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女力士への道  作者: hidekazu
相撲との出会い
9/312

相撲クラブ②

「なんか近所を映見とこうやって歩くの久しぶりだな」

「そうだねぇ出かけるときはいつもは車だし」

映見はバレー部で使っていたトラムバックを肩にかけ啓史の脇を

「手つなごうか」と父・啓史は自分で云ったことに照れながら

「子供じゃないんだから」と映見に一蹴されてしまった。「」

 10月に入り日没の時間も5時過ぎるとだいぶ陽は傾きながらも西日は二人の背中を暖めその前に長い影を描いている。開業医としての忙しい日々にかまけて子供にはあまり構ってこなかった。


 年の離れた兄貴は今、奈良の全寮制の高校に通っており今は娘と夫婦二人の三人暮らし。


 さすがに兄が家を出ていった時の映見の意気消沈ぶりにはさすがに色々な意味でつらかった。バレーボール部をやめたのもそのせいだとは思うが敢えて聞くことはしなかったが・・・・。


 そんな映見が広報紙に記載されていた相撲クラブの案内に興味を持ったのには少々意外だったが熱中できるものを見つけられたことは親としてはうれしいしそのことが生きる糧になるのならできるだけの応援をしたいのはどこの親も同じだか・・・・さすがに相撲に興味を持つとは考えもしなかった。


 自宅から歩いて15分。羽黒中央公園の一番奥まったところにあるのが相撲場である。地元有志と市・県の補助を受けながら作った相撲場ちゃんと四本柱に屋根もある本格派でとても手作りとは誰も思わないできである。すでにクラブの部員達が準備運動をしている。屋根下にスポットライト完備され豆力士を照らしている。それをじっと見ている映見。


「どうも」と体格のいい青のベンチコート男性が手を上げながら

「稲倉、久しぶりと云うか中学以来だから30年近く前になるんだねいゃー本当にうれしーよ」

30年ぶりにあった濱田は腹が出て叔父さんなんだがそれでも元大学生横綱になったこともある光はやっぱりその辺の叔父さんとは違うのだ

「本当に久しぶりなんか信じられないよ」

二人はお互い無意識に右手を差し出し握手をした。皮の厚い大きな手。握り返してくる握力の力は強くざらついていた。

お互いしばらく無言になってしまったのはなぜだろう? 言葉はいらなかった。啓史にとっては・・・。


「ところで見学したいと云う娘さんってあなた?」

「はい」と頭を下げる映見

濱田はぱっと映見を見ると

「体格いいねぇ。何かスポーツしてた?」

「水泳やってハレーボールをしてました」

「してましたって云うと今はやってない?」

「はい。今は」

映見はちよっとうつむき加減に答えると啓史が

「まぁ色々あって」

「名前聞いてなかったんだけど」

「稲倉映見と云います」

「映見さんですね。ようこそ羽黒相撲クラブに・・・ではどうしようか見てるだけと云うのも面白くないからちょっと体を動かしてみますか?」

映見は啓史を目で何かを云いたそうな顔を訴えかけてくる。

「映見が見学したいと云って来たんだから自分で考えなさい」と云われた映見は

「やりたい」と・・・・。

「そうだよねせっかく見学しに来てくれたんだから実際やってみてそれで入部するしないを決めてください。じゃどうするかなー」と辺りを見回して

「絵里!ちよっと」と一人の女子部員を呼び寄せた。

「先生なんでしょう?」映見より一回りは大きい体に黒のレオタードに黒の白の廻しが映える。

「絵里、体験希望者の稲葉映見さん。体動かしたいそうだからストレッチ手伝ってあげてくれ」

「わかりました。初めまして鷹村絵里中二ですよろしくね」

「稲倉映見です小5です。お願いします」と云うと映見は絵里といっしょに土俵の奥に行き敷かれたマットの上でスレチを始める。


 啓史は土俵から少し離れた場所にあるベンチに座り映見の様子を見ながらも関心は濱田に行ってしまう。土俵脇に立ちながら豆力士たちの様子を見ながら身振り手振りを加えながら指示をする。その顔は中学時代には見たことがない穏やかな顔。


啓史が中学生の頃には歩いて十分ほどの神社に土俵があって幼稚園から中学生までの子供達が集まり相撲をとっていたことを思い出す。男女関係なくやってたものだ。小学生の頃は低学年以下ならまだ女の子の方が成長が早い分力が強く男の子であっても意外とあっけなく投げられたり転がされたり・・・啓史も町内会のお祭りの一環で神社の相撲大会に出たことがあったが見事に女子に転がされていたことを思い出す。濱田も実はこの相撲クラブにいたのだが全くわからなかった。そもそもクラブに所属していなかったし相撲にも関心なかった。それを知ったのは中学で同級生になった時だった。


「啓史、みんななかなかいっちょ前だろう」と云いながら啓史の横に座る

「彼女、中学生なんだよなぁ」

「絵里ちゃんのことか」

「やぁ中学生の女の子も相撲するんだと思って・・・・」

「俺らが中学の時はだいたい小学生までで中学生はいなかったなぁー今は世界的に認知されていて日本よりも海外の方が盛んなんだよ」と云いながら映見と絵里の動きを見ている。

「彼女、全国大会でも入賞するぐらいの成績だから・・・まぁウチの女ボスみたいな存在だよ」と笑いながら

「強いってことか?」

「強いよ。小5に甲斐って云うのが居て・・・あのちょっと小太りの奴」と指をさす。

「県大会では負けなしなんだけどそれでも絵里には勝てないんだよその上口でも勝てないんもんだから絵里ちゃんに対しては絶対服従」

「弱肉強食の世界だねぇ」

「そんな大げさな話じゃないがいくら年上といえ女子に負けるのにはやなんだろう子供ながらにプライド持ってんだよまして小5クラスの県大会で優勝していても負けて当然なんだけど」


 土俵の上では上級生が下級生胸を貸す。


「濱田が地元に戻っていた何って待ったく知らなかったけどいつ?」と啓史

「十年ぐらい前かなちょっと色々あって実家に戻ることにね。前の家とは違うとこに住んでいるけど」

「東京でコンピューター関連の会社を起業して結構メディアとか出てたから・・・・」

「東京の会社は新しい後継者にすべて託した。今は中小零細がお客さんの小さなシステム開発会社立ち上げたんだまぁそれなりにやってるし」


 土俵上では豆力士達の稽古が続く、土俵の向こうでは映見が絵里相手に押しの練習でもしているように見える。

 

「それで暇な時は子供の相撲教室の先生かなんか理想的じゃないの」

「相撲教室なんかやろうなんって全く考えたことないよ。今回は以前、市関連の仕事でお世話になった方に偶偶会ってその流れでなんかこうなってねぇー。相手は俺が相撲やっていたこと知っていたし、市県や市のスポーツ事業の一環でこの羽黒中央公園にスポーツ施設を集約したというなかに相撲場も入ったんだが依然やられていたクラブの先生が体調不良で後継を探している時に偶偶俺が捕まってしまったと云うのが正しいんじゃないの」と云いながらまんざらでもない。


「こっちに戻る理由なんかあったのか?」

「母、ちよっと認知症ぎみでなぁ生活に支障が出るわけではないが一人だし年も年だし」

「そ云うことか・・・まぁ俺も医者だからなんかあれば協力するよ」

「あーそうだたなぁ啓史医者だったんだ。忘れてたわ」

「馬鹿にしてんだろう」

「少なくとも俺は医者の息子よりは勉強できたことは事実」

「それは認める」


 土俵の向こうで映見と絵里が何やら話をしていると云うよりも何か揉めていると云った感じ。しばらくして絵里が俺たちの方にやってきて先生である濱田に


「先生、映見ちゃんが土俵で相撲がしたいと云うのですが・・・・」と何か困った表情で・・・

「あぁーじゃー絵里お前が相手してやってくれそこはうまく手加減していつものようにいきなり土俵で相撲とかは取らしたくないが形ぐらいならいいだろう」

「それが・・・」

「何か問題あるか?」

「甲斐とやりたいと・・・・」

「甲斐って・・・」

「先生、甲斐って云ったら和樹に決まってるじゃないですか何ぼけてるんですかまったく」


 小5クラスで県大会予選で優勝。全国大会四位入賞のクラブにおいての小学生横綱とも云える男の子である。


「映見ちゃんは知っていてそう云ってるのか」

「クラスメートだそうです」

「・・・・・入部体験ってそれが目的か」と濱田は困惑気味

「啓史、甲斐和樹って知ってるか?」

「あぁーすまんその辺は妻任せだから・・・」


濱田は土俵を見ながら・・・

「和樹! ちょっと来いと」手で呼び寄せる。

ちょっと小太りないかにも力士みたいなその少年ではあるが下半身の筋肉は普通の小学生とは明らかに違う地に根付いているような・・・

「稲葉映見ちゃんがお前と相撲を取りたいそうだがどうする?」

「はぁー何考えてんだあいつ」と云いながら何か落ち着かない。

「おまえなんか映見ちゃんにしたのか?ちゃんと答えろよ。名指しでしかもお前が全国大会に行くほど強いってことを知っていてお前を指名したんだから」

「・・・・・・」

「和樹!」

「あいつが羽黒相撲クラブに入りたいのだけどどうなのって聞くから・・・・」と云いながらなんか落ち着かない。

「聞くから何!?」

「入らないほうが良いって・・・・」

「お前、自分で相撲やっていてこのクラブに入っていながら入らいないほうが良いってどう云うことなんだよ。云い方次第では許さないからな!あっ!」語気を荒げる濱田

「何声荒げてるんだよ小学生相手に全く。悪かったな映見のクラスメートなんだよね」

「そうだけど・・・オジサンさん誰?」

「誰じゃなくてどなたですかとかどちら様ですかとかあるだろ聞き方が」

「何もそんなこと子供に云ったってしょうがないだろうよ・・・・たくっ・・」

「オジサン映見の父親なんだよ」

「えっ・・・・」別に意識しているわけではないのに・・・

「映見となんかあった?」

「・・・・・・」和樹は口を噤んだまま

「別に映見と相撲取る必要ないからいきなり来てクラブの横綱である和樹君と相撲を取らせろって無謀以外のなにものでもないし相撲を一度もやったことがない女子とやりたくないのはよくわかるから」と子供相手に気を遣う啓史。

「相撲やってもいいです」と和樹はぽつりと

「うーん・・・」と濱田

「・・・・・・」

「やらなくていい。やらなくても結果は見えてるし下手にやって怪我なんかさせたら和樹だっていやだろう。お前の強烈な突っ張りや投げなんか本気でして見ろ」


 啓史は二人の話を聞きながら土俵向こうの映見がこっちを向いて四股を踏んでいる。


「絵里、映見ちゃん連れてきて」と濱田

しばらくしてこっちへ来ると和樹の隣に立って

「映見ちゃんは和樹のことよく知っているんだよねぇ?相撲強いこと?」

「知ってます。県大会優勝・全国大会にも入賞してることも」

「だったら普通はやらないよね。向こうで土俵上の稽古見ていてた思うけど相当激しく当たるんだよ下手すると土俵の下に落ちて怪我するかもしれないそうならないためには相撲の稽古では、まず基本運動と呼ばれるものを行います。 基本運動の主なものとしては「四股」「鉄砲」「股割り」「すり足」ができるようになってから「申し合い」や「ぶつかり稽古」と云うのがあるんだ。稽古だってあまり実力差があったら稽古にならないどころか怪我をさせてしまうことにもなるわかるかな」諭すように濱田が説明すると和樹が

「先生、俺は寄り切り以外の技を使わない。だったら怪我もしないそれで映見が納得するならやってもいいよ」

濱田がしばらく考えながら

「映見ちゃん寄り切りってわかる。わかります勉強してきましたから」

「ほー・・だったらそれでいいかい普通は絶対こんなことはさせないけど」と一呼吸おいて

「啓史いいかやっても」

「どうしてもやりたいらしいから・・・」

「絵里、映見ちゃんに簡易相撲褌締めてやれそれと行司やってくれ」

「先生・・・」

「和樹、寄り切り以外は絶対使うな自分で云ったんだから絶対守れ」とそれだけ云うと

「絵里、映見ちゃんの準備できたら土俵に二人上げるから」

「先生・・・」と心配そうな

「お互い納得したんだから」


夜空に満天と輝く星空の下で二人のあまりにも無謀な取り組みが始まろうとしている。









 

 



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