超高校級石川さくら
翌日、葉月は山下理事長のもとに訪れ代表選手のリストを持参してきた。
「昨日は色々ご迷惑をかけましてすいませんでした。」葉月はソファーに座る前に頭を下げた。
「葉月。もう終わったことだし私が独断であなたを監督に就任させるようにしたのは私なんだから・・・・」
「理事長・・・・」
「そいう話は世界大会が終わってからいやでも理事会に掛かるわ。覚悟はしているんでしょ?それともあなたの希望?」
「・・・・・・」
「そんなことはいいから早くリストを見せて」
「あっ・・はい」
―葉月はファイルケースから一枚の用紙をテーブルの上に置いた。そこに書かれていたのは・・・・
代表選手
横綱 百合の花・横綱 桃の花・明星高校 石川さくら・補欠 西経大学 稲倉映美。
「石川さくら・・・意外ではあるけど・・・・」紗理奈は納得している表情ではあるが・・・・
「石川さくらはまだ高校二年生ですが実力はシニア級の潜在能力は持っていると思います。私も試合を見ましたが確かに強いのだけどまだ半分の力ぐらいしか出していないと感じるのです。正確には出し方がわからないと云うか」葉月は続ける。
「補欠の稲倉映見は誰もが認める女子学生相撲・ジュニア日本一及びワールドクラスの選手だと思いますが私にはあまりにも完成されてしまっていてこの先の伸びしろがないような感じがするのです」
葉月の言葉にうなずく紗理奈だが、その目は笑っていない。
葉月はさらに続けた。
―女子相撲評論家の山根先生にも確認を取りましたがやはり彼女も同じような意見です。と告げると
「石川さくらは私も注目はしているけどまだ高校生だし世界ジュニアに選ばれているし・・・・云いたくはないけどいくら彼女が超高校級とは云ってもシニアでは通用しないと思うわ」
「理事長。私は彼女に賭けたいと思っています。それ以上に彼女には厳しい条件で戦うことで覚醒してほしいのです。ましてや両横綱と一緒に戦えることはかけがえのない財産になるはずです。」
「わかったわ。そこまで言うなら。結局倉橋なのねぇ貴女はでも補欠の稲葉映見はどうかしら本人もさることながら監督は納得しないでしょうね」
「それは・・・・」葉月はうつむき加減で・・・・
「名門西経大学女子相撲部のエースが高校生に越されて補欠じゃ・・・・」
「そんなことを考えていたら理想のメンバーなんか組めません」
ーしばらく沈黙が続いた後、葉月は・・・
「明日、明星高校に行って監督に会ってきます。できればその足で西経大学に」
「明星高校はいいとしても西経に行くのはもうちよっと間を置きなさい。一昨日の理事会のことを忘れたの」
「忘れていません。ただ今日中に決めなければならないことがあるんです。」葉月はそう言って理事長室を後にした。
翌日葉月は午前中に代表選考の経緯の書類を書き上げメールで関係者に配信。昼の新幹線で岐阜は明星高校へ入り口の受付へ
「お忙しいところ申し訳ありません。椎名葉月と云いますがこちらで女子相撲部の監督をしている島尾朋美さんはいらっしゃいますでしょうか?」
「島尾さんは今職員室に居ますが、何かご用ですか?」
「ちょっと話したいことがありますので呼んでいただけますか?」
「わかりました少々お待ちください」しばらくして、
「はい。私が島尾ですがどちら様でしょうか?」
「突然すいません。」
「あぁ葉月山さん・・・・すいませんどうぞ中に」
応接室で向かい合って座る二人、
「わざわざ遠いところをありがとうございます」
「本当は事前に連絡をすればよかったのですが色々ありまして申し訳ない。改めて、日本女子相撲シニア代表監督をしています椎名葉月と申します。」葉月は名刺を差し出し軽く会釈する。
「これは丁寧に恐れ入ります。それで本日はどのような御用件でしょうか?まさか石井をシニアで出場されるとかはないですよね常識的に・・・・」島尾教諭は皮肉を込めて言ったつもりだが葉月は涼しげな顔である。
「そのまさかです・・・」
「えっ・・・でも」「もちろん私も監督として全力を尽くします。シニアで石井さくらを出場するつもりです」
「ちょっ待てください!あの子はまだ高校二年です!」
「それがなんの問題になりますか?」
「問題だらけだよ。ジュニアには既に決まっているんです。それに個人の連覇も団体もかかってるんです。それなのになぜシニアなんです。レベルの次元が違いすぎます」
「レベルが違うからこそあえて挑戦させるのです。石井さくらにはこれから起こるであろう困難を乗り越えられるだけの力があると信じています。そして何より彼女の潜在能力を引き出すためには彼女はシニアと同じ土俵に立つことが一番だと思います」
「無茶苦茶です。勝てることが不可能なのになんでそんなことを彼女の相撲人生はまだ始まったばかりなんです」「あなたにはわからないかもしれませんが、私は彼女にはその資格があるのです。先生だってそう思っていのでは?」
「それはそうかもしれません。でも今シニアと云うプロレベルシニアでなんって私は反対です。」
「私も賛成してくれるとは思ってはいませんでしたからだからこうして直接会いに来たのです」
「だったら・・・」
「私は石川さんが高校生の頃の百合の花に見えるのです」
「横綱の百合の花ですか?」
「はい。私は彼女なら横綱の風格を持つことが出来ると確信しております」
「横綱の風格・・・」
「私が初めて世界大会に出たとき百合の花は高校生で補欠だったんです。実力的には失礼ながら単なる高校生レベルに甘んじていたと云うかうまく力が出せていなかったと云うのが実感でした」
「あの横綱が?」
「ところが正選手の大学生が準決勝で怪我をしてしまい急遽彼女が出場することになったんです。そのことで激しく動揺してしまいしたがなんとか彼女をなだめ平常心に持っていきましたが負けは覚悟していました。でも、いざ試合が始まると別人のように変わっていました。まるで横綱のような貫禄がありました。その瞬間に私は確信しました。この子は将来必ず世界の頂点に立てる選手になると・・・それを石川さくらさんには感じるのです」
「しかしそれでもまだ実績はジュニアでしかないんですよ。いくらなんでもシニア何って早すぎる。」
「確かにそうですね。ただ、私の直感は外れることはありません。きっと近いうちに世界のトップに躍り出るでしょう。」
「そこまで言い切る根拠はあるんですか」
「ありますよ。昨年の大高学生相撲での最後の戦い。それ以上の根拠がありますか?」
「それは・・・」島尾教諭は言葉を失った。
「本当は石川さくらさんに直接会って説得したいところですがそれはやめておきます。メールで私の世界大会へ向けてのプラン及び選考の経緯を細かく書いて送信していると思いますが。そのうえで監督から石川さんに打診していただけないでしょうか?」葉月は席を立った。「それでは」
島尾教諭は葉月を見送らずしばらく考え込んでいたが・・・・
ー葉月は来客室を出ていく。
「校長先生、お時間よろしいでしょうか?」島尾教諭は校長室にいた。
「どうぞお座りください」「実は先ほど女子相撲日本代表の椎名葉月監督をいらっしゃいまして石川さくらをシニアチームの一員として世界大会に出てくれと頼まれたんですけどどう思いますか?正直シニアなんてレベルじゃないと思いますしそもそもさくらはジュニアの代表選手として決定しているのに」
「島尾君、君はシニアの監督を舐め過ぎじゃないかな?彼女は元横綱それも絶対横綱だよ?優勝経験もある立派な力士なんだ。それに君の言う通りさくら君ではシニアのレベルではないかもしれないが彼女には素質があると思う。それは君も思っているはずだ。監督の目は本物だよ。石川さくらにはこのことを伝えたのかね?」
「いいえまだ・・・」
「じゃあ伝えなさい。そしてもしさくらくんがその気になったのならシニアへの転向を認めてあげなさい。彼女の意向が最優先だよ。学校的にはインターハイ連覇には彼女は欠かせないが世界大会のすぐ後に連戦させるのは正直可哀そうな気がする」
「それともう一つ大事なことがある。彼女のメンタル面だ。今度の大会は個人戦ではなく団体戦だ。相手はシニアのトップクラスだ。おそらく今までで一番厳しい闘いになるだろう。そんな状況で彼女を支えることができるのは彼女と同じ土俵で戦うことのできる人間だけだ。つまり同じチームのチームメイトだ。でもあの百合の花や桃の花が支えてくれるのならこんな心強いことはない」
島尾教諭はその言葉をかみしめるように聞いていた。
「わかりました。私もそのつもりでいます。ありがとうございます」そういうと島尾教諭は部屋を出ていった。
数日後島尾教諭は再び葉月と学校の応接室であっていた
「島尾先生、改めてお願いしますが、ぜひ石川さくらをシニアチームに加入させてください」「はい、こちらこそよろしくお願い致します。ただ、一つ条件があります。」
「なんですか?」
「絶対に無理はさせないこれだけは約束してくたせさい」
「わかりました。どんなに超高校級でもジュニア世代なんですらそれは重々承知しています。絶対約束します」
「それを聞いて安心しました。それと・・・・すいませんまだ本人にこのことは・・・・」
「えっ・・・」
「葉月監督直々から云ってもらった方が・・・・」
「わかりました」
「すいません。じゃ今本人をもう稽古に入っていると思うので・・・・」
「島尾監督。私が道場に行きます。案内していただけますか?」
「道場ですか・・・」
「久しぶりに高校の相撲部屋を見てみたいし・・・・」
「わかりました。部員も喜ぶと思います。」島尾教諭はそう言って微笑んだ。
―身長178センチ体重75キロ。現役自体より体重は10キロ以上落ちたがそれでも高校の廊下を歩く葉月は目立つ目立つ。
生徒達の視線を強く感じる。なかには指をさすものも・・・・。
「そこの男子!。指さす何って失礼でしょうこちらの方に謝りなさい」と島尾は葉月並みにがっしりとした男子を一喝した。
「先生、そんな私慣れてますから・・・」
「そんな問題ではないです。串間、この人誰だがわからないの?あなた相撲部でしょ全国大会で入賞までしているのに」
―そうか男子相撲部もあるのか・・・そんなこと全く調べるつもりもなかったし・・・・
「あぁ・・・・えぇー・・・・あっ!。もしかして女子絶対横綱の・・・・百合の花?」
ーそっちかよ
「すいません。元だった葉月山さんですよね」
―元だったって確かにそうだけど・・・・
「串間。元だったって云い方がある?・・・・元絶対横綱の葉月山さんよ」
「すげぇぇ・・・でも何で家の高校に・・・・」
「女子相撲部の見学よ」
「なるほど・・・ああっの握手してもらっていいですか」
「いいわよ」そういうと二人はがっつり手を握った。
「ありがとうございま・・・うぉおお・・・おっきぃ・・・でも・・・柔らかいし綺麗だ」
「ちょっと串間・・・」島尾がちょっと呆れた顔で見ていた。
「相撲をやっている手ね。それに私よりも大きい」葉月はまじまじ串間の手を見る
「もしかして・・・さくらを見に来たんですか?」
「えっそうよ。石井さくらさんを・・・・」
「俺、石川さくらの練習相手してるんです。さくらすごい喜びますよ。」
「ところで串間。あんた廻しもしめないで何やってるの監督にどやされるわよ」
「実は身体検査で引っかかて・・・・」
「何に?」
「心臓に雑音が入っているとかで・・・・ちよっとラッキーと云うか正直部活しんどかったんで・・・」とちよっと苦笑しながら
「今の云ったこと監督に云っておくから」
「えっ・・・ちよっとそれは・・・勘弁してくださいよ本当に・・・本当にお願いしますよ」
「冗談だから早く行きなさい」
「あっはい。あっ・・・絶対に云わないでくださいよ絶対に」
「わかったから早く行きなさい」
串間はあわてて走り出す
「串間、走るな!」島尾教諭の声が響く
「すいません失礼な生徒で・・・」
「あの子面白いですね。」
「はい。ただ困ったものですよ。」
「とりあえず道場の方へ行ってみましょうか。もうすぐ練習始まると思います。」島尾教諭についていく。
「彼がさくらさんの練習相手なんですか?」
「さくらが入部したことは私も凄いうれしかったんですが今の女子部員では相手にならなくてその時男子相撲部の監督に頭をさげてさくらを練習に参加させてほしいと・・・・」
「それで・・・・?」
「最初は拒否されてしまいしてねぇ。多感な年ごろですしそれはさくらも同じです。その時に監督から彼を相手に差し出してくれたんです。さすがに毎日は無理なんて゛週二回ぐらいぶつかり稽古を」
「そうなんですか」
「彼も県大会レベルではある程度の成績を残していたんですが全くさくらに歯が立たなかったんです。そのせいか成績が低迷してしまいましたね」
「そうだったんですか・・・」
「でも彼も負けず嫌いなところもあって稽古を熱心にするようになったの同時に技の精度も上げて・・・・今ではさくらも苦戦してますよ」「そうだったら嬉しいですね」
「あっ見えてきました。あれが土俵です。」
体育館の横に土で出来た大きな四角い場所があった。
中に入るとすでに多くの部員が準備体操をしていた。
―部員達は横一列になりあいさつをする
「監督よろしくお願いします」
―その中にはもちろん石井さやかもいる。「みんなおはよう」監督が挨拶すると同時に全員が一斉に頭を下げる。
「今日は見学の人がいるので紹介しておくわ」
「元絶対横綱の葉月山さん今は椎名葉月さんで今は日本シニア女子相撲代表監督されています。それじゃ一言お願いします」
「日本シニア女子相撲代表監督椎名葉月です。今日は明星高校女子相撲部を見学させていただきます。今日は最後までみさせてもらいますのでよろしくお願いします。私の方から選手の皆さんにアドバイスできることはさせてもらいますしもちろん私に質問なりをしていただいても構いません。いつもとは違う雰囲気になってしまうかも知れませんが普段の練習通り見せてください」
―葉月は軽く会釈する。部員達も一同・・・・。
「よろしくお願いします」
―全員声を合わせて返事をした。
「それじゃ早速始めようかしらね。まずストレッチから始めてそれからランニングそして柔軟、最後にぶつかり稽古よ。それと今日から新しいメニューとして瞬発系のゲームを取り入れることにしたからね。」
「はい!」
―部員達は練習メニュー始めていく
「椎名監督こちらに座って見学してください」と島尾監督が・・・
「あと今年の一年生には期待できる子がいるのですが見ていただけますか?」
「もちろんですけど・・・」
「中学では全国大会の常連だったのですが二年の春の大会で大胸筋の大けがしてしまってそれ以降スランプと云うか伸び悩んでしまってほとんど相撲もとらなくなって・・・さくらとも戦ったあるんですよ。」
「そんな子がこの春入部したってことですか?楽しみですね」
島尾監督はうなずく。
―しばらくして・・・ 島尾教諭は一人の少女を連れてくる。少女の顔は少し緊張しているように思えた。
島尾教諭は少女を紹介する。
少女は一歩前に出て自己紹介する。
「明星高校女子相撲部 奥村 夕夏と云います。カテゴリーは中重量級ですです。よろしくお願いします」
「初めまして椎名葉月と云います。・・・・緊張してる?」
「・・・・」
「夕夏・・・」と島尾は苦笑い気味に
「すいません。偉大な横綱が前にいらっしゃるんで・・・・・」
ーもう元横綱だからと葉月はくしょうしながら答えると
「四股踏んでみて」
「えっ・・・はっはい。」
ー夕夏は葉月の前から三歩下がり大きくし深呼吸をすると右足を高く上げた。まっすぐに伸びていく右足は爪の先までピーンっとまるで糸を張ったように・・・・。そして綺麗に下げていく。夕夏は何度も何度も繰り返していく。
ー葉月はその姿に魅了されていた。この子はちゃんと練習しているんだ。見る人が見ればわかる。ただ・・・
「ちょっといいかな・・・」
「はい」
「夕夏さんはちゃんと四股踏んで練習しているのね見ればわかる。ちょっとぶつかり稽古してみる?」
「えっ・・・・」
「椎名さんぶつかり稽古って?」
「一応トレーニングウェアーと廻しは持ち歩いているので」
ーこの子の資質自分の肌で感じてみたい。代表監督に内定してから中学・高校・大学の女子相撲に関するデーターを収集分析してはいたが奥村 夕夏の名前は正直引っかからなかった。でも彼女の綺麗な四股は並大抵のトレーニングではできない。
「監督すいません更衣室は・・・・」
「石倉・・・石倉!」ー鉄砲をしていた相撲部部長の三年生石倉梨花を呼ぶ
「椎名さんは更衣室に案内して」
「ハイ・では椎名監督ご案内します」
ー葉月は入り口に置いてあったキャリーケースをもって隣の部屋に・・・
「夕夏」
ー島尾の前で股割で汗を流す夕夏
「夕夏、偉大な横綱がぶつかり稽古をしてくれるなんって・・・ちよっと羨ましいな」
「・・・・夢見たいです」
「まぁ、頑張りなさい」
―少し遅いわね。三十分ぐらいたち
「着替え終わりました」と声がかかる。
「やっとお出ましか・・・」
―二人は道場に戻る。
「遅くなってすいません準備運動もしていたもんで。それじゃまずは夕夏さんとやりますよ。」
土俵に上がり葉月は四股を踏み始めた。175センチ体重95キロ。現役時代よりは20キロ近く落ちてはいたがそれでもやはり現役時代そのままにある種のオーラを放っていた。「それじゃやりますか。私は夕夏さんの廻しには一切手をかけない夕夏さんは私の両回しをつかんできても全然かまわないわ。それぐらいのハンデをつけても私を土俵の外に出すことはできないでしょうけど」
「それじゃあまりにも・・・」
「現役から退いても元横綱なのよ。高校生相手にそれぐらいのハンデをつけても勝負にならないでしょうね」
―葉月は大きく息を吸い込み腰を落とし一気に踏み込む。
―ドシン! ―その音とともに夕夏は葉月の胸元に・・・・そして廻しをつかみ投げの体制に・・・・・
ー重い・・・。なんで私より軽いのに!葉月は涼しい顔をして一歩たりとも下がる気配がない。
「そんなじゃ私を動かすことすらできないわ」
夕夏は必死になってまわしを引っ張るがびくともしない。逆にどんどん押されていく。夕夏の体は徐々に後ろへ下がっていく。
「そんなもの?夕夏さん」
「まだまだこれからです」
ー夕夏はさらに力を入れるが葉月には効かない。「そんなんじゃ私の体は動かない」
「ならこれならどうですか」
夕夏は体を入れ替えると葉月の腕を取り吊り上げるように持ち上げた。
「へぇー夕夏さんなかなかやるじゃない」
葉月は余裕しゃくしゃくだ。
ーいける。ここからならと夕夏は思ったが次の瞬間夕夏の視界が反転する。
「えっ」
気がつくと夕夏は天井を見上げていた。何が起きたかわからない夕夏。
ーなんで・・・・夕夏の顔の上には葉月が手を差し伸べた。
「自分で立ち上がります・・・・完敗です」
ー立ち上がり夕夏は葉月に一礼した。
「夕夏さんの力は確かに強いですがそれはあくまで下半身の力。上半身の力が弱い。だから簡単にひっくり返されるんですよ」
「はい・・・」
「夕夏さん、あなたには素質がある。でもそれだけではダメなんです。ちゃんとしたトレーニングをして積極的に試合にも出て場数を踏むことあなたにはさくら先輩と云うお手本がいるんだから彼女をまずはライバル視しないと」
「・・・・・・」
「競える相手がいれば強くなれる当然相手も強くなるの繰り返しよひいては部全体が強くなる。そこに部員達の強い絆が生まれればなおさら・・・・頑張ってねぇ」
ー葉月は廻しをたたき気合を入れる。
「じゃ残りのみなさん全員私一人であいてにしてあげるわ・・・さくらさんは最後ね」
ーなんで・・・・さくらは納得できない。
「さくらさん以外の部員を相手にして立ち上がれないぐらいにしてからガチ勝負をしましょうそれぐらいのハンデをつけなきゃ相手にならないでしょうさくらさん」
ーガチ勝負って・・・
「一人ずつ相手するわ誰でもどうぞ」
ー一時間ぶっつけで相手をする葉月の額には玉のような汗が浮かぶ。
「さぁ次々かかってきなさい!」
「それじゃ俺が」と相撲部部長の石倉梨花が進み出る。身長は165センチ体重80キロ。
「石倉さんね。いいわかかってきて」「はい、お願いします」
―夕夏に勝ったとはいえ、まだ高校生それも女子に負けるのはプライドが許さない。
「それじゃ行くわよ」
そう言うなり葉月はいきなり突っ込んでくる。
「速い・・・」
―シュッ、バシッ!ドシン!一瞬のうちに葉月は四股を踏み腰を落とすと同時に両手を突き出し一気に突き出す。そしてそのまま押し倒す。
―ドシン! ―あっという間に一人目が土俵に沈む。そして時間が経過する
「次はだれ?」
―誰も前に出ない。みんな完全に音を上げて座り込んでしまっている。葉月は土俵中央で仁王立ちに
「私の完勝ね。さぁ次はさくらさんよ!」
―強気の葉月だったがさすがに十人近くの高校生力士をあいての一時間ぶっつづけのぶつかり稽古は予想していた以上にきつかった。
「椎名さん一息入れてください」と島尾が云うと
「そんな状態の葉月山さんとは戦いたくありません。せっかくガチ勝負なんだから」
「ちょっとさくらその言葉訂正しなさい」とあわてて島尾が・・・
「わかったは高校生ごときにそこまで云われたら私にもプライドかあるから」と息一つ乱していない葉月だがその顔からは大量の汗が流れ落ちる。
「監督。十分だけ休ませてくださいそれと部長お借りしていいでしょう・・・」
「私ですか?」
「ストレッチの補助をお願いしたいの」「わかりました」と部長は答える。
「あと水とタオルを用意してもらえますか」
「はいすぐに」と部長は駆け出す。
「あのぉ~私は・・・」
「さくらさんも準備して怪我でもされたらしゃれにならないし」
「はあ」「大丈夫、すぐ戻るから」と葉月は土俵の上で深呼吸をする。
―更衣室
「ふぅ~」
「葉月さん無理しないでください」
「平気よこれくらい」
「でも・・・」
「心配してくれてるの?うれしいわ」
「だってあんな無茶な練習続けてたらいくら元横綱でも・・・・」
「心配してくれてありがとうね部長」
「名ばかりの部長ですが・・・」
「名ばかり・・・・」
「うちの部はさくらがいなかったら県レベルも危ういですし・・・・」
―葉月は部長に上半身のストレッチ補助をしてもらいながら・・・・
「明星の団体や個人の成績調べたけどあなたが云うほどでもないと思うけど・・・・」
「さくらが入部以前は県大会の一回戦も突破できなかったんです。それが当たり前と云うか・・・でも入部してから個人戦はさくらの独壇場はあたりまえで団体戦もさくら一人で全国大会にいくようなもので」と・・・。
「相撲は個人のスポーツとは云え学生は相撲部を中心に活動するわけだから部員達との関係は重要だと思うのよ。強い弱い関係なく」
―葉月は続ける。「相撲部に限らず部員同士の関係は本当に大事だわ。相撲部のような体育会系ではなおさらね。同じ目標に向かって進む仲間としての強い絆がないとどんなに強い選手でもいずれ壁にぶつかるわ。そこを乗り越えるにはお互いの信頼感が必要でしょ。信頼がなければ実力があっても発揮できないものよ。それにね、もし部員同士が仲違いするようなことがあったらそれは部長の責任よ。部員達の心のケアまで含めてね。そして何より一番大事なことは、たとえ才能があったとしても、努力しなければいつか必ず行き詰まるわ、その時はもう遅い、手遅れなのよ。そして一度壁に当たった選手は二度と立ち直れないかもしれない。そうなった時どうするかをもし部員どうしで考えてあげることができたら本当の強い部になるってことだと思う」
―葉月の言葉に部長は黙って聞いていたが、
「葉月さんの仰ることはもっともですね。でも他の学校から比べたら仲良しクラブと揶揄されてるんじゃないかと・・・・監督は名門の西経の高・大の相撲部で所属して全国大会に出たことがある方なので当然厳しい指導で全国レベルを目指すのだろうと思ったらちよっと違っていて・・・・」
―監督、西経の相撲部だったのか・・・・葉月にはそこまでの関心がなかったが・・・
「監督の指導方針は至極簡単なんです。まずは健康第一。怪我だけは絶対にさせたくないからそれだけは徹底している。それから強くなるためのトレーニングはちゃんとさせる。ただそれ以上に強くなりたいなら自分自身で考えなさいとそのアドバイスはするけどそれ以上のことはしないと」
ーなるほどねぇ。
「まぁそれでも私も含めてみんなそれなりにがんばっていると思いますけど」
「今年年頭のの大会はベスト4に入ったじゃない」と葉月が云うと
「監督は物凄く喜んでくれました。あの表情見てもっと強くならないと部員全員思ったし練習の密度も上げていったんです部員全員で色々考えて・・・でも監督に怒られて・・・」
「怒られた?」
「オーバーワークは絶対許さない。怪我になるようなことは絶対にさせないって激高されてしまってさすがに別の意味で怖くなって」「それで?」
「それ以来練習のやり方とか少し変えました」
「そう」
「あと監督が云うのは、相撲は個人競技ではない。団体戦である以上一人一人の力はもちろん必要だけどチーム全体の力が一つになって初めて勝利に近づくことができるんだと・・・椎名さんと同じことを云われました」
「そうなんだ」
「監督は大学時代は一年生の時以外は怪我で殆ど試合には出られなかった。だから怪我のことに関しては人一倍厳しく云うのだと思います」
ーそうだったんだ。だから私の記憶にないのか・・・。
「それじゃあ私はそろそろいくわね」
「はい」
―ゆっくり深呼吸をする。部長が水の入ったペットボトルを差し出してくれた。
「葉月山、力水です」
「ふっっっ・・・ありがとう」
―葉月は部長に廻しをきつく締めこんでもらう
「千秋楽の大一番って感じね。石川さくら。ガチでいかせてもらわないと負けるかもねぇ・・・。さっきのあの目正直威圧されたし逆に本気モードにしてくれたからね」
「葉月山さん、さくらに手荒なことは・・・・」
「手荒なことなんかするわけないでしょ全く。石川さくらの得意は四つ相撲ならわたしも四つで正攻法で勝負する。それが礼儀だから」「お願いします」と部長は一礼した
「こちらこそ」
ー土俵の上で礼をし、仕切り線まで下がる二人。
「元横綱であった以上そして何より私のプライドのために全力で勝負させていただくわ。さっきの総当たりぶつかり稽古で相当消耗したけど高校生のあなたと勝負するにはちょうどいいハンデだわ。では覚悟はいいかな?石井さくら」
「はい!」
―二人の手が離れる。
「はっけよい!!」
(つづく)
―はっけよい!!の声と共に二人はぶつかり合う! ―押していく葉月。だが、やはり体格の差か徐々に押されていくさくら。―まわしをつかむさくらの手が緩みかけるがすぐにまた掴んで押す。
―さくらの足が俵にかかる。
「まだまだぁあああっ!!!」
さくらが叫ぶと、葉月はさらに押す力が増す。
―さくらが体勢を崩す。その隙を見て一気に押していくが。
ー何なのこの子・・・まるで根深い大木のようにビクともしない。この腰の重さは何なの?いくら私が消耗しているとは云え高校生を押し出せない何って・・・。
ー私は、葉月山とガチの勝負をしているんだ。本当だったら赤子のように捻られているのだろうけど今は互角の勝負をしてる。ここまで来たら負けたくない。「まだよぉおおおっ!!!」
「こっちだってぇええっ!!!」
お互い一歩も引かない。
―三分が経過した。
「はぁ、はぁ、はっ…はぁ、はぁ…」
「ふぅ…ふぅ…くっ…はぁ…はぁ…」
がっちり組み合い、完全に胸を合わせた左四つ。
互いにマワシは深い位置で取り合い、腰が落ちて微動だにしない状況。
葉月とさくらの息だけが響き、時間だけが経過していく。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
「はぁ、はぁ、くっ、はぁ…」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
互いの肩に顎を乗せるようにして密着したまま動かない両者。
しかし、両者の体力は徐々に限界へと近づいていく……。
「はぁ、はぁ、は、は、は、はぁ、はぁ、はぁ」
「はぁ、はぁ、は、は、は、はぁ、はぁ」
呼吸音のみが響く中、葉月山は左手で相手の廻しを掴みながら右手で相手を抱き寄せるようにしながら右上手を取りに行く。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
さくらもそれに呼応するように、右足を前に出して体を入れ替えようとする。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
だが、両者とも全身の力を振り絞っているためなかなか体が入れ替わることができない。
さらに時間が経過する。
「はっけよいぃっ!!」行司の島尾が即す
―両者は必死に前に出るが、もはや体は言うことを聞かず、そのまま土俵際に
「はっけよい!!」
「はぁ~はぁ~はぁ~はぁ~はぁ~はぁ」
「はぁ、はぁ、は、は、は、は、はぁ」
ここで葉月山は最後の力を出し切るかのように
「うおぉおっ!」
と叫びながら両廻しをつかみ、自分の胸に抱き寄せて覆いかぶさった!さくらは土俵際で踏ん張るが、葉月山の勢いは止まらない。
土俵の外に押し出されるさくら。
「勝者!!葉月山ッ!!」
行司である島尾の勝ち名乗りを受けて土俵から降りる葉月。
「はぁ、はぁ、はっ、はあ、はあっ、はああ!!」
葉月は荒い息をしながら、土俵下でへたり込んだ。
「はぁ、はぁ、はっ、はあ、はっ、はっ!!」
一方のさくらも荒い息をつきながら膝まづいてしまう
「はぁ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……」
―二〇分後― ―二人は土俵下に並んで座り込んでいた。
「まさかあなたがここまでやるなんてね・・・正直驚いたわ。でも、いい勝負だったと思う」
と葉月が言ったのに対し、「私こそ……ここまでやれるとは思ってなかったです。ありがとうございました。そしてすみませんでした」と頭を下げるさくら。
―しばらく沈黙が流れる。すると突然葉月が笑い出した。―え?何事!? と驚くさくら。
―あのねぇ、こんな時に笑うわけないじゃないのよw と突っ込む葉月。
―いえ、だって…… と困惑した表情を浮かべるさくらに対し、葉月が続ける。―だって、あんたのその顔見たらおかしくって笑っちゃったのよ(^_-)☆ ―え?私の顔ですか? と聞くさくらに対して葉月が答える。
―そうよぉ~。だって、今にも泣きそうな顔をしてるんだもの。そんなに悔しかったの? と言う。
それを聞いた瞬間、目頭が熱くなるのを感じた。
―はい、すごく悔しかったんです。と言いつつ涙を流す。それを見ていた葉月はそっと手を伸ばし、私の頭を撫でてくれた。
―よしよし、よく頑張ったわ。
と言ってくれる。さくらは思わず、葉月にすがりついて泣いてしまった……。
―しばらくして落ち着いた頃、葉月から話しかけてきた。
「今日訪れたのは、あなたを世界大会のシニアチームの一員として参加要請をお願いしに来たの」
「シニア?」
ーシニアって?私ジュニア代表で内定してるし・・・・・と思いながら聞き返す。
それに対して葉月が説明してくれた内容はこうだ。
「シニア大会の団体制の規定ではプロ二人アマチュアはサブを入れて二人までなの。当然日本チームは百合の花・桃の花の二人をプロ枠で問題はアマチュア。私はその枠に誰を入れるべきか・・・・本来は高・大で争う大会の優勝者を正選手として入れるのが普通なんだけど私は世界大会と云う視野にたって考えて私は海外勢に対抗できるのはあなたではないかと・・・・」
「私が……」
ー島尾監督は黙って葉月の話を聞いている。
「もちろん強制ではないし、もし嫌なら断ってくれても構わない。ジュニア世代では世界に敵はいないと思う。それにジュニア団体の連覇もかかっているのはわかっている。ただ、あなたの実力は本物だし、それにこの前の試合を見て思ったけど、あなたにはまだまだ伸びしろがある。だからぜひ検討してほしいと思って来たの」
ー百合の花・桃の山といっしょに戦える・・・・
「わかりました。少し考えさせてください」
―二人と一緒にチームで戦えるなんって・・・・でも即答はさけた。
「わかったわ。当然の話だと思う。ただ時間もそんなにないので休み明けの月曜の午前中までに監督を通して連絡をください」
「それじゃ私はそろそろ帰ります」
「ハイ集合」
ー島尾が部員達を椎名の前に並ばせると部長が・・・・
「椎名監督。今日はご指導ありがとうございました。今日の経験は部にとってかけがえのない時間でした。本当にありがとうございました」部長が礼をするとそのあと部員全員で礼をした。椎名も同じく。
―みんないい目をしているなー期待してるよみんな。部長は大変だろうけどこの部長なら夕夏やさくらはもっと飛躍できる。
「こちらこそお世話になりました。それで失礼します。」
「それじゃ。さようなら!」
「ありがとうございました!」