永遠のライバル・そして盟友 ④
もう一人、この相撲を見て思いを募らせる者がいた。
「私、西経に行きたい・・・」
「えっ・・・・」
石川さくらが初めて西経に出稽古に行ったことはその後の相撲に大きな影響を与えた。稽古としてのレベルの高さや部員達の意識の高さそして監督の存在感。
付属高校への推薦入学のチャンスもあったのだがそこは尊敬する稲倉映見の頑なまでの西経への入学否定で明星に行くことになった。結論からすれば行かなかったのは間違いであったのだがそのことによってここまでのびのび相撲をやれたことはさくらにとって良かったのかもしれない。でも今は・・・。
「倉橋監督ってあの妙義山と対戦していた何って意外だったしアマチュアの全国大会で勝っていた何って」と圭太。
「私も知らなかった。倉橋さんは相撲実技も指導も上手いし何でも知っているしそれにみんなに慕われている。そして卒業生の人もちゃんと社会で活躍している。高校卒業したら女子大相撲に行くつもりでいたけど今日監督の相撲見てだいぶ揺らいでいる。勉強頑張って西経に入ることも考えてもいいのかなぁって」とさくらは真剣に思い始めていた。
「さくらなら推薦とかで行けるよ」
「できたら一般入試で入りたい。文武両道が西経女子相撲部ならそうすることが良いと思う。それは自信にもなるし・・・」とさくら
「さくら変わったな」
「えっ何が?」
「さくらの口からあんまりそう云う話喋らなかったしましてや勉強してって・・・」
「なんか棘があるような云い方だけど?」とムッとするさくら
「あぁ気分害したら御免。でもさくらが西経に行くのは賛成だしもし入ったら稲倉さんと一緒にできるしある意味西経は無敵じゃん」
「出稽古行ったときに倉橋監督に会うのが怖かった。一回高校進学の時断っていたし・・・でも監督はそのことは一言も云わなかったの。そして稽古では分け隔てなく西経の人達とやらしくれたけどやり過ぎるようなことはしなかった・・・。島尾監督に云われたの」
「何を?」
「圭太と監督揉めたことがあったでしょ。あの事を急に云い出してきて「私は舞い上がっていない!」って・・・。それに指導方針に文句があるなら云っても良いってでもそんな事云えるわけないでしょ?なんか最近の島尾監督にはがっかりすることが多い気がする・・・」
「さくら・・・」
「正直云うともう島尾監督にはついていけない・・・」
「さくら。とりあえずその話は今日はやめよう!せっかく大阪まで女子大相撲見に来たんだから・・・なっ」
「そうだねぇ。わかったよ」
その時、何か後ろの方がざわつきだした。
「さくら」と聞き覚えのある声?
二人は後ろを振り向くとそこには名力士対決を終え着替えを終えた倉橋真奈美だった。観客からは握手を求められながら・・・。
「いいなぁさくら・・・・デート?」と真奈美はからかい半分。
「監督・・・」さくらは驚きと云うよりも何か悲しげな顔を・・・。
「なぁーにそんな顔して・・・なに私が負けて悲しんでくれるの」と真奈美はにこやかな表情でさくらの頭を撫でる。さくらはおもわず涙を浮かべてしまった。
「なにどうした?」
「あっあはぁ・・・」さくらは今の自分の感情を抑えようと必死になって自分でもよくわからなくなっていた。
「今度の土日は東京で両横綱と合同稽古だからちゃんと体調整えておいてよ」と真奈美
「あっ・・忘れてた・・・」とさくら
「さくら冗談はやめてよ本当に・・・一応私はアマチュア側のコーチなんだから」と真奈美は笑いながら
「それじゃさくら今日は楽しんでいきなさい。でも二週間後なんだからねぇ大会は、明日から試合モードに切り替えてよ」と真奈美は升席から離れようとした時、
「あの倉橋監督ちょっといいですか?」と圭太
「えっ・・・」
「ちょっとお話したいことが・・・」
「私に?」
「圭太・・・なに」と心配そうなさくら
「話って?」
「場所を変えて話がしたいのですが」
「圭太・・・・」
「さくらはここにいて」
「えっ何で?」
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圭太と倉橋は関係者エリアの片隅にいた。圭太は自分がさくらの稽古相手をしていることと最近の稽古の事。最近のさくらの不調のこと。その事がオーバーワークではないかと云う事全てを真奈美に訴えた。
「あなたの云いたいことはわかったわ。でもそれは私が島尾監督に云うべき話なのかしら?」
「倉橋さんは今度の大会のコーチですよね?ならば云う権利はあるのでは?」
「基本的には所属する相撲部の指導者が主導して稽古をつけるものよ。ただそれも場合によっては助言くらいするけど」
「このままじゃさくら潰されます」
「潰されるねぇ・・・」
「それでも無視しますか?だとしたら・・・」何か云いたそうな圭太。
「わかったわ。島尾の方から特に相談もなかったし私の方からも助言めいたことは控えてきたけどそこまでさくらの稽古相手をしているあなたから云われた以上聞かなかったふりはできないし明日でも明星に代表コーチとして伺うわどうそれでいい」
「ありがとうございます」と深々と圭太は頭を下げた。
「あなたが石川さくらをあそこまで強くしてあげたのねぇ」
「俺はそんな意識はありません。逆に俺自身を強くしてもらったって意識が高いです。さくらが入学してきた時から稽古相手してるけど最初はなんか女相手にとか馬鹿にしていたけどさくらがどんどん相撲が上手くなって俺が勝てなくってきて・・・・。だから俺ももっと上手くなってさくらの稽古相手としてもちろん選手としての自分も・・・」と圭太は多少恥ずかし気な表情も見せたが。
「そう。男が女相手に相撲とかやっぱり意識もするでしょうしやりにくいわよね。女は意外とそんなに意識しないものよ。逆に男に負けるかってね。それじゃますます男の方はやりにくいでしょうけど」と真奈美は笑いながら
「それと・・・」
「何?」
「さくら、西経に行きたいって」
「・・・・」
「さくらが将来の事云うなんってなかったのにさっきの監督の相撲見て急に云い出して・・・。さくらはてっきり女子大相撲に行くもんだと想っていたし今日のトーナメントもさくらの方から行きたいって云われたからてっきりそうなのかなと想っていたんですけど・・・」
「女子大相撲に行こうと大学に行こうとそれは本人が決める事。西経に行きたいと云うのは私としては嬉しいけどだからと云ってこっちから声掛けはしない。私はそいう事はしないことに決めているのよ。本人が自分で考えて決める事だから・・・・。さくらはうちに出稽古にきて色々のことを感じたと思う。西経の相撲部は個々がちゃんとした高い意識をもってそして何事にも自分の考えを持つ事。けして私から強制的に命令することはしない」
「島尾監督と比べたらどうしても・・・」
「串間君。そう云う云い方はしないで、自分の教え子だからと云うつもりはないけど私も島尾の歳だったら舞い上がってしまっていたと思う。だからと云って大目に見ろ何って高校生のあなた達に云うつもりはない。ただ云うべきことを云っても良いと思うわ。島尾の勝気な性格からしたら頭にくるでしょうけど部員から直接云われれば多少は自分で考えるでしょう?」
「そうでしょうか?」と圭太は不満な顔をしたが・・・
「島尾は大学生時代に怪我に悩まされた。その原因の一端は私の指導の仕方にもあると思う。結果的には相撲を大学途中でやめてしまったような事になってしまったけど・・・そのことは彼女の脳裏にあるはずなんだけど・・・」
「島尾監督は怪我だけは絶対させない。それは常々云っていたはずなのになんか最近の監督は、その事はさくらとの信頼関係と云うか・・・さくらはどっちかと云うと島尾監督に何か云うとかできないから余計に苛ついていると云うかさっきももう監督にはついて行けないとか云うし・・・」
「ふぅーん・・・」と真奈美
「さくら島尾監督から心が離れていると云うか西経に出稽古に行ったことが余計にそう感じるみたいです。倉橋監督だったらとか最近そんな事云う事が多くて・・・」
「とにかくそこまであなたから直接云われた以上明日明星に行くから今日あなたから聞いたとは一切云わない。個人的には他校の指導者に物言う何ってしたくはないけど稽古相手として常にさくらと一番接しているあなたが云うのなら黙っているわけにもいかないし」
「すいません」
「別に謝る必要はないわ。初見の私にいきなり相談持ちかけるなんって私を少しでも知っている人なら少しは躊躇するもんでしょうけど・・・まぁそれだけ重要かつ切羽詰まった状況だってことよね。私も代表チームのコーチを受けた以上このような事にも対処するべきねぇたしかに・・・」
「偉そうなこと云ってしまって」
「串間圭太君。さくらを精神的にサポートしてあげてねぇ。私に直訴してくるんだからそれだけさくらに想いもあるんでしょう?。今さくらを真にサポートしてあげられるのはあなたしかいないと思う。さくらはちょっと子供じみたところもあるからちょっとしたことで折れちゃうかもしれないしあまり自分から云う感じても無そうだしそれで思い詰めてしまうこともあるのでしょう?そこをあなたがうまくサポートしてあげて。今日みたいに息抜きさせてあげないと自分から勝手に潰れたするから。頼むわよ」と真奈美は圭太の肩を叩く。
「わかりました」
「それじゃ。次はうちの方の問題児に行かないと行けないから」
「問題児?」
「そうよ。超糞生意気な奴なのよ私に喧嘩売ってきたあげくにボロ負けした奴のところにねぇ。まぁ少しは更生したんだけどなんか今度は調子にのりだしてねぇ」と真奈美は云うとそそくさと関係者エリアを出ていく。
「問題児って誰?」




