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女力士への道  作者: hidekazu
蟠りの中で

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恋と愛と愛憎と・・・②

 「高大校での高校初優勝おめでとうございます!。祝勝会ではないですが今度食事でもしませんか?」と濱田からメールがあったのは試合当日の夜だった。島尾がそのメールに気づいたのは翌日の朝。


 時刻は午前7時。出勤途中の車の中からまだ早いとは想ったのだがどうしても濱田に電話をしたかった。コンビニの駐車場に車を止め呼び出し音を何回か鳴らしたが残念ながら繋がらず。


(まだ時間が時間だし)と朋美はスマホを切り車を発進させようとした時着信音が。


「すいません。すぐ出られなくて」と濱田の声

「いいえこちらこそこんなに朝早くすいません。それとメールありがとうございます」

「今、東京行きののぞみに乗っているんで車内で電話をとるわけにいかないので、それと改めて高大校初優勝おめでとうございます」

「ありがとうございます元奥様を撃沈しました。て云うのは冗談ですがこんな朝早く東京ですか?」

「東京の会社で社外取締役をやっているんで月何回か東京へまぁ物乞いに来ているとか会社では云われているかも知れませんが」と光は笑いながら


自分の単なる興味だけで相撲クラブを訪れ聞かなくても良いことばかりを聞いてしまった。倉橋監督との関係は全く知らなかったことであり聞き流せばいい話を根掘り葉掘りまるで光の心をほじくるように・・・。そんな私にもけして感情的にならず逆に朋美の方が感情的になって。


「再来週の土曜日か日曜日時間作れます?祝勝会しますから」

「あっ・・・はい」

「じゃ土曜日。島尾さんってどこにお住まいでしたっけ?」

「美濃加茂です」

「美濃加茂かぁ・・・わかりました。じゃ土曜日の朝からちょと遠出して出かけましょうか。うまいもの食わせますよ期待してください」と笑いながら

「いや私が行きますからどちらですか?」

「名古屋の丸の内です。でも久しぶりにドライブしたいし・・・詳しいことは後ほど」

「あっ・・・はい」


 倉橋監督の元夫・吉瀬瞳の父親。そんなことは朋美にとってはどうでもいい話になっていた。相撲クラブでの出会い以降ちょくちょく電話をしたりクラブを訪れたりとそこには特段恋愛感情はなかったと云うと嘘になるかもしれないが一人の男性として大事な人・・・。


 朋美とて何回かは恋愛ぐらいはした。でもそれは何か朋美の心をときめかす事はできなかった。自分の子供ぽっさを優しくもしっかりと包んでくれる・・・でもダメな時はきっちり叱ってくれる人。朋美にとっては濱田はそんな男性なのだ。


土曜日の朝。朋美は美濃加茂にあるホームセンターの入り口で待ち合わせることにしていた。グリーンのMA-1を羽織りダークブラウン基調のタイトなチェックパンツで合わせた。濱田からラフな格好でいいからと念を押され。


 しばらくして一台の車が入ってきた。


(S2000・・・)朋美はその車を見て直感的に濱田だと・・・。


 シルバーの2シータースポーツが朋美の前で止まると車内から降りてきたのは濱田光。


「おはようございます。すいませんねぇ朝早くて」


「いいえ高校へ出勤するのとさして変わりませんから。S2000って濱田さん相当な車好きなんですねぇ」


「さらっとS2000なんって云う女性の人はそうはいませんよ。ちょと嬉しいな」


「相撲クラブで初めてお会いした時はミニバンだったのでちょっと意外と云うか」


「車、興味あるんですか?」


「今はレガシィツーリングワゴン乗ってますがその前はインプのWRX STiに乗ってまして・・・」


「そりゃ本物だ」と光は笑いながら


 美濃加茂ICから東海環状自動車道を南下して伊勢湾岸自動車道へ。光は六速から三速に落としレッドゾーンまで一気にエンジンを回し追い越し車線へ甲高い澄んだホンダミュージックはいやがうえにも車好きの二人を刺激する。S2000は大府ICで降り知多半島道路へ。


車中では相撲の話しではなく車の話で盛り上がる。光にとっても朋美にとってもこんな時間の過ごし方は久しぶりなのだ。


 知多半島道路・南知多道路の終点からさらにその先へ。さりげなく鎮座している伊勢海老のモニュメントを取り過ぎると眼下に伊勢湾が広がる。濱田は車を師崎港有料駐車場に入れると高速船乗り場へ。


「船に乗るのですか?」

「えぇここから船に乗って日間賀島へ行きます。縄文時代から魚を獲ることを生業とした島なんです」

「と云う事は・・・」と朋美

「と云う事です・・・」と光


 お互い顔を見合わせて笑ってしまった。


二人は高速船で島に渡る。西港で降り、旅館海洋亭へ二人は荷物を預け島内を散策する。


 光と朋美の歳の差は二回り。周りから見れば父親と娘と云う風に見えるだろう。実の娘吉瀬瞳よりなんとなくリラックスできると云うと瞳には悪いが妙な緊張感はない。サンライズビーチの高台に上がるとそこにあるのは通称「ハイジのブランコ」がある。


「朋美さん乗りなよ写真撮ってあげるから」

「じゃお願いします」


 朋美はまるで少女の様な笑みでブランコに乗りおもいきり漕ぎだす。そのまま手を離せば空へ飛んで行けるような錯覚になってしまうハイジのブランコ。光は横から後ろから朋美をスマホで撮っていく。


朋美は光に笑顔を振りまきながら・・・。しばらくすると朋美はブランコから降り次を待っているカップルに自分のスマホを渡すと光の腕を引っ張る


「何?」

「一緒に乗りましょ。次のカップルの人に写真お願いしたんですから。ねぇ」と朋美は満面の笑みで


 中年男性の光としてはかなり気恥ずかしいのだが・・・。朋美の強引さに負けて一緒に乗るはめになってしまったのだが・・・でも本心は嬉し恥ずかし・・・。


 そんなこんなありながら島内を散策し終えて宿に戻る。


「二時までの日帰りプランなんで六階に展望露天風呂ありますからそこでひとっ風呂浴びて食事にしましょう」と云うと二人は六階で別れ露天風呂へ。


 三河湾と知多半島を正面に伊勢湾を望む露天風呂。会社の経営者としてやっていた時慰安旅行としてここを訪れたことがありこの島に訪れたのはそれ以来。高大校の単なる祝勝会なら名古屋辺りのちょっと洒落た店でいいような話なのだが何となく日帰り小旅行に二人で行きたいと思ってしまったのだ。そこには恋愛感情は全くない。でも無意識に彼女を意識しているのかもしれない心のどこかに・・・。


光は個室の食事処で朋美を待つ。しばらくして朋美がやってきた。


「すいません待ちました?」

「いや」

「凄い景色がよくてちょっと眺めていたら長湯しちゃってここのところあまり遠くに出かけることもなかったもんだから本当に久しぶりで」

「私もですよ。暇なくせして色々細々仕事はあって小銭稼いでます」と光は苦笑い


 そんな雑談をしていると料理が運ばれてくる。


「ふぐ?」

「日間賀島近海の三河湾、伊勢湾、遠州灘一帯はとらふぐの漁獲高日本一なんですよ。下関のイメージが強いけどそれに名古屋ではフグを食べなかったんですよその文化がなかった。ここ2-30年の話なんです」

「知らなかった」


 「てっさ(ふぐ刺し)」は一人前ずつ皿に盛られやってきた。1~2mm程度の薄さに切り、直径20cm程度の皿に花のように美しく盛り付けられている。

 朋美は真ん中から三枚とり小ねぎを巻きポン酢しょうゆで口の中へ・・・。光はその様子を少し笑みを浮かべて見ている。


「えっなんか私の食べ方おかしいですか?」

「いやおかしくないですよ」

「じゃ何が?」

「いや、あなたなら箸で一気にすくい上げるのかなぁって」と光は笑いながら

「そんな下品な食べ方はしませんから」

「いいんですよ別に一人前になってるんだしよくドラマとかあるじゃないですかそれに二人しかいないし」

「じゃーやっちゃおうかな」と朋美は外側から一周だけいっきにすくい上げる。そしてポン酢しょうゆから一気に口へ「あぁ美味いです。やってみたかったんですよ」と満面の笑みで


「朋美さん。その食べ方は下品ですよ」

「えっ・・・ひどいですよ!光さん!」

「えっ・・・」

「あっ…濱田さん・・・」


 朋美が何気に濱田の下の名を呼んでしまった。濱田とてそのことに別に反応するわけでもないのだが・・・。


「じゃー私も」と云うと光も一周一気にすくい上げ口の中へ


「これだなやっぱり」

「これです」


 そんな楽しい時間もそろそろ終わり。


「じゃそろそろ帰りますか」

「濱田さんこのあとクラブですか土曜日ですけど?」

「いや木曜日から相撲場のちよっとした改修工事で稽古は休みなんです」

「そうなんですか・・・あの」

「はい」

「せっかくだから泊って行きませんか?」

「えっ・・・」


 朋美自身何を云い出してしまったのかと困惑していた。本当に久しぶりに心底楽しかった。本当に・・・。別に歳の差が離れた恋愛関係ではなく友人関係でいいからもっと一緒にいたい。もっと話がしたい。それは本当の気持ち。


「もし明日ご予定がなければ・・・それと大人としての分別は持っていますから」と若干俯き加減で


しばらくして濱田はおもむろに席を立ち個室を出ていく。


(私は何を云ってしまったの馬鹿馬鹿っ本当に馬鹿。倉橋監督の元旦那で西経主将の娘の実の親だとわかっているのに・・・はぁー本当に馬鹿馬鹿)とおもいながら両手で顔を自ら叩いてしまった。思わず天井を見上げてしまった。


 部屋の引き戸がノックされ濱田が入ってきた。


「キャンセルが出た部屋があっていまお願いしてきた」

「えっ・・・」

「せっかくここまで来て日帰りももったいない。それと私も大人としての分別はもっているつもりだから」

「濱田さん・・・」


 二人は食事処を出ると案内係りが部屋へ案内する。


 部屋に入ると目の前に伊勢湾の大海原が広がっている。そして半露天の檜風呂。そしてツインベット。


「ちょと昼寝してまた島の散策でも行きますか」と光はベットに朋美ももう一のベットに・・・両端のベットからお互いを見つめている。笑うでもなくまるで無表情にただ・・・。






 


 


 





 



 


 

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