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女力士への道  作者: hidekazu
中京圏高大校親善試合

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前哨戦④

 真奈美は午後5時前に相撲場の入り口に立って濱田を待っていた。二十年ぶりの再会。あんな別れ方をしても心のどこかに詰まっていた想い。五十歳近くの女性がいまだに少女のような男性観しか持ち合わせていない。再婚の話もあったにはあったが全部頑なに断ってしまった。


(今日は映見の事で来たのだから・・・・) 


 外の窓越しから見る相撲場のなかはある意味質素と云うか土俵が一つあるだけ・・・。そして白木の板壁で・・・。小学生時代~大学まで相撲に熱中していたあの日をふと思い浮かべながら・・・。とその時後ろに人の気配が・・・。真奈美は後ろを向くと・・・。


(映見・・・)


 二人はしばらく見合ってしまった。いがみ合うわけでもなくただ見合っているだけ。


「濱田先生が先に準備をしておいてくれって云ったのはこう云うことだったんですか」と映見は別に悪びれる様子もなく淡々と口を開く。

「女子相撲部の監督としてお前の態度を見て見ぬふりをするわけにはいかないからねぇ」と真奈美。


 映見は一瞬倉橋を見ながら笑みを浮かべたような表情をしたのを真奈美は見逃さなかった。


「何がおかしい」

「監督。ここまで来て私をどうしようと?」

「何がおかしいと聞いてるんだよ!」と語気を強める真奈美。


 映見はその言葉に動じることもなく相撲場の鍵を開けると入り口手前の下駄箱に靴を入れソックスを脱ぎ相撲場へ真奈美は足袋に履き替え中へ・・・。


映見は背負ってきたバックパックを更衣室に行く通路ドアの前に真奈美と向き合う。


「監督には色々私のことでご迷惑をかけているのは重々承知しています。ただ正直どうすればいいのかどうしたいのか正直分かりません。相撲をやめてしまえば楽になるのかと考えても見ました。石川さくらさんと稽古をした時無様な相撲稽古をしてさくらを失望してしまったのではないか?それに自分自身も失望した」と映見の表情は平静を装っているように見えるが


「だったらもう相撲はやめた方がいい。相撲をやめて医師になるための勉学に励むのがお前の将来にとっては最優先事項だ。それでいいのならそれでいいと私個人としてそう思う。ただそのことは主将に云え部のことは瞳に任せている口は挟まない」と真奈美も表情を変えず。


「監督は今日わざわざここまで来たのは・・・」

「監督としてお前の様子を見に来ただけだ。大学の稽古に来ず他の相撲クラブに出入りして稽古してるとなると最終責任者とは見過ごすわけにはいかないからなただそれだけだ」

「ここに来て相撲をすると単純に楽しいとは違うかも知れないけど気持ちが落ち着くと云うか・・・」

「大学だとプレッシャーがかかるからと云う云い訳はよせよ」

「・・・・」

「私はあまり部員本人の前で褒めるようなことはしないが私の正直な気持ちを云うよ」と云うと真奈美は言葉を続けた


「稲倉映見は私が理想としている女子力士像に一番近いと今でも思っている。相撲の強さは云うに及ばす゛相撲に詳しくない人でさえも魅了する相撲をするがっぷり四つで力と力の勝負にそこに技の攻防、シーンと静まり返る土俵に荒い息遣い・・・スピード勝負ができなければ勝てないと云われる中で受けの相撲で人を魅了する。やっている方は大変だがな・・・。映見はそう云う相撲ができるそんな選手は今の時代稀有な存在だ。そしてなにより映見には華がある。監督でありながら私は映見の純粋なファンなんだよ・・・」


「・・・・」映見は目を瞑り話を聞いている。


「映見を花に例えたら牡丹なんだよ。女王の風格とでも云うのかなそれでいながらどこか恥じらうような奥ゆかしさもある。でも今のお前は枯れる寸前の牡丹だ。だったら枯れる前に摘んでドライフラワーにでもした方が良いかもしれないな」

「私は女王なんって意識はありません。ただ相撲を楽しみながらできれば・・・」

「映見。今のお前の立ち位置は頂点なんだよ。相撲で云えば横綱なんだよアマチュア界のそんな事分かっているのに楽しみれば・・・だったら部を・・・・」真奈美は最後の言葉をどうしても云えなかった。それは映見のためそれとも自分のため?


「とにかく今日はお前の様子を見にきただけだ。こちらの代表の方に許可をいただいている。だから最後まで稽古の様子を見さして貰う」と何かをこらえるような表情の真奈美

「わかりました」と云うと映見はバックパックを持って更衣室への扉を開け出て行った。


真奈美が部員に対してこんなことを云うのことはもうないだろう・・・それほどまでに映見には期待を賭けていたし実際高校時代から十分に応えてくれた。しかしそのことがさらにそれ以上の期待を無言のうちに賭けていたことは何となく自分自身気づいていたがそれさえも応えてくれた。映見は私が云わなくてもそれ以上に・・・。


 相撲場入り口の引き戸がスライドするとそこには元夫である濱田光がクーラーバックを二つ持ち入って来た。


「二十年ぶりか・・・」が最初の一言。

「そうねぇ」と素っ気なく


 光も真奈美も気負いなく・・・。


「下手な小細工するのねぇ」

「小細工?」

「映見と私を二人で会すための小細工。そして貴方が私に会う前にワンクッション置く小細工」

「映見と話したか?」

「一応ねぇ」

「それはよかった」と云うとクーラーボックスからみかんを取り出し真奈美に下手投げでそれをキャッチする。光もみかんを取り出し皮を剥き食べ始める。そして真奈美も


「映見がどこの出身の相撲クラブだなんって関心がなかったから・・・関心があったならもっと早くここに来ていたかも」と真奈美。

「それはどうかな?俺だったら行かないだろうな女子相撲の監督を馬鹿にした奴が相撲クラブの代表をやってるんだ。俺だったらそんなところに行かないけど」

「今日はそんな話するつもりはないの私は映見を見に来ただけだからそれにここで私達のことを離すのは場違いだし・・・だから今日は西経女子相撲部監督として接してほしいの」

「ずいぶん冷静な対応なんだな・・・俺は今真奈美を感情抜きでは見れないけどな」

「・・・・ここは少年少女のクラブなんでしょ?指導者たるものそんなことは常識だと思うけど」

「西経女子相撲部監督倉橋真奈美。日本最強大学女子相撲部監督の威厳ってところか」

「とにかく今日は、そう云うことでお願いします」

「・・・・」光は何も答えず稽古の準備を始めていく。それを眺める真奈美。相撲場に二人でいると高校時代を思い出す。時たま夢にも出てくるあの光景が今は現実なのだ。あの日の光景と今をダブらせながら感情的に情緒的にならないわけがない。もし抱きつかれたら多分拒まないだろう・・・。


「よろしくお願いします」と云いながら続々とクラブの生徒達がやってくる光に挨拶するのは当然としても何処の誰だが知らないおばさんにも挨拶をしてくれる。私も軽く頭を下げる。その中に一人高校生のような生徒が・・・・。


「倉橋さん紹介します」と急によそよそしくなる光

「この子は阿部沙羅さん。小学3年から相撲を初めて県大会は無論全国大会の各クラスでも負けなしだ。映見の稽古相手になってもらってる」

「貴女今何年?」と真奈美は高校せいとばかり思っているのだが

「中学一年です」

「中学一年!」

「いつも稲倉恵美さんの稽古相手をやらせてもらってます」

「いい体格してるわね確かに強そうだわ」

「沙羅。この人は西経女子相撲部監督で倉橋真奈美さん。映見の大学の監督さんだ」

「西経・・・」

「沙羅は西経に行きたいんだろう?どうしたら行けるか聞いてみな」と光

(何云ってるのよスカウトと勘違いされたら迷惑なんだから全く)

「あのー私高校は西経付属にできたら行きたいのですけど・・・推薦とか・・・ありますか?」

「沙羅よストレート過ぎないか」と笑う光

(いきなり推薦って・・・)とちょっとと真奈美

「西経は相撲が優れているだけではダメなのある程度の学業ができないと・・・沙羅さんは勉強の方は?」

「・・・あまり・・」とトーンが低くなる沙羅。


「そう。でもまだ中一よねこれからいくらだって勉強する時間はあるんだから頑張って嫌いかもしれないけどやってみること。相撲が優れていたら西経に入れるとか思っているのならそれはないからそれから推薦で入るのにはそれなりの成績をとっていないと無理。稲倉恵美の稽古相手をしてくれているのならいい機会だから相撲以外のことも色々教えてもらいなさい。映見は勉強もよくできると云うか頑張っていると云うのが正しいかな貴女は将来女子大相撲でも目指しているの?」


「はい。目指しています」と沙羅ははっきりした口調で


「そう・・・女子相撲だけを目指しているなら西経以外にも選択はあるはずむしろ西経以外を選んだ方が得策だと思う。ただ貴女が相撲で挫折してしまったときのために色々な選択ができる引き出しを持つのも悪くはないわ。女子相撲を目指している人に対して物凄く失礼な言い方だけどそ云うことも頭の片隅に入れといてそしてそれは西経ならできる。文武両道ってわかる?」

「なんとなく・・・・」

「そう。初対面の貴女には厳しい云い方をしたかもしれないけどせっかく稲倉映見に稽古をつけてもらっているんだから色々なこと聞いてお備わりなさい」と最後は優しく。

「わかりました。ありがとうございます」と一礼して沙羅は更衣室へ。


(相撲も勉強も頑張って西経にいらっしゃい)


「厳しいですねぇ倉橋監督は・・・」と光は苦笑い

「当然でしょ西経女子相撲部の強さの源泉は【文武両道】なんだから」と真奈美

「その理想の選手が稲倉映見ってことか?」

「そうねぇ・・・でもこの先はどうなるか知らないけど・・・」


 そんな話をしているうちに裸に廻しを締めた男子・レオタードに廻しを締めた女子が相撲場に集まってくる。もちろんその中には稲倉映見の姿もある。


 濱田は全員が集合したのを見計らって倉橋の紹介をする。


「こちらは西経大女子相撲部の監督である倉橋真奈美さんです。知っている人もいるだろうが女子のアマチュア相撲では日本最強と云ってもいい。今日は稲倉の様子を見たいと云う事で訪問された。今日は最後まで稽古の様子を見たいそうなので普段通りやっていこう変に緊張することはないから・・・監督何か一言あれば」


 その言葉に真奈美が一言。


「西経の倉橋と云います。今日はそこにいる稲倉映見の様子を見に来ただけですができれば私もみなさんにアドバイス的なことをできればしていきたいと想いますのでよろしくお願いします」と一礼すると


「よろしくお願いします」と男子の一人が云うと他の生徒達も「よろしくお願いします」と

「それじゃ四股踏みから」と光


真奈美は濱田光の姿をじっと見つめている。


(違う違う。今日は映見を見に来たんだから映見を・・・・)


 



 






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