永遠のライバル・そして盟友 ①
大阪府立体育館大会役員室。年に一度おこなわれる女子大相撲トーナメント前に来月開催される世界混合団体大会においてアマチュアの統括者である倉橋真奈美をプロ側の統括者と顔合わせの場を作ったのだ。出席者は、
女子大相撲協会理事長 山下紗理奈(元横綱 妙義山)
日本代表監督 椎名葉月(元横綱 葉月山)
女子大相撲技術指導部 部長 長谷川璃子(元大関 藤の花)
西経女子相撲部 倉橋真奈美
その他女子大相撲関係者が6人が集まっている。
元大関 藤の花(長谷川璃子)は高校卒業後入門。166cm・80㎏とけして大柄の方ではなかったがそれでもスピードと卓越した技で格上の力士を翻弄させた。力士生活での優勝は一回だけだがそれでも勝気な性格で無理な相撲もしてきてきたが大きな怪我もなく相撲ファンからの人気も高く女子大相撲を牽引してきた名力士である。また横綱桃の山の師匠でもあり指導者としての高い評価を得ている。
「忙しい時間に集まってもらってもらったのは世界大会のアマチュアの統括を西経の倉橋さんにお願いすることに決定したので皆さんに紹介を兼ねて来てもらった。来週の土・日東京で合同稽古をする前に会わせておこうと思って。倉橋さん一言お願いできますか」と紗理奈。
「改めまして西経の倉橋真奈美です。椎名代表監督から就任要請がありまして色々迷いましたがお受けすることと致しました。日本チームの優勝に貢献できるように邁進いたしますのでよろしくお願いします。元大関 藤の花さんには色々教えていただくことになると思いますがよろしくお願いいたします」と深くお辞儀する真奈美。
「女子大相撲側から長谷川も一言お願いします」と紗理奈
「倉橋さんの大学相撲での功績は誰も認めるところですしもちろん私も・・・。ただ、今度の大会は実質プロの大会ですそこのところをよく心得てください。それと私はアマチュア二人は倉橋さんにお任せします。私からは口は挟みませんので・・・・」と璃子の言葉は何か素っ気なく聞こえてしまう。
「わかりました。アマチュア二人が多少なりとも両横綱の擁護ができるような活躍ができるようにアドバイスができればと思っています」
「掩護ねぇ・・・・」と小声で何云ってるんだよ表情を見せる璃子。
真奈美は平静を装って入るが内心はその態度に腹がたっていた。
「それじゃ時間が時間なので今度は東京の合同稽古で・・・それじゃ今日はよろしくお願いします」と紗理奈
「お願いします」と一同。
女子大相撲関係者と一緒に真奈美も退室しようとしたが・・・。
「倉橋さんはここにいて少し話もしたいし」
「あっはい・・・」
役員室には二人きり。二人だけで話すのは真奈美が西経の監督になってからほとんどなかったしお互い避けてきたことが相撲関係者の間に二人の確執みたいなことが余計に誇張されてしまっていた。そんななかでのアマチュアの関係者として日本チームに入ることを良しとしない空気があることは真奈美も紗理奈も理解はしているが・・・。
「真奈美のことだからもしかしたら受けないのではと想ったけど?」
「さすがに葉月山に頭を下げられたら断れませんから」
「椎名も一度云ったらなかなか折れないからねぇ・・・」と紗理奈は笑いながら
「私は、稲倉・石川以外のことは口出しはしませんしそんな資格もありませんから・・・」と真奈美
「長谷川の話は適当に聞き流して・・・最初はアマチュアもプロに一任する方向で行こうとお願いしようと思っていたがまぁそこはアマチュアの意向もあるだろうし葉月がアマチュアから選手を出す以上精通している倉橋さんが適任だときかなくてそれで長谷川とやりあったようだがそこは元横綱と云う事で長谷川が引いたようだ」
「適任ならいくらでもいると思いますが」と真奈美はあくまでも冷静に。
「ところで、稲倉の調子はどう高大校では石川さくらとの激闘で負けてしまったが?」
「調子は上向いています。まだ万全とはいえませんが高大校の時よりは遥かに・・・」
「元横綱葉月山をコテンパンにしたそうだけど」と紗理奈は笑いながら・・・
「手を抜いてくれたんでしょうけど」
「本人は至って真剣だったと云っていたけどねぇ。正直ショックだったようだけど」
「それじゃそ云う事として・・・」と二人は笑いながら・・・。
「私が一つきがかりなのは石川さくら。高大校の相撲はジュニアながら素晴らしかったと思う。調子を落としていたとは云えアマチュア最強の稲倉は破ったのだから称賛されてしかるべきなんだがあきらかにできがよすぎる。当然高大校にあわせてピークを持ってきたのだから当たり前と云えば当たり前だがあの調子を世界大会・ジュニア世界大会と維持できるのか?」と紗理奈は真奈美に意見をもとめるような。
「石川さくらには高大校以降会っていませんしそもそも他校の選手ですし・・・」
「そのあたりを含めて本来なら見て欲しいところだけどねぇ。それに監督は元相撲部の出となればなおさらだけど」
「そこはあまり口出しは・・・ましてや西経相撲部出身となれば」
「石川は西経に出稽古に来たそうだし・・・島尾監督を信用していないわけではないまして椎名も考えがあって石川さくらをジュニアながら選出したのも私なりには理解しているつもりだけど・・・」
「石川さくらを正選手にの裏にはうちの稲倉がいるからと云う事だと思っています。あえて補欠と云う皮を被せて・・・。紗理奈さんがおしゃる意味も理解しているしそれを知ったうえで私にそのようなことを聞いているのだと?」
「・・・・」
「ただ少なくとも私が島尾の立場なら代表選手の話は受けません。石川さくらが幾ら超高校級とは云えこの四か月で三大会出場させるのは・・・私ならどれか一つを捨てます。そうだとしたら今度の大会は捨てます。本人が出たいとは言え・・・高大校やジュニア世界大会とはレベルが違いすぎるしそれ以上に精神的負担が大きすぎる」
「捨てる試合ねぇ・・・あなたなら捨てたでしょうねぇ今度の大会。でもそれは今のあなたならねぇ。でも島尾監督の歳だったらあなただってそんなことは云わないでしょうねぇ間違いなく」
「・・・・」
「だったらあなたから椎名に進言して正選手にしなさいよ稲倉を・・・あなただってそう思ってるんじゃないの?。この大会、勝利の鍵は稲倉映見だって・・・」
真奈美は紗理奈の言葉に別に驚きはなかった。
(この人ならそれぐらいのことは云うだろうしとっくに察しはついていただろう。それをあえて私に聞いてくるあたり・・・らしいなまったく)
「監督はあくまでも椎名葉月さんです。私からそんなことは云えません。そんな事はお分かりになったうえで私に聞くのは如何と」
紗理奈は真奈美の顔を直視し
「葉月は指揮官としては全くの素人だ。ただ女子大相撲の顔だし今度の大会にうってつけだ。いやな云い方だけど・・・最初は乗る気ではなかった。自分がその器ではないことを自覚しているからでも断り切れなかった・・・だから真奈美の力をほしかった」
「まるで最初から私を入れることを想定しての云い方のようにしか聞こえませんが?」と真奈美はあえてストレートに。
「さすがの私もそこまでは考えていないよ。ただ成り行きでそうなった。それは真奈美だって同じでしょ?」
「同じ?」
「神崎絵里の怪我・急遽出場になった高大校。負けたとはいえあれだけの激闘。そして真奈美自身の迷い。前の二つは外部要因でどうしようもないとしても最後の判断さえ間違わなければこんなことにはならなかった。それはあなたのミスだったのかしらそれとも」
「それは紗理奈さんとて同じでしょ絶対横綱である葉月山を監督に就任させたのはあなたなんですからそれが抜けているのでは?」
数十秒続く睨みあいはまるで未来永劫続く闇のようにような・・・。そんななか紗理奈の一言がその闇を切り裂いた。
「椎名葉月の助けになってほしい。それと指揮官しての厳しさを教えてやってほしい」と紗理奈は席を立ち深くこうべを垂れた。
「紗理奈さん」
紗理奈の態度にはさすがの真奈美も驚きを隠せなかった。女子大相撲のトップてある人間がたかが大学相撲の一監督に頭を下げるのだ。そして偉大なる絶対横綱葉月山を助けてほしいと・・・。初代絶対横綱である山下紗理奈(元横綱妙義山)がどれほどの想いで私にある種のお願いしてきたのか真奈美自身想像もできない。
「頭を上げてください。そもそも私に頭を下げるのは筋違いです。指揮官の参謀役となることは当然のことですし私とて葉月山に恥をかかすようなことはしたくない」
「真奈美・・・」
「今度の大会の認識ははっきり云えば真剣勝負今風に云えばガチ相撲。海外勢は本気で潰しに来ます。初代最強国の称号を掴むために」
「・・・・・」
「女子大相撲を馬鹿にするつもりはないですがそんな相撲を百合の花や桃の山ができるのか?私は疑問です。
稲倉映見や石川さくらは相撲の技術的レベルは置いといても常に世界とそんな相撲をしてきた。椎名葉月さんを含め女子大相撲の皆さんがどの程度その認識があるのか・・・アマチュア二人が多少なりとも両横綱の擁護ができるような活躍をと云ったら長谷川さんに鼻で笑われましたが多分その認識がないんでしょう。
今度の大会は興行ではないと想わないと・・・。ここで初代最強国の称号をとられたら女子大相撲は終わります。大袈裟なように聞こえるでしょうが」
「厳しいこと云うわね真奈美は」
「最強国の称号を取ってこの大会は今回限りでやめたほうがいいと思っています。ガチ相撲はプロがやる相撲じゃない」
と云った真奈美だったがさすがにそれは云い過ぎだったと内心忸怩たる想いが・・・。とても女子大相撲のトップにむかって云う言葉ではなかったと・・・。
「真奈美の想いはよくわかったわ。今日のこの場はあなたと軽い話をしながらと想ったけどやっぱり無理だったわねぇ」
「すいません。女子大相撲トップである山下紗理奈さんにあんな暴言を」と席を立ち紗理奈と同じくこうべを垂れる。
「頭を上げてよ。西経はやっぱりあなたあってなのね」
「私は・・・」
「西経は勝利至上主義にはならない・・・よく云うわねぇ。勝利に拘らない指揮官なんかいない。勝利につなげるまでの過程が他の人達とは違うってことかしら?あなたは絶対的強さの選手でも絶好調の選手でも事によっては平気で切る。その先のことを考えて・・・」
「・・・・」
「葉月にそんな冷静な判断はできないわ。だからこそあなたには憎まれ役をかってほしい。長谷川ではそんな事はできない」
「それが私の役目・・・薄々はそんな気がしましたが・・・」
「もう時間が時間だし私もトップとしての仕事があるので・・・まぁ今日は楽しんでいってよ。本当は両横綱にあなたを紹介するべきなんだけどそれは東京で・・・」
「わかりました。今日は純粋に楽しませてもらいます。東京で再度お会いできることを楽しみにしています」
「本当にそう思ってる?」と紗理奈は笑いながら
「それは紗理奈さんも?」と真奈美も笑いながら
「嫌な女ねぇ」
「お互い様です」
二人はお互いを見合いながら・・・・。
「それと大事な話があって今日の栄光の名力士対決なんだけど」と紗理奈
「あの企画面白いですよねぇ」
「私が出るつもりでいるのよ」
「えっ!」
「どう私との大一番。とってみない?」
「冗談も度が過ぎると思いますが?」と真奈美
「私は本気だよ。あなたもそれなりに動けるみたいだし。女子相撲界に二人の強固な関係を知らしめる意味で・・・」
「紗理奈さん・・・」
「女子大相撲の枠を超えてしまうがねぇ。ここは私の我がまま押し通すどう?」
(私を大会関係者に会わせると云うのはあくまでも口実で本当はこれが目的?)
「わかりました。妙義山さんがそこまで云うのなら・・・」
「そうこなくちゃねぇ」
「私と相撲とって恥をかくも知れませんよ初代絶対横綱」
「云ってくれるわねぇその言葉そっくり返すわ。私も負けたままじゃ終われないから」
あの対決から20年以上二人は既にあの時代にタイムスリップしたように・・・




