支えて欲しい ⑤
「さくら今度の日曜日なんだけど時間作れる?」と相撲部監督の島尾朋美
水曜日、稽古を終え部員全員で後片付けをし帰るところだった時の事。
「今度の日曜日なんだけど岐阜商科大学の裕子さんから練習試合の誘いがあるんだけど滋賀の米原短大とするのだけどどうですかって、米原は重量級の選手が多いし実力も伴っているしいいんじゃないかって、どう」
「すいません。今度の日曜日は・・・」
「大会前にいい機会だと思うけど?」
「その日はどうしても・・・」
「わかったわ」と朋美は云ったものの表情は納得はしていないことはさくらにビンビン伝わってくる。
「それじゃ失礼します」と云って相撲場を出ようとした時島尾から一言。
「この前圭太に私は舞い上がっていると云われたけど私はさくらが今度のプロアマ混合の大会に正選手に選ばれた以上はそれなりの稽古をするのは当たり前だし日本代表として恥じない相撲を取るためにはそれ相応厳しさも必要になる。そのことを理解してほしいのよ。もし、私の指導に不満があるのなら云ってもいいわよ」と朋美
「わかりました」と答えざるえないさくら。
「それで日曜日はどうしても都合がつかないの?」
「すいません。日曜日は去年から決まっている事なのですいません」と頭を下げるさくら。そう嘘をつかなければ納得しない雰囲気。
「そう。そんなに大事な用事なんじゃしょうがないわ」
「すいません」
稽古の厳しさは相変わらずなのだがそれ以上にさくらの心のよりどころであり稽古相手の圭太が今週は男子相撲部の方の稽古などで一日しか来れないことが精神的につらかった。体も悲鳴をあげかかっている以上に精神的には爆発寸前。それほどまでに追い詰められていた。
いつもの朋美ならそんなさくらの変化も読み取れているだろうしオーバーワークを一番嫌い怪我などは絶対させないと云うのが信条のはずなのに・・・・。朋美は圭太に云われたように舞い上がっていたそれ以上に圭太に云われたことが余計にそうさせてしまっていた。
土曜日、学校は休みだが女子相撲部は近隣中学の男子相撲部との合同練習が組まれていた。さくらももちろん参加はしているがいまいち動きに覇気がない。中学とはいえ相手は男子けして弱いわけではないし一発の破壊力はやっぱり男子なのだ。さくらは十番ほど重量級の男子選手と三番稽古をして7勝3敗。決して悪いものではないが何かピリッとしないことに朋美の表情は苦虫を嚙みつぶしたような。さくらからすると今の状態からはよくできたと思っていても朋美との認識の違いには大きな落差が・・・。
午前中で稽古を終えると寄り道せず家に帰った。部員達からは昼食べてカラオケでもと誘われたがとてもそんな気力はなかった。ただ部員達もさくらの疲弊ぶりには気づいていたので無理には誘わなかった。
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「さくら御飯よ。さくら!」
「・・・へぇぇ・・」
さくらは着替えもせずベットの上で寝てしまっていたのだ。それほどまでに疲れ切っていた。
食事を終え苺を摘まみながら
「さくら。大会近いのにいいのそんな女子大相撲なんて見に行って?」と母の真美
「えっ・・・うーん息抜きだよ息抜き」とさくらはテーブルに置いてある白い皿に盛ってある苺を摘まみヘタを取るとパクリと口の中に・・。
「さくら大会も近いからあんまりはしゃぎすぎるのよ」と父である雄二は茶封筒を渡す
「何、これと」封の中身を確認すると中には諭吉が二枚
「お父さん大丈夫だよちゃんと自分のお金で行くし去年東京に見に行くつもりで貯めてあったので行くんだから」と返そうとしたが
「往復の交通費代だから相撲も勉強もちゃんと頑張っているんかだからこれは母さんと二人からの臨時ボーナスだから楽しんできなさい。それで明日は部の友達と行くのか?」
「えっあぁぁ・・・まぁそんなところかな・・・」
「ボーイフレンドじゃないんだ」
「・・・・」
「さくらはねぇ。相撲命だからしばらく駄目よお父さん」と真美は笑いながら
「そうかそれは残念。さくらもしできたら母さんに内緒で教えてな」
「ははぁぁ・・・」
「目の前に私がいて何が内緒だが・・・」
「あぁぁ散歩して来るわ」と雄二
「さくらも行くよ」
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二人は近所の岐阜公園の中を散策する。岐阜市の中央、金華山のふもとに広がるこの公園は、戦国時代の岐阜城主であった斎藤道三や織田信長の居館があったとされる場所で信長庭園をはじめ信長居館跡、冠木門などありここからケーブルカーで山頂にもいける。上を見上げると岐阜城も見ることができる。
「さくらと一緒に歩くのひさしぶりだなぁ」
「だねぇ。高校入って相撲の稽古とか色々あってなかなか出かけるチャンスないし」
「明日は楽しんでおいで」
「うん。あのねぇ明日デートなんだ初デート」
「そんな気はした」と雄二は笑いながら
「バレたか・・・」
二人は公園内を歩いていく。金華茶屋の前を通り過ぎ噴水の前に・・・。
「私の稽古相手をしてくれているクラスは違うけど同級生なの」
「さくらの稽古相手か・・・」
「ちょっとチャラいけど私のことを理解してくれている大切な人」
「そうか・・・串間圭太って云って梅林公園の近くに住んでいるらしくて」
「なんだーまぁ近所でもないけど・・・」
「まだ、家には行ったことないけど・・・」
「そうか・・明日は楽しみだな」
「楽しみ・・・」と少しはにかみながら
父からするとさくらは少し子供ぼっく見える。もしかしたら子供ぼっく見せているのかもしれないがそれでも彼氏がいたことにはちょっと驚いたしそのようなことは母親に最初は云うべきことなのではと思ったが・・・父親としてはちょと寂しい反面嬉しさもあったりして・・・。
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名鉄岐阜駅中央改札口 日曜日午前7時。
圭太は自宅から徒歩でやってきた。エスカレーターで中央改札口へ上がっていく。人の流れはまだそれほど多くない。上がりきったところですぐにさくらをみつけることができたが・・・。
「さくら・・・なんか凄い可愛いーじゃん」
「てへぇ・・」
グリーンのハイネックロング丈ニットワンピースにチェック柄ツイードチェスターコートに黒のショートブーツ。そして頭の上にちょこっとのってるワインレッドのベレー帽。
「さくら似合ってるよ」
「よかった」と笑顔を浮かべる表情がまたなんとも。
二人は名鉄岐阜から笠松で乗り換え新幹線の接続駅新羽島へ。岐阜羽島からこだま号に乗り一路新大阪へ岐阜羽島から新大阪まで一時間。車内で会話をと思っていた圭太だったがさくらは窓側の席に座り口開けて即爆睡。
(まぁこうなるだろうとは予測してたけど)と車内の天井を仰いだ。先週はさくらと一日しか稽古ができなかったことが気がかりでならなかった。昨日も中学生と合同練習とは聞いていたが・・・。
(さくら。今日は楽しもうな・・・でもそのデカい口開けて寝るのはなんとかならんか)
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大阪 午前6時。日の出まではまだ30分以上ある。甲斐和樹は昨日の研究発表会のレポートをノートパソコンで作成している最中。本来なら昨日は神戸日帰りで東京に戻りゆっくりやるつもりでいたが・・・。
映見はまだベットの中で熟睡中。夜の映見はしおらしくそれは大人の女性としての恥じらいの演技なのかと云うぐらいに。映見はプロポーズを受け入れてくれた。断るはずはないと思っていてもそれなりの緊張はあった。一見脂肪太りのように体もお互い触れてればわかるその下に隠されているかのような筋肉の凄さ。
女子相撲に興味がない人達には映見を見れば単なるデブぐらいしか思わないかもしれないが興味があるものにとっては映見の凄さはわかる。調子を落としているとはいえ世界で戦ってきた女子アマチュア力士は世界の強豪からも一目置かれている。当然プロになってと云うのは日本だけではなく海外でも云われていることは知っている。そこに若干の寂しさを感じている自分もいるけども・・・。
「何やってるの?こんなに朝早く」と映見は羽毛布団の中からひょこっと顔を出し。
「昨日の研究発表会のレポートの作成。東京に帰ってからだとめんどくさくて」
「そう・・・」
「まだ6時だから寝てろよ」
「うぅん」と云いながらも布団の中から映見は和樹を見ている。
「なんだよ」
「夜寝れた?」
「あぁ・・・ちょとデカい牛がいて寝れなかったかなぁ」
「牛?」
「モォーってなんかうるさくて・・・」と笑いながら
「私の事云ってるの?」
「なんかデカい牛がねぇ」
「嘘だよねぇというか冗談だよね?」と映見
「あのさぁそこはあれでしょ大阪なんだから」
「大阪なんだから何?」
「なんでやねん!って串カツ屋のオーナーが云ってたし」
「・・・・」
「シャワーでも浴びて来いよ。そしたら朝食でも行こう」
「そうだね。そうするわ」と映見はベットから出ると和樹の後ろに立ち。
「なめとったらんあかんよ兄ちゃん」と云うとおもいっきり頭を叩いてやった
「お前、いきなり何するんだよ!」
「どついたってやったわ。この呆けかすがなめとったらあかんよ兄ちゃん」と映見は云うとバスルームに・・・。
(映見。加減しろよ全く・・・。絶対牛だよな映見はそれも闘牛だよ闘牛)




