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女力士への道  作者: hidekazu
似た者同士・・・

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アマチュア代表枠 ⑤

「代表の件の返答をする前に一言云わせてください」


映見の表情はさっき自分を睨みつけてきた表情と全く同じ。


「私は・・・・」その先の言葉が出てこない。映見のフードに雪の結晶が付いて消えついては消え・・・。映見はしばらく俯いたままだったが意を決したように顔を上げ。


「私は絶対に世界大会に行きたい。仲間と監督のためにそして自分自身のために・・・勝負に勝ちたいです」

「あなたは出れないかもしれないわよ・・・・アマチュアの正選手は石川さくらで行くつもりだからそれでも構わない?」

「高大校で負けたのは事実ですから・・・」

「あなたが出るときは日本がピンチの時・・・負けたら終わりの絶体絶命の場面。そこで勝てる?」

「私のせいで負けたならもう相撲はやめます。その覚悟を持って挑みます。それで納得していただけませんか?」

「私にそんな啖呵を切って大丈夫なの・・・私は代表監督なのよ」

「啖呵ではないです。これは約束です。監督に対してのと云うより私が尊敬し大ファンである元絶対横綱葉月山との約束です」


 映見は葉月の顔を視線すら微動だに動かさず真っすぐに・・・。


「わかったわ。でも返事をするのは明後日でいいわ。アマチュアのあなたが自分で退路を塞ぐことはないから・・・ただやるとなったらアマチュア二人にも女子大相撲と同じものを要求するわよ国の威信が掛かってるからやる以上ねぇ。断ったとしても私はあなたが逃げたとか思わないから・・・」


「わかりました」と映見は云うと一礼しファミレスの駐車場に止まっている島尾の車に歩いてく。


「稲倉さん」と葉月が云うと映見が振り向く


「あなたはいい仲間に恵まれているわねぇ。大切にしなさいよ・・・」


「・・・・」映見は何も答えず。軽く頭を下げ戻っていく。


 正門前の歩行者信号が青に変わり映見が渡っていく。足を運ぶごとに「ギュッギュ」と雪を固めていくように・・・。映見が島尾の車の乗りこむと駐車場から出ていくと葉月の視界から消えていく。


島尾の車が視界から消えたのを見計らったように倉橋の車が正門の前に停車した。スバルレガシィB4の6気筒でマニュアルトランスミッションというある意味マニアックな車である。


 椎名はスーツケースをトランクに入れ助手席に座る。倉橋はアイドル状態からクラッチを繋ぐとショックなく車を雪の上を滑ることもなく走り出していく。


「いつも車で?」


「今日は大雪の予想だったので念ために車で・・・さすがに構内の駐車場に入れるのは気が引けるので近くのコインパーキングに・・・」


「倉橋さん。まだ最終ののぞみに間に合いそうなんで名古屋駅でいいので」と椎名は倉橋に云ったが


「今日はあなたと話がしたかったので・・・どうしても帰ると云うのなら駅の方に車回しますけど・・・」とそれは駅には回しませんよと云うような・・・。


「わかりました。私も倉橋さんと話をすることが目的で来たのですから」椎名は自分が駅に回してくれと云ったことに何かバツの悪さを感じてしまった。


 車は10分ほど走ると倉橋が住んでいるマンションの地下駐車場へ。そこからエレベーターで12階へ上がる。


「どうぞお入りください」とドアを開け部屋の明かりを点ける。


部屋の中は完全に冷え切っていた。


「今、暖房入れますから」と倉橋は云うとキッチンへ。


 椎名はコートをハンガーに掛けると窓越しにベランダを見る。遠くに名古屋駅の側にある高層ホテルやオフィスビルは雪で霞んで見える。


「椎名さんお茶入れましたから」


テーブルの上にはカフェオレボウルに入っている緑色の液体


「抹茶ですか?」

「抹茶を点てるのも意外と簡単何んですよ」と倉橋

「どうやって飲めば?」

「そんな作法は気になさらず」


椎名にとっては抹茶のいただきかたなど知る由もないのだが


「倉橋さん。でも一応知識として知っておきたいのですが」と遠慮がちに


 倉橋も自分で抹茶を点て椎名の対面に座り茶碗の持ち方から飲み方の作法から飲み終わるまでを椎名は真似をするように・・・


「本当は練り切りでもあればよかったのだけどなかったから生ショコラで」と倉橋はそれを口に入れる。同じく椎名も・・・。


「倉橋さん何でも知ってらっしゃるんですね」と椎名


「倉橋さんは堅ぐるしい真奈美でいいですよ」

「でも・・・」

「それじゃ葉月さん。で良いかしら?」

「わかりました。それじゃ真奈美さんで」


 真奈美は相撲記者の中島京子に云われた言葉をふと思い出した。


「あなたも葉月山も稲倉もみんなひと回りずつ歳は違うけどよく似ているなぁって」


真奈美は思わず吹きそうになってしまった。


「私何か?」と葉月は困惑した顔で

「御免なさい。ちょと京子に云われたこと想いだしてしまって・・・」

「京子って中島京子さん?」


真奈美は京子に三人がよく似ていると云われたことを葉月に説明した。


「なんかわかるような気もしますがそれが顕著なのは真奈美さんと稲倉さんだと思いますが?」

「京子にあなたは映見を溺愛しているって云われてしまって」

「溺愛?」

「私にはそんな意識全くなかったのだけど京子に云われてねぇ・・・実は私の理想としている力士のように映見を育てたいと無意識に・・・」

「理想の力士?」

「絶対横綱 葉月山」

「・・・・・」


「あなたの相撲は相撲にさほど興味を持たない人でさえ魅了していた。相撲のことがわからなくても・・・勝負でも強かった。外国人の巨体相手でもあなたは真っ向勝負で立ち向かい勝ってきた。水入り寸前の形勢逆転も何回も見てきた。やっている方は大変だろうが見ている方は本当に興奮した。そんな相撲をいつのまにか映見に求めていた・・・医師になることを目指しているアマチュア力士に・・・」


「真奈美さん・・・」


「京子から聞きました。今度の大会が終わったら辞任して相撲から離れると?」

「真奈美さんも大学で引き際がと?」


「似た者同士( ^ω^)・・・」

「確かに( ^ω^)・・・」


「葉月さんお酒は?」

「嗜む程度で・・・」

「飲めるのに・・・よく言いそうなセリフ」

「その前にお風呂でも入ってください」

「その前に代表のことを」

「そうですねぇ本題はそれなんだから」


 葉月は稲倉映見の代表選抜理由を説明していく。


「アマチュアの正選手は石川さくらで行きます。稲倉はあくまでも補欠です。ただ私は稲倉は日本チームの最終兵器だと思っています。第一回と云う事で各国は最強の布陣で挑んできます。特にロシアなどは無差別クラスの力士や選手をそろえてくるでしょう。力勝負では日本は苦戦必至です。ロシアだけではないですけど・・・女子相撲の力関係では海外勢の方が上かも知れません。層の厚さで云えば特に・・・」と葉月


「日本は少数精鋭でここまできました。プロリーグが日本で始まって確かに層も以前からすれば厚くなりましたがそれでもまだまだです」と真奈美


「そう考えると日本は今考えられる最強の布陣で百合の山・桃の山の両横綱。そして超高校級の石川さくらの勢いとある意味完成された稲倉映見で。稲倉を出すときは日本が絶体絶命の時だと思っています。出さずに済めばいいですが多分無理です」


「稲倉はスロースタータですよ。ポンと出て実力を発揮できる選手ではないですよ」

「高大校の試合からしたら私は十分に発揮できると思っています」

「あの試合までに石川さくらは何試合しているんです?それを考えたら及第点も与えられないと思いますが?」

「石川もどちらかと云うとスロースタータです。それを考えれば疲れていたとも云えますが私からしたらベストの状態だったと思っています」

「わかりました。でも私が稲倉の出場を認めなかったら?」

「その時は、稲倉に相撲部を辞めたうえで本人に決めさせます。別に相撲部に帰属していなければならない規則はありませんから」


「・・・・」


「よろしいですね。倉橋監督」

「わかりました。そこまで云うのなら・・・絶対横綱に恥をかかすわけにもいかない。ただまだ私は稲倉に決意を聞いていないし返事は明後日まででいいんですよね?」


「彼女の決意は先ほど聞きました。彼女は私のせいで負けたならもう相撲はやめます。その覚悟を持って挑みますと・・・」


「・・・・・」


「正式な返事は明後日で結構ですがそこまで云った彼女に恥をかかす何って・・・そんなことは絶対しないと思いますが・・・・」


 真奈美はソファーから立ち上がると


「その奥に浴室がありますのでどうぞお入りください。寝衣を用意してありますからそれを着てください」と云うと真奈美は寝室に入っていった。


葉月は浴室の脱衣室で服を脱ぎ浴室へ入るとシャワーを浴びる。マイクロバブルのシャワーヘッドから出る湯は適度な刺激が心地よさとメイクもよく落ちる感じがする。それと引退してからのモヤモヤと・・・。


 湯につかり今日の事。そしてこれからの事。


---------------------------------------------


真奈美は葉月を自分のベットで寝てもらうためにシーツをセッティングする。


(似た者同士か・・・・)


 寝室からベランダに出る。


 雪は以前として降り続いている。ベランダから見える都心環状線には車は一台も通っていない。どうも通行止めになっているようだ。時刻は10時を回っている。稲倉映見は代表になることに決心しているのに自分自身がそのことを良しとしていない。


   (本音は映見が女子大相撲で活躍している姿を見てみたい。夢に出るほどに・・・なのに・・・)

 
















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