恋と愛と愛憎と・・・③
日曜日の朝。主将の吉瀬瞳とマネージャーの海藤瑞希は名鉄金山から特急で河和へ。
「瞳とまさかのちょっとした小旅行に行くとは・・・破れた恋の傷は深いわ」と瑞希は流れる車窓を見ながら
「フラれた原因は瑞希にもあるんじゃないの?」
「はぁ~何よその云い方。自分だってフラれたくせして」
「違うわよ。私からふったのよそこのところはっきり云っておくけど」
「はい、相変わらずの負けず嫌い出ました」
「負けず嫌いじゃない事実だから」と瞳はピシャリっと・・・。
名鉄特急の車内は冬の閑散期でもありまた早朝と云う事も乗客はまばらである。
「女子大相撲トーナメントの映見の一件もさぁ。まぁ確かに問題であるけどよりによって彼氏連れて行っていたってなんって代表選ばれて少しは真剣にやるのかと思ったら何よ全く」
「でも瑞希のカウンセリングのおかげも大きいと思うよ。映見があそこまで精神的に回復したのはこれからどんなことするの大会近いし?」
「もうやめた。馬鹿らしくなったしあれだけ十和桜に喧嘩売るんだったらもう必要ないでしょ?」
「まぁそうかもしれないけど・・・」
「それに石川さくらも行っていて彼女も彼氏を連れてきていただと・・・許せん」
「許せんって・・・」
「あの二人には天罰が必要よ。私達が心に深い傷を負ってしまっているのにあの代表二人は・・・」
「私達って私は関係ないでしょ?」
「瞳がそう自分に云い聞かせようとしている痛くつらい気持ちはわかるけどそこは素直になった方が良いわ一応スポーツ心理学を志す者として忠告するけどそこは素直に認めないと次も失敗するわ同じ同志として」と瑞希は瞳の両手を強く握り瞳の顔を見て深く頷いた。
(だから私は違うから瑞希。いっしょにすんな)
終点、河和で降り二人は徒歩で河和港そこから船で日間賀島へ。
「ハイジのブランコで心を癒し安楽寺で縁結びを祈願してそしてふぐをたらふぐ食って・・・ってそこは突っ込むところでしょ瞳!」
「えっどこの部分?」
「えって・・・もういいよ」
「瑞希、どうみても傷心旅行には見えないんだけど?」
「はぁ~」
船を下船し島に上陸。
二人はまず旅館海洋亭へフロントで荷物を預けラウンジでちょっとコーヒーを一服。
「ここって来たことあるの?」と瞳
「遠い昔にねぇ」と瑞希
「遠い昔って・・・」
「この前フラれた男と来てハイジのブラ・・・あっ」
「なに?」
「超特大スクープですこれわ」
「何云ってるの?」
「売店見て」
「売店?」
瞳は瑞希に云われ見るが7~8人の人が商品を見ているのは確認できるが・・・
「瞳わからないの?グリーンのMA-1ぽっいの着ている女性あれって明星の島尾監督じゃないの?」
「えっ?」瞳はその女性を確認する。
「男と来てるんじゃ?」
「瑞希、あんまりそ云うこと云わないほうがいいよ。プライベートなんでしょうから」
「瞳、気にならないのあの明星の監督だよ。うちらにとってはまさかの敗北をきした敵の総司令官よ。というかここに泊まっていてこれから帰るところなんじゃ・・・で男は?」
「瑞希、女友達と来ているのかもしれないしなんで男って決めつけるのよ」と瞳は多少呆れ気味。自分のプライベートに足を踏み入れたくないのと同じで他人にも踏み入れたくない。
「男来た」と瑞希が云うと反射的に瞳も振り向いてしまった。
(えっ・・・なんでどうして)
「父親?・・・それとも中年オヤジと・・・きょぇーあまりにも意外な展開と云うかでもなんかあのオヤジおしゃれだし無茶苦茶体格よくない。何者?」
「・・・・」瞳はもう見れなかったし見たくなかった。信じられないし信じたくなかった。
「島尾監督ってオヤジとできているとはこんな時間にいると云う事はここに一泊してるな」
「・・・・」
濱田光と島尾朋美が旅館に・・・。瞳には全く理解できない状況。少なくとも父からそんな話は聞いたことはなかった。倉橋監督は父と再婚を望んでいるし父もそれを望んでいるはずなのに・・・。そもそも接点なんかあるはずもないのに何故?。旅館からチェックアウトを済ませて出ていく二人の表情は本当に楽しそう。私といる時よりも・・・。
「瞳・・・ひとみさーん」と瑞希は瞳の顔の前で手をふる
「えっ・・・」
「えって・・・何そんなにショックなの?」
「何が?」
「何がって」
「もう出よう自転車だって借りているんだしせっかく来たんだからこんなところで駄話しても」
「駄話って・・・まぁいっか島尾さんのことは・・・でもあの中年男性ちょとかっこよかったな」
「・・・・」
瞳にとっては実の父親である濱田光。なんでどうして倉橋監督の事は想いは・・・
----------------------------------------------------------------------------
光と朋美は高速船を下船して駐車場に止めてあるS2000へ。純正オプションのハードトップは見た目の印象をガラッと変えている。
トランクを開け荷物を入れると光は朋美に車のキーを渡した。
「えっ・・・」
「自分の車を他人に運転させることは絶対させないんだけどあなたなら・・・」
「でも・・・」
「早く運転席乗って」
「あっはい」
朋美はシートを合わせエンジンに火を入れる。軽くプリッピングをする。
「回転落ちが想像していたより速い」
「SPOON SPORTSの軽量フライホールが入っているからね。2000rpm以下のトルクは痩せた印象だけどこの車にはそれぐらいが似合ってる。発進さえちょっと気遣えばねぇ」
「わかりました」
朋美は多少高いとはおもいつつ2000rpm付近でクラッチを繋いだが多少のギクシャク感を出してしまった。
「御免なさい。大事な車なのに」
「何回か繰り返せばそのうちミート位置もつかんできますよ。だから気にしないで」
「はい」
車は南知多・知多半島道路と快調に飛ばしていく。パンパンッ!とシフトアップしていってもちゃんとピタッとくるしダウンシフトの時のブリッピングも実に軽い!。朋美は完全にS2000の虜になっていた。
「ちよっとS2000に酔ってませんか?」
「高回転型のNAエンジンなんって運転したことなかったから」
「でもさすがは西経を倒した監督はドライビングも上手いと」
「光さん・・・」
「はい」
「倉橋監督との再婚は・・・あっごめんなさいまた余計なことを・・・」
「真奈美が再婚を望んでいるのはわかっています。それと瞳には私と一緒に過ごしたいと云われました。瞳との生活は吉瀬家の方が良いと云うのなら養女としてもいいと思っています。ただ真奈美については彼女の口からそのことを云うべきであって私が助け舟を出すようなことはしません」
「でも監督は・・・」
「もし、私から再婚しないかと云えば即再婚していると思います。少なくともあなたと一夜を過ごすことはなかったかもしれない。真奈美の性格からすれば自分の口から再婚を云うのはきついのでしょう?私より西経女子相撲部監督の方を選んだのだから・・・あの時は悪い冗談だと思ったが・・・」
「光さん・・・」
「ごめん。今、あなたに失礼な言いまわしをしてまった」
「いいえ、私が泊まりたいなんって云ったから・・・私、恋愛とかそんな感情は」
車は名古屋高速へ入っていく。
「これからどこへ行きますか?」と朋美
「今日はもう帰りましょう。ちよっと早いけど」と光
「そうですねぇ・・・」
「なんか後味悪くなってしまって・・・」
「いいえ気になさらないでください」
「ありがとう」
車は名古屋高速3号から11号へ小牧北から名濃バイパスを通り昨日朋美を拾ったホームセンターの駐車場に車を入れた。
朋美はエンジンを切り車外に同じく光も車を降りる。トランクを開け朋美の荷物を手渡す。
「昨日・今日とありがとうございました。なんか私のわがままで」
「私は凄い楽しかった。本当にこんな楽しかったのは久しぶりだったから・・・」
「また・・・」
「今度はサーキット走行でも行きませんか?あなたの運転の技量もわかったし本当に好きなんだってわかったから」
「あっ・・・はい」
「それと」
「・・・・」
「私と真奈美の事にはあなたは関与しないほうがどっちに転んだとしても・・・真奈美は自分のことに他人がとやかく入ることを最も嫌うから」
「光さん・・・」
「それじゃ私はこれで」と云うと光は車に乗り込みエンジンをかけるとサイドウィンドウを下ろす。
「朋美さんはまだ若いけど先の人生長いようで長くはない。朋美さんに相応しい男性はいくらでもいる。それを見つけることだ。自分の大事な人生を無駄遣いしてはダメだよ」
と云うと光はサイドウィンドウを上げ多少エンジンを回し気味にラフにクラッチを繋ぎ車を発進させて駐車場を出ていく。
朋美はS2000が視界から消えるまでそこを動こうとはしなかった。いや動けなかった。
(恋愛とかそんな感情は・・・ないなんって嘘・・・)
濱田光が倉橋真奈美からの答えを待っているのは口に出さなくても痛いほどわかる。昨日の夜の出来事はその我慢が抑えきれなくて・・・。私も光さんも・・・。
一夜の夢物語のように・・・・。




