第3話「銭湯へ行こう!」
3匹はそれぞれ着替えた。
ギンジとコタローはアロハシャツに短パン。
リンゴはサマードレス。
しかし、リンゴはこう言った
「どう? このムームー。アッパッパでもいいや」
ギンジはウヘェ~という顔をして
「サマードレスと言って下さい」と言い、リンゴを上から下までジロジロ見て
「アナタ、お風呂の用意どうしたんです?」
と聞いた。
「エッ? 持ってるジャン、ホレ」
と言って、手ぬぐいでグルグルにくるんだ石けん箱を見せた。
「それだけ?」
「そうだよー。他、いらないじゃん」
「まあ、いいですけどね。ゴワゴワになっても知りませんよ」
ギンジは歩き出した。
ギンジはコタローと男湯に入るが、用意はバッチリだ。バスタオル、フェイスタオル、ボディタオル。シャンプーハット。爪用ブラシ、ボディ用ブラシ。フェイス用ソープ、ボディソープ、シャンプー、トリートメント。お風呂上がりのローション、フェイス用、ボディ用。
そして、もちろん着替え、脱いだ下着類を入れるビニール袋、濡れたタオルを入れる袋。さらにティッシュ。きっちり3人分の風呂銭。
そして、ジュース代用のお金、帰りにもしかしたら何か買うかもしれないお金……こんな調子である。
銭湯は歩いてすぐの所にある。
昔からある銭湯で『松竹梅』というめでたい名前の所である。
おじいちゃん、おばあちゃんがやっている。
今日の番台はおばあちゃんだった。
「おばあちゃん、来たよ~♡」
リンゴは自分の家の様に入って行く。
ペッタンコサンダルを下足入れに入れ、札を取り、ニッコニコしている。
ギンジも下足を入れ、札を取ってコタローを見ると、下足を入れようとかがんで前のめりにコケて、おでこを下足入れにぶつけている。
やっと下足を入れたが、札を取るタイミングと扉を閉めるタイミングがずれて、閉まらず、パタパタ何度やっても開いてしまう。
ギンジがコタローの踏むとキュッキュ鳴るサンダルを収め、札を自分のと2枚取った。
「おばあちゃん、3人で来ました。3人分です」
と言って、お金を払う。
「あぁ、リンゴちゃん、ギンジくん、コタローくん、お揃いで嬉しいねー。ゆっくり入ってってねー。お風呂のね、絵もちょっと新しくしたんだよ。夏らしくさ」
と言って、おばあちゃんは喜んでくれた。
「ワァ~、みたい♡みたい♡」
コタローはワクワクした。
「それは今日、良い日に来ました。お風呂に入りながらゆっくり拝見しますね」
ギンジは丁寧に言う。
「ヘェ~~、絵なんてあったっけ? アタシ、いつも潜ったり、泳いでたからなぁ」
リンゴはカラカラ笑っている。
「やめて下さい! 行儀悪い」
ギンジはたしなめた。
「じゃ、行くね」
リンゴはさっさと女湯に入っていった。
「僕達も行きましょ」
ギンジはコタローと男湯へ入っていった。
リンゴはパッパとドレスを脱ぎ、カゴに入れると、勢い良く風呂場へ入っていった。
湯気が立ち、正面には熱めの風呂とぬるめの風呂が2つある。大きな風呂はぬるめの風呂である。
壁面には大きな富士の絵がある。
「あ~コレかぁ」
リンゴは初めて絵を見た。
「デッカイ富士山だ~」
リンゴは周りの顔なじみのおばさんやおばあちゃん、子供達に「よっ。こんにちわぁ」と挨拶して、風呂正面のシャワー席を桶とイスを持って、陣取った。
パパァッと湯を頭から被ると、風呂へ飛び込んだ。バシャァ!!
悠々と今日は富士山を見ながら泳いだ。
「絶景! 絶景!」
ギンジは服をきちんと畳み、ビニールバックに入れ、ロッカーに収め、必要な道具を持ち、ロッカーキーを手首にはめ、コタローと風呂場へ入った。
桶とイスを持って上側のシャワー席にコタローと座る。席を決めると、シャワーで鏡と前の台を洗い流し、床も残った石けんなどで滑らない様、よく洗い流し、桶もイスも洗って、準備万端になった。
もちろん、コタローにもそうさせた。コタローはギンジより一つ前の席なので、汚い物が流れて来ると嫌だからだ。
用意が整うと、湯をちょうど良い温度になるよう調整して桶に汲み、コタローと自分によくかけた。
もちろん、足元から順に慣らしていった。
(さあ、湯船に浸かるぞ)
水を出し、自分達に良い温度にすると、そこの部分をめがけて少しずつ湯をすくい、身体に馴染ませてから、コタローとちんまり入った。
「フ~、いーですね。ホッとする」
ギンジは絵を眺めた。
美しい富士がそびえ、花火が上がっている。
周りに湖があり、舟遊びの人々が見える。
やはり、夏の風景である。
美しく描かれている。
「今、こういうの描く人も少なくなったんですよねー」
しみじみギンジは見入っている。
コタローは
「お舟いーねー。楽しそう。女の子が手ひたしてる~。冷たいかなー? 花火いっぱいあがってるねー」
などと言って、喜んで見ている。
絵の周りには○○質店や××眼鏡、○○パンなど、寄付した店の宣伝も入っている。それを見るのもちょっと楽しいものだ。
ゆったり風呂に浸かった後、少し冷たい位のぬる~いお湯をコタローに手ぬぐいで浸して、少し身体を冷やしてやり
「のぼせないですか?」
とギンジは気を配った。
「大丈夫だよ」
とコタローが言うので、2人は洗い始めた。
と、隣の女湯で
「ヒャッホ~!」「イエ~イ!」
とリンゴの声がする。
男湯と女湯は高いタイルで仕切られているだけなので、音は筒抜けだ。
リンゴは石けんを足で踏んで、石けんスケートでスベっていた。
床は石けんだらけになり、スベりまくり、かなり危ない。
「リンゴさん! 何やってんですか? フザケちゃダメですよ。やめて下さい」
ギンジが叫んだ。
「あ~っギンジ~。だってさ~、ギンジまだ入ってんでしょ。さっき見に行ったんだ。アタシ洗い終わっちゃったモン」
リンゴはエヘラエヘラ笑っている。
「えっ? えっ? 男湯来たんですか!? タブーですよ! それから、まさか石けんスケートやってませんよね。それ、皆さんに危険ですから、すぐさま止めなさい」
ギンジは少し調子がおかしくなり
「リンゴに告ぐ! リンゴに告ぐ! すぐさま足の石けんを外し、周りを速やかに洗い流せ!」
と叫んだ。
リンゴは「チェ~ッ」と言いながらも、桶で湯を汲み、ザバザバと洗い流している。
「フ~ッ」ギンジは一息ついて、コタローを手伝いながら自分もキレイに洗った。と、ガシャ~ンとまた大きな音が!
「エッ? 今度は何やってんです?」
リンゴは
「桶ボーリング。楽しいよ」
とまたエヘラエヘラ笑っている。
ギンジは頭に来た
「リンゴに告ぐ! リンゴに告ぐ! ただちに出て、大人しく女湯で待て!」
「もーうるさいなー!ギンジイ! いっこ、いっこ洗ってんじゃないヨネー。遅いんだもん。早くジュース飲もーよー」
「一つ一つ洗うのが当たり前でしょ。アナタどうやってるんです?」
「エ~だってさ、石けんワ~って付けたら、シャワーちょっとつけて、上下に縮んでさ、桶でお湯被って終わりじやん」
「オヤジ! オヤジだそれじゃ! ゴワゴワですよ」
「とにかくさー、早く出てー。ジュース! ジュース!」
リンゴはわめいている。
「もう、分かりましたよ。チョー急いでます」
ギンジはコタローの背中や頭を洗ってやり、自分に取り掛かった。シャンプー、トリートメント、フェイス、ボディ、一つ一つ丁寧に洗っていく。
暇なコタローは、石けん箱に手ぬぐいを被せて石けんをヌリヌリし、水で湿らせて吹いた。ブクブク沢山の泡が出て来て楽しい。この泡で雪だるまを作ってお湯に浮かべたりして、遊んでいる。
ギンジはフワフワ、キュッキュッキュッ。
コタローはヌリヌリ、ブクブク。
ギンジは洗い終わり、リンゴに声をかけた。
「もう出ますよー。リンゴさんはそちらで好きなの飲んで下さい。僕が後でまとめて払いますから」
「ヤッター。ワーイ」
ガラガラ……リンゴはさっさと風呂から出たようだ。