聖女様であっても同じです。聖女様も元は同じ人間ですから」
「次の聖女様は決まっているのですか? 神聖力を持っている巫女はいるのでしょうか?」
「それは、よくわかりません。神聖力は、だいたい十四歳前後までには現れるようです。残念ながら、私には神聖力がありませんでした……」
名簿を見て、フィアナは目の前の少女が十四歳であることに気づいた。
「いろいろとお話を聞かせてくださって、ありがとうございます」
メッサからは十分に話を聞き出せた。
その次も、カリノと同年代の巫女から話を聞いた。ちょうどこの年代の巫女たちは、例の神聖力が出現するかしないか、微妙な年頃らしい。
聞いたところ、この子も神聖力は目覚めなかったとのこと。これからも巫女としてファデル神の教えに従い、大聖堂に尽くすと決めたようだった。
フィアナは名簿を見ながら、話を聞いた人物を確認していく。
集められた巫女のなかでも、十八歳から二十歳くらいの人数が少ない。存在はしているものの、ほかの作業に従事しているのだろう。
他の巫女に確認してみると、彼女たちは別の奉仕作業があるから不在なのだと言った。
神聖力はだいたい十四歳くらいまでに出現するが、その次は十八歳のときに神託がおり、一部の巫女はファデル神に選ばれるらしい。そうなると、他の作業を与えられるのだとか。
そのような巫女を、大聖堂では上巫女と呼んでいるようだ。そして巫女でありながら、聖女と共に聖職者に分類されるらしい。
これは、大聖堂の中だけで通じる言葉や規則とのこと。もちろんフィアナは、そういった話を聞いたことがない。
チラリと顔をあげてナシオンに目で訴えると、彼も首を横に振ったから、彼も知らなかったのだろう。
五番目に話を聞いたとある巫女は、十九歳になってもファデル神に認められなかったため、これからも掃除、洗濯、料理など、聖職者たちのためにやっていかねばならないなぁ、なんて、寂しそうにぼやいていた。そう言った彼女は、年相応の女性に見えた。
「巫女として大聖堂に入ると、結婚などはできないのでしょうか?」
「いえ、できますよ。ですが、相手も聖騎士など、大聖堂と縁ある人になりますし、聖女や上巫女となると話は別です」
「結婚したら、巫女や聖騎士を辞めなければならないのですよね?」