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女力士への道  作者: hidekazu
蟠りの中で

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恋と愛と愛憎と・・・①

「稽古に口は挟まないって云いましたよね?」と朋美の表情は厳しい。


「意味がない稽古を見て見ぬふりはできないんでねぇ。それにお前の自己満足だが欲求解消だがしらないがそんなのに付き合わされている高校生のことを考えたらとても看過できないんだよ」と真奈美の表情も厳しくなる。真奈美は続ける


「部員に監督にはついて行けないなんって云われてお前は平気なのか?私だって監督をやっている以上そう思われてるかもしれないでも少なくとも声に出して云われたことはない。そんなことを声に出して云ってくるさくらの想いに何も感じないのか?どうしたんだよ朋美!」


西経OGとして女子高校相撲の指導者兼教師として活躍している朋美は真奈美にとっては自慢できるOGなのだ。確かに成績は残せなかったがそんなことはどうでもいいのだ。ある意味での師弟対決と云われた高大校も西経大を破って高校初優勝を飾った。なのに!


「お前は何にイラついているんだ。だからといってそのうっぷんを部員にぶつけるなんってありえないだろう・・・朋美!」


「監督はいいですよね。世の中自分の都合で回すことができて・・・」


「どういう意味だ!」


「いつも相手が動いてから動く。待ちなんですよ受けの相撲のように・・・」


「お前の云っている意味がさっぱりわからない」


「濱田さんにも同じなんですね・・・」


「・・・・」


 一瞬、朋美が何を云っているのか理解できなかった。朋美の口から濱田と云う名前が出てくる何って・・・。


「濱田って誰だ?」


「羽黒相撲クラブの濱田光さんです。あえて説明する必要性何かないでしょうけど」


 別に羽黒相撲クラブの濱田光を知っていても不思議ではないし多少の驚きはあったとしても・・・。ただ朋美の云い方は私と濱田の関係を知っていての挑発としか思えない。だとしても・・・。


「私と濱田の関係を知っているうえでの云い方だな」と真奈美の表情が厳しくなる。


「再婚する気があるんですか?」

「そんな話お前に云うことじゃないだろう!」とつい声を荒げてしまった。


「再婚する気がないのなら私に濱田さんを譲っていただけませんか云い方がちょっとおかしいですけど」

「朋美・・・」


 (何云ってるの朋美、濱田を譲ってほしい????。そもそもなんで濱田と朋美が?)


「意外って顔をされてますね私だって意外なんです。なんでこんな事と云うのかなんでこんな気持ちに・・・」


 朋美は西経主将の吉瀬瞳に個人的な興味があり調べていくうちに吉瀬瞳が濱田光の娘であることそして濱田光と倉橋真奈美が籍を入れていたことそして単なる興味本位で訪れた相撲クラブでの濱田との出会いと光の素の気持ちを聞いたことで朋美自身がいつのまにか惹かれていったこと・・・・。


「監督・・・いや真奈美さんが再婚したい意志をきっちり伝えれば濱田さんだって受け入れるのにそのことをせずにいるのであれば私だって濱田さんに・・・恋が愛になっても・・・」

「・・・・・・」

「黙ってらっしゃるってことはそう受け止めてもいいんですね?」

「話をすり替えるな!そんな話をしに来たわけじゃい。さくらの稽古の事で」


「さくらは何か事あるごとに倉橋監督ならとか云い出す。そりゃ経験からすれば監督には及びません。言葉足らずでキツイことを云っているかも知れません。ただ私には私なりのやりかたがあるのにさくらも圭太も・・・」


「それはお前が部員達の声を聴いていないからだろうさくらが私の事を云うからどうのこうのは全く関係ないだろういい加減にしろ!」


二人しかいない相撲場に響き渡る声。


「監督はいつも待ちの姿勢だった。私が怪我をきっかけに相撲部に来なくなった時も何も声をかけてくれなかった。後で監督が私の退部届を受け取らずに主将に渡していつでも復帰できるように保留にしていたと聞いた時監督らしいと思った反面一言でもいいから声をかけてほしかった。そうしたら選手としてまた頑張れたかもしれなかったのにって・・・」


「・・・・」


「何甘えたこと云っているって顔ですね。」


「そんなことは自分で判断することだ。こっちから戻れとか云うつもりはなかったしその程度の判断もできないようならその先もないからな助けてほしいと云うシグナルを出されれば手を貸すがなければ貸さない」


「監督らしい厳しさですけど・・・」


「朋美は相撲は辞めると云う判断をしたそれでよかったんじゃないか。教員になり女子相撲部の指導者となった。ただ濱田とのことにとやかく云われる筋合いはない。恋が愛になっても・・・朋美が光と私の間に割って入る余地なんかないんだよ」と声を荒げる真奈美ではあったが・・・。


「監督は相撲と濱田さんを天秤にかけて相撲を取った。それなのに別れて二十年近く経って今更ですか?都合よすぎませんか?。私は初めて濱田さんに会って話をしてなんでこんな人を監督は捨てたのか今でも理解できません。私に優先権をいただけませんか?」


「優先権?」


「濱田さんからしたら私は子供でしょう。まして監督を基準に考えたら・・・。それでも私は濱田さんに恋をしている。恋焦がれる想いなら監督には負けません。だから・・・」


「くだらな過ぎて話にならないよ。その八つ当たりをさくらに・・・もっと話にならない!」


「また天秤にかけているんですか?」


「・・・・・」


 天秤にかけているつもりなんかあるわけがない。映見をきっかけにひょんなことで会うことになった。濱田はもしかしたら別れても私の相撲人生を遠くから見守っていたのかもしれない。私はきっぱり忘れていた。偶に夢に出てくるとはあった。でもそれは夢であって正夢にはならないものと想っていた。でもそれは正夢になった。私は再婚ではなく事実婚で良いと思っていたそれで十分だと。


「私、濱田さんに恋してます。恋を愛に変えて見せます。相撲と愛どちらかを取れと云われたら愛を取りますそう云うことです。」


「・・・・」真奈美は朋美の表情を真っすぐには見れなかった。単なる挑発だと想いつつもその言葉に動揺していた。濱田の方から何か云ってくれると云う都合のいい思い込みを今でも思っている。別れる時も濱田の方から何かしらの助け舟を出してくれると想っていたが結局離婚してしまった。


 倉橋真奈美はアマチュア女子相撲界では女帝見たいな云われ方をしている。でもそれは周りが勝手に作ったイメージなのだ。自分から率先して何かをやるタイプの様なイメージだが本当は全く逆なのだ。ただ受けたことは全力でやる。それが倉橋真奈美の生き方なのだ。


 真奈美は朋美に何も云わず相撲場を出ていく。いつもの真奈美なら烈火のごとく朋美にキツイ言葉を言い放っただろうがそんな気力もなかった。真奈美は校舎から外に出て駐車場に歩いていく。寒風に木々の木の葉が揺れている。一枚の木の葉が真奈美の頬に張り付くもそれを手で払う気力もないほどに・・・。


(さくら?)


駐車場に止めてあるレガシィB4 3.0Rの前にさくらと圭太が立っていた。


「家までは送ってやらないわよ」と真奈美は笑いながらリアドアを開けコーチのトートバッグをシートに置きドアを閉めた。


「監督・・・」とさくら


「監督には一言云っといた。それと合同稽古に行く前に少し映見と西経で軽く稽古して東京に行きたいと思うのだけどもし都合がつけば木曜日私のマンションに泊まってもらおうかなーと思っているのだけどご両親の許可が取れればだけど」


「いいんですか泊っても?」


「いいわよ。なんだったら映見も呼ぶわ」


「なんか楽しそう」とさくらの表情が緩む。


「さくら後ろ乗りなさい。圭太君は前に荷物はトランクに入れて」


「俺は電車で帰りますから」


「何云っているのいいから」


 車は高校を出ると国道21号を岐阜方面に走らせる。


「さすがにデカいのが二人乗っていると車が重いわ」と真奈美はボソッと


「監督、二人って監督抜けてますよねぇ」とさくら


「二人より四割は軽いと思うけど」と笑いながら


 長良川にかかる穂積大橋の手前を左へ長良川沿いを走る。右側の車窓には月明かりの山並みの中に岐阜駅前のシティタワー43がそそり立っている。


 さくらの家の玄関先で真奈美は両親に挨拶し稽古の事とさくらを家に泊めたい旨を伝えると快く了解をしていただいた。さくらとご両親に別れ車に乗り込む。


「ちよっと待たせて悪かったわね」と真奈美は圭太に


「倉橋監督ちょっと話できますか?」


「話って?」


「その先に黒川神社って云う神社があって」


「土俵がある神社ね」


「知ってるんですか?」

 

「昨日ねさくらに教えてもらって・・・・」


 真奈美は車を神社の駐車場に止めて二人は土俵まで歩いてく。夜の神社には誰もいなく二人は土俵の前に・・・。


「話って何?」


「さくら。女子大相撲に行ってやっていけると思いますか?。あいつ西経に行きたいって云ってるって昨日云いましたけど俺は女子大相撲に行った方がどの道女子大相撲力士を目指しているのなら・・・」と圭太は真剣に真奈美に聞いてきたのだ。


「そもそもさくらは力士になりたいって云っているの?」


「えっ・・・そう云われると」


「映見もそうだけど周りからみんなそう云われてしまうのよねぇ。さくらが女子大相撲でやっていけるのかなんってそんな事誰にもわからないもちろん本人もねぇ。そもそもそんなことあなたが心配することではないと思うけど」


「もし、さくらが迷ってるのならそれの後押しをしたいとおもって」


 圭太は真剣に真奈美に聞いているのだ。それは微笑ましくより真奈美にとっては羨ましくもあり。


「今度の大会で答えが出るんじゃないかな。百合の花や桃の山という横綱二人と一緒に戦って女子大相撲を肌で感じてどう思うか?」


「映見さんは女子大相撲にいけない事がわかっていても・・・」


「映見は医者になるために大学で勉強してるわけで相撲は単純に好きだからそれだけよ」


「本音ですか?」


「圭太君。あんまりいい歳した女にわかっていて返答できないようなことを聞くべきではないわよ」と笑みを浮かべながら


「すいません。別に倉橋監督を困らせようと云う意図は」


「いいわよ。あなたの率直な気持ちなのだから気にしないで」


 さくらも映見も良い彼氏に恵まれて・・・・。真奈美自身もこの年の頃は同じようなことだったのだろう遠い昔のことは忘れたが・・・。暗闇の土俵は見ながら一人笑みを零してしまった。


「倉橋監督何か?」と圭太は真奈美の表情を見ながら


「・・・・・」真奈美はその問いには答えなかった。

 

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