ついていけない ①
のぞみ444号は定刻通り新大阪を19時6分に出発。9号車のグリーン車に映見とさくら。通路を挟んで向かい側の席に真奈美。ちょっと離れて和樹と圭太が座っている。日曜日の東京行きはほぼ満席状態。
映見は窓側さくらは通路側に座り駄話に花が咲く。
「さくらに男がいたとは意外にも・・・よりによって女子大相撲見るために大阪まで来るとは」
「映見さんだって彼氏と来てるじゃないですか」
「さくらにしては意外と云うことよ。それになんか随分おしゃれと云うか可愛い系の見た目だし」
「似合います。私が考えたんですよこのコーディネート」
「(* ̄- ̄)ふ~ん」
「なんか云いたそうですねぇ」
「別に・・・」
新幹線は京都駅に到着。
「映見さんだって・・・でも綺麗系だと思ったけどなんか違うと云うか」
「クールビューティーと云ってくれるかなそれとなんか違うって何が違うのよ」
「クールビューティー???・・・・でも・・・」
「でも何?」
「クールビューティーって感情の起伏や表情の変化が少なくていつも落ち着いて冷静とかですよね。でも今日のあれはなんか感情むき出しと云うか・・・」
「今日のあれって?」
「決勝戦の時の・・・・」
「わかってないなぁさくらは」
「何がですか?」
「真のクールビューティーは普段は冷静だけどいざとなったら興奮して魂が熱くなるのよ」
「はぁーでもかっこよかったと云うかなんか男って感じで・・・」
「私、女なんだけど」
通路を挟んで向かいに座っている真奈美は目を瞑り寝たふりをしながら聞いていた。
(まったく。どうでもいい話を・・・。)
真奈美からすれば二人がよりによってこのトーナメントを見に来たうえに彼氏を連れてやってきたというかちゃんと恋愛していることが意外なのだ。二人とも相撲のことしかないと思ったがやることはやっているとそれはそれでまぁ安心と云うわけではないが青春してるんだと・・・。
真奈美にとっての今日の出来事は相撲をやっていて一番興奮したのと同時に初代絶対横綱である妙義山だった山下紗理奈さんと本物の土俵で相撲がとれたことは一生涯忘れることはないだろう。最初で最後の・・・。
三人から離れた場所に和樹と圭太は座っている。なんでこうなったのかと云えば単純に映見とさくらが話をしたかったから・・・。ある意味邪魔扱いの男二人は何話す?
「和樹さんって映見さんと付き合い長いんすっか?」
「小中同じ相撲クラブだっただけ」
「今はどうなんすっか?」
「暮れに久しぶりに会ってそれからと云うか本当のところはよくわからん。圭太は?」
「相撲の稽古相手です。高一からの・・・」
「稽古相手ねぇ。なんかありそうな話」
「なんか最近、妙に気になってそれでなんか成り行きで大阪までデートと云うか・・・」
「さくらさんって子供ぼっく見えるけど高校女子では無敵なんだろう」
「まぁそれで代表に選ばれたんでしょうけど本人より監督の方が舞い上がっていて・・・」
「舞い上がるって?」
「稽古が異常にハードで正直さくら調子としては最悪というか精神的に参っているって感じで・・・」
「だったら監督に云うべきでしょ。いまどき根性論でもないだろうし」
「このまえその事で監督に意見したら無茶苦茶怒られてさくらが止めに入ってくれたんだけどなんか・・」
新幹線は左手に暗闇の琵琶湖を望みながら一路名古屋へ・・・。
「そんで調子はどうなのよさくら?」
「調子ですか?・・・・」
「なんか気の抜けたような返事ねぇ・・・と云うより少しやせた?」
「はぁ~・・・正直疲れてます色々と・・・」
「おいおいこの場に及んで疲れていますって・・・さくら二週間後何ですけど大会は・・・わかってます?」
「映見さん元気ですよねぇなんか心身ともに充実していると云うか・・・高大校の時よりなんかリラックスしていると云うか私、正直云うと辞退したいぐらい調子悪いです心身ともにボロボロと云うか」
正直あまりにもストレートの物言いにびっくりしたと云うか・・・。
「さくら少し稽古がオーバーワークなんじゃないのそんな弱気のさくら初めて見るよ」
「もしできれば少し休みたい・・・明日の稽古を考えるともう学校も行きたくないって云うのが正直な気持ちなんです。こんな気持ち今までなかったのに・・・。」
「さくら・・・」
通路向かいの席で寝てるふりをしながら側耳立てる真奈美。
(朋美。あなた何やっているの?さくらをここまで疲弊させてあなたらしくないでしょ?)
自分も若い頃は部員達に無理をさせた。大会で好成績を上げれば上げるほど慎重にならなきゃいけないのについ勢いでいってしまった。その勢いに部員達がのせられて・・・。島尾朋美も実力以上の相撲をしている事に気付かず潰してしまった。そのことは私以上にわかっているはずなのに・・・。
「たまにはいいんじゃないのさぼっちゃえば」
「他人事だと思ってますよね」
「環境変えてみたら?」
「環境?」
「たとえば・・・稽古場所変えるとか?」
「稽古場所?」
「西経に出稽古に来るとか?」
「行っていいんですか?」
「まぁそれは向こうに座っている人に聞かないと行けないし当然さくらの監督にも・・・」
真奈美は相変わらず寝たふりをしながら側耳を立てているが・・・・。
(別に私は構わないけど朋美は納得しないでしょ)
「だったら私が行っていた相撲クラブで調整したら?」
「相撲クラブ?」
「私の家の近くなんだけど・・・あれ確か知ってるよねぇ?」
「確か公園の中にある?」
「そうそう。実は私も色々あって年明けサボってそこで稽古していたのよ。濱田先生なら色々アドバイスしてもらえると思う」
「でも・・・」
真奈美にとっては聞き捨てならないと云うかまたそんなことを・・・・。
「さくらの学校は大垣だからそっからだと一時間半ぐらいかかるけど気分転換になるしそうそう女子中学生だけど有望選手がいて阿部沙羅って云うんだけど県内では無敵。全国大会もいいところまでいってるのよ稽古相手ぐらいの気持ちで行ってみたら?」
「でも・・・」
その、時前の座席にくっついているテーブルに置いてあったさくらのスマホがバイブレーションする。さくらはその画面をチラッと見るとスマホを取らずそのまま放置。
「さくら取らないの?」
「間違いみたいだから・・・」
しばらくして再度バイブレーションする。さくらの様子は明らかにおかしい。映見は悪いと思いながらもスマホの画面を覗く。
(島尾監督・・・)
「何で勝手に覗き込むんですか!」と怒るさくら。
「ごめん。ただ・・・」
「どうせ今日の米原短大と岐阜商科大学の合同稽古に参加することを断ったことをネチネチ云ってくるのがわかるからもう今日は出る気ありませんから・・・」
「さくら・・・でも監督からなんだから内容だけでも聞くのが・・・」
「映見さんには関係ないことです。黙っててくれませんか!」
「さくら・・・」
スマホのバイブレーションが止まる。
真奈美は寝たふりをしながら二人の会話を聞いている。
(合同稽古?そんな予定があったの?)
普通のさくらの状態なら多分トーナメントより合同稽古を取ると思う。一人で西経に出稽古に来るぐらいなんだから・・・。もしかしたら自分も朋美のように思われているかも知れない。部員全員に好かれようとかは思わないが少なくともお互いある程度理解出来合うぐらいの関係は作りたいと・・・。
ふたたびさくらのスマホのバイブレーションが・・・・。
さくらが前を見据えたまま取る気配はない。隣でその様子に困惑する映見。テーブルの上でさくらのスマホが振動で動く。さくらは微動だにしない。その時、右から手が伸びさくらのスマホを真奈美が取ったのだ。席を立ちスマホを持ったまま後ろのデッキの方向に・・・。
「監督ちょっと・・・」とさくらは真奈美の後を追うそして映見も・・・。
真奈美は降車扉の側にたち耳にあてた。近くで心配そうに様子を見る。さくらと映見
「さくら、稽古断って大阪で女子相撲観戦。随分余裕なのねぇ色々な意味で・・・」
「・・・・」
「だんまり。別に構わないけどそれと稲倉映見も観戦に来ているのねぇ。偉そうに野次飛ばして・・・。それとテレビでは放送されなかったけど倉橋監督も・・・」
「・・・・」
「私の指導方法に不満があるのならいいわ別に・・・そこまで倉橋監督に心酔しているのなら西経に出稽古でも行きなさいよ。高大校の時のあなたを見てもっと飛躍できると思ったのに・・・残念」と朋美の小馬鹿にしたような喋り方に真奈美は我慢できなかった。
のぞみは関ケ原を超えて岐阜県内へ名古屋へはもう少し。
「お前は部員に対してそう云う物の云い方をするのか」
「誰?・・・・倉橋監督?」
「さくらの様子にお前は何も感じないのか?」
「少し調子は落としているでしょうけどもこれぐらいのことは倉橋監督だってやってらしたんでわないでしょうか?私は潰れてしまいましたが・・・」
「朋美・・・」
「今日は米原短大と岐阜商科大学の合同稽古に参加させてもらうことで話ができていたのに大事な用事があるからって・・・それが女子大相撲トーナメントに行くためだった何って、監督が誘ったんですか」
「だったらなんだ」
「西経に入れるための布石ですか?」
「朋美、本気で云っているのか?」
「失敗してますしね。一度・・・・」
「・・・・」
あと十五分後で名古屋に到着する。
さくらは真奈美の話しぶりから何かを感じてしまったのか映見に抱かれるように顔を沈めている。
「・・・・」
(朋美。どうしちゃったのよ・・・・)




