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女力士への道  作者: hidekazu
蟠りの中で

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一人の女性として一人の女として ②

 マンションのエントランスに車を寄せると真奈美は朋美の車から降りる。朋美も同じく


「2801号室です」

「わかったわ。今日は色々ありがとう朋美」

「監督・・・」

「なに?」

「濱田さんとは本当に何もありませんでしたからそれは信じてください。だから怒らせるようなことは絶対にしないでくださいよ」と本当に不安そうな顔をしている朋美

「わかったわ。あなたの云ったことは信用する。それに濱田は私よりはるかに大人だしね」と真奈美


「それじゃ私は」

「今日は本当にありがとう。それからもう大会まで時間がないけどさくら頼むわよ」

「一応、偉大な倉橋真奈美の門下生ですから」

「門下生?今は強力なライバルよ油断ならぬ」

「色々な意味で」

「ホントね」

「それじゃ失礼します」と一礼し車に乗り込みマンションを出て行った。


 エレベーターに乗り込み28階へ。誰もいないエレベーターには高周波の機械音と滑車の回るような音が僅かしか聞こえない。朋美に後ろを押されなかったらここには来なかった大会が終わっても多分。

 エレベータは28階に扉がスーッと開き真奈美は降りると正面の部屋番の案内を見て右へ。


 一番奥の部屋の前でインターホン押すとすぐに扉は開いた。


「いらっしゃい」

「御免なさいこんなに遅く」

「悪いなこんな格好で」パジャマ姿の光

「ホントに」

「まぁ入れよ」

「えぇ」


 ダイニングキッチンの脇を抜けリビングへ窓の向こうには名古屋駅のホテルや商業施設のビルが見える。あの相撲クラブでの出会い以降直接会う事はなかった。電話では何回かは話はしたがそれとて雑談程度。自分の気持ちなど微塵も喋らなかった。


 光は真奈美の立ち姿を見ながら


「あの時のシャネルか?」

「えぇ・・・この前少し修理はしてもらったけどあの時のままサイズはいじっていないわ」

「それと胸元のカメリアのブローチも?」

「えぇ・・・これも少しクリーニングしてもらって」


 光は真奈美の正面に立ち羽のように軽いジャケットをで剥ぐように脱がせていく。白いラウンドの襟のシャツ。第2釦まで開け何かデコルテの見え方を絶妙に見せているのはあえてなのか無意識なのか?


「いい歳して・・・若い女性がしそうな見せ方だな」

「あなたにぶつかり稽古してもらったあの時高校時代に戻ったような・・・」

「ちょっとひねくれた不良少女って感じだったけどね」

「不良少女になりそこねたって感じかしら」

「不良少女と呼ばれて・・・原笙子か?」

「1000年以上途絶えていた女人舞楽の復活と継承に尽力し京都舞楽会を発足させた。それは彼女の使命と自覚して・・・」

「真奈美だって女子相撲の発展を使命と自覚して監督引き受けたのだと思ったけど」と光は苦笑しながら

「だとしたら私は相撲に人生を捧げる。でもそんなの私には無理・・・」


「あの時の真奈美の態度は一過性のものだと想っていたけど結局こんな事になってしまった。しばらくはショックだったけどもうそんな事云っていられないほど会社は忙しくなってある種の裏切り者に構っている時間はなかった」


「・・・・」


「でも十年前身内に色々な事があったにせよ何か今の状況から離脱したいと事業は至って順調で何一つ不満もないのに・・・」


「光さん」


「主要な事業から第一線を降りて相撲クラブだからなぁ真奈美の事云えないよ全く。挙句の果てには元部下達だった連中から生活が苦しいんじゃないかと心配されてアドバイザー的仕事を受けることになってね」


「映見の彼氏の甲斐和樹君が云っていたわ自分は起業家としての濱田先生を見てみたいしできればその下で働いてみたいって・・・私的にはちょっと胸が痛くなっというか複雑な気持ちでね」


「俺はもう自分でやる気持ちはないんだ。和樹見たいな若い世代を陰で支えるぐらいだよ。それに俺は途中でほっぼり投げたしねぇ部下達は苦労したと思う。ただ事業としては成長していたし彼達で考えて多少失敗しても大丈夫だったから・・・それは逆にやり易かったかと思う。業績が下降していて投げなたわけではないのでまぁ俺の勝手な屁理屈だけど・・・まぁ可哀そうだと思ってんのか知れないけど社外取締役と云うおこぼれで生活しています」と光は笑いながら


「私のせいねぇ・・・」


「勘違いするなよ。お前も俺も離婚と云う選択をしてしまったゆえにその後の成功があったと思う。お前は西経女子相撲部の監督として名を馳せ俺もまがりなりにも事業は成功し部下たちに引き継げたまぁ俺の場合は違うかも知れないが・・・」


「私、あの時は若かったし変なところが負けず嫌いであなたの方が遥かに・・・」


「お前が西経の相撲部にちょくちょく出入りしていたのは知っていた云いたいことはあったけどそれも一つの息抜きだと思って見て見ぬふりをしていたけど・・・あの頃は真奈美に構ってやる余裕がなかった。二十代のお前からしたら色々な意味で欲求不満が溜まっていたと思うけど俺はそのことを甘く見てた。真奈美なら自分でうまくコントロールするだろうって・・・」


「私にはそんな余裕はなかった。とにかく光のパートナーとして事業を成功させたかった。だからプライベートは我慢するって覚悟していたのに・・・そんな心の隙間に相撲部の監督の話が嵌ってしまったのよ」


「いまだにアマチュア女子相撲の女王は西経だからなお前の選択は間違えではなかった。女子大相撲人気で他校からの突き上げが厳しくても・・・でも明星に足元をすくわれたりするけどな」


「朋美には完敗よ。高校生相手だからと舐めていたわけではないけどあの時は少し部としても気持ち的に浮ついていたりしてたからね。団体戦の難しさと云うか個々の能力が高くてもそこをまとめなければ勝てない。あれは私のミス」


「島尾さんのことなんだが・・・」


「朋美からあなたと知り合ったきっかけと日間賀島の件みんな聞いてるから」


「昔の真奈美なら噛みつかれただろうな」


「嚙み殺してるわ」と笑みを浮かべながら


 光は真奈美の着ているシャツの釦を外していくと胸元から腕を入れ脱がしていく。


「スポーツブラかいかにも真奈美って感じで」


「御免ねぇ色気がなくて急に朋美が云うもんだからブラまで頭が回らなくて」


 真奈美は壁に掛けてある一枚の絵が目に入る。


「あの画って?」


「荻須高徳のサン=ドニ大聖堂のリトグラフ。東京の画廊で見つけてねぇ。真奈美と海外出張でフランス行った時のことを想いだしてつい買ってしまったよ。シャルル・ド・ゴールでプジョー205借りて覚えてないだろう?」


「覚えてるわよ。あれぐらいかな二人のプライベートで海外旅行らしいことはそれでも仕事だったけど・・・」

「悪かったなぁ構ってやれなくて」

「ビジネスのパートナとして認められているってそれはそれで嬉しかったけど・・・」

「今の真奈美の活躍からすれば俺は先見性があったてことかな?」

「何調子いいこと云っているのよ全く」

「プライベートでは結婚して真奈美を妻ではなく母親として見ていたのかもしれない。男として真奈美を言葉と体て゛満足させてあげなかった。女として見ないで自分にとって都合のいい女性のビジネスパートナーとしか」

「そんな風に云わないで今の私が曲がりなりにも自分で自立できているのはあなたが私に教え込んだことが今の私を支えている。それは感謝でしかないわ」

「真奈美・・・」

「今の私の方が光さんより稼ぎいいかもねぇ」と笑いながら

「じゃ真奈美のヒモにしてくれないか?」

「いいわよ。私のしもべになる?」

「身をもって奉仕いたします。西経の女帝様」と光は苦笑いしながら

「本当になってよ・・私はもう一人では生きていけない。もし断られたらここから飛び降りて死ぬ!」


真奈美は風呂上がりの微かに石鹸の香る光の胸元に顔を埋めた。光の胸の鼓動はそのまま自分の鼓動と同期するように・・・。


「困ったちゃんですね西経の女帝はちょと頭のいいひねくれた小学6年あたりが云い出しそうなセリフだなぁ全く」

「私は本気よ!。一緒になれないのなら死ぬ。もう同じ過ちはしないから・・・だから・・・」


光の胸元ですすり泣く真奈美。恋とか愛とかの尺度は中学生とさして変わらないのだ。それは光もさして変わらない。男は結婚してしまうと妻を母のように見てしまうものだよと友人が云っていたが光は真奈美にプライベートでは生意気な中学生なような自分を母のように構ってほしかった・・・。母のように抱きしめて欲しかった。


「だったらどうするんだよ真奈美?」

「私が悪かったわ。だからもう一度・・・」

「そんな言葉足らずじゃ頭の悪い俺じゃさっぱりわからないぞ」

「復縁して再婚を望みます・・・それ以上云わせないでよ全く」

「新鮮な気持ちでの結婚生活は期待できないぞ」

「そんなのはなから期待何ってしてないわ」

「随分ストレートに云うねぇ」

「お互い話し合える時間を持ってもっと深く・・・あなたと私を・・・今まで気づけなったこと男と女として・・・」

「よくできました」と云って頭を撫でる光

「何その上から目線は」

「本当はクラブに来た時に云ってくれるのかなって想ったけど・・・」

「私はそんな安売りはしないから」


 真奈美は自分が今云える言葉はそれが精一杯だった。もうそれ以上の言葉は・・・・。


「風呂入って来いよ。お前のパジャマ用意してあるから今日は泊っていけ」

「違う女用じゃないのあなたは私以外の女性には優しいから」

「残念ながら真奈美のサイズと同等の知り合いの女性はそうはいないんでね」

「・・・・ったく」

「体洗ってこいよ。相撲場の土の匂いも嫌いじゃないけどさぁ」

「えぇ・・・それじゃ」


 





 

 




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