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女力士への道  作者: hidekazu
女子大相撲トーナメント

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アマチュアの強みプロの弱み ⑤

 力士控室では百合の花と伊吹桜以外の三役は風呂に入り上がってすでに宿泊施設に帰ったものが殆どであとは付き人なりが明け荷の整理なりをしている。


 先の決勝戦のリプレーを見ながら二人は談義と云った感じで・・・。


「映見、本当に余計なと云うか何考えてんだがまったく!」伊吹桜は映見の行動に怒りが収まらない


 それを隣でモニターを見ながら思わず笑みを浮かべてしまう百合の花。


「横綱。何がおかしいんです。私は真剣なんですよ!見たことも聞いたこともないですよ取組中に観客の野次めいたことで止める何って!よりによって世界大会の代表であげくに西経の相撲部員なんって・・・あぁもう映見の馬鹿さ加減には呆れたわ全く」


「まぁー確かに聞い事はないけど・・・ところで十和桜は何を云ったかだが・・・」と百合の花


「少なくとも私は聞こえなかったしそもそも本当に十和桜が桃の山に対して何か云ったのか・・・なんかそれさえも私には疑わしく思えてきましたよ」


「ただあれだけはっきりした行動をしたんだから空耳でしたなんってことはないだろう。あの睨みつける稲倉の顔。なんか男気全開みたいな・・・」と云いながら百合の花の表情が緩んでしまう


「横綱ふざけてます?本当だったら今すぐ升席行って説教したいところいですよ」


「そんな目くじら立てるあれでもないと思うが十和桜が稲倉に向かってあんな牙を剝くような表情からすれば何か云ったのは間違いないだろう。十和桜もいい加減にしないと本当に孤立するぞ。挑発することも一つの戦い方もしれないが・・・十和桜はあれだけの体格しかりパワーもあるしそれを生かすために相撲自体にもっと精進すれば強い力士になれるのにもったいないと思うがそれはこっちが云う話ではないしそのことに自分で気づかなければ・・・」


 十和桜の付け人が明け荷の整理をしているところを見ると風呂に入ってもう帰ったようだが・・・。


 モニターには桃の山が勝利インタビューを受けている映像が流れている。表情はけしてうれしさいっぱいのと云う感じてはないが・・・。


 その時、控え部屋に技術指導部 部長 長谷川璃子が映見をつれて入ってきたのだ


「長谷川部長・・・って映見?」と伊吹桜


 モニターを見ていた百合の花も二人に目を向ける。


「十和桜はどうした?」と璃子


「十和桜はもう帰ったようです。付け人が明け荷の整理をしてもう出ていきましたから」と伊吹桜


「そうか・・・。稲倉が二人に謝罪したいって云うんで連れてきたんだが帰ったならしょうがない」


「映見。謝罪って何?」と伊吹桜


「決定戦での私の行動のことで・・・」と俯いたままぼそぼそと・・・


「だいたいあなたはどう云う神経なんだかあなただって相撲やっているんだからわかるでしょ?よりによって女子大相撲で」

「稲倉」と百合の花が伊吹桜の説教を遮った


「はい」と映見は百合の花を真正面に見据え


「十和桜は何を云った?」


「・・・答えたくありません」


「あんたねぇ!横綱が聞いているのに答えたくないって何様のあなたはいいかげんに」

「答えたくない理由は?」


「桃の山関の名誉のためです。どうしてもと云うのなら桃の山関に聞いてください」と映見はきっばりと

「あんた!横綱に対して何って言いぐさなの謝りなさいよ横綱に!」と激怒する伊吹桜


「わかった。そこまで云うのなら聞かない。桃の山をよっぽど傷つけるような言葉なんだろうもうこれ以上は聞かない」


「横綱。映見を甘やかさないでください!あなたはこのトーナメントという大事な大会に泥を投げたのよ。わかってるの」


「もういい伊吹桜」


 その時、桃の山が付け人といっしょに入ってきた。


「長谷川部長・・・あっ」と桃の山は映見に気づく


「こちらは西経大の稲倉映見。世界大会のアマチュア代表だまぁそんなことよりさっきのことだけど稲倉が桃の山と十和桜に謝罪したいと云うから連れてきた。十和桜はもう帰ってしまったらしいのだが」


「謝罪って?」と桃の山


「私・・・」


「さて、上がるとするかな。なぁ伊吹桜」


「いやまだ映見の謝罪を聞かなきゃ」


「上がるよな伊吹桜!」と百合の花は伊吹桜を軽く睨みつける


「わかりました」


「それと部長もですよ」


「なんで?」


「長谷川部長」


 三人は力士控え部屋を出る。他の力士の付け人は多少いるが・・・。


 二人はコの字の座敷上がり一番奥の縁に桃の山が座る。映見は桃の花の前に立つ


「今日は大事な決勝戦を私の一言で壊してしまいました。すいませんでした」と頭を下げた。


「私、相撲の流れを変えてしまった。十和桜関の挑発も一つの勝負なのに・・・ただあの言葉は許せなかった。同じ相撲をしている者として・・・だから!」

「なんって聞こえたの・・・」


「それは・・・」映見はその言葉を本人の前では云いたくなかった。


「忖度横綱・・・でしょ?」と桃の山は映見を見ながら


「横綱・・・」と映見は悲しい表情になる。それを横綱自身が口にしたことに・・・。


「陰ではねぇ云われていると思う。そのことは覚悟していたから・・・ただ土俵の上では云われたくなかった。あの場所だけでは・・・。あなたの一言がなかったらとんでもない間違いを犯していたかもしれない。それほどまでに私は動揺して怒りが沸騰していたから・・・だから私があなたに感謝しなきゃいけないのかもしれない」


「横綱・・・感謝だ何ってそんなこと全然想っていないし・・・」


「但し、クズ力士はいただけないわ。たとえどんな相手であろう女子大相撲力士であることは変わりがない。だから十和桜関に対してクズ力士は絶対許せないわ」と桃の山は映見に対してきつくしかったのだ。


「でも・・・」


「絶対横綱だった葉月山さんや百合の花さんだったら何か云われても顔色一つ変えず相撲を取るのでしょうねぇ・・・その意味では私はまだまだ横綱の器どころか三役もおこがましいのよ」


「横綱そんな云い方は・・・」


「でも今日の取り組みは私にとって財産になった。自分の未熟さを改めておもいしらされたのと稲倉映見という女子アマチュア相撲女王の精神的な凄さを知れた事・・・。そんなあなたと今度の大会に一緒に出れることが凄い楽しみになった」


「とんでもないです。ただ私は自分の感情だけで突っ走て・・・精神的にうんぬんじゃないですから・・・それにさっき伊吹桜に激高されて」


「伊吹桜関は姉御肌だからねぇ。下のものにも上のものにもみんなから頼りにされているし・・・でもそれが原因で出世が遅れているって影で云われたりしていたりして・・・でもみんなから信頼されてる私も見習わなきゃいけない人。でも怒らせると恐ろしいけどねぇ」と桃の山は笑いながら


「確かに、でも伊吹桜関はちょくちょく西経で稽古をつけてくれたりするんで部の仲間からも信頼されてます。監督も信頼しているし、そこは見習いたいけどなかなか」と映見も笑う


「まぁそれはともかく。今日のことは今日でお終い。次は世界混合団体戦に気持ちを切り替えていくわ。もちろん稲倉さんもねぇ」


「あっはい」と映見は返事をすると控え部屋全体を見回す。本当なら幕内力士がいるのだろうがもうすでにほとんどの力士は帰路に・・・。


「ここで出番を待つのですね」

「えぇここの一番奥には横綱が座るの横綱が休場していても誰も座ることはないわ。そこは横綱の聖域だからねぇ」

「そうなんですねぇ」


 映見は二人しか控え部屋のこの雰囲気がすごく気に入っていた。何か厳粛な雰囲気に・・・。


「忖度横綱って近からず遠からずとも云えなくもないの・・・」


「えっ?」


「絶対横綱の葉月さんに子供の頃から色々可愛がってもらっていたのよ。小学生の頃から女子大相撲に行きたいって思っていたけど母は絶対反対だったの・・・。多分今日の様なことを考えていたのよねぇだから私が相撲をすることを許さなかった。


 でもその想いは高校生の頃にはもう抑えきれなかった。そんな時に当時現役の力士だった葉月山関に稽古を付けて欲しいってお願いしたの当然最初は断られたは私が母親から相撲禁止令が出ているんだから当然そのことは知っている。でも私も頑固だからしつこいくらいにお願いして・・・陸上競技もやっていたから大変だったんだけど葉月山関の時間があるとき稽古をつけてもらった深夜とか早朝とか月4-5回かな・・・。正直死ぬかと思うぐらいきつかった。そのことで私をあきらめさせるって云う作戦だったのかもしれないが私も死に物狂いで耐えた」


「そんなことが・・・」


「入門した後は葉月さんは私が三役まで上がるまで口も聞いてもらえなかったの」


「厳しいですねぇ」


「それが当たり前なのよ。幕内に上がる前にちょと苦労した時があってそんな時に横綱に上がったばかりの百合の花さんが声をかけてくれた。面識は全くなかったしましてや横綱が三役にもなっていない私に声をかけてくれた。少し腐りかけていた私に・・・二人の大横綱に助けられていたことを事実。でもそこには忖度なんかないそれは信じているしもしそうなら私はもう相撲やめるわ」


「そんな方ではないです両横綱は絶対。私、葉月山さんに一回だけ稽古つけてもらったことがあって・・・」


「へぇーって葉月さんが現役の時?」


「一か月ぐらい前に西経の相撲場でその時に代表の打診があって・・・」


「当然私が勝ちました。と云いたいとこですけど本当は加減してくれたのかなぁと・・・」


「椎名さんの気持ちはまだまだ絶対横綱の葉月山なんだねぇ」と考え深げな桃の山。


「今週の合同稽古でまた会えるんですよねぇ?」


「当然じゃない。稲倉さんには私は大きな貸しを作ってしまったからそれをちゃんと返さないと」


「貸しって・・・私そんなこと全然思っていません」


「でも私にとっては貸しだから・・・貸しは稽古で返すわ」


「稽古?」


「どっちかが音を上げるまでやってあげるわ」


「えっ・・・なんか違う様な?」


「死ぬ気で合同稽古に来なさいよ」と笑う桃の山


「まだ死にたくはないですけど」と((´∀`))映見


 稲倉映見と桃の山は二歳しか離れていない。姉妹と云われても何ら不思議ではない。ただ相撲の経験では映見の方が圧倒的。アマチュア相撲の経験がない桃の山にとっては真剣勝負であるにせよ楽しむ相撲は経験できなかった。プロは成績が伴わなければ引退すなわち死を意味しもう土俵に上がることはない。

 

 アマチュアの強みプロの弱み。映見の屈託のない笑顔を見ていると正直羨ましく思えてくる。真に相撲を楽しんでいるようで・・・・。








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