西経の横綱 稲倉映見
―シャワーを浴び着替えし葉月は島尾と長い廊下を正門出口に向けて歩いていた。
「椎名監督これからまだどこかに?」
ー時刻は午後六時半を少し回っていた。
「これから西経大学の方に」
「西経に・・・・」
ー島尾の顔が一瞬曇る。
「喫しはついてらっしゃると思いますが補欠で選考した稲倉映見のことで・・・・」
「私、西経相撲部のOGでして・・・・・」
「そうなんですか・・・・」
―葉月は部長からは聞いていたがあえて知らないふりをした。
「会う約束はされてるのですか?」
「実は前回明星さんに伺う前に事前に電話で面会の約束をとろうと思ったら断られまして・・・あの後アポなしで云ったのですが今日は来校されていないと云うことで東京に帰りました。稲葉の件が納得できないだろうことは理解できますが・・・それ以上に私に嫌悪感を抱いていらっしゃるのだろと」
―重い雰囲気の葉月
「今回の出張の目的は再度西経の監督に会うことが目的なんですかその前に一度石井さくらに生で会って話をしてみたかったと云うのも少しあって・・・ただぶつかり稽古までするつもりはなかったんですが」と苦笑い
「そうだろうとは思ってました。でも部員達には本当にいい経験をしていただいて感謝のしようがありません。ちょっとやきもちを抱いてしまいましたが・・・」
「やきもち?」
「葉月山と稽古ができる上にさくらはガチ相撲までしてもらって・・・・」
「・・・・・」
「私もしたかった・・・・」
「えっ」
「すいません。ちよっと本音が・・・・・もし私が学生だったら椎名さんみたいな方と出会いたかった・・・」
「島尾さん・・・」
「すいません!何言っているんだろう・・・・あっーもう・・・」
ー髪の毛を毟るように頭をかく島尾
「あっ、椎名さん西経の近くまで私の車で送ります。ここからだと電車で一時間以上はかかりますし」
「そ云うわけには・・・・それに部のことも」
「大丈夫です部のことは、うちの部長は優秀ですので私がいなくてもすべてやってくれるんで・・・・・すいませんが先に玄関でお待ちください。車持ってきますんで」と云うと島尾は反対方向に小走りで・・・・
―島尾に言われた通り、玄関前で待っていると、白のワゴン車が横付けされた。運転席から島尾が出てきた。
「どうぞ乗ってください」
「失礼します」
ー葉月が助手席に座ると島尾朋美はゆっくり車を滑らせた。
ー車は岐咲城を背に名古屋方面へ、各務原ICから入り大曽川を越える。
「島尾先生・・・・」
「あぁ・・・朋美でいいですよ・・・どうも横綱に敬語を使われると」
「もう私は横綱ではないですし・・・・わかりました。じゃぁ朋美さん」
「はい」
ー車は一宮ICを過ぎると一気に車の流れが増える。
「私は高校卒業後プロになると決めていたので正直大学生相撲には関心がなかった。」
―朋美は黙って車を走らせる。
「高校時代は個人戦しか出場資格がなくて部としてはありましたけど名ばかりの部で単なる数合わせ・・・・」
―葉月は窓の外を見ながら話を続けた。「ひょんなことで私は高校三年の最後の大会で団体戦に出場できたんです。三年の時は私を含めて三人。私以外の二人はおせーじにも選手レベルではなかったし相手にもしていなかったし・・・でもその二人が他の運動部の女子選手を強引に入れて人数揃えて・・・・県大会で準優勝までいけた・・・・もう一歩で全国大会出場は逃したけどそんなことはどうでもよかった。その時初めて団体競技の楽しさを知りました。それまで個人戦だけ出場できればいいと思っていた自分が恥ずかしくなって・・・大学からの勧誘もあったんですかプロになることは高校の時から決めていたので・・・・でも今思うと大学に云っておくべきだったかなーと・・・」
ー前に鯱をのせた名古屋城が見えるライトアップされ・・・・・
「私は西経女子相撲部OGとして誇りを持っています。」
「・・・・・」
「女子アマチュア相撲の発展は倉橋監督ではなかったらできなかったと思いますしそれは女子大相撲にとっても計り知れないと思います」
「ただ、私が西経付属高校の相撲部に入部したころから何か変わってしまった・・・・あまりにも勝つことばかりに執着とていたと云うか・・・」
ーフロンドカラスに雨が・・・・
「勝負事ですから勝ちに拘るのは当然だとは思います。高校で二年続けて西日本で優勝できなかった。当然全国でも・・・」
ーワイパーゴムは滑るようにガラス面を拭いていく時折するような音が
「当然のように大学に進み当然のように相撲部に・・・・でも私にとっては生き地獄だった・・・・」ーフロントグラスの水滴が流れ落ちる。
「入学した最初の一年はとにかく四六時中稽古の連続。全国大会で優勝どころか表彰台は一回それも三位。」
「朋美さん・・・」
「高校での選手達がそのままスライドで入学するわけだから当然大学での成績もある程度は予測ができます。私の世代が入学した時の上級生の態度は冷ややかだったし優勝できなかった世代と陰口もたたかれました」
ー車外の温度計は二度を表示している新幹線の車内ニュースでは確か名古屋は雪の表示だった
「だから必死に稽古に・・・・・当然可愛がりと云う名のもとのしごきもあったましてや私は三年の時は部長であり主将で大会に出ていましたから格好の標的です」
ー雨は結晶へと変わる
「その年の全国大会での団体・そして個人重量級で優勝できたしやっと上級生に認めていただいた嬉しかった。これで監督にも認められると・・・でも、もうそこで限界だった。体力的にも精神的にも・・・・二年生は故障の連続二軍の下級生相手には全く歯が゛立たなくなって」「それで私は相撲部から逃げた」
ーフロントガラスには無数の六角形の模様が・・・・
「それからはもう相撲からは遠ざかるつもりでいたのですけどね。まぁいろいろあって結局また指導者として土俵に戻ってしまいました。」
―朋美の顔がいくらか緩い表情に戻ったような気がした
「相撲・・・愛してるんですね」
「愛しているかどうかはわかりませんが大好きであることは自信をもって云えます。たまたま明星で教師をしていたら学校の方で女子相撲部の話があって・・・・男子は全国大会へも多々出ているんだから女子部もと云う話になったんです。それで私に監督の話が・・・なんか今考えると女子相撲部創設したいから私を取ったのかと今でも思ってますけど」と苦笑しながら。
ー車は高速を降りて国道を北へ走る。
「島尾先生!そろそろ着きますよ!」
ーレンガタイルの校舎らしき建物を通り過ぎると大きな正門が車は正門を通り過ぎると交差点をUターンしてファミレスの駐車場に車を止めた。
「すぐそこが正門何で守衛さんにアポイント取ってもらえれば大丈夫です」
「ありがとうございます。助かりました」
「葉月さんもし監督が会われなかったら・・・・」
「その時は諦めます。監督を請け負った以上責任があるので割り切ります。時間的にも厳しいですら」
「今日はどこかお泊りに?」
「最終の新幹線で帰るつもりです。遅くても九時に出れれば間に合いますので」
ー車内のデジタル時計は19:35分
「葉月さん」
「はぃ・・・」
「稲倉はいい選手です。彼女を・・・・・」
「・・・・・」
ーフロントガラスに薄く白いレースのように結晶が・・・・・
「朋美さん?」
「あっ葉月さん傘は?」
「持ってませんが帰りはタクシーでも呼んで帰ります」
「私、ここのファミレスにいますから帰られるとき電話ください」
「そんなことしなくていいですから学校からここまで送っていただいただけだって申し訳ないのに」
「気にしないでください。ここで食事していきますから」
「でも・・・・・」
「気にしないでください。あっそれと大事な情報です」
「情報?」
「来賓の応接室に通されると思うのですがそこで普通のお茶か紅茶かそしてお茶菓子が出るわけです」
「お茶菓子?」
「紅茶とモンブランが出たらそれは大事なお客様」
「出なかったら?」
「出なかったら・・・・ナムー・・・と云うことです」と手を合わせる朋美
「私で遊んでます・・・・」と不機嫌な声で
「葉月さん。監督が会うと云うことは了承するってことだと思います。出場させないためだったら会いませんよ」
「そうならいいんですが・・・」と云いながら外に出て荷物を下ろす。うすらっと地面は雪景色。
「本当に待ってますからね」
「本当に気を使ないでください」
ー深々と頭を下げる葉月。
「稲倉と・・・監督のこと・・・お願いします」と深々と頭を下げる朋美いた。
「朋美さん・・・」
ー雪は勢いをましてくる。
「それじゃ・・・」
「はい。待ってますからね」
ー車を背に葉月は踵を返し歩き出した。
ー雪が舞う中、葉月は一人校門へと歩いていく。
―地面には雪がしっかり降り積もっている積雪は5cmと云うところだろう―正門入り口の受付で相撲部の倉橋監督に面会のむねを伝えると暫くしてトレーニング用のジャケットを着た部員とおぼしき生徒か゛やってくると軽く会釈して
「椎名監督でよろしいでしょうか」
「はい」
「女子相撲部でマネージャーをしている海藤と申します。倉橋監督から来賓用応接室でお待ちいただくようにと受けましたのでご案内いたします」
ー葉月はその生徒の後に続く。長く続く廊下照明が点いているのは葉月のために就けてあるのかもしれない。階段を上り応接室へ通された。壁にかけてあるセイコーの掛け時計が7時40分を指している。
「相撲部の練習は8時までですので終わり次第監督が会われるそうです。今、飲み物をお持ちしますのでどうぞお座りください」
―マネージャはいったん部屋を出るとしばらくするとフレンチプレス機に入った紅茶とケーキを運んできてテーブルの上に置いた。
―葉月はそのケーキを凝視するように・・・・
「モンブラン・・・・」つい声に出してしまった
「モンブランが何か?」生徒は何か意味深のような口調で
「いや・・・・」
「監督には大事なお客様にはこのモンブランを出すようにと云われています。では私は道場に戻ります」
「あのー・・・道場に行ってもいいですか?」
「すいません。道場には関係者以外の方は監督の許可がないと入れることはできませんので・・・すいません」
「わかりました。ではこちらで待たしていただきます」
ーすると生徒は一礼して部屋を出た。
「モンブラン・・・・一応は話だけはしてくれそうでほっとした」ケーキには触れず紅茶だけをカップに入れすするように口へ
ー知らないうちに緊張しているのか香りも味も感じないと云うか・・・。
「こんなに緊張して・・・・」自分の顔をはたくと席を立ちガラス窓の外をその先にはちょうど
「ファミレス?」もしかして監視?
葉月は駐車場に目をやると朋美の車が
「冗談でしょ・・・」と思わず口に出してしまった。席に戻り深く息をすると腕を伸ばし息を吐い息はまるでため息のような・・・
しーんとした応接室に葉月は倉橋が来るのをじーっと背筋を伸ばしたままソファーに座り・・・壁掛け時計は8時30分を指している
「少し遅すぎませんかいくらなんでも」とあまりに遅いことについ愚痴ってしまった。もう新幹線は間に合わないなーまさかの夜行バス?
ーまだ何も話していないどころか会ってもいないのに帰りの心配って・・・・あぁぁぁ
西経大女子相撲部。
男子相撲部は大学創設時からあり幾度の全国大会優勝や国際大会での活躍はアマチュア相撲の関係者なら一目置かれる存在。
学生の女子相撲が開催されることになった時とおなじく。女子部の創設機運が高まり20年前に創設以後幾多の全国大会優勝。インカレでは6連覇を達成。いまだにやぶらていない。ただ近年においては各大学も女子部の創設ならび体制の強化でけして西経一強という状況ではなく直近で云えば久しぶりインカレ連覇も予想外の準々決勝敗退で西経の牙城が崩れたと報道されたのは記憶に新しい。
そんな状況の中、倉橋監督が創設時から指揮をとる女子相撲部は一つの岐路にたたされているのは事実である。中高の有力選手の奪い合いや相撲部の強化に監督と部員達との見えない溝。そのことが鉄の団結力と云われた西経大及び付属高校の部に影を落としていた。
「映見!何休んでる。動けよ早く。あたり稽古だろう何やってるんだよ」倉橋の怒号が女子相撲部専用相撲場に響く。
ー稲倉映見三年生。西経女子のエースとして付属高校時代から無敵の快進撃を続けてきた。インターハイ個人団体連覇・世界ジュニア個人連覇。高校最後の大会では惜しくも準優勝だったが、それでも圧倒的な強さを誇った。特に土俵際の粘り腰の強さは横綱級とも評された。当然のように大学進学後女子相撲部に入部。一年生ながらレギュラーに抜擢されその後団体連覇と個人連覇・世界大会では優勝できなかったものの強豪力士相手に準優勝は称賛されてしかるべきなのだが・・・・。
―世界大会が終わり残念ながら個人のメダルを逃した二年生の冬
「監督、私もう限界です」映見は膝をつき苦しそうに言葉を絞り出すように話す。
「お前は私の指導に不満があるのかい!」
「いえそうではありません。ただ、体力・精神的に体がついていかなくて・・・」「何を云っているんだお前は・・・」呆れたように云う倉橋。
「メダル逃した言い訳のつもりなのかい」「いいえ違います。私は全力を出し切りました」
「じゃあなんで負けた?」
「それは・・・」言葉が出てこなかった。悔し涙だけが溢れてくる。
「泣いて同情でも買ってくれるとでも」
「すいません」
「歴代の西経の横綱にお前みたいな奴はいなかったよ」
「・・・・・」
「帰っていいよ、しばらく部に出なくていいからチームの士気が下がるだけだから」「すいません失礼します」映見はうつむき加減で土俵を降りるとそのまま相撲場を出て行った。
ーその後しばらく部に来ることはなかったがレギュラー部員達の説得でなんとか部に復帰したものの監督との間には大きな溝が・・・
ー流石にこの間のブランクはきついと思われたがなぜか動きが良いことに驚く。元々のポテンシャルは部員も監督も認めてはいるが・・・。
「集合」倉橋の声がかかる。
「来週の中京圏高大親善試合の団体代表メンバーを発表する」
「石上麻衣・伊藤あさか・神林つぐみ・大野真美・吉瀬瞳。以上が正選手。補欠で稲倉映見、以上」
ーざわつく道場。部員達の驚きとはうらはらに映見は関心がないような素振りを見せる。「異議のある者はいるか?いないようね。それでは解散」
「ちよっと待ってください」と異議を唱えたのは主将の吉瀬だった。
「なんだ?」不機嫌そうな表情を浮かべる倉橋。
「納得できません。なぜ稲倉が補欠なのですか横綱じゃないんですか?稲倉であるべきで・・・あっっっ」
「吉瀬!随分偉そうな口を叩くんだねぇ」
「すっすいません。私が度をこえていました」
と頭を下げる。
「まぁ良い。確かに今のお前の発言は許せない。しかしだな、今のメンバーでベストだと思う。それにな、稲倉は殆ど実戦練習に参加していない。それをいきなり試合に出すなんて無謀だと思わないかね」
中京圏高大親善大会当日。
―西経大・高校とも順当に勝ち上がり準決勝第一試合は西経高校対明星高校。注目は明星の石川さくら。一年生ながら抜群のパワーと瞬発力は中学時代から関係者からは一目置かれていたがそれにくわえ高校進学後相撲技術と云う点も目を見張るものがある。心技体すべてにおいて超高校級と云われ始めたのはそのころからだった。
ー女子相撲指導者にとって当然注目されていたし中学時代は水面下でのスカウト合戦は過熱はしていたがライバル校の見方は当然、西経に行くのだろうと云う話になっていた。中京圏においては高校・大学では一強でありそこに入ることは中京圏の女子相撲選手にとっては一つの目標でもある。
ー当然西経もスカウトに動き、本人は当然ご両親にも足げなく通い親交に努め学費の免除いわゆる特待生扱いである。三年生になり当然西経に入る者と思っていたが本人が急に白紙にしたいと言い出したのだ。慌てた西経関係者が話を聞こうとしても頑として答えない。最後は倉橋が直接会って話をしたがそれでも頑として喋ろうとしない。
年が明け入試本番において石川の両親から西経に断りの電話があった。内容は本人が違う高校を希望しているとのこと西経関係者は本人に直接話をしたい旨を伝えたがそれはできなかった。
「倉橋監督すいません。どうしても本人の意思が堅くて・・・・両親は西経に行くことに異論はないのですが・・・・」
ー倉橋はスカウトに動いてくれた橋田佳代子及び学校関係者に労いの言葉をかけながらも何か釈然としなかった。
「あれだけ動いていただいて私も会ってそれでも駄目だったんですからあきらめましょう。色々ご苦労かけましたがありがとうございました」とれを云う。
「私の力不足です。ただ・・・」
「ただ」
ースカウトに橋田は重い口を開いた
「後にわかることですが彼女の中学校関係者に色々探りを入れても頑として喋らなかったのですがどうも明星に行くようです」
「明星?」
ー倉橋にとっては意外と思う反面ある種の脅威は薄々は感じていた。公立ではあるが5年前に生まれ変わり普通科の他にスポーツや芸術の科もある異色の公立高校である。そこに教え子であった島尾が入ったことは聞いてはいたし女子相撲部も新設された時は挨拶をしに西経に訪れてきた。
「女子相撲部を新設したってことはライバルになるわけか」とにやつきながら紅茶とモンブランをテーブルに置く倉橋
「色々ありましたが監督には・・・顔を向けられる立場ではないのですが・・・・私として」
「朋美・・・」
「・・・・」
「お前は私に顔を向ける資格がないと思っているのか?お前には過度の期待をかけ過ぎたのかもしれないなー」
「監督・・・・」
「今度は指導者として・・・まぁよろしく頼むよ」
ーそれだけ言うと一口紅茶を啜り穏やかな表情を見せた。
ー朋美が初めて見る表情。厳しい監督しか知らない朋美にとってはうれし泣きしそうぐらいな・・・。
準決勝第A試合は意外にももつれ込んでいた。石川さくらだけの一強チームだと思われていたが昨年からチーム自体が強化されたようにさくら以外の個々のレベルも上がっていた。ここまで四対四西経にとっては予想だにしなかった事態。先に準決勝を終えて勝ち上がっていた倉橋は会場の二階からこの試合を見ていた。
ーそして決勝。明星の石川さくらは西経の大将を圧倒的な四つ相撲から豪快に右上手出し投げて転がし決勝進出。
「またレベルが上がっている。まさしく横綱相撲ね全く」と倉橋
ー土俵下で喜ぶ明星の選手達。会場ではどよめきと同じく来場者から歓喜の拍手が・・・・
決勝は西経大対明星。師弟対決も違う意味での興味である。
ー優勝旗を手にするのは果たしてどちらか。
「石井さくらってやっぱ超高校級というかプロレベルですね稲葉先輩」と中量級の石上麻衣
「・・・・・」教えた右上手で出る持ち手のくせ完璧に修正してる
ー内心嬉しかった。勝負うんぬんより相撲が誰より好きと云う共通たげでライバルになるかもしれない石川さくらだが稲葉にとっては関係のない話だった。
「今の、映見の得意技だよなぁ・・・本当に余計なことしてくれるよ全く・・・・まぁ映見が勝って責任取ってもらわないとなぁ」と四年大野真美。
ーただ別に攻めているようではなかった。許しているわけではないが映見の取ってしまった行動にある程度の理解をしていたのはて部員達の気持ちではあった。勝利至上主義。西経が常に学生女子相撲界において女王でなければならないそれは創設からの党是。しかしこの十年の成績は常にトップ争いをしてきていても高校・大学とも優勝回数が落ちてきているのは事実であると同時女子相撲の盛り上がりは当然ライバル校が増えるのは当たり前でその状況下でも西経が常に今の地位を維持していることは他校にしてみれば脅威なのだが倉橋はそれでも許せなかった。
そのことは、いつしか部員達との間に見えない溝を生み出してしまった。表向きには云わないがストレスが溜まっていたのは事実。
純粋に相撲が好きな稲葉にはどうしても勝利至上主義は納得できなかった。それでも西経で相撲ができていることが自分のレベルアップひいては各大会での勝利そして連覇につながっていることは事実であるゆえに余計に無限の自問自答ループに嵌ってしまっていた。
そして決勝は、西経大学対明星高校という組み合わせは女子相撲ファンにすると確かに石川さくらという超強力な戦艦がいたとしても大学生も含むこの大会でここまで勝ち上がってくるのには他の部員も勝たなければここまではこれないがそれをこの数年でやってきた明星監督。島尾朋美の指導力には各校が注目していた。ファンの間では師弟対決と揶揄されているがそのことに関して朋美は一切その手の質問には答えなかった。「師弟対決など私にとってはまだまだ先の話です。今は胸を貸していただけるだけで光栄です。勝ち負けは明星女子相撲部にとっては二の次です。部員達が相撲に情熱をかけられることの環境を整えることそれが私の役割であとは部員達が自ら決めて行動することです」ときっぱり。
ー朋美にとって女子学生相撲は本当に相撲が好きでやりたい女子生徒のために打ち込めるものを整えてあげることそしてそれをサポートすることが学生相撲の本道だと・・・・。見方によっては倉橋の勝利至上主義とは相反する考えだがけして倉橋を批判することは一切云ったことがなかった。
―決勝戦 西経大学対明星高校
下馬評では当然、大将である石川さくらが西経大の大将稲倉までにたどり着いた時の消耗度どれだけかが最大の焦点だった。しかし予想外に明星は二人の西経の選手を撃破しさくらは三人を相手にすることに・・・・。倉橋は激を飛ばすことなく戦況を見ていた。たいして明星の島尾はこぼれんばかりの笑顔で選手達を全身で労い大喜び。大会関係者から注意を受ける場面もあったが観客達もここまで上がって戦っている明星の選手達に大声援を送っている。
ー土俵上では激しいぶつかり合いが一息ついて関係者が土俵を掃いている。
「ここまでよくやったわねみんな」と微笑む島尾
「監督・・・」勝ったもの負けたもの関係なく涙ぐんでいる選手達。そしてサクラを中心に円陣を組む
―主将が「ここからはさくらの戦いになるけど私達の気持ちとパワーさくらに注ぎ込むよ さくらぁ全力前進ファイトさくら・さくらぁ全力前進ファイトさくら・明星魂注入・明星魂注入・はぁ~い完了。笑い出す部員達。これ私が考えんだけど結構恥ずかしいわと笑いながら部長の真奈美が云うと一同全員。確かに・・・・。石川さくらも少し緊張していたのがリラックスできたようだ。
「でもここから先はさくら自身の戦いだから自分の想っている相撲をしなさい」と真剣な表情を見せる島尾。
「はい!」とさくらが答える。
「じゃあ行ってくるね!みんなありがとう!!」と顔を叩き気合を入れる石川。
「行ってこいやぁ!!!」「がんばれぇええ!!!!!!!」と部員達の歓声が響く中、石川は土俵に上がる。
ー場内は静まり返っていた。今までの試合とは違う空気感に会場全体が包まれているようだった。
「あれが噂の石川さくらだろ」「なんか凄い威圧感って云うか」「やっぱりあの子なんか雰囲気違うぞ?なんかプロの力士みたい」等々の声がちらほら聞こえてくる。
土俵中央まずは西経の中堅。お互いの視線は相手を見据えている。そして礼をして構える両者。
「はっきょいのこった!!!」
審判の合図とともに試合が始まった。
先に仕掛けたのは石川の方であった。一気に間合いを詰め寄り身を沈めると同時に左の上手を取りに来た。その瞬間相手の選手は右下手投げで石川の体勢が崩れたところにそのまま体を浴びせてきた。
「あっ!?」思わず声を上げる島尾。そしてその光景に驚く部員達。
「なんで?」島尾が呟く。そう。今まさに勝負が決まったと思われたその時、倒れ込んだはずの石川は左足を軸に右足を大きく上げていた。それはまるでコマのように回転しながら相手にぶつかる。
いわゆる足取りである。
そして次の瞬間、今度は相手が倒れた。
一瞬何が起きたのかわからないような呆然とした表情を浮かべた相手は周りを見回したが勝ち名乗りを受けたのは石川さくら。
会場は割れんばかりの大声援と拍手に包まれた。
そして島尾朋美は思う。
ーこの子は超高校級何ってレベルじゃない。
おそらく現時点ではジュニア世界最強。しかもまだまだ成長途中。
そして彼女はまだ本当の力を出していない。島尾は改めてサクラの潜在能力の高さを知ったと同時に指導者としての迷いがよぎる
ー稲倉以外の選手じゃ勝てないな・・・・。ポツリとつぶやきながら戦況を見ていた。
「監督。すいません」と西経の中堅力士が帰ってきた。今でも負けたことに信じられないような顔をしているが・・・
「・・・・・・」倉橋は何も言葉を返さなかった。
ーさくらはそのまま土俵に残り西経の副将を待つ。その立ち姿さえ威風堂々と見ている者を圧倒する。でも決して威圧感を感じさせないのは僅かに微笑んで見えるからなのか?
それとも彼女の持つ天性の優しさからくるものだろうか? そんなことを考えながら見つめているのは島尾だけではなかった。他の部員達もただ黙って見守っている。
「副将戦始めます。はっけよい!!」
再び開始される決勝戦。
―決勝戦 西経大学対明星高校
下馬評では当然、大将である石川さくらが西経大の大将稲倉までにたどり着いた時の消耗度どれだけかが最大の焦点だった。しかし予想外に明星は二人の西経の選手を撃破しさくらは三人を相手にすることに・・・・。倉橋は激を飛ばすことなく戦況を見ていた。たいして明星の島尾はこぼれんばかりの笑顔で選手達を全身で労い大喜び。大会関係者から注意を受ける場面もあったが観客達もここまで上がって戦っている明星の選手達に大声援を送っている。
ー土俵上では激しいぶつかり合いが一息ついて関係者が土俵を掃いている。
「ここまでよくやったわねみんな」と微笑む島尾
「監督・・・」勝ったもの負けたもの関係なく涙ぐんでいる選手達。そしてサクラを中心に円陣を組む
―主将が「ここからはさくらの戦いになるけど私達の気持ちとパワーさくらに注ぎ込むよ さくらぁ全力前進ファイトさくら・さくらぁ全力前進ファイトさくら・明星魂注入・明星魂注入・はぁ~い完了。笑い出す部員達。これ私が考えんだけど結構恥ずかしいわと笑いながら部長の真奈美が云うと一同全員。確かに・・・・。石川さくらも少し緊張していたのがリラックスできたようだ。
「でもここから先はさくら自身の戦いだから自分の想っている相撲をしなさい」と真剣な表情を見せる島尾。
「はい!」とさくらが答える。
「じゃあ行ってくるね!みんなありがとう!!」と顔を叩き気合を入れる石川。
「行ってこいやぁ!!!」「がんばれぇええ!!!!!!!」と部員達の歓声が響く中、石川は土俵に上がる。
ー場内は静まり返っていた。今までの試合とは違う空気感に会場全体が包まれているようだった。
「あれが噂の石川さくらだろ」「なんか凄い威圧感って云うか」「やっぱりあの子なんか雰囲気違うぞ?なんかプロの力士みたい」等々の声がちらほら聞こえてくる。
西経の次鋒をあっさり倒し次は副将の吉瀬瞳。軽量であるが【技師】の瞳をどうさくらが攻略するのか?
「副将戦始めます。はっけよい!!」
再び開始される決勝戦。
ーバシッという身体がぶつかり合う音が響きます。
「ぐっ!」
「くっ!!」
意外にも瞳は四つ相撲を選択したのだ。体格的に優位なのはさくらにも係わらず・・・・。当然さくらの方がやや優位。
「くっ・・・あくっ・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・くぅ・・・」
―私の使命はさくらさんの体力を消耗させること。部長としての勝利の方程式は消耗させ映見に決めてもらう。本来だったら得意の速攻で決めるのが定石なのたがさくらのここまでの取り組みを見た時に直感的に速攻でも対応して来ると判断し勝負を捨てさくらを疲弊させることに専念し映見へと云うのが主将としての選択なのだ。そしてその選択は正しかった。さくらの得意の投げを打ってこない。瞳は相当疲弊していて相撲自体もまともにできないと・・・。
「う~ん・・・う~ん・・・」
「くぅ・・・あっ・・・ん~ん~・・・」
「・・・・・・くっ!!」
「・・・・・・うあっ・・・」
土俵際の攻防が長時間に渡り、瞳の頬が朱に染まる。玉のような汗が流れるが瞳は力を緩めない。
ー三分が近づこうとしている。三分を過ぎれば水入りになり再度仕切り直し延長戦に入ることになる。
「はああああっ!!!」
「ああああああっ!!!!」
二人の気迫のこもった声が会場中に響く。
「さくら・・・・」島尾が呟いた時、
ー ほんの一瞬緊張が解けた瞳をさくらは動物的感で見逃さなかった。さくらは腰を引いた瞬間に左下手でさくらを引き付けつつ上手投げを仕掛ける!瞳の左足が耐える間もなく跳ね上がり右足で残ろうとしたが、既に時遅し。瞳の身体は、綺麗に一回転して背中から土俵に叩き付けられた。
「やったあぁぁぁすごいよさくら・・・・」
ー土俵下の明星の選手達は大絶叫。それに感かされたか会場にはさくらへの称賛の嵐。しばらくするとさくらコールが・・・・。
部長の瞳は疲労困憊のうつろな表情で倉橋に礼をすると一言。
「部長らしい相撲だった。お疲れ・・・」
「ありがとうございます」
ー土俵下、西経の大将である映見は軽く体を動かしていると後ろから倉橋が・・・
「西経として恥ずかしい相撲だけはしないでくれ・・・・」とポツリ
―映見は聞こえているのか聞こえてないないのか?はたまた聞こえていないフリをしているのか?
映見は後ろを振り返らず土俵向こう正面のサクラを鬼のような目で睨みつける。
ー 映見にとってさくらはかわいい妹のような存在である。だからと言って負けるわけにはいかない。
ー会場はスーパー高校生石川さくらの三人抜きに期待して声援はさくらにエールを送る。何しろ相手は中高と無敵の稲葉映見。大学に入っても国内大会は完勝。負けたのは世界大会とアジア大会それでも表彰台は逃さなかった。
―稲倉映見の相撲は王道な綺麗な相撲と云われている。そして右手でも左手でもいける上手投げは基本的な投げ技ではあるが四つに組んでからその技から逃げるのは至難の業。西経の絶対横綱稲倉映見。
ー対するは高校生石川さくら。岐阜で毎年行われている女子相撲大会である全日本女子相撲郡上大会の小六部門60キロ以上部門での三位入賞から地元では注目を浴び始めた。その後は郡上大会はもちろん・中学の全国大会重量級でも1年生ながら上級生相手に無敵な強さ。中学2年生で異例のジュニア世界大会団体及び個人戦に出場。結果的には団体戦は三位。個人戦は二回戦敗退だったがそのことはさくらにとっては大きな財産になった。 その時のメンバーに当時高三の稲倉映見が大将としてチームを率いていた。
ー世界大会が終わり夏の郡上大会で久しぶりに再会した二人。その時さくらから進学の相談を受けた。
「映見先輩。私、西経から誘いを受けていて映見さんの後輩になるかもしれませんがその時はよろしくお願いします」と笑顔で・・・でも
「さくら、相撲ができる高校は西経だけじゃないし・・・岐阜にだってあるじゃない」
「私が西経に行くの反対なんですか? 私、映見先輩みたいに四つの王道相撲で・・・・」
ー必死に何かを伝えたいさくらの表情はなんとなく理解できる。私を慕ってくれているかわいい後輩ではあるが・・・。
「言い方が厳しかったら謝るけどあなたの持ち味は生かせないと思う。それに名古屋まで通わずに寮生活になるとしたら本当に厳しいのよ・・・さくらにはわからないかもしれないけど」ー少し寂しげな表情のさくらを見て映見は胸が締め付けられる思いがした。
ーさくら。あなたの描いている相撲は西経にはないのよ。勝利しか認めてくれない・・・・相撲が好きだからとかそんな次元ではないのよ。あなたには勝利至上主義だけの選手にはなってほしくない。
「映見先輩。私は相撲が好きだからだから西経に行って・・・西経ならもっと相撲が真剣にできるじゃないかと・・・」
ー違うんだよさくら。さくらが想っている相撲は西経にはないのよ
「さくらが西経に行くことは私は反対だし・・・それでも西経に来たいと云うのなら先輩・後輩の付き合いはできない」
「・・・・・」
―さくら、御免ねぇこんなことを云うつもりはなかったけどあなたが西経に来たら自分で自分を潰してしまう。さくらにはおおらかなところで相撲をしてほしいの・・・・。映見はさくらを無視するようにその場を去っていく
。
ー郡上大会後映見と会うことはなかった。そして明日は中学全国大会。中学最後の大事な試合がある。
―相撲部の後輩達と最後の調整をする日。
ー控室では部員達が準備体操をしている。
ーそんな中、一人黙々とストレッチをしているさくら。その姿を見た部長の夏樹。
「調子よくない?」
「いえ別に・・・ただちよっとなんか緊張と云うか気負い過ぎちゃってるのかなって・・・」
「そうか・・・」
―夏樹はそれ以上何も言わなかった。相撲は個人競技だ。部の中でもレギューラ争いはある。たださくらの通う公立中学校は女子部員は6人の小さい部活。さくらにとっては勝利云々よりも相撲大好きの仲間と一緒にいられることが大事。そして団体戦がギリギリ出場できることはさくらにとっては個人戦で戦うことよりも大事なことだった。「いっしょに大会で相撲ができることが本当にうれしいんだ」と・・・さりとてさくら以外の部員はとてもさくらの相手にはならないので男子相撲部にお願いして相手をしてもらってるが思春期の男子にして見れば女子と相撲を取ることに抵抗を感じていることもあり中学に入り入部直後はなかなか思うような稽古はできていなかった。そんな時、稲倉映見と出会うことになる。