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女力士への道  作者: hidekazu
二人の絆

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支えて欲しい ④

「日本的美意識の欠落が日本のソフトウエア開発が遅れている最大の原因だと感じています。わび・さび」という無形な繊細な感性、世界中の一流の人達を魅了する美意識、その日本民族はどこへいったのか?。

 ハードと云う誰の目にも見えることよりも目に見えにくい物への感性が世界は求められているのにそこをないがしろにしてきた。使い心地を左右するUIデザインなどは本来なら日本人が得意である分野であったはず。ここが欠落していては多分独自OSを作るなど夢にも出てこない。研究発表の場において似つかわしくない発言ではあることは許してください。ただ自分も含めて日本人としての美意識を持つことが日本のソフトウェア開発において大きな意味を持つ。今日は何名かの大手電機メーカーのご来賓の方もいらっしゃているなか誠に申し訳ありませんでした」


 神戸工科大学での研究発表会においての和樹の研究発表は来賓の方々にはあまり評判の良い物ではなかった。なかには大学関係者に「あんなのが会社に来たらめんどくさくて扱いにくいわ」と云う来賓の方もいたそうだ。


 和樹は神戸工科大の学生達と語らいの時間もあった。学生達にも賛否両論を巻き起こしていたが和樹自身はあくまで研究成果の発表のあとの個人的な自分の想いを云っただけで別に賛否を巻き起こそう何って意図は微塵もなかった。


「それじゃすいませんが自分はそろそろ」と和樹は帰ろうと・・。


「もし宜しければこれから食事を含めた飲み会でも・・・和樹さんの話聞きたい学生結構いるし」と司会を務めた。女子学生の南原真美


「すいません。6時に大阪で友人と会うことになっていましてすいませんが」と頭を下げる


「そうですかそれは残念です。最後の発言は私も含めてちょっと反省すべきなのかと日本的な美意識とソフトウェア開発なんって考えた事もなかったので・・・」


「ここ何年か東京にある国立博物館などを巡っていて美術とか芸術とか興味がなかったのですがある方からそのようなものに触れる機会を積極的に持てと云われまして・・・。ソフトウェア開発において最初は何云っているのかと思っていたのですがなんか最近その意味が少しわかったようで」


「確かにソフトウェア開発は芸術の側面があると思います。甲斐さんのお知り合いの方?」


「若い頃ベンチャー起こして今は引退してますけど色々な意味で尊敬してますし目標です」


「そうですか・・・今日の最後の発言は来賓の方にはちよっと・・・ただ京都の栗橋製作所の役員の方は大変興味を持たれたようですよ」


「そうですか・・・光栄です。すいませんが急いでいるので」


「残念ですが・・・」と南原。



 和樹は阪神神戸三宮駅から午後5時02分の近鉄快速急行奈良行きに乗車する。待ち合わせ場所はホテルのロビーで会うことになっている。

 土曜日の夕方の車内は結構混んでいた。友人・恋人・家族と如何にも休みの日のと云う感じである。


 乗降扉の脇に立ち車窓を見る。右手に大阪湾を望みながら。



-------------------------------------------------------------


 近鉄特急火の鳥。映見は新幹線で行くつもりだったのだが父の勧めでこの列車に乗ることになった。


「移動時間をくつろぎの時間へ」のキャッチコピーは新幹線の速さとは異なる価値観で存在意義を示す。観光列車ではないビジネス特急におけるプレミアムの意義を象徴する列車でもある。


 名古屋発15時00分火の鳥65号大阪難波行。映見はプレミアムシートに身を沈めた瞬間寝てしまった。


 この半年は映見にとって苦痛の日々だった。いや大学に入ってからかも知れない。小・中とあんなに楽しかった相撲が何か違ってきた。勝てば勝つほど周りの期待と妬みのようなことまで・・・。相撲はやめて医学部の勉強に集中すればいいと想っても相撲のことが頭をもたげるように勉学に集中できなかった。そんな時に出会った甲斐和樹との出会い。まるで私が生きること自体に失望していたことを察して現れたようなそんな偶然なんかあるはずもないのに。そんな私を和樹は支えてくれた。もちろん和樹はそんなことなんか知るはずもない。そんな今の自分をすべてさらけ出すことができたのは和樹だったから・・・。


 火の鳥は伊勢中川の連絡線をショートカットして大阪線に入る。ここから山岳トンネルを何本か抜けながら名前のごとく一気に速度を上げていく。


映見は爆睡状態。本革のプレミアムシート。バックシェルが付いているから思いっきり倒せてレッグレストに足を乗せそしてヒーターがついているので実に快適・・・そりゃ爆睡します。


「映見、新幹線じゃなくて近鉄火の鳥の方が便利だろう大阪難波からホテルすぐだし・・・それに」

「それに?」

「映見、乗り物とか乗るとすぐ寝ちゃうし新幹線じゃ下手すりゃ九州とか行きそうだし」

「そんなあほな!」


父親である啓史にそう云われ何か面白くなかったがそうすることにしたのだ


     火の鳥は鶴橋を過ぎ地下区間に入るが・・・・映見は爆睡。


「お客様。お客様」と誰かの声。

「・・・・」

「終点の大阪難波です」と乗務員に起こされたのだ。

「へぇっ!!」


新幹線なら間違いなく関門トンネルはくぐっているかと・・・。


 映見はホテルへ歩いてく。スマホのナビを頼りにしながら・・・。駅を出で約三分。目的地のホテルモントレ グラスミア大阪に到着しロビーのある22階へ。約束の時刻まではまだ30分以上ある。映見は少し館内を散策する。


 併設されている美術館へ。こんなにゆったりとした時間を過ごしているのは何年ぶりだろうか?。学業と相撲に明け暮れすべてをかけてきたと云っても云いすぎではない今の自分にはもったいないぐらいの束の間の時間。竹久夢二の絵画展が開催されているようで映見とて名前ぐらいは知っているが作品までは・・・。それでも「夢二式美人」と呼ばれた独特の作品は大正の浮世絵師と云われたような叙情的作品には何か惹かれるものがある。


本当はもう少しゆったりと見たかったのだが。時刻は6時をちょっと回ったところ。


(まだ来てない見たい)とフロント周りを見ますがまだ来ていないようだ。映見は斜めに張ってあるよな黒い柱の脇に置かれている椅子に座り和樹を待つ。土曜日と云う事もあるのだろうかフロントのチェクインカンターは多少混雑している。そんな様子を見ながら待っていると・・・。


「映見。お待たせ」

「待ちくたびれた・・・」


 映見は椅子から立ち上がる。


「うぅん。なに和樹私何か変?」

「いや・・・ちよっときれいすぎて」

「・・・・」


 グレーニットセットアップにオフホワイトに若干グリーンが入ったようなチェスターコート。大人の女性をさりげなく演出しているようにそれでいながらも奥に秘めた映見が持つ女性としての強さと云うものが見えるような。


「きれい・・・すぎてって・・・」

「御免。黒のベンチコートにバックパック背負っているイメージしか思い浮かばなくて・・・」

「一応私も女性何でそれなりのらしさと美しさは持っていると思いますが・・・」とぶぜんとした表情の映見。

「あぁ・・・なんか映見を見た時に竹久夢二の作品に冬(雪の風)が浮かんで確か大正末期から昭和の初期まで発刊された当時の富裕層の人達向けの雑誌婦人グラフの表紙にもなった画なんだよそれで・・・うぅん?」

「意外・・・」

「なにが?」

「併設の美術館の案内見たいでしょ?でもそれにしては・・・和樹って画とか興味あるの?」

「まぁ一応は大人として?」

「なんかムカつく」


 とかなんとか云いながらチェクインを済ませ部屋へ。


 英国邸宅の書斎をイメージしてデザインされた部屋は白い壁と黒に近いオークブラウンの調度品で統一されている。窓からの大阪の眺めは真正面にあべのハルカスを見据えその手前に通天閣がひょこっとって感じで建っている。


「和樹。これお父さんから渡すようにって」と白い封筒を渡す

「何これ?」

「しらない・・・」


 封筒はぴっちりのりで封じてある。


「これは封を開けるべきなのか?」

「後で開けたら?」

「そうだねぇ。なんかちょっと怖いわなんか」

「交際は今回限りにしてくれとか」

「・・・・・」


(映見少し意地悪いよな・・・)と和樹は想いながらもそれもまた楽し。


「食事行こうか。なんか食べたいものある?」

「そうねぇ」

「なんでもいいよ」

「じゃー串カツ」

「串カツ?」

「ちよっとネットで調べてたら食いたいなぁーって」

「映見・・・女子相撲観戦より・・・」

「串カツ!」と映見

 

 大阪の街はビルに囲まれ名古屋や東京とさして変わらないように見えるがそこにはどこか庶民的なと云うかそう感じさせるのは大阪人の人間性なのか?串カツ店のオーナーには二人ともいじられながらも楽しかった。戎橋・道頓堀・串カツ食ったのにまたたこ焼き食って川べりを歩き・・・。


 映見の事は小学生の時から知っているのにこんな映見を知らなかった。女性と云うか少女みたいな映見は今まで知らなかった。こんな映見を・・・・。


 ホテルに戻り、和樹はバスルームから上がり大阪の夜景を見ていた。映見はバスルームに。和樹は映見から受け取った啓史からの封筒の封を開けるとそこには諭吉が三枚。


「ちょっと・・・」


和樹を啓史が信頼しているからと取れないこともないがさすがに三万円と云う金額はちょっとというしかないのだが映見の父である啓史の想いを素直に受け取ることにした。


(今日は自分の想いを映見に伝えるのと映見の想いを・・・)


 啓史には付き合っているような云い方をしてしまったがそれは単に雰囲気でまぐあってしまっただけでそこに愛があったのかいや伝えていないのに・・・。映見の不安定な精神状態に乗じてあんなことになってしまったのか?。そもそも論で云えばお互い真剣交際をしたいなど云ったことがなかった。


 「和樹」と映見は白いバスローブに身を包み甘えるようなしぐさで寄り添ってきた。ほのかに香るボディソープの香りが湯上りの火照った体から湧き立つように・・・。和樹は両手を胸に入れローブを手の甲で剝ぐように脱がすと自分のローブで映見を包んであげる。


「あの時の体と違うな」

「あの時?」

「裏山で抱いた時の映見には張りがなかった選手としてのでも今のお前は」

「もう少し違う云い方があると思うけど」と頬を和樹の左肩にあてながら

「調子よさそうだなぁ」

「えぇっあの時とは体の張りも気持ちの張りも上向いているのよ。自分でも信じられないくらいに」


 和樹もローブを脱ぐ。窓ガラスに映見の体が押しつれられる。一瞬映見はガラスの冷たさに委縮するように表情を見せたが・・・。窓ガラスが一瞬曇る。向かいのあべのハルカスから誰かこの光景を見ているかも知れない。そんなことは二人には関係ない。


「相撲クラブに映見が入ってきた時から俺は映見の事が好きでたまらなかった。でも想いを伝えられなかった。でも今なら今しか・・・結婚を前提に付き合ってほしい」

「何を今更・・・」

「俺は真剣に・・・」


 通天閣のネオンサインが消灯した。時刻は午後11時。そして白のネオンのみに。


「ずいぶん時間がかかるのねぇ。自分の意志を伝えるのに待っている方の身にもなってほしいわ」

「映見・・・」

「私の想いはあなたと同じだから・・・」


 空気清浄機の微かな高周波の音しか聞こえない室内。映見の甘えを誘う様な喘ぎ声。演技では到底できないような。シモンズのポケットコイルマットレスはまるで太平洋のうねりの様に二人はその真っただ中で必死に小舟を漕いでいるように・・・。





 








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