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女力士への道  作者: hidekazu
蟠りの中で

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一人の女性として一人の女として ③

 光の隣で寝息を立てながら真奈美は本当に安心しきったような表情で熟睡してしまっている。本当に久しぶりに体を合わせて営みをと想っていたのに二人でベットに入りしばらくしたらもう真奈美は寝てしまっていた。


 瞳からはここ最近の真奈美の状況は聞いていた。部全体を含めての映見との関係・女子大相撲・瞳・朋美・真奈美自身・そして自分との関係・・・多分に心の休まる瞬間はなかったのかもしれない。光は真奈美の寝顔に掛かっている髪は人差し指でなぞるように払いのけてあげる。若い頃の肌からすれば張りもなくなったししわも増えている。年相応と云えばそれまでだが・・・。


 光は寝室からリビングへ壁に掛けてある時計の針は0時を回っていた。キッチンから炭酸水の入った250㎖缶を開けソファーに座る。


(緊張してるのは真奈美じゃなくて俺かよ)と苦笑いしながら


テーブルにあるスマホが震える。ベルギーにいる元部下から今は執行役員の一人として光の設立した会社を引き継ぎ飛躍的に業績をあげている。


「すいませんちょっと連絡するのが遅くなりまして」

「いや俺は君達の会社から恵んでもらってる立場だから」

「よく云いますよ本当に・・・。紹介いただいたシュトロナヤと制御モジュールの件で大筋合意できました本当に感謝します。第一線を退いても濱田の神通力は凄いなぁーと云うのが正直な感想です」

「俺の人脈は今の自分には持っていても何の役にも立たないし俺で役に立てるならいつでも」

「いい加減社外取締役なんってやめて現場に戻ってきてください。光さんが戻ってきてくれたらもっと」

「俺は産みぱっなしでほっぽり投げた。それを育て成長させたのはお前達なんだから生みの親より育ての親の方が大変だ。ここで生みの親が何か云い出したらおかしくなる」

「まだそんな事」

「前々の妻と再婚するつもりだしねぇ」

「前々の?って真奈美さんですか?」

「そんなことになると思うので」

「そうですか・・・真奈美さんは優秀だったし陰で相当努力されていたのに何でとは思いましたよ。離婚した時は、濱田さんがもう少し引いてくれれば別れる事なんか・・・」

「霧島に説教される立場か・・・俺も終わったな」


「いやすいませんそんなつもりでは」


「いいよ事実なんだから。それから前ちょろっと云っていた福井のコネクタ製造会社の役員の話受け入れようと思っている。外国企業の話もあったけど今更海外生活もしたくないし・・・先方から何度も打診受けてそこまでならと受けることにした。しばらくは福井と名古屋と東京を行ったり来たりって感じだろうけど」


「そうですか個人的にはちょっと残念ですけど・・・」


「多分、設計・製造関連でお願いすることがあると思うがその時はお手柔らかに頼むよ」


「わかりました」


「じゃまた近いうちに東京で」


「それじゃ」


 光は電話を切る。(うんLINE・・・瞳 )


「監督来てるんですねぇ。喧嘩しないでくださいねぇ」 0時37分


 時刻は0時45分


「もう監督はとうの昔に寝てしまったよ喧嘩すらもさせてはくれなかったよ」とメッセージを送る


(気になるかそんなに俺と監督の関係・・・そもそもは瞳が嗾けたんだからな)と苦笑しながら


(うん 瞳から)


「もしもし」

「すいませんこんな遅く」

「お前、今何時だと思ってるんだよ」

「どうしても気になって・・・」

「島尾さんを呼び出したのか?」

「そんなつもりじゃ・・・」


 しばらくの無言が続き・・・。


「家の祖父母と両親に会われたんですねぇ」

「あぁ会わないわけにいかないしまして吉瀬家の方から招待されたんだからただ家ではなくホテルだったけどな」

「私が勝手に色々な事云って行動してしまったから・・・」

「西経の相撲部に入ったことがすべてだよ。お前はそれも全部計算済みでただその計算は何をしたい計算だったのだが俺には理解できないけど」

「計算なんって概念はありません。前も云いましたけどそれは単に倉橋真奈美と云う人物が知りたかったそれだけです」

「母さんからしたら倉橋真奈美の下で相撲をするのはある種の屈辱だったろうな」

「それは・・・」

「もういい。後は瞳の決断だけだから・・・養女になりたいのならちゃんと受け入れるから」

「ありがとうお父さん・・・」

「でも真奈美とうまくやっていけるとは想えないんだよイメージが湧かない」

「私もそう思います」

「勘弁してくれよ全く」

「もう切ります。監督をよろしくお願いします。監督には幸せになってもらいたいから」

「あぁ」


 電話は瞳から切れた。本当なら瞳が結婚するまで吉瀬の性でいるのが一番だと想うが・・・。吉瀬家においての立ち位置が瞳にとっては辛かった。それは瞳のある種の被害妄想だと想う。別に異父の娘だからと云う事で何か家族の中で外されていると云う事はなかったはず。それでも耐えられなかった自分自身に・・・。


 本当は福井のコネクタ製造会社の役員を受けて単身福井で新たな人生を想っていたのに前々妻の倉橋真奈美との再会は全くの想定外だったし再婚なんか全く考えた事もなかった。だからと云って福井行きを変えるつもりもないし真奈美だって相撲部の監督をいや相撲界と関係を切ってなどは考えていないだろう。だったら再婚ではなく元夫婦との親友関係でもいいのだが・・・。ただお互いの新たな出発と云う意味と考えれば再婚と云う手続きも必要だろう。


(あとは相撲クラブか・・・ったく。相撲って・・・俺とお前は相撲の呪縛から開放されそうもないな)と笑みを浮かべて小さくため息をついてしまった。


 光は寝室に戻る。真奈美は完全に熟睡してしまっている起きる気配は全くない。真奈美の寝顔をここまで見つめるように見たことがあったのか?いや記憶にない。結婚生活はある意味形式的な生活だった。プライベートも形式的にセックスさえも形式的なそして真奈美は女性としての個人と個人のビジネスパートナー。


 相撲部監督の話は実は些細な事であって本当は結婚生活の積もり積もったのが爆発したと云うのが本当の話だろう。あの時の自分にそんなことに気遣う気持ちなど考えもなかった。別れて真奈美は相撲部の監督して活躍し今や客員教授をこなしその他色々やり成功はしていてもそれは心身の充実感を満たすものではない。乾いた心に花は咲かない永遠に・・・。でも今見ている真奈美の寝顔は本当に幸せそうな可愛いは語弊があるがそんな顔。


「悪かったな真奈美」と云うと光は軽く口元にキスをしベットに入った。



 ベットボードに置いてある目覚ましい時計は午前4時30分を指している。ベットの向こうに見えるベランダ越しの景色はまだ夜景の中名古屋駅前の高層ホテルの部屋のいくつかは明かりが点いているが・・・。


 真奈美の横には光が熟睡している。


(御免。わたし寝ちゃったねぇ)と云いながら寝顔を見る。


(確かにあなたの云っていた通りあなたは私をビジネスのパートナーそして母のように見ていたのねぇ。私はそんなことに気づくこともなかった。私はあなたについていくのに精いっぱいだった。構ってほしいと想う暇もなかった。でもその事に自分でも無意識のうちに不満が溜まっていたのねぇ)


 真奈美はベットから出ると寝室を見回した。部屋の中には一切余計なものは置いていないのだが壁に掛けてある一枚の額縁に目が入った。


 (えっ・・・)真奈美は思わず手で口を覆ってしまった。


 額縁に入っていたのは光と真奈美の手形。真奈美自身全く記憶ないのだが・・・。二人の手形に筆で署名してあり落款もどきの押印がしてあるのだ。日付は濱田が高校を卒業する二週間前・・・。高校の相撲部で卒業する者の手形を取ることは儀式になっていたことは覚えているが・・・。


(夫婦でいた時は相撲の話何ってほとんどしなかったのに・・・何後生大事にこんなの持っているのよ全く)


 光と離婚して実家に暫くいた時に相撲に関する物はすべて処分した。それは指導者として生きていく決意だった。そして濱田との想いも断ち切るためになのに・・・。(ずるいよあなたは・・・)


 真奈美は寝室を出てリビングへソファーに座ると壁際に置いてあるコートハンガーに自分のシャネルジャッケトとパンツが掛けてあった。自分で掛けた覚えがないので光が掛けてくれたのだろう。


 リビングには何枚かの絵が掛けてある。


「美術は数学なんだよ黄金比なんか最たるもの。計算式の美学と云うかそ云う事が理解できないとうちの会社ではやっていけない」

「私には・・・」

「0.125を分数にするとどうなる」

「えっえー・・・あぁ125/1000だけどそのまま通分して計算するよりもそこは1/8に約分してから通分するってこと?」

「ふふっ・・・」

「えっなに間違えてる?」

「いやさすが我が奥さんって・・・数学的センスと云うか美学ってそう云う事だよ。125/1000でしょで終わったら離婚の危機だと・・・」と笑いながら

「もう私にそ云う試すようなことはやめてよねぇ本当に」


 部下達と揉めることの大半は答えではなく答えを求める過程なのだ。答えには納得してもその過程が気に入らないと部下に苦言を云うのだ。そんな事だから優秀な人材が逃げてしまったことも多々あった。その事に私が口を挟むと烈火のごとく激怒することもしばしば。それでも事業は成功して光は辞めてしまったが部下たちが更に発展させ現在に至る。身内のことで引退したことは確かだろうが自我を通してきた自分に限界を感じていたのが大きいのかもしれない。


 真奈美はキッチンに入り冷蔵庫をチェック。量は少ないが生鮮産品が綺麗に整理されているうえに料理も小分けされている。


(光らしいと云うかまめだよね。ヒモになる・・・いいんじゃない)と小さく笑ってしまった


 野菜室に保存されている米を取り出しまずは炊飯から・・・いつもは自分のためだけに作っていることに何も感じることなかったが久しぶりに愛する者に朝食を作る行為がこんなに自分をウキウキさせるものだったとは・・・・。


 時刻は午前6時を少し回っていた。


 


 


 

 

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