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女力士への道  作者: hidekazu
中京圏高大校親善試合

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前哨戦⑥

 映見と沙羅の三番勝負は五番ほど終わって映見が三勝と云う一つリードしている。稽古ではあるから勝った負けたの勝負ではないと常々真奈美は云っているがそれを忘れるほどの気合なのだ。


「映見、動きよくなっているからそれでいいよもっと前に出る相撲を取れ」と濱田。


 確かに映見は体が動いているしスビートも上がっていることは確かなのだが真奈美は何かしっくりこない。動きが良くなっていることの要因は体重が減ったことによって見た目は確かに動きがよく瞬発力も上がっている・・・・しかし


(コンディションはいいのだろうけど体が小さく見えるではなく明らかに小さくなっている体重も20㎏は落ちている)


 真奈美はそしてもう一つ気づいたことが


 映見のスタイルではある受けの相撲を自らいやがっているようにその代わり自分から積極的に前に出るのだが立ち合いで当たり負けをして後ろに下がると、土俵を残したとしても、一気に寄られて身体が浮いてしまい、突き倒される。全盛期の映見なら当たり負けなどあり得ないのに・・・。


(体重が減って立ち合いの瞬間から自分の身体が軽すぎて全く踏ん張りができていない)


 そして拮抗しながらの10番目。映見は珍しく立ち合いは頭からぶつかり、沙羅と土俵中央で胸を合わせる形に映見は左上手をつかむが体勢は不十分。沙羅は右下手と左前褌を取り体勢を低く構えると前に出る。ここで腰が伸びきった映見は外掛けで後ろに倒されてしまった。


「はい。二人とも時間だ上がってくれ」と濱田が云うと二人は濱田と倉橋に向かって「ありがとうございました」と云って一礼すると更衣室へ向かう二人。


「待て、映見」と真奈美が声を掛けた。

「はい」

「少し私と手合わせしてくれないか?」

「監督と?」


映見は困惑したような表情を見せた。


「せっかく私もこの格好なんだから」

「でも・・・」

「映見と手合わせなんぞは絶対に西経ではやれないしやろうとも思わないがどうだろうかこんな機会はもう絶対ないだろうし映見の相撲を肌で感じてみたいんだが」

「しかし・・・」

「映見の本気のなぁ」と真奈美が云ってからしばらく間が空いたが

「わかりました」

「先に二先取したら終わりだ」

「ぶつかり稽古じゃ?」

「三番稽古だよ」


 互角の力を持つ力士が2人で、勝っても負けても相手を変えずに何番も稽古をする三番稽古。


「いくら監督でも・・・」

「私とは雲泥の差だと云いたそうだなぁ」と真奈美はきつい表情で

「監督と相撲がとれることは光栄ですが・・・」

「今の映見なら私とて勝てそうだからだよ」

「・・・・」

「自分でわかっているはずだ。今のお前の相撲はそのレベルまで落ちているってことなんだよ」


映見自身そんなことは一番わかっている。稽古量が全く足りていない必然的に筋肉も落ちるその分体重も落ちて感覚的には身軽になってもパワーは落ちる。100㎏近くあった体重も80そこそこまで落ちていた。その事で足元の踏ん張りが効かず当然当たり負けしてしまう。それゆえに受けて立つ相撲は避けたいし四つの相撲でも力負けをしてしまう体力も落ちていれば長い相撲は取れない。それを今までやったことないような相撲を試したところで上手くいくわけがない。倉橋に完全に見透かされているのだ。


 練習相手の沙羅の体格は今の映見を遥かに凌駕している。力勝負だけでは敵わなくてもそこは映見の相撲センスと今までの経験と云う貯金で勝負はできているようには見えるが相手は中学生。これが石川さくらだったら全く歯が立たない。それはこの前の石川さくらとの三番勝負ですでにわかっていたこと・・・。


「やるのかやらないのか」と真奈美は挑発するように

「監督に怪我をさせるわけには・・・」と映見は俯きながら

「おまえはそこまで落ちたか」

「・・・・」

「私の目が節穴だったてことか・・・私も監督辞めた方がいいかもなぁ」

「・・・・」


 二人の間に暫く沈黙の時間が流れる。せいぜい30秒ぐらいだがまるで何時間も沈黙が続いてるかのような・・・それを濱田の一言が破った。


「映見、せっかくだからやってみたらどうだ。多分映見が想っていること以上に監督さんは今のお前に足りないものをみつけているんだだからお前と稽古をしたいと・・・さっきの石上との稽古見ていたけど映見負けるかも知れないぞ」と何かを知っているような表情を浮かべる光。


 真奈美は四股を踏みはじめいつでも臨戦態勢という態度をこれ見よがしに映見にアピールしている。


「映見やるのかやらないのかどっちなんだ?」と真奈美

「わかりました」と云うと映見も四股を踏み始めた。


 濱田は沙羅を脇に呼び寄せる。


「沙羅、二人の相撲をよく見とけよ。相撲は力だけじゃ勝てないと云うのがわかるはずだ」

「先生、映見さん勝てますよね?」

「さぁどうだろうか倉橋監督の相撲さっき見ただろう正直映見はきついかもしれない。石上は小学生とは云え全国大会入賞者。その彼は二先取して負かしてしまったのだから」


 二人が土俵に上がると濱田が合図をする


「手を付いて、待ったなし!!」

「ハッキョイ!!」


 真奈美は映見の右肩あたりに突っ張りをさく裂映見はいきなり後退を余儀なくされるが腰を落として体勢を立て直す。今度は喉元に突っ張りを仕掛けてきてが映見はうまくいなすと今度は映見が右からぶちかましを仕掛けたが・・・


「えっ・・私のぶちかましを受け切られた」


 真奈美は一瞬体を泳がされてしまったが即座に立て直すと再度右肩に突っ張りをさく裂させると怒涛の電車道。映見は劣勢に見えたがなんとか真奈美の動きはとらえていて今度はうまくいなして左から右上手を真奈美は左上手をとりに行ったがうまく防がれやむなく左下手をとった。ケンカ四つ半身の状態で次の手を探りあう。


「はぁ…はぁ…はぁ…」

「ハァ…ハァ…ハァ…」


 一分以上の膠着状態。


お互いの額には汗が流れ落ちんばかりに浮かんでいる。


(これ以上時間はかけられないもう今の私には監督のスタミナを削る前に私のスタミナが切れてしまう)


(映見。今の貴女じゃ得意の四つから猛烈な投げなんかできない。そんな消耗してしまった体じゃねぇさぁどうするの私はまだまだ余裕よ)


 映見は一発勝負に賭けた。真奈美の内ももに手を入れ真奈美を倒しにかかった。しかし微動だに動かない。


(そんな!?)


真奈美の下半身の重さは想像以上まるで土俵に根を張っているかのようにそして今度は真奈美が仕掛けてきた。


(そんなので倒れるほど私の腰は軽くはないわ)


 真奈美は内掛け気味に映見の足を狙ったがそこはさすがに映見に読まれてしまった。今度は猛烈な寄りを仕掛けるがそれもダメ。こんどは映見が下手投げで体勢を崩すと土俵際まで押し込んだもう真奈美は陥落寸前。しかし映見のスタミナも風前の灯火。


 寄りで攻めていく映見。土俵際、俵に足が乗り絶体絶命の真奈美。


(ここで吊り上げておしまいよ)と余裕なんかあるはずもない映見だったが自分のプライドが余計なことをさせてしまった。


(映見、さっきので私の腰の重さを知ったはずなのに吊りだすだぁ舐めるのもいいかげんにしろ)


 真奈美は映見を十分に引きつけ膝を映見の内股に入れ込みその足に映見を吊り気味に乗せ持ち上げると今度は振るようにしておもいっきり投げ落としたのだ。


(えっ・・・そんな)と映見は状況が読み込めなかった。


やぐら投げで倉橋真奈美が完勝したのだ。


 本来の映見の状態ならこんな技で負けることなど100%ありえない。相当に力士同士の差がなければ成立しない。しかし今の消耗しきった映見など真奈美にしてみれば相撲を取る前からわかっていたのだ。沙羅と三番稽古で消耗していた時点で勝負は決まっていた。それでも普通の映見なら問題はなかったはず。でも体そのものが小さくなってしまっていた上に稽古もできていなければ真奈美からすれば石上と相撲をしたのと大した差はないと踏んでいたのだ。


 土俵の外で腹を見せたまま動けない映見。そしてその映見を真上から仁王立ちに見る真奈美。そして右足を映見の腹の上に軽くのせる。


「アマチュア女子相撲女王の無様な敗北はどうよ映見。監督に怪我をさせるわけにはだぁ…笑わせるな」とそれは映見が初めて見る鬼の形相。それは光も同じ。


「これが今のお前の実力なんだよ。女王なんって意識はありませんと云いながらなんだよあれはあのまま寄り切れば私の負けだったのに吊り上げだぁ。女王と云うプライドが邪魔してあんな相撲をしたんだよそれがこんな無様な負け方なんだよ。哀れだねぇ」と馬鹿にした表情の真奈美。


「酷すぎませんかそんな言い方!」と声を荒げたのは沙羅だった。

「事実なんだからしょうがないんだよ沙羅さん」

「こんなの体罰じゃないですか!負けて倒れているのにその上、腹の上に足をのっける何って!」


「沙羅さん。映見はこんな50女に負けたんだよ女子アマチュア相撲の絶対横綱がこんな無様な負け方をした。その原因は何?。協会批判してちょっと云われて動揺して国際大会で負けてそれでもってまた云われてふてくされて稽古さぼって出身クラブで仲良し相撲?それがアマチュアの頂点にいる者振る舞いかと云う事なのよ。批判されようが国際試合で負けても堂々と振る舞い次でまたその威厳を取り戻せばいいんだよ。それをこいつは放棄して逃げた。そんな奴が横綱であってはダメなんだよ!」と真奈美は声を荒げてしまった。


 その時、映見がやっとのおもいで立ち上がると二人に一礼をすると何も発せず更衣室へそのあとを追うように沙羅も・・。そして相撲場に残ったのは真奈美と光。


「ぶつかり稽古の受け手になってよ」と真奈美

「・・・・・」


 真奈美は土俵に上がり「はぁーあ!」と奇声を上げた

「はやく上がってよ」

「真奈美・・・」

「はやく!」


光は土俵に上がると受けの構えを・・・・。真奈美は光の胸に全力でぶつかっていく。真奈美の全力の当たりを身体で受け止める。

 もう何本やっただろうか?真奈美は光を押せなくなってきた。光は真奈美の頭を押さえつけて転がされていく。


「真奈美もういいだろう?」

「まだまだ終わらないよ!」と真奈美は気焔を吐くがすでに足腰は限界で震えだしている。それでも突進してくる真奈美を光は胸で受け止め抱きしめた。


「もういいだろう」

「まだまだ終わってないわよ」とは云いながらも真奈美は抱きしめてきたその両腕を振りほどこうとはしなかった。真奈美は自分の汗だくの顔を光の胸に沈める。


「もう映見は潰れるかもしれない・・・・私が映見を・・・」と震える声で

「映見はお前が想っているほどやわじゃないよ。少し寄り道をしたかっただけだ。そしてうちのクラブに偶々来ただけだよ」

「・・・・」

「お前が映見に三番勝負したのも映見に自分の想いを肌で伝えたかった・・・。「映見を潰す?」おまえそんなこと微塵も想ってないだろうが・・・相変わらずめんどくさい女だな」と笑いながらさらに強く抱きしめる。泣きじゃくる真奈美。


「映見に少し時間をやれよ。時間でしか解決できないことだってある。映見は精神的にもろいところはある。それは映見自身よくわかっているはずだ。俺は映見を小学生から見てるんだこんなことで潰れる奴じゃない。映見の芯の強さはお前が想っているほど堅くないかもしれないが決してねじ切れないよ」


「何を偉そうに・・・私だって間接的には高校から見てるんだからそんなことぐらいはわかってるわ」と胸に顔を埋めたまま・・・・。


「本当にめんどくさい女だねぇお前は・・・映見とそっくりじぇねぇーかまったくよ」


 久しぶりに抱き合った二人。抱き合うだけでもう言葉はいらない。学生時代の相撲場で稽古に青春を燃やしていたように・・・。








 


 


 


 

 

 

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