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女力士への道  作者: hidekazu
蟠りの中で

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ついていけない ②

 朋美の云い方には正直怒りを超えて愕然とした。「西経に入れるための布石ですか?」さすがにそれはないと思った。


 西経OGにおいて唯一学校での指導者になった朋美。そして結果を出している実績は自分と比べてもひけをとることはないし実際に先の高大校では選手の怪我や映見の不調があったにせよ高校初の優勝校になったことは事実。少なくとも高大校直後までこんな云い方はしてこなかったなのに・・・。


 車内アナウンスがまもなく名古屋に到着することを告げる。


「明日、明星高校に伺うわ。合同稽古・世界大会のことそれとさくらのこと打合せておかない事が多々あるからいいわよね?」

「私はすべて倉橋監督にお任せしますので私からはとくに・・・」

「お前が話がなくても私が話があるんだよ!」

「わかりました。四時から稽古何でその前にいらしてください。私は午後二時以降の授業はないので二時以降なら時間は作れますので・・・」

「わかったわ。それじゃ三時に伺うわそれでいい」

「わかりました。それでは失礼します」と先に朋美の方から電話は切れた。


 真奈美はさくらにスマホを返す。さくらの不安そうな表情はさらに増長されるように・・・。


「さくら、明日、明星に行くことになったから合同稽古の事とか大会の事とか打合せしないといけないから」




「もう名古屋だから降りる準備しないと・・・ねぇ」と真奈美はさくらの頭を撫でながら車内に戻る。


和樹は元の席に戻り圭太は降りる準備をそこにさくらが戻ってきたが・・・・。


「さくらどうした?」と圭太

「監督から電話があって・・・」

「電話?」


圭太は呆れた表情を顔に出し


「休みの日に部員に電話かよもういい加減にしてくれよ本当に・・・そんでなんだって」

「倉橋監督が出たから内容は・・・」

「倉橋さんが?」


のぞみ444号は名古屋駅に入線する。


「じゃ―和樹。今日はありがとう凄い楽しかった色々と・・・」

「あぁ・・・倉橋監督東京までの交通費出してもらって有難うございました。自分にこんなことしてもらうあれはないんですけど・・・」

「いいのよ。私は映見に彼氏がいるってことだけでちょっと嬉しかったから」

「いやいや意味が分からないんですけど」と映見

「和樹さん。また名古屋に来るときはゆっくり話もしたいんで連絡ください」と圭太

「来るときは連絡するよ」


 和樹以外の四人は車内から降りる。映見はホームに降りると和樹をホーム越しから和樹に手を振る。和樹はちょっと気恥ずかしいのか進行方向に顔を向けながらも軽く左手をふりながら・・・。


 のぞみ444号は定刻通り名古屋を滑りだしていった。


 そして四人は中央コンコースで映見は名鉄へさくらと圭太は東海道線下りホームへ真奈美は上りへ別れていく。


 真奈美が三番線ホームへの階段を上がろうとした時後ろから声が


「倉橋監督」とさくらの声が

「さくら・・・」


 真奈美は階段の途中で足を止める。


「何?」

さくらは階段を上がり真奈美の前に


「少し相談にのっていただけませんか?」

「今じゃないとダメなの?」

「・・・・・」さくらは口を真一文字にしたまま口には出さなかった。

「時間が時間だし明日明星に行くから・・・」

「監督・・・」もう今にも泣きそうな

「さくら・・・」


「倉橋さん俺一人で帰りますからさくらお願いできますか?」

「圭太君」

「さくら、倉橋監督に今の自分の素の姿見て聞いてもらえよ。なぁ」

「・・・・」

「わかったわ。私のマンション金山だからいらっしゃい。わたしも一応アマチュアの方を引き受けている以上さくらの話を聞くわ。帰りは私が車で家まで送るから車の中で話しましょうそれでいい?」

「はい・・・」と弱弱しい返事ではあったが・・・。


真奈美はさくら自宅マンションへ。


ソファーに座りさくらと対面で話を聞くことに・・・。


「一応概要は圭太君から聞いているから」

「そうですか・・・」

「私からするとさくらも弱音を吐くこともあるのねぇと正直想っているけどそれほどなの?」

「私がいけないのかもしれません」

「さくらが?」

「私、監督とちょっと口論になったことがあってその時倉橋監督ならもう少し人の気持ちを察してくれるって云ってしまって」


「さくら・・・」


「西経に出稽古に行ったとき倉橋監督は稽古においては手加減はしなかったと想っています。でも限度を超えるような稽古はしなかった。今思うとちゃんと私の状態を理解されてくれていた。体力的にも精神的にも・・・でも今の朋美監督は何か変わってしまったと云うか・・・私が倉橋監督のことを口にしたことがものすごく腹が立つと云うかなんかそんな感じで・・・高大校以降稽古が厳しくなるのは覚悟していました。けど・・・」

 

 さくらは本音をさらけ出した。単に稽古がきつくて弱音を吐いているというよりも朋美が私に対する何かをさくらにぶつけているような云い方なのだと。


「正直、今の監督の下では相撲はしたくない。まるで自分のストレスを私の稽古にぶつけているようで・・・。そんな訳の分からない監督の下ではやりたくないです」


 真奈美に思い当たる節は全くもって思いつかない。何かあるとすればそれはさくらが西経に出稽古に来たことぐらいしか・・・。さくらが私の事をどのように云っているにせよそんなことぐらいで他人に八つ当たりするような奴じゃない。そもそも朋美との間にトラブルになるようなことは全く想いつかない。高大校では西経は明星に完敗したのだ。たとえ逆だとしてもそんな事でへそを曲げるようなことはありえない


「さくら。なんで監督はストレスをぶつけているようだって感じるの?」


「私が高大校が終わってから西経に行きたいようなことを云ってから何か私に敵愾心と云うのとは違うけど・・・でもそれが原因でしか考えられない。私が倉橋監督の下で相撲をすることは許せない見たいな。でもそんな事今までなかったわけではないしその時はあんな態度取らなかったのに急に・・・」とさくらは顔を手で覆ってしまった。


 真奈美はてっきりさくらが代表に選ばれてそれで気合が入り過ぎて稽古が厳しくなってしまっているのではと想っていたがそれは全くの的外れだった。稽古が厳しくなりその中でのさくらの言葉が朋美の私への苛立ちを助長したと云えなくもない。それにしても・・・・。


「さくらが想っている事を確認する意味でも明日明星に行くからもう時間も時間だし家まで車で送るからそれでいい?」


さくらはおもむろに立ち上がるとベランダ方向へ歩き出しサッシのドアを開けベランダに出て名古屋の夜景を見ている。真奈美はその姿をリビングからぼーっと見つめながら何とも云えない気持ちになっていた。


(私が朋美をイラつかしている?何を?)


 真奈美もベランダに出る


「さくら、もう時間も時間だし家まで送るから。ねぇ」

「・・・」

「さくら」

「泊っていってもいいですか?」

「なぁに云っているのよ良い訳ないでしょ明日学校だしとにかく寒いから部屋入って」と真奈美はさくらを部屋に入れる。


 リビングテーブルの上においてあるさくらのスマホが着信を知らせている。


 さくらはおもむろにスマホを取る。


(圭太・・・)


 さくらはスマホを持ち再度ベランダに・・・・。


 真奈美はソファーに座りさくらの様子を窓越しに見ている。


(さくらの過剰なまでの思い過ごし?)


真奈美自身どうしても思い浮かぶことができない。少なくとも朋美に恨みを買う様なことは一切ない。さくらの云っていることが本当だとしてなんで私に云わない。


 ベランダの窓が開くと救急車のサイレンが聞こえてくると同時にさくらが入ってきた。


「監督。もう帰ります変な事云ってすいませんでした」とさくらは頭を下げる

「今度ゆっくりとねぇ。その時はちゃんと泊りの用意して来て」

「わかりました」


 真奈美の運転するレガシィは東海北陸自動車道を一路岐阜方面へ本当は車内で色々話を聞くつもりだったがさくらは助手席でぐっすりと・・・。少し安心でもしたか表情は穏やかに戻っていた。ちょっと子供ぼっいさくらの表情は何か微笑ましく見える。


「さくら」と軽く肩を叩くと少し寝ぼけ眼な顔をしながら

「あっ・・・はい着きました?」

「着きましたって私さくらの家は知らないんだから・・・金華山下のトンネル手前よ」

「あっ・・・はいじゃトンネル出て小熊町の信号の手前を右へ」

「わかったわ」


 車は信号手前を右に曲がり金華山沿いに道なりに進んでいくそして大きな広い通りに右手には百川神社の参道が続いている。


「大きな神社ねぇ」

「百川神社って云うんです。毎年相撲大会があってここの相撲場が私の原点何です。ずっと無敗だったんだけど小6の時初めて負けて・・・ここに毎朝お参りして学校に行くんです」

「そう。さくらの原点はこの神社なんだ」

「あの橋を渡ったら止めてください。そこからすぐなんで」


 真奈美は橋を渡り車をUターンさせ車を止めた。


「それじゃさくら明日明星に行くから」

「はい」

「圭太君からの電話以降ずいぶん元気になったけど・・・」と笑いながら

「あぁなんでしょうと」と照れ笑いしながら車を降りるさくら。


 さくらは車から降りると一礼して自宅の方向へ真奈美も車を発進させる。橋を渡り神社の参道が見えるとおもむろに参道に車を向けた。そして坂を上り駐車場に車を止め。境内を歩くそして暗がりの中に立派な土俵が・・・。


 すでに時刻は午後10時をゆうに回っていた。


 土俵は神様の宿る場所と云われている。


「神様の宿る場所か・・・・」と土俵を見ながらつい独り言を言ってしまう真奈美。


小学生から初めて四十年。信じられないことに相撲に携わって途切れていたのは濱田と籍を入れていた数年だけ。


 愛媛県大三島の大山祇神社(おおやまづみじんじゃ)で奉納される「一人角力」(ひとりずもう)と云う神事が毎年行われている。独り相撲の語源はここからきているとされている。


 土俵の上で見えざる稲の精霊と力士が相撲を取り二勝一敗で精霊が勝つことになっていてそれは豊作祈願の大事な儀式なのだ。何も知らない人が見れば誰にも見えない精霊と相撲を取ると云う誠に滑稽と云うか・・・エアー相撲と云うべきが・・・。独り相撲とは誠に的を得ている表現なのだ。


 (自分も独り相撲をいつのまにか取っていたのか・・・・・)


 明日、明星に行って朋美と何を話すべきなのか?今の真奈美にはそれすらも想いつかないほど心はバタバタしてまるで見えない何かに慌てているようにそれはまるで独り相撲のように・・・。





 


 



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