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女力士への道  作者: hidekazu
蟠りの中で

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一人の女性として一人の女として ①

 真奈美と朋美は真奈美のマンションのリビングで向かい会いながら座っている。テーブルにはお茶さえもない。真奈美の朋美に対する塩対応と云った感じのように・・・。


 朋美は瞳に云ったことをそのまま真奈美に云って信じてもらうしかなかった。それ以外の対応なんかないのだ。


「監督に謝罪すると云うのもちよっとスジが違うと思っています。先週、明星に来ていただいた時に私が云った濱田さんへの想いは単なるはったりでもなんでもなく本心でした。でも日間賀島の二日間でそれは無理だと云う事を濱田さんから返された。そこで私の濱田さんへの優先権は消滅したんです」と朋美は素直に


「泥棒猫みたいなことを・・・よくもいけしゃあしゃあとよくそんな事平然と云えるもんだなぁ」と真奈美は冷静ではいられなかった。


「吉瀬とは大違いですね。彼女は実に冷静でしたよ怖いぐらいに・・・血も繋がっている娘だったら引っ叩かれてもしょうがないとましてや過去の監督と父の関係から云えば・・・それでも彼女は冷静に話を聞いてくれた。今の監督より遥かに大人ですよ彼女は」


朋美は真奈美の態度を馬鹿にしているわけではないのだが


「お前は私との関係を知ったうえで入り込んできたんだよそんな奴を許せるわけないだろう!」


「だったらなぜ今の今まで再婚の申し出をしないんです。濱田さんは監督から云わなければ再婚はする気がないと永遠に・・・。そんなことご自分が一番わかってますよね?なのにどうして・・・。だったら私がその隙に入ってもおかしくないんですよ違いますか?」


「朋美お前・・・」


「私は直接的にないにせよ意志は伝えた返答はNOだっけど・・・。それであきらめもついた。それと濱田さんは吉瀬さんを養女として迎えたいそうです本人の意向は聞いてないようですがあとは監督ご自身の問題だけではないですか?」


 朋美は真奈美の態度に若干の苛立ちを感じていた。女子相撲の指導者としてある種のカリスマ的存在である倉橋真奈美。ただことプライベートに関しては今までほとんど自ら云わないし相撲部の現役・OGとも触れることはしてこなかった。それは監督への気遣いと云うわけでもないが・・・。そんななか朋美がここまで成り行きでそうなってしまったとことは全く想定もしていなかったし監督の元夫に想いを抱いてしまったことに一種の罪悪感は感じていたにせよ。真奈美の煮え切らない態度は逆に苛立ちを感じてしまう。


「今は大会に集中にしたいのいまここで濱田との関係云々は話している時期ではない。そう決めているの」


「だったらなぜ私をマンションに入れたんですか云ってること矛盾してませんか?」


「だから今は・・・」


「監督、もう自分のために人生使ってください。現役・OG含めて監督を尊敬しているし感謝もしています。ただみんな監督の前では云いませんが監督自身のことは気がかりだったんです。まぁ私にそんな事を云う資格はないですが・・・・」


「女子相撲に人生を使い切ってしまった中年女の哀れな末路ってことか!」


「監督、そんな云いかたありますか!やめてください!誰もそんなこと云ってませんよ!」


 離婚した原因はどっちかがちょっと折れれば済んだことだった。ただお互い若かったしその瞬間瞬間で生きていくことにやっきだった。お互いのプライベートの幸せなどを想う余裕なんかなかった。そんな時ふとエアポケットに巻き込まれたように相撲で生きる人生がすぽっと嵌ってしまったのだ。会社が離陸し上昇気流に乗ろうとした時真奈美は自分の勝手っで降りてしまった。


「うちの部員からお前が男性と日間賀島の旅館からチェックアウトしていたのを見たと云われて直感で光だなと想ったよ迷うことなく。朋美の様な若さと行動力は私にはもうない。昔はできたことが今はできないそれは体力的な問題以上に気持ちの問題でねぇ」真奈美はそう云うとシャネルを着させた全身マネキンを指さした。


「このシャネルのスーツは濱田からプレゼントされた物なの起業してある程度軌道に乗った時にねぇ。国内外色々な企業のトップクラスの人と会う機会も増えてねぇ。濱田は私にビジネスそして女性として兼ね備えるべきことはすべて学ばせてくれた。そして女としての夜の営みも・・・たった一つしか歳が違わないのにまるでひと回り違う様な」


 真奈美はソファーから立ちシャネルのスーツに人差し指を首元から下半身に向けて指でなぜていく。


「大会が終わったらこのスーツを着て濱田の前で再婚したいと云うつもりではいるのでもねぇここのところそのことさえも怖くてねぇ。だから大会だけに集中して・・・それも体のいい逃げなのよ」


「監督・・・」


「少なくともさくら・映見二人の代表には私が苦悩しているような表情や言動は見せるわけにはいかないからねぇ。それは二人のコーチとしてね」


「さくらのことなんですが」


「何?」


「監督と高校で会って以降も正直さくらとうまくいかなくてキツイ稽古の指示ばかりで何も余裕なくてとにかく私の持っているもの全部ぶち込んでみたいな・・・そんな稽古しかできなくて」


「・・・・」


「東京へ合同稽古へ行っている間私なりに考えたんですがなかなかいい対処の仕方が想いつかなくて・・・それでもう時間もないし今更技術的なことを云っても仕方がないのでさくら自身に任せようかと」

「そう・・・悪くはないんじゃない」

「濱田さんに稽古の事を愚痴ってしまった時、あなたに多少の問題があるって云われて」

「・・・・」

「指導者において一番簡単なのは一から十全部教えることが短期的には一番手っ取り早い。でもそれではダメだって云われてしまって。ある程度の実力を持っているのだから一から九まで教えて最後の一つは考えさせろと十番目の答えを見つけられたらその先の違う答えもみつけられるって・・・・十まで教えたらその先は考えようとしないそれはそこで成長は止まってしまうと」


(濱田・・・)真奈美は心の中で呟く。


「指導者はその十番目を見つけられるまで我慢ができるかが重要だって・・・十まで教えてそれに自己満足を求めているのならそれはあなたの方が問題だって云われてしまって・・・」と朋美


「濱田らしいな・・・大会までさくらの自主性に任せるのはいいと思うが重要な人物を忘れていないか」


「重要な人物?」


「圭太君よ。朋美の云う事は聞かなくても圭太君の云う事なら聞くんじゃないの?今、さくらにとってもっとも信頼がおけて気を許せるのは彼しかいないでしょ?」


「圭太・・・」


「女子大相撲トーナメントの時彼からさくらと朋美のことを相談されてどうしても明星に来て朋美と話をしてほしいって云われてねぇ。お前はさくらが私に相談してきたと思っているのかもしれないがそんなことは一度もない。彼女の性格からしたらできないだろうねぇ?。圭太が私に直談判なんって勇気がいただろうしましてや私に恫喝めいた事まで云ってきたんだから」


「・・・・・」


「さくらと圭太を見ていると私が高校生の時の私と光の関係ってこんなだったのかもって思うところがあってね。実は私が相撲をやれたのは陰で私を支えてくれていたこともあったのかもって・・・まぁ私の妄想かも知れないけど」

「監督・・・」


 真奈美は壁に寄り掛かり朋美を見ながら


「ここは圭太にさくらのこと全部委ねて見たら。彼ならさくらの気持ちをうまくコントロールしてくれると思うよ朋美」


「わかりました」


「まぁ自分のことも先延ばしにして解決できないくせに高校生自身で考えさせろ何ってよく云えたと思うわ自分ながら」と真奈美は笑いながら


「監督」

「何?」


「これから濱田さんのところに行きませんか?」

「えっ」

「確か丸の内ですよね?」

「そうらしいけど」

「らしいけどって行ったことないんですか?」

「そんなに会う事もないし色々忙しいのよこう見えても」


 朋美はテーブルに置いてあるスマホを取ると電話をかけ始めた。


 真奈美は壁に身を寄せ立ったまま。


「すいません夜分遅く。ご自宅ですか?」

「そうだけど」

「これからお伺いしたいのですが?」

「島尾さん・・・」

「今、金山の倉橋監督のマンションにいます。これから監督をそちらにお連れしたいのですがいいですよねぇ」

「ちょっとそれは・・・」

「待っていると云いながら拒むのですか?」

「・・・・」


 真奈美は朋美の様子を見ながら


「ちよっとあなたまさか?」


 朋美はスマホを耳にあてながらベランダに出ていく。


 真奈美は朋美がはまだのところに電話をかけていることは直感でわかった。朋美はおもいつくとすぐ行動に移しとことんまで追求する。私はその事に気づかず朋美にとことんまで相撲をやらせてしまった。私がもう少し気遣っていれば選手として短命で終わらせることはなかったはず。


 朋美がベランダから戻ってくる。


「早く着替えてください」

「着替える?」

「そうです。そのシャネルを着て濱田さんのところに」

「朋美私は・・・」

「もう時間が時間なんで私も手伝いますから」

「朋美、私は大会が終わってから」


「はぁ!何云ってんだお前わ。何中学生見たいなこと云ってんだよいい歳して女子相撲指導者のカリスマだぁ・・・笑わせるな。名ばかりのカリスマ指導者倉橋真奈美。そんなだから濱田さんを私に盗られそうになるんだよあの時強引にでも私の穴に」


 その時、真奈美の猛烈な張り手が朋美の頬にさく裂した。


「朋美お前!」赤鬼のような形相の真奈美


 朋美の頬に手の跡が・・・大きく深呼吸をすると


「監督、時間ありませんからここできっちりリセットして大会に臨んでください。それは代表二人にとっても重要です。監督」

「朋美・・・お前・・・」


 二人は寝室に入り朋美は真奈美の着替えを手伝う。そして着替えが終わり真奈美は全身鏡の前に自分を映し出す。


「凛として凄く似合っています。これが監督の本来の姿なんですねもしかすると」


「何調子のいいこと云って」と真奈美は笑みを浮かべながら


「一人の女性としての生き方を見ているようで」


「十年ぐらい前にふとこのシャネルのことを想いだしてクローゼットから出して着てみた時にあまりにも自分に似合っていなくて体型もそうだけど気持ち的にも・・・その時に十年後この服を着れる自分がいるだろうかって・・・」真奈美の目が少し潤んでいるような


「監督・・・・もう時間ですからそろそろ。濱田さんの家まで送りますから」

「ありがとう朋美」


 真奈美のマンションから濱田のマンションまでは約十分。真奈美は助手席に座り車窓を見ている。テレビ塔を正面に見据え朋美のレガシィツーリングワゴンは走る。シャネルスーツの胸元には小さくも凛としたカメリアが咲いている。サイドウインドに映る流れる景色の中の自分を見ながら・・・。


 


 


 


 

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