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女力士への道  作者: hidekazu
蟠りの中で

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恋と愛と愛憎と・・・④

 日間賀島へ行った翌日。瞳と瑞希は大学の食堂でランチをしていた。話はどうしても明星高校の島尾監督の事にになってしまう。


「家帰って色々調べて見たんだけどあの男よくわからないのよねぇ」

「あの男って?」

「昨日の島尾監督の一件に決まってるじゃない」

「・・・・」

「あの体格からすると間違いなくスポーツをやっていた感じだったじゃない柔道とか相撲とかそっち系の・・・」

「・・・・」

「写真撮ったから画像検索とかやったんだけどヒットしなくて・・・」

「写真?」

「あっ・・・つい撮っちゃって」

「その写真削除して、あんまりいい趣味じゃないわ。今すぐ」

「瞳」

「何?」

「瞳、あの男のこと知ってるの?」

「なんで」

「あの後の瞳。ものすごく違和感があった。話もちぐはぐだし何か上の空って感じで・・・」

「島尾さんが中年男性とできていたことにちょっとショックだただけよ。ただそれだけ」

「そう・・・」


 瑞希はその写真を削除して瞳に見せた。それを見て瞳は冷めたコーヒーを一気に飲み干すと


「瑞希、今日ちよっと急用ができて悪いんだけど稽古の方は休むから」

「えっ、休むって東京の合同稽古に行っていた監督と映見も今日から戻ってくるのに・・・何いきなり急用って?」

「プライベートの事なんで」

「プライベートって?」

「とにかく悪いんだけど・・・瑞希から監督に云っといて」と云うと席を立ち足早に食堂を出て行く。

「はぁ~ちょっと瞳!。ちょっと」


--------------------------------------------------------------------------


 月曜日午後1時、名古屋駅中央コンコース。東京での合同稽古を終えた二人。


「二人ともいい稽古ができてたわプロ相手に厳しかったでしょうけどあれだけの動きができれば日曜日の大会は文句ないと思う。映見、今日は稽古いいから家に帰りなさい。さくらも今日はゆっくり休んで大会に備えて」と倉橋真奈美はそれなりの手ごたえを掴んだしそれは映見やさくらも同じ。


「じゃーさくら家に寄って行かない。私をストーカーしていた以来だし」

「映見さんの云い方なんか引っかかるんですけど?」

「さくら。映見はちょっと調子に乗ってるからねぇ気おつけなさいよ」

「どう云う意味ですか?」

「とにかく気持ちを大会モード切り替えてよ。多分二人にとっては今までで一番苦しい試合の連続になると思うけど頼むわよ」


 名古屋駅で真奈美は二人と別れ松丸デパートへ。真奈美は二階にあるシャネルブティックへジャケットの袖口・ボタンホールのほつれの直し・裏地の張替えそれとパンツの若干の破れの補習もお願いしていたのだ。経年変化はその服のストーリーと云えなくもないがさすがにそのままにはできなかった。カメリアブローチの点検とクリーニングも一緒にお願いしていた。


 真奈美は修理の済んだジャケットを試着室で袖を通す。サイズ直しをすることなくピタッとまるで吸い付くように・・・。そして鏡に映った自分を見ながら・・・。


(二十年前のまま・・・多少顔は老けたかもしれないけど・・・大会が終わったら)



 商品を受け取り真奈美はいったんマンションに戻り大学へ。


 時刻は午後4時。相撲場の暖房を入れ真奈美は小上がりに上がりいつものようにノートパソコンを広げる。相撲部監督・客員教授・その他のビジネスと暇のようで暇ではないのだ。ましてや代表監督絡みで女子大相撲との接点を持ったことで多忙を極めていた。濱田光と会う時間など持てるわけがない。とりあえず世界大会が終われば・・・。


「おはようございます」とマネージャの海藤瑞希

「おはよう」

「早いんですねぇ」

「色々細々した仕事があってねぇ家でやってもいいんだけど・・・」

「あのー・・・」

「何?」

「今日、主将何か急用ができて稽古休むと云う事なので・・・」

「瞳が?」

「・・・ちょっと」

「ちょっと何?」


 瑞希は昨日瞳と日間賀島へ行ったことそしてそこで偶然に明星高校の島尾監督が男連れで旅館をチェクアウトしたことそしてそれ以降の瞳の様子がおかしかったことを話した。


「島尾だっていい歳なんだし恋人がいてもおかしくないし」と真奈美

「ただ、何か瞳が様子がおかしいと云うか気もそぞろと云うか・・・」

「海藤の話は話半分で聞かないと」と苦笑しながら

「監督の返しはなんか一言棘があると云うか・・・」

「うちの主将は生真面目過ぎるから・・・」

「ただ男の人が妙に体格良くて柔道とか相撲でもやってるような・・・歳的には50ぐらいですかねぇ」

「・・・・・」

「でもなんかちょっとおしゃれと云うかかっこよかったですよ確かに」

「ふーんそう」

「写真も撮ったんですけどさっき瞳に見せたらすぐ削除しろってうるさくて・・・目の前で削除したら急に急用ができたとか云い出して・・・」

「そう・・・」

「あっ映見はどうでした?」

「十和桜と三番稽古をしてねぇ・・・」

「えっ、十和桜関とですか?」

「もうちょっと見るに見れなかった」

「でしょうねぇ。映見があんな喧嘩を売る真似をしなければいいのに調子乗って天罰ですねぇ」

「十和桜が完敗で三番本気でやって三勝先取で・・・ちょっと私的にはなんか申し訳なくて・・・」

「完敗?十和桜が?」

「あんな鬼の形相の映見を初めて見たわ。なんか相撲場の雰囲気も重たくなってしまって十和桜は物凄く落ち込んでしまうし別に稽古なんだから勝ち負けではないんだけど十和桜にしてみればねぇ」

「アマチュア無双横綱 稲倉映見復活ってところですか」

「でもよくあそこまで復活したと思う。海藤がいなかったら復活はなかったと思う」

「私は・・・」

「いい仕事と云うかこれからの生きる道を一つ確立したんじゃないか」

「監督・・・」

「四年になったら選手もやれ、吉瀬と一緒に最後の一年ともに戦え悔いは残すな海藤」

「でも私は・・・」

「瞳に稽古つけてもらえライバルとして同志として大学最後のシーズンを・・・」

「監督のお言葉は有り難いですが部としての勝利を想えばそんな提案はお受けできません」

「監督命令だ」

「・・・・・」

「正選手にはなれないかもしれないがそれでもやってみな瑞希。選手を捨てマネージャーとして仕事をしてくれた対価だ。四年になってもそれなりにマネージャーの仕事はしてもらうけど主は二年の副マネージャーにやってもらえ以上」

「わかりました監督。失礼します」と云うと一礼し相撲場を出ていく海藤。


(レギュラー入りは厳しいかもしれないけど最後ぐらいはやり残してしまったことを燃焼させて卒業しなさい海藤瑞希)


そんな思いを海藤に馳せながらもふと真奈美の脳裏にさっきの海藤の話と朋美の言葉がよぎる


 >「ただ男の人が妙に体格良くて柔道とか相撲でもやってるような・・・歳的には50ぐらいですかねぇ」

「写真も撮ったんですけどさっき瞳に見せたらすぐ削除しろってうるさくて・・・目の前で削除したら急に急用ができたとか云い出して・・・」


>「私、濱田さんに恋してます。恋を愛に変えて見せます。相撲と愛どちらかを取れと云われたら愛を取りますそう云うことです。」


 真奈美はスマホを手に取ったものの誰に掛けるかを迷っていた。瞳・光・朋美・・・。真奈美はスマホを座卓の上に置いた。三人の誰かにかけたところで答えは一つ。変にはぐらかされるのならまだしもストレートに云われたら・・・。


------------------------------------------------------


 瞳は大学から少し離れた場所にある「ヤマザキマザック美術館」にいた。


ヴァトー、ブーシェ、フラゴナール、シャルダンといった18世紀フランスを代表する巨匠たちが活躍したロココの時代から、新古典主義のアングル、ロマン主義を代表するドラクロワ、写実主義、印象派、そしてエコール・ド・パリ等、18世紀から20世紀に至るフランス美術300年の流れが一望できる内容で構成されている美術館である。


 瞳自身は殆ど美術的な物には興味がなかった。きっかけは濱田光との出会い。そして初めて一緒に来た美術館がここなのだ。


「興味がない物でも本物という物に触れるとそれがわからなくても感じるものが何かあるもんだよ。名古屋には美術館がいっぱいある。時間があるとき回ってみるといい。できれば一人でゆっくりっと作品を鑑賞するんだ。芸術に客観的評価基準なんてものはないからねぇもしあるとしたらそこで芸術の存在意義は終わる。人間も同じだよ」


 時刻は午後三時半を回ったところ。大学を出るとき瞳は島尾朋美にメールを送った。


「直接会って伺いたいことがあります。今日お会いできませんか?何時でも構いませんので」


 多分、この文面で何を聞きたいのかは察しがつくはず・・・。だとしたら折り返してはこないかもしれない。


 瞳は5階展示室からエレベーターで一階へ下り外へ出る。今からでも大学へ戻ることができたそんな気分にはなれなかった。そんな時マナーモードにしてあるスマホに着信が・・・。


(島尾朋美・・・)


「はい、吉瀬です」

「島尾です。メールが入っていたので」

「すいません。授業中でしたでしょうからメールで・・・」

「それで私に聞きたいってことって?」


島尾は別に動揺しているような感じてもなく。


「できましたら直接お会いして島尾さんの都合も聞かないですいませんが」

「わかったわ。ただこれから相撲部の稽古があるから早くても七時過ぎになるけど構わない?」

「はい。大垣近辺まで伺いますので、大垣競輪場のそばの「珈琲屋らんぷ」と云うのがあるのですが?」

「あぁでも駅からちよっと遠いけど?」

「あそこなら駐車場もありますし島尾さん確か車で通勤してらっしゃいますし?」

「わかったわ。それじゃ七時過ぎるかもしれないけど」

「時間は構いませんから」

「それじゃ」

「失礼します」と云うと電話は島尾の方から切れた。


 (私は島尾さんに会って冷静にいられるのだろうか?私は何の為に会うの?自分のため?父のため?違う・・・・倉橋監督のため?)


 瞳はテレビ塔を正面に見据え名古屋駅に歩いていく。駅までは歩くとゆうに三十分以上はかかるが今の瞳はその時間で島尾と何をどう話すかを考えたかった。でもそんなことを考えたところで聞くことは決まっているのに・・・。

 

 


 

 





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