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女力士への道  作者: hidekazu
異体同心

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相撲人として椎名葉月として・・・①

 あまりにあっけない決まり手であったので会場は一瞬ため息まじりの歓声に・・・。観客が期待したのとはたいぶ違ってしまったのだ。それでも観客達はさきの取り組みを含めて二人に惜しみない拍手と激励の言葉を・・・。


「石川さくら秒殺。すごい」

「アマチュア女子横綱撃破。恐るべし」

「でも稲倉映見もやっぱり凄いよ」

「来年も見れるかなぁ・・・・」


 勝った石川さくらは観客達の声援にお辞儀をし手を振って応える。稲倉映見は観客席にお辞儀をし静かに土俵を降り部員達もとへ。


「あっけなかったですね・・・」と一花は静かに

「立ち合いで相当迷ったのでしょうね」

「確かにあの立ち遅れは・・・」

「でもこれでよかったのかも知れない。彼女にとっても私にとっても」

「えっ・・・どう云う意味ですか?」

「もう部屋に戻るわ」と葉月は席を立ち外の方へ歩き出す。

「葉月さん」と一花も後を追う。


 会場の外にもたくさんの人がこの試合を見ている。その間を抜けながら葉月は会館の裏口から本館ロービーに。


「今日はどうもありがとう。貴女がいなかったら会場で見れなかったわ。感謝するわ」と軽くお辞儀をする葉月


「そんな気にしないでください。高大校は一応中部ブロックの相撲関係者として見ないわけにはいきませんしただ事前に理事長の方からうちの支部に連絡があったことは認めますが・・・」と一花


「正直なんかいい気分はしないけどねぇ」

「すいません」

「別に貴女のせいじゃないから」と笑いながら

「明日は何時に伺えば名古屋までご一緒しますから」

「いいわよそんな。なにそれも理事長命令?」

「そうではないですが・・・」

「東京に一人で帰れますからご心配なく。明日はここの会館でやっている伊勢神宮早朝参拝ガイドツアーに参加するのよ。そんな機会めったにないし、そのあと東京に戻るわ。品川のホテルに1時ぐらいに着ければ2時からの会議に余裕だから・・・」

「わかりました。私こそ絶対横綱と云われた葉月さんと観戦できたことは一生の思い出です」

「一生って・・・まだ貴女と会うことはちょくちょくあるからその時はお願いねぇ。じゃ私は部屋に戻るから」


 葉月は一花を見送り。フロントに


「もう大浴場入れます?」

「今日は17時からになります。相撲大会の選手のみなさんのために貸し切りになってまして・・・」

「あぁーなるほど。わかりました」


(それはしょうがないよねぇ)と葉月は部屋へ。ちよっと風呂入って横になろうと思ったのに・・・。


 相撲場では優勝旗の授与などの一連の儀式がおこなわれていた。高校初の優勝校明星。初参戦初優勝を目指していたが残念ながら準優勝に終わった西経大学。その他悲喜こもごもあったが大会としては無事終了。それぞれ各校は帰路へ。


 午後8時。葉月は座卓の上にノートパソコンを広げさっきまでおこなわれていた高大校の試合を公式HPで確認するとすでに動画も含めUPされていた。そして書き込みは概ねこの大会に対して好評であり特に石川さくらと稲倉映見の取り組みは称賛されていた。ただ稲倉映見という個人に対する意見はすべて好意的かと云えばけしてそうではなかった。


「取り直しの稲倉さんにはちょとがっかりした」

「なんかいまだに世界大会の負けを引きづってる?」

「世代交代でしょ?」

「このまま終わるのは寂しいけどそれが現実」


 殆どの書き込みは両者の試合を称賛していることは事実だし一部の書き込みを見てうんぬんかんぬん云うのもいかがなものかとは思うがそれでも女子相撲に関心がある人ならやっぱり稲倉の相撲には一言云いたいのだろう?


「稲倉さんちよっと精神的に心配。体力とかそんな問題ではないのでは?」


(わかる人はわかるか・・・・)


「絶対横綱だった葉月山来てたけどあのダブルのチェック柄のグリーンのジャケットおしゃれだったね」

「葉月山ってセンスいいよね」

「葉月山にしては意外(笑)」


(意外って何だよ意外ってまったく。云いたいこと・・・あぁ何かイラつく!)とその時着信音が鳴る。


(理事長) 葉月はスマホを取る。


「はい、椎名です」

「私だけどあんまり変な動きは困るのだけど・・・明日なのよ貴女の監督承認はわかってるの?」

「わかってます。そのための視察のつもりですから」

「視察ね・・・広報の新崎さんにお願いしたのは正解だったわねぇ。下手に倉橋さんに会われていらない事云いそうだからあなたは・・・」

「私は今日、このローカル大会の雰囲気を感じることができて正解でした。もちろん石川・稲倉の相撲が見ることが最大の目的でしたからそれはそれで良いんですがもう少し女子相撲界全体の問題を」

「椎名」

「はい」

「これからは女子大相撲が女子相撲を全体を引っ張っていくんだよ。アマチュアの選手は大相撲を目指して邁進してるんだよ。まぁ貴女は違ったのかも知れないが・・・」

「そ云う話は明日東京で・・・」

「まだ伊勢にいるらしいな」

「えぇ明日の朝伊勢神宮を参拝しようと思ってまして・・・・」

「随分のんきなものだなぁ」

「監督就任前にこんな云い方をするのも何ですが今度の大会が終わったら監督は辞めさせていただきます。少し相撲とは距離を置きたいので」と葉月は意を決して。

「そう。椎名がそう考えているのならそれでも構わない。でも元絶対横綱から相撲を取って残るものがあるのかしら」

「・・・・・・・」

「まぁとにかく明日遅れないように・・・それじゃ」と電話は山下理事長の方から切られた。


(相撲をとって残るもの・・・・嫌な云い方するのねぇ)


望んで行った訳ではない女子大相撲の道。でもそれしか選択はなかった。競走馬生産牧場の一人娘として生まれある時期は裕福とまではいかずともそれなりの生活はできていた。でも・・・・。傾きかけた牧場を何とかしたい思いで女子大相撲で稼ぎそれで・・・でも叶わぬ間に・・・。そこからは一人で生きていくしかなかった。親戚等々助けては頂いた。でも本当の両親はもうこの世にはいない。そこから本当の絶対横綱の道へ過去を振り向かないために・・・。


 横綱になって10年以上常に負けは許されずさすがに最後の方は横綱らしからぬ相撲もあった方がそれでも達成感を得て引退することができた。そして椎名葉月としてしばらく相撲から距離を置きたかったのに・・・。


 再度スマホに着信が・・・。


(京子さん・・・)


「はい椎名です」

「すいません。もうお休みになられてます?」

「つい先ほど理事長からお叱りの電話を頂きまして」

「・・・・・・・」

「まぁ色々云われました。もう東京ですか?」

「自宅が横浜何でもう・・・」

「そうですか私はこれから一杯飲もうかなぁーと」

「いいですね」

「今日は楽しかったです。何か私のわがままで」

「とんでもない。私こそ葉月山じゃなく葉月さんの違う一面を見さして貰ったと云うか」


「ところで今日の最後の二番どう思われました?」

「それは取材ですか?」

「取材と云ったら?」

「ギャラ次第です」と葉月は笑いながら

「じゃ今度私の驕りで一杯と云う事て゛」と京子は笑いながら

「成立ですね」

「まいったな元横綱には冗談ですからね取材は・・・一杯はホントですから念のため」

「了解です」


「で本題なんですけど」


 京子は今回の相撲を見てあきらかに稲倉映見の稽古不足がすべてであり相撲勘などはそんな劣ってはいないのではと、石川に関しては心技体と整っていたことが稲倉に付きいる隙を与えなかったようには見たが本来の稲倉ならまだなのではと・・・。

 

 葉月は概ね京子に同意できるが一番は気持ちの問題でありそのことは稽古不足が原因なのかそれ以外なのか・・・それが解決できなければいくら稽古を十分して体はできても相撲としては無理ではないかと・・・。


「私は稲倉の取り直しに向かう表情を見た時に彼女はおかしなことをしなきゃいいのだけど正直思ったんです。怒りとか苛立ちとか何かそんなものが鬱積とているような感じがしたので大丈夫かなぁーと」


「おかしなことと云うのは反則まがいの相撲をすると?」


「稲倉がもし反則まがいなことをして勝った時、場内はどうなるかを考えたら・・・それは自分で自分を潰すことになってしまう。そしてもう相撲はできなくなる。精神的に・・・。彼女が立ち合いであんな初心者見たいに立ち遅れたのは最後まで迷っていたんだと・・・でもあれでよかった。私は正直胸をなでおろしましたけどねぇ」とそれが正直な葉月の気持ち。


「実はあの取り直しの前にどうも倉橋と何かあったみたいで残念ながら遠目でしか見れなかったのですが・・・どうも棄権させようとしたらしいんです倉橋が・・・」


「棄権・・・」


「でも今の葉月さんの見立てだったら倉橋なら棄権させるでしょうねぇ」


「なぜ稲倉を補欠にしなければならなかったかなんとなくわかりました」

「アマチュア代表はもう・・・」

「私の頭の中には決めていますし今日の試合を見て変更の必要はないと・・・」

「石川・稲倉と云う事で?」

「それ以上は云えないし私はまだ代表監督ではないので・・・」

「そうでしたね。失礼しました」

「それじゃ、私は明日5時起き何で」

「そんなに朝早く東京へ?」

「いえ、伊勢神宮の早朝参拝のガイドツアーに参加するので」

「なんか羨ましいな・・・」

「理事長には明日の事があるのにずいぶん暢気だと・・・・」

「まぁ確かに」と京子


「でも本当に京子さんと話ができてよかった。本当に・・・」

「じゃ今度は私が一杯。私も楽しかったし・・・私は葉月さんは相撲の中で生きていくべきだと思いますよ。そのことを無理やり拒絶する必要ないと・・・話が長くなるとあれ何で切ります。それじゃお休みなさい」

「おやすみなさい。京子さん」


 部屋の時計は午後10時を回ったところだった。

 








 



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