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女力士への道  作者: hidekazu
似た者同士・・・

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71/324

引き際と潮時と ③

 (寝れなかった・・・・)


 倉橋はリビングのソファーベットから立ち上がりリビング越しにベランダを見ればベランダの手すり部分に雪が積もっていた。真奈美はコートハンガーに掛けてあるベンチコートを身に纏いベランダに足元は一体成型のサボサンダルを履いてベランダに出る。風は特に吹いていないが雪は以前と降り続いている。時刻は午前4時。陽が昇るまで2時間以上ある。新聞配達のバイクの音がうなりを上げている。チェーンを履かせて走っているのだろうか?雪の降っている日は異様に静かに感じる。雑音が雪に吸収されるかのように・・・。


 真奈美は手すりに積もっている雪を寄せ集めると軽く握りながら大小の団子を作っていくと小さな雪だるまを一体・二体と作り手すりに並べていく。まるで幼稚園児のように・・・。遠くに見える名古屋駅のビルやホテルには若干の明かりは点いているがそれも雪に煙っている。


 山下理事長いや紗理奈さんの言葉が自分の引き際を惑わしている。


 >「アマチュアの二人もそうだが椎名のサポート役も頼む真奈美が稲倉を溺愛しているように私も椎名を溺愛してるんで」


 紗理奈さんが女子大相撲に入門してから一対一で話すことはほとんどなくなった。あれだけ再三女子相撲に誘われたが私は断った。ただそれは紗理奈さんとて絶対無理だとはわかっていたはず。そんな私が大学の相撲部監督を引き受けるなど自分自身でさえ単なる勢い任せでなってしまった。ましてや他人からしたら理解できるわけがない。


 監督として西経を率いて女王の名を盤石に・・・・。そのことは自分自身に大いなる自信を与えてくれた。他方で紗理奈さんの大相撲の活躍はどこか素直に喜べないものがあったのも事実。後ろめたさと云うか女子大相撲に挑戦することを逃げたと云うか・・・。そこに素直に祝福できない自分がいた。自分が相撲に見切りをつけた時も紗理奈さんは女性など一人もいない実業団の相撲部で相撲を続けていた。そのことに真奈美は多少馬鹿にしていたのだ。


 日本では女子相撲に抵抗感があったが世界では全く違う方向に特に東欧・ロシアなどは競技人口も日本よりも多く大会も多数そしてプロリーグの創設。日本からしたら全く想像もできなかった。日本はオリンピック競技に女子相撲を入れることが目的で世界で普及活動をしてきたのに世界はその先を見据えていたのだ。そのことは真奈美自身も会社の海外出張でその兆候は感じていたがここまで世界的になるとは・・・。女子プロの創設は新相撲と称する第一回の全国大会の頃には素案としては上がっていたがそれがオリンピックより先に創設されたことは真奈美にとってはあまりにも意外だった。じゃ―プロに行きたかったのかと云えば答えはNO。今の稲倉と同じで女子相撲は趣味なのだ。


 相撲を辞めた後の事やけがなどで辞めなければならなくなったことを考えた時に真奈美にはその決心がつかなかったと思う。たとえ結婚も起業もしていなくてもその意味では現理事長はそこに人生のすべてをかけた。私が監督人生に掛けたものの重みからすれば比較にならないぐらいに・・・。その生き方に嫉妬していたのかもしれない。


ベランダの手すりに並ぶ二体の雪だるま。真奈美はベランダに置いてある園芸用のちょっと太めの麻紐を廻しのように締めてあげた。


(なかなかいいじゃない・・・って何やってるの私?)と一人笑いながら


 その時、ベランダのサッシの窓が開けられた


「おはようございます」と葉月は多少寝ぼけ顔で・・・。

「おはようございますってまだ夜も開けてないですからまだ寝ててください。昨日は色々お疲れでしたでしょうから」

「何やってらっしゃるんですかこんなに朝早く?」

「いつもこの時間には起きてほんとは散歩に行くんですけどさすがに今日は行けそうもないし」

「雪降ってるんですね」

「積雪は20cmは超えるそうなんで」

「雪だるま?」

「つい作っちゃいました。なんか子供に戻ったようで・・・」

「と云うかその雪だるまもしかして力士?」

「そう見えます・・・よかった。麻縄で廻しを作ってついでにさがりも・・・左が私右が葉月山ってところかな」

「普通の人が雪だるまを作ったらそうはなりませんよねぇ?」

「病気です」と真奈美は苦笑してしまった。


真奈美は部屋に戻りベンチコートをハンガーに掛ける。


「少し早めに食事して名古屋駅まで車で送ります。新幹線は多少遅れるようですが動いているようなので」

「一つお願い聞いてもらえますか?」

「お願い?」

「大学の相撲場見せてもらえませんか?」

「うちの?」

「昨日見れなかったので・・・・」

「それはいいですけど」

「それじゃ朝食とったらぜひ」

「午前中に行っても稽古もしてないし・・・」

「いいんですそれでも」

「わかりました」


 真奈美は普段着に着替え食事の用意をする。赤魚の西京漬けをグリルで焼き、卵焼きに、尾張屋の守口漬けに赤みそのしじみ汁。


 昨晩色々な意味で二人での話は盛り上がり一升瓶を空けてしまったという事実。中身は半升ぐらだったけど・・・。


 ラジオからは今日の名古屋は積雪20cm以上に達する見込みだと交通機関は名古屋高速は全面通行止め。新幹線は一時間程の遅れがでているものの動いているようでとりあえず東京へは行けるようだ。


 時刻は午前6時を回ったところ。ダイニングキッチンに置いてあるテーブルにおかずが並ぶ。


 真奈美は寝室から葉月を呼び朝食を・・・・。テーブルには土鍋が置かれ蓋を開けると御飯のいい香りが湯気となって・・・真奈美は茶碗にご飯をよそる。


「朝からちゃんと食事を作るんですねぇ」

「なんか意外みたいな云い方に聞こえるけど?」

「いやそんな意味ではないんですけど・・・」

「朝食はしっかり食べようとところで昨日は相当飲んでましたけど・・・だって一升瓶開けてしまって殆ど葉月さんが飲んだようなものでしょ」

「えっーそんな飲みましたっけ?楽しかったのは覚えてますけど・・・」

「なんかストレス相当溜まってたみいで゛・・・・」

「私、なんかとんでもないこと云っていたりして・・・・」

「ここでは云えません・・・さすがに」

「・・・」

「冗談ですよ私だって楽しかったけど何云ったか何って覚えてませんから」


 二人はそんなどうでもいい話をしながら食事を終えリビングで葉月は帰り支度を真奈美はダフレットPCでメールチェックをしながらふとベランダを見ると・・・。


「雪だるまが一つ消えてるそれも葉月山の方が」と真奈美

「やめてくださいよ全く。落下しちゃたんですかねぇ」と葉月はベランダを見ると内側に落ちている。

「葉月山、倉橋に土俵下に叩き落とされる」

「真奈美さん指導者的にどうなんですかねぇ?かなり問題だと」

「裏でよく云われているようです」と笑みを浮かべながら

「あっない」と葉月

「えっ」


 葉月は再度ベランダを見るとない。


「倉橋真奈美は12階から飛び降りたようです」


「ちょっとやめてよ縁起でもない」


「冗談ですよ内側に落ちてました」と云うと二体の雪だるまはベランダの雪の吹き溜まりに無傷の状態で倒れていた。それを拾い上げ吹き溜まりの雪を固めてその上に置いた。


「大学の相撲場で手合わせとかしてくれます?」

「誰と?」

「誰とって私しかいないじゃないですか」

「冗談でしょ元横綱でしょあなた・・・勝負にならないでしょ」

「勝負?真奈美さん私と勝負するつもりだったんですか?」

「・・・・」


 マンションの駐車場から二人を乗せた車は名古屋城の方向へ。車の通りは極わずかランクルやジムニーやらがやけ目につくのは気のせいか?


久屋大通りに出ると中部電力 MIRAI TOWER方向に車を走らせる。街はまるで雪に閉ざされているかのように人通りもなく。路肩には雪で動けなくなっている車が何台か見受けられる。その脇をスバルレガシィB4は何事もなく走り抜ける。


「昨日、山下理事長とほんの少しだけど話ができたことはあなたに感謝しないと・・・ありがとう」

「云えそんな感謝なんって私はあんな非常識な行動しかできなくて・・・」

「紗理奈さんの偉大さを初めて知った。そして私がいかに小さい人間かを思い知らされた」

「真奈美さん・・・」

「私はどこかで紗理奈さんを小馬鹿にしてた。そして女子大相撲も・・・」

「小馬鹿って」

「自分は女子大相撲に行くことは決断できなかったから相撲部の監督になった。結果論かも知れないけど」

「でも多くの優秀な選手を輩出されて国際大会でも層が薄いと云われながらも日本が常にトップクラスでいられているのも倉橋さんをはじめ創成期を支えてきた指導者の方だと云う事に異論はないはずです」

「どうだろうか?たまたま運がよかっただけも知れない」

「そんな・・・」

 

 車はMIRAI TOWERを右にに見ながら走り抜ける


「ほんとはもう相撲部の監督を辞めていたと思う。部としての成績も落ちていたし私自身が女子相撲に迷いがあって・・・そんな時稲倉が付属に入ってきて活躍していた。彼女は医学部志望だと聞いていたから大学では相撲はしないだろうと想っていたのところが進学しても相撲を続けると聞いて・・・弱気になっていた自分なのにこの子を名選手に育てたいとか・・・現金なものねぇ。京子に稲倉はあなたにとって女神だって云われて何云ってるんだがと思ったけどそうなのよ女神なのよ。だから余計に強く当たってしまう・・・。嫌な女ねぇほんと・・・」

 

 真奈美は車を正門の前に止めると守衛所に駐車票を貰いに行く。


「おはようございます。すいません駐車票貰えます」

「おはようございます。早いですねぇ」となじみの守衛は駐車票を真奈美に渡す。

「そう云えば稲倉さん来てますよ朝練でもあるのかなぁって聞いたら自主練だって云ってましたけど」

「映見が?ありがとう」と云うと駐車票を貰い車へ。


 (映見、こんな時間になんで・・・)


 ようやく空が白み始めてきた。








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