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女力士への道  作者: hidekazu
女子大相撲トーナメント

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アマチュアの強みプロの弱み ①

「もし、私との一緒の観戦が気分を害するのなら退席しますが?」と璃子は普通の表情で云うと真奈美は苦笑いをしながら・・・。


「相手の出端を挫く云いまわしは往年の藤の花ってところですか?」と笑いながらも璃子を睨みつけるような視線で・・・。


「さすがは倉橋監督と云っておきましょうか」と璃子も笑みを浮かべる。


「私も長谷川さんとは話をして見たいと思いましたし」

「それじゃ」と璃子は真奈美の横に座る。


 トーナメントは総勢24名でおこなわれていく。二横綱四大関は順当に勝ちあがっていく。真奈美も指導者と云う立場でなかったら大声を出して声援するのだろうがどうしても相撲の見方が指導者目線で見てしまう。それでも部の選手達が出場する大会よりは遥かに気楽に見れる。対して横にいる璃子は厳しい視線で取り組みを見ている。若き横綱桃の山の指導者として評価は高く事実昨年の秋場所は全勝優勝をやってのたけた。


 桃の山はここまで相手に付きいる隙すら与えず勝ち上がってきた。


「昨年の秋場所の調子を維持していると云うか気持ちが充実していると云うか」と真奈美。

「桃の山は気持ちで相撲するタイプだから良い時はいいでしょうけどそこがこれからの課題です」と璃子。


 対して百合の花は当然のごとく勝ち上がっては来たがなにかピリッとしない。


 準決勝は青森出身の巨漢小結十和桜二十二歳が相手。高校時代は無差別級クラスで常に上位にインターハイなどでは無冠ではあったがシニアの全国大会では優勝したこともありその勢いで高校卒業後に角界へ・・・。まだまだ粗削りではあるが身長178cm・体重160㎏の体格から繰り出される馬力は角界一と云っても過言ではない。そしてその巨体からの押し相撲は横綱百合の花でさえ油断をすれば一気に持っていかれてしまう。


 両者仕切り線に・・・・。両者気合十分。


 両者睨み合っています。場内からは拍手が巻き起こる。そして、ついに時間となりました。はっけよい!!


 立ち合い一気に十和桜が馬力で持っていく。百合の花は完全に当たり負けて体が起こされなかにあっけなく入り込まれてしまった。なりふりかまわずガンガン前に出る十和桜。防戦一方の百合の花は得意の四つ相撲に全く持っていけない。なんとか捕まえようとしても連射攻撃は止まらず百合の花に少しの余裕も与えない。結果一気に押し込まれ土俵を割ってしまった。百合の花準々決勝敗退。


 絶対横綱の百合の花は若干二十歳の十和桜に完敗したのだ。館内に座布団が舞う。百合の花は特に表情も変えず土俵をおり東の花道へ消えていく。ある意味での大番狂わせと云ってもいい。勝った十和桜は土俵を下りるとしてやったりと云う感じの表情で西の花道へ消えていった。


「どう思います今の相撲?」と璃子は土俵見ながら

「私が云う事では」と真奈美

「そう云うのやめませんか」

「・・・・」


 璃子は大きくため息をついた。


「理事長が云っていたようにアマチュア・女子大相撲が対等な立場で切磋琢磨しさらに盛り上げていきたいと云っていたじゃないですか」


「それは・・・」


「女子大相撲は女子アマチュア相撲の上に成り立っている。プロとして相撲を取っている身からしたらそれに異論がないわけではありませんがプロとアマが対等である必要もあるのかと正直思っています。ただ今度の大会はそんなことも云っていられない。日本の女子大相撲だけでしょ一場所十五日制なんって他国はみんなトーナメント制でそれを年間6場所ぐらいして最後は上位者だけで最強を決める。理事長はそのことが気になっているようです」


「理事長が?」


意外だった。さっきそんな話微塵もしなかったのに・・・。


「ここのところの百合の花の相撲を見るにつけ腹が立つんですよ!。絶対横綱の称号なんか与えられるわけがない。トーナメント興行とは云えこんな相撲しかできないなんて」


「偉そうなことを云わしてもらえば気持ちの問題だと」


「葉月山ですか?」


「えっ・・・どうして!?」


 璃子に先読みをされたことに驚いた同時に相撲関係者もそう見ているのかと・・・。葉月山と百合の花の名勝負は女子相撲ファンならずとも熱狂して感動をくれた。葉月山に引退を決意させたのも百合の花との優勝決定戦だった。

 絶対横綱の称号は葉月山から百合の花へファンも葉月山引退後の女子相撲を背負っていくのは百合の花だと誰も疑わなかったがその後の相撲はファンを裏切るような形にそこへ若き横綱桃の山の台頭は一気に百合の花の評価を下げ当然人気も・・・。


「葉月山が引退して大きなライバルを失って心の中にぽっかり穴が開いたような・・・そんな言い訳通用するわけないでしょ?女子大相撲と云うプロフェッショナルな世界で何を甘えたことを!」


「百合の花には少し時間が・・・あれだけの偉大な力士と名勝負をしてきたわけですから喪失感と云うか・・・」


「本気で云ってます?」


「長谷川さんの云いたいことはわかりますが・・・」


「綱の重みと云うか・・・少なくとも百合の花以前の横綱はどんなに体力的に精神的に辛い状況下でも横綱としてファンや関係者を失望させるような相撲はしなかった。横綱は、全ての力士を代表する存在であると同時に、神の依り代 だと・・・それぐらいの気概が今の百合の花には全く感じられなくなった。


 日本は男子の大相撲があるからどうしても女子大相撲もそのような感覚になってしまう。外国のように単なるスポーツ感覚でと云うわけにはいかない。そのことは世界から見たら日本女子相撲の大きな弱点かも知れません。しかしだからと云ってスポーツとしての相撲には日本人は納得しないでしょう?


 この大会にこれだけの老若男女が来ていただいている。どちらかと云うと女性の方が多いかもしれない。単なる格闘系の試合が見たいのなら何も相撲である必要はない。それでも相撲と云うある意味においては古臭い物を見に来ていただいている意味を百合の花は理解しているのか・・・私には疑問です」


「厳しいんですね・・・」


「世界的に云えば日本の女子相撲は興行的には成功していると思っています。女子大相撲創成期にはみんな半信半疑だったし色物扱いと男女を問わず馬鹿にされていた。。そんな中でも妙義山を筆頭に本気の真剣勝負をすることが認めてもらう一つの方法だとそして少しずつつであるが認められてここまできた。・・・たがこれだけ人気を得た代償はある意味のプロレスになってきてしまった感がある。真剣勝負と云うのがなにかないがしろになっていないかと・・・・」


「長谷川さんの想いはわかりますが女子大相撲のこれからを考えた時にプロフェッショナルと云うよりもコマーシャリズムという考えになるのが自然でありそもそもが一場所十五日間の場所を年二回。そこに海外遠征ましてや世界ツアーも近々始まるわけで・・・それをすべて真剣勝負なんってできるわけがない。そんなことは女子大相撲の関係者はみんな・・・」と云って真奈美はあわてて口を噤んでしまった。


「倉橋さんの方がよっぽど厳しいことを云いますねぇ」


「すいません。つい・・・」


「私が現役の時は一場所七日だったしまだ海外遠征も多くはなかった。その分本気の相撲はできた。今は倉橋さんの云う通りです。下手をすると男子の大相撲より過酷です。それを考えたら今日のようにトーナメント制にしなければならないとは思いますが・・・。「コマーシャリズム」というのは的を得てますよその通りです。


「長谷川さん・・・」


「璃子でいいですよ」と笑いながら


「わかりました」


「大学出身選手特に西経の出身選手は女子大相撲では大成しないと云われるのには原因があるんです」


「原因?」


「真奈美さんの元で指導を受けてきた選手は女子大相撲に入門していきなり稽古で幻滅するんです。もちろん個々の指導者によって違いますが相撲のイロハのイの字から始まってそれを永遠にやらされる。ぶっ倒れるまで永遠と・・・質の高い稽古を積んできた西経の選手からしたら幻滅するでしょう」


「・・・・」


「今でも女子大相撲の指導者の半数は男性かつ元大相撲出身者ですし当然稽古はそうなる。アマチュアは近年女子指導者も増え女子相撲として稽古だけではないですがその面では女子大相撲は立ち遅れていると思います。その先端を行っているのが今でも西経だと思います本人を前に云うのも忸怩たる思いもありますが・・・」


「そんな・・・」


 土俵上では熱戦が繰り返され館内の雰囲気は最高潮に湧き上がっている。


「理事長が真奈美さんを女子大相撲に再三誘っていたのには二つの大きな意味があったんですよ」

「大きな意味?」


 土俵上では準決勝で横綱桃の山が大関亜樹の海を豪快な上手投げで決勝進出を決めた。


「表向きは女子大相撲で真奈美さんとの対戦を望んでいた。でも本当の目的は女子大相撲の構築に真奈美さんの力が欲しかった」

「私の力?」


「付け焼刃のような感じでできてしまった女子大相撲はどうしても男子大相撲の亜流でやっていくしかなかった。理事長はそのことを現役力士当時から懸念されていた。真奈美さんが優れた指導者として西経で結果を出されていたことに苦虫を噛んでいたと思います。理事長はあなたに振り向いてほしかった。でもいつのまにか確執のようなものができてしまいそれが独り歩きしてしまってここまで来てしまった」


「そんなこと今云われても・・・」


「今日のあなたとの異例の取り組みは理事長の精一杯の表現だったのです。今日の今日まで誰もあんな対戦想いつくはずもない」


 桃の山は土俵を下り西の花道へ消えていく。


「今度のプロアマ混合団体戦をエキビジションでなく公式の大会にしたのは男子大相撲の亜流からの脱却と世界に主導権を握られている女子相撲を日本が取ること。今度の大会で初代最強国の称号を取れなかったらもう日本は主導権はとれないでしょうねぇ」と璃子の表情が険しくなる。


決勝は横綱桃の山と小結十和桜との対決となった。十和桜が二横綱を撃破してしまうのかそれとも若き横綱桃の山が返り討ちにするのか?


 


 

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