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女力士への道  作者: hidekazu
異体同心

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二人で挑みたいんです!

 高大校親善試合の翌日。西経相撲部の練習は休み。自主的に相撲場で稽古をしている者もいるが試合に出場した選手達は誰も来ていない。


 映見は自宅で朝から医大生として3本のレポート作成に集中していた。昨日の試合で負けて意気消沈となったものの翌朝は意外とすっきりと云うかある意味吹っ切れていた。


昨日の試合は、今の自分においては全力を出して切れたと胸を張って云える。でも勝ちたかった・・・。自分のためと云うよりも監督のために・・・。誰かのためにここまで勝ちたい何って思ったことなんかなかった。自分がいつの間にか勝手に壁を作り監督はおろか部員の仲間達とも壁を作っていた。そして石川さくらにも・・・・。


 昨日も話すチャンスはいくらでもあったけど・・・。


 部屋の時計は午後4時を過ぎていた・・・・。何とかレポートを書き上げとりあえず終了。


 映見は高大校のHPにアクセスし昨日の試合動画を見直す。決勝でのさくらとの取り組みを見て試合そのものよりも大歓声に驚いたと云うかあんなに観客達が声援を送ってくれていたとは・・・。

 

(まぁさくらの応援がほとんどでしょ?)と一人苦笑いしながらも何か胸に来るものが・・・。


 掲示板には色々書かれていた。「稲倉は終わった」「世代交代」「稲倉の世界大会落選決定」とか映見からすればバッシング以外の何ものではないのだがそれとて今の映見には許容できる気持ちの余裕があるほどにさくらとの取り組みは映見にとってのモヤモヤを晴らすのは結局相撲しかなかったことを改めて感じていた。本音は勝ちたかった。その姿を監督に見てもらいたかった。でも負けてしまったが・・・。


 取り直しで負け土俵を下りた時ふと監督の顔が目に入った。監督はにこやかな表情で軽く頷いた。


(監督・・・)


 夕食を取り終えると映見は裏山に上がる。この前、和樹と相撲を取ったことが鮮明に脳裏に浮かぶ。あの日、甲斐が相撲クラブに私を誘ってくれなければ私は終わっていた。間違いなく。相撲をやめて医学部の勉学に集中できると考えたこともあったが実際のところは稽古の時間を勉学にあてられたからとて実際は成績は緩やかに下降線、単位を落としかねないところまでになってしまったのだ。でも相撲クラブで稽古まがいとは云え相撲ができると勉強の方にも集中できた。


 甲斐にも感謝と云うか・・・・あの日映見にとって初めての性愛は体がショートしてしまったように・・・。自分の方から求めていく何って想像すらしたことがなかった。それほどまでに自分自身に我慢ができなかったことを愛に求めたように・・・・。


(甲斐に連絡してみようか?)と映見はスマホをパンツの後ろポケットからスマホを取り出すと着信のメッセージが・・・。


(さくら・・・)


 大学生に入りさくらとはあまり連絡を取らなくなっていた。大学2年になるとほとんど会うどころか電話さえも。さくらからの着信履歴が残っていてもかけることはなかった。出稽古に来た時も一切話さず。さくらにはなんの非もないのにさくらにすれば飛んだとっばっちりなのだが・・・。


(電話してみようか・・・・)


 映見はさくらに電話を入れる。時刻は午後7時を回ったところ


(もう練習終わって家に帰ってるかな?)


何回か発信音が鳴った


「映見さんですか?」

「稲倉です。・・・・何回も連絡くれていたけどごめんね」

「全然連絡くれないから・・・それに昨日も」

「昨日の試合はあなたに感謝しないと・・・」

「感謝?」


映見は遅れてきた反抗期のようにすべてにたいして当たり散らすように自分の想っていることすらよくわからず・・・。ただ昨日の試合は勝ちたい・監督のために勝ちたい。そう思って臨んだ試合は今思い返しても興奮する。自分の今持てるすべてを出して・・・まして相手は石川さくら。結果的には負けてしまったが昨日の試合はどんな全国・国際大会よりも興奮し楽しかった。こんなに相撲が楽しかったことを・・・。


「昨日の試合は私のなかでは色々な意味で最高の試合だったと思う。そして興奮した。それはさくらとじゃなきゃダメだったの」

「私・・・」

「単純なライバルとかじゃなくて相撲を愛する仲間として最高の選手として・・・だってさくらすごい上手くなってるんだもの」

「なんか恥ずかしいな」とさくらの笑い声が

「多分あなたは今度の世界大会混合団体戦のアマチュア枠にはあなたが入ると思うわ」

「それは映見さんだって?」

「私は選考にも引っかかっていないと思うわ。世界大会でメダル取れなかったし昨日も負けてしまったし」

「私のせい・・・」

「嫌だなごめんごめん云い方悪かったかな・・・・昨日元横綱の葉月山さんが来てたの知ってるでしょう?」

「私、最初は気付かなかったけど仲間が気づいて・・・・」

「今日、代表監督に就任するからその前の事前視察だったのだと思う。当然あなたの相撲を見るためにだとすれば昨日の試合はアピールできたと思う」

「私の?」

「わざわざ高大校というローカルの試合を見に来る意味ってそ云うことでしょ?だとしたらあなたの相撲を見てみたい。それしかないじゃない」

「・・・・」

「あなたが代表に選ばれたら絶対見に行くから」

「私がもし選ばれたとしても映見さんが出ないのなら・・・」

「・・・・・」

「私は映見さんと一緒にこの大会に挑みたい・・・出るとしても・・・・」

「そんなこと云って私が喜ぶとでも・・・」

「私は純粋に・・・」


「大相撲の横綱百合の花や桃の山さんと一緒に試合に出れる何ってそんな機会望んでも得られない。でも今の私には実力も気持ちも不十分なことは自分自身も自覚しているから・・・でもあなたは実力も気持ちも今は私より上。だから選ばれるのは私からしたら当然だと思う。ましてや昨日見に来ているのはもう決めているからだと思う。逆に稲倉はやっぱり駄目だなぁって・・・冷静に見て」


「そんな言い方・・・」


「私、今の自分を冷静に見れるようになったのそしてそれをちゃんと受け止められように・・・自分でも驚くくらいにねぇ。それに相撲も大学生としてねぇ。そして、さくらに認めてもらえるように」


「認めてもらう何って・・・私にとって映見さんは憧れであり目標なんです。そんな言い方はしてもらいたくないんです」


「さくらの気持ちはわかったわ。ありがとう。色々あなたに気を遣わせる何って・・・・。いつでも連絡頂戴もう無視なんかしないから・・・」

「うっ・・・」

「あれっ・・もしかして泣いている?」

「うっ・・・映見さんがいけないんですよ!」

「あっーほんとにごめん。私が悪いよねぇ」

「また西経に出稽古に行ってもいいですか?」

「あっそれは吉瀬主将にに云って多分大丈夫だと思うけど・・・」

「じゃ吉瀬さんに聞いてみます」

「さくら主将と頻繁に連絡とってるの?」

「頻繁にはないですけど去年食事に誘われてその時に出稽古に来いって云われて・・・」

「食事?」

「私の家の近くに長良川が流れていて岸辺にある懐石料理店に」

「懐石料理店?」

「昔付き合ってた彼氏と来たみたいで・・・」

「ほうほう・・・でっ・・・」

「なんかふられた見たいで・・・って云っていたような・・ってあっ映見さんちょっと今のは」

「良いこと聞いた。そうかフラれたんだ・・・そうかそうか」

「映見さん私を嵌めましたねぇ」

「あらずいぶんな云い方じゃない。私、主将の彼氏がどうのとか一言も云っていないわよねぇ?さくらが一人でペラペラしゃべっていたんですけど」

「あっーーーーー」

「今の話主将にチクってやろうさくらが面白がって喋ってましたって」

「酷い・・・映見さん最低です。もうーーー」

「冗談よ全く。まぁ主将はねぇきっちりしてるからさぁそりゃねぇ男の人も大変だと思うよ。私が男だったらちょっと気苦労しそうだもん」

「・・・・・」

「主将はもうちよっと何って云うかなちよっと神経質すぎるところもあるしねぇもう少し心の余裕と云うか・・・じゃなかったら男は寄り付きもしないのはある意味当然・・・ってさくら聞いている」

「今の録音しましたからねぇ。映見さん。うっししし」

「なにそれ。さくら、まさか!」

「冗談ですよ。さっきの仕返しです」


 とかなんとかくだらない話をして時間が過ぎ・・・。


「多分監督さんの方にもう連絡云ってるんじゃない代表決定の」

「映見さん・・・」

「女子大相撲力士と団体戦にせよ公式試合に出れるチャンスなんか滅多にないんだから・・・さくらならきっと成績残せる。私が太鼓判押すんだから」

「アマチュア枠は二人です。私が万が一選ばれてももう一人」

「多分、青葉の神崎さんだと思う。直近の関東大会でも個人で圧勝していたし今一番調子よさそうだし」

「そんなのわからないじゃないてすか・・・」

「わかるわよ。それが今の現状からしたら・・・」

「神崎さん怪我しているから辞退するって・・・」

「えっ・・・」

「監督と中部フロック広報の新崎の話盗み聞きするみたいになって・・・」

「何時の話?」

「えーあぁー・・・」

「さくら!!」

「あぁぁ試合終わって帰り支度してる時・・・ちょっと・・・」


 映見にとっては全くの初耳だった。青葉の監督と倉橋監督は旧知の仲。


(監督が急遽私を高大校に参加させたのは部員の後押してはなく神崎さんが辞退したから?それも事前に知っていた?)


「さくら悪いんだけど今日はこの辺で」

「映見さん!」

「それじゃ」と映見は一方的に電話を切った。


(もしさくらが聞いた話が本当なら・・・当然監督は知っていたはず。なのに)


 (元横綱の葉月山がわざわざ高大校に来たのは私の調子を見るため・・・)


(監督が棄権しろって云ったのは私の負けがわかっていたから・・・負ける試合を見せたくなかったから・・・だったら取り直しで負けた私に笑顔で頷いたのは何?)


映見の心の中で監督への疑心暗鬼が・・・。


 スマホで世界大会のHPを見る。日本代表は女子大相撲から横綱 百合の花・桃の山の二人。アマチュア枠一人に補欠としてもう一人の二人は未定(近日中に発表)


 映見自身全く日本代表など考えていなかった。そのことに自分自身も納得していた。でも・・・。


(本心は出れるのなら出たいましてや石川さくらとなら尚更。なんであの時迷ってあんな立ち合いをしてしまったんだ)「くそぉーーーー」と思わず大声を上げてしまった映見だった。


 


 


 


 

 

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