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大魔王ザガーンを筆頭に地球へ数万の悪魔が襲来する。
大魔王の力で統率された悪魔たちは上陸から1週間で地球の人口を2分の1まで減少させる。
ザガーンの目的は地球の支配。
大きな軍隊を持つ主要国以外を蹂躙し、地球侵攻も大詰めというところで一人の勇者が地球へ召喚される。
光より早く地を駆け、太陽より激しい一閃で魔王軍を1日で壊滅させる。
ザガーンとの決戦は1週間にも渡る。
その戦闘の激しさは見守る人々も爆風と轟音と閃光で1週間寝られなかったと伝承が残っている。
遂ににザガーンを倒す勇者。
人々の歓声は海を越え山を越え世界中で勇者を祭り称える。
全人類が信仰の対象に掲げようと盛り上がりを見せている中、勇者は元の世界へ還っていった・・・。
「これが100年前の『始まりの厄災』です」。
必修科目、基礎勇者学。
物心もついていないときから親に絵本で読んでもらった内容だし、小学校でも中学校でも高校でも繰り返し聞かされているから明日やれと言われたとしても学芸会で主役をやれる。
「その半年後ザガーンの息子による『二度目の厄災』、その一か月後には始まりの厄災で生き残っていた悪魔たちによる『復讐の厄災』が起こります」。
「地球を脅かす敵のことを悪魔、地球の危機に異世界より召喚される者のことを勇者と昔の人々は呼んでいました」。
「さて、初めて勇者が召喚されてから昨日『Bloody Parade 3rd』が起こるまで何人の勇者が召喚されていますか?今日は学籍番号1461314の学生、答えてください」。
教室の後ろに教室中の視線が集まる。
「ちょーど10000人でーーーす」
「正解です、講義中スマホは出さないように」
くすくすと笑いが広がるが暫くして教授は話を続ける。
「悪魔がいるから勇者が現れるのか、勇者が召喚されるから悪魔が人類を滅ぼそうとするのかそれは10000回繰り返されていますがまだ解明されていません」。
初めて勇者が召喚されてから単純に3.65日に1人は召喚されている計算だ。
「勇者は悪魔を倒すことで元の世界へ還ることができますが今日現在日本にいる勇者は約300人。世界では約4000人いると言われています」。
「数多の異世界召喚で勇者の力も悪魔の力も始まりの厄災の時と比べあまりにも弱くなっています。最初と同じだけの被害が1週間に2回ペースで起こっていてはいま私たちはここで学べていないでしょう」。
「これは私の持論ですが勇者が元の世界へ還るためのエネルギー的な何かが今の悪魔を倒すだけでは足りないのではないかと思います」。
勝手に召喚されて地球を救うことを強制される勇者が還れないのは些か悲しいことだとは思う。
それに・・・
「過去は信仰の対象であった異世界召喚される勇者も今では日常の一部、皆さんもニュースのタイトルだけ読んでおしまいじゃないでしょうか?人類滅亡の危機を考えて眠れない人はいないでしょう」。
生まれてから今日まで当たり前の事過ぎてこの教室にいる誰も悪魔が来たとしても恐怖も感じないだろう。
「現代に生きる人々は勇者慣れ、異世界召喚慣れしているのです」。
意図したタイミングか2限終了のチャイムが鳴る。