第1話「夏の日の思いつき」
ここに3匹のネコがいる。3匹そろってポチャついている。
2匹は三毛猫。頭脳明晰で、ちょっと皮肉屋のギンジくん。天然で、天から与えられたラッキーボーイ、おっとり型のコタローくん。
そして、そのパワー無限大で、型破りというか型が外れたメス猫、リンゴちゃん。
リンゴちゃんは白猫でオッドアイ。普通ならオシャレネコにでもなりそうだが、その性格からプチ恐竜っぽい感じである。
「フ~、ヒマだね。ギンジ…… 何か、こう、モンスターでも襲って来ないかね。アタシがギッタギタにしてやるのに……」
リンゴは暑さにクーラービンビンにかけ、扇風機をゴーゴー言わせながら、ジュースを飲んで、ダラダラしている。世の中の“反”節電モンスターである。
「ハッ? 何言ってんですか! 平和が一番ですよ。この暑いのに外出たら死にますね。地熱も高いし、僕達の背丈じゃイチコロです。モンスターやる前にコッチがやられます」
ギンジはクーラーの温度をさらに下げた。
ポチャポチャ、モフモフの彼等には暑さこそ大敵である。
「ジューチュ、おいちい」
頭に冷えピタを張り、ジュースにイチゴを乗せて、満足げにストローでチューチューしているのは、コタローである。
「何か、言ってる事分かんないけどさ…… こう、やっつけたらスカッとするじゃん。ゴチャゴチャ小難しいこと言ってるの、“ブルー何とか”ってやつの緑郎じゃないのギンジは!」
リンゴはもっとダラダラしながらゴロゴロ転がっている。
「は? “ブループロテージュ”でしょ。えぇ、僕は緑郎さんでいいですよ。なら、あなたはハチャメチャオオカミの女の子版、梨央ですか? あなたがウルフだったら全員食い殺されてますね」
「じゃさ、コタローは何なの?」
リンゴは仰向けでズリズリずって来て、ギンジを見上げた。しばらく黙っていたが、ギンジは
「ボケボケまろ太くんです」と言った。
リンゴはガバッと起き上がって
「それだ!それ! アタシら世界を救うぞ! みんな白いから“ホワイトプロテージュ”でいこうよ!」と叫んだ。
ギンジはウヘェ~という顔をして
「暑さでおかしくなったんですか? そういうモンスターはいませんよ。世の中、別の色々な問題が沢山あるんですよ……何かの見過ぎですよねー。まったく」 と言って、取り合わない。
しかしその後、何とこれが、そう夢物語ではなくなる日がやって来た。
テレビニュースが騒いでいる。
「な、何でしょうか? これは……? どこかの国のテロ兵器でしょうか……見た目はまるきりモンスターです。ジュラ紀に戻った様です……」
人々が叫び声を上げ、逃げ惑っている。
モンスターが雄叫びを上げ、襲いかかっている。
背丈は12メートル程。全体にゴツゴツした硬い分厚い皮膚。ティラノサウルスの凶悪バージョンの様だ。
建物を壊し、車を蹴飛ばし、自由奔放に暴れ回っている。
そして、しばらくすると、東京湾の方へ戻って行った……。悪夢の様だ。
ギンジはポカンとした。
(本当になっちゃった……)
リンゴはやる気満々だ。
「キターキターキター!!」
吠えている。
コタローは食べかけのビスケットを、食べるのも忘れてポロポロこぼしている。
「行くぞ!ギンジ! ヒーローらしくコスプレしよ!武器も作ってさ」
リンゴはもうギンギンだ!
ギンジは一度立って、リンゴから離れ、頭を整理した。
(僕達はヒーローじゃない……このまま自衛隊にでも任せるのが本来の姿だ……しかし、こんなの普通の事態じゃない。誰も対処法なんて知らない……こんなモンスターが暴れてたら、電気は止まり、水も止まり、ガスは途切れ、つまり、生活は破綻する。その前に、電気が止まったら僕はイチコロだ。相手がモンスターなら、こっちも“リンゴモンスター”をぶつけてみるか。戦法は僕が考えよう。兵器は僕が作り、相手の状況も探ってみよう……コタローくんの天性のラッキーもあるし……)
落ち着いた顔をしてギンジは戻って来た。
リンゴはチョップや回し蹴りをして、ギンジを待っていた。
「あっ! トイレ長かったね!」
「誰がトイレですか! 戦う以上、絶対に勝ちますよ」
「オウ!」リンゴは力こぶを出した。
コタローは大声にビックリしたが、ゲンコを上げた。
「ワーイ」